駄菓子屋のガチャの景品は箱庭のゲーム世界 作:箱庭ガチャ
「ポルニャが目標を持つのは良いことなんだが、もうそれって俺の道具を卒業した感じで良いのかな?もしかして生き方見つけちゃった?」
この異世界ゲームの破綻させる事。ポルニャが口にした言葉をそういう意味を持っていた。創造主に対する反逆、大災に一人で挑むような無謀な挑戦であるが、それを覚悟しているのならば俺は応援したい。まぁ、それも上位者にとっては娯楽の一つとして捉えられてそうだが。なにせ乱数ではないポルニャの行動は予測出来てしまう。つまるところは上位者の創造物以外にしか本当の意味での反逆は出来ないのだ。
「分からない。ただ私は上位者に反逆したい」
そう決意するポルニャは視線を僅かに伏せて口を開く。
「でも私一人では行動できない。私は上位者の創造物。どう足掻いても予測の範囲を超える事は出来ない。だから協力して欲しい」
「具体的に何に?」
「上位者。いえ、偽りの神を殺す事に」
中々大きくでたものだ。神殺しの協力とは。
自身の創造主を殺す手伝いをしろと俺に頼んで来た。翡翠の瞳に淀む憎悪が高潔だった瞳を汚し、限りない怒りと呪いの籠った瞳で俺に懇願してきた。俺はポルニャの果てしなく不可能な願いに対する答えは決まっていた。
「ごめん無理」
バッサリと切り捨てるとポルニャは動揺しなかった。
「理由」
短く俺の言い分を聞いて来た。
「世界を創る神にも等しい存在にただの人間が敵う訳ない。そしてポルニャはこのゲームを憎んでいるが、俺は異世界ゲームを楽しんでいる。つまり俺には偽りの神を殺す理由がない」
その答えに対してポルニャは失望もせずに淡々と続ける。
「なら異世界ゲームの範囲内で協力して」
「具体的にどうしろと?」
「クリアして、世界が静止した時に現れる代理人と会話する機会が欲しい」
「それは構わないが、多分それも偽りの神の想定の範囲内ではないのか?」
どう足掻いても偽りの神の創造物であるポルニャの全ては予測されるはずだ。だから孫悟空のように何処まで遠くに行ってもお釈迦さまの手の平の上。
「違う。偽りの神は乱数である一騎たちを求めた。つまりは一騎が関われば偽りの神も創造物の行動の全てを読むことが出来ない」
「なるほどなぁ……でも、それでどうしようってんだ?」
「分からない。ただ今は情報が欲しい。それだけしか出来ない」
そもそも偽りの神の正体すら分からない。
駄菓子屋にガチャを設置しに来た男が一番怪しいがあくまでこの地球で遊ぶためのアバターである可能性が高い。復讐など本来は止めるべきなのだろう。だが世界に裏切られたポルニャの心を踏み留ませる言葉を持たないし、どうせ無理だと思っているから俺は出来る限り協力しよう。
俺は果てのないと思える空の先、箱庭の限界を見極めるように見つめ。
「まぁ、出来る限りは協力するよ。それでクリア条件のマニチュア平原の平定は四種族の和解による和平をポルニャは望むんだね?」
「そう。無意味な殺し合いを止めたい。世界の真実を話せば理解してくれるはず」
いつものように平坦な声でポルニャはそう言うが、簡単に言ってくれる。
ポルニャも最初は俺の言葉を信じなかった。そして今回の四種族は互いに殺し合っていた記憶を植え付けられている。それをよそ者がその記憶は偽物だから仲良くしようなんて言って誰が信じるのだろうか。少なくとも俺だったら信じない。
今回はポルニャに合わせてゲームを楽しむか。どう動くかは知らないが、どう転んでも面白い展開になりそうだ。願わくば彼女の望む結末でゲームをクリアしたい。
そんな事を考えていると、珍しくポルニャは申し訳ないような表情を浮かべ。
「本来なら道具の筈なのに、私が一騎を利用してる。償いはする」
「別にそれは良いが……ん?」
俺の背後に回りポルニャは両脇を固めると、いきなり空に向かって羽ばたいた。そして眼下に広がる光景を見て呟く。
「世界が広いな……」
「とても広い」
魔王城とは違い、どこまでも広がる平原と緩やかな丘。地平線の向こうに見える森。ミニチュアで見た湖は森の奥なので見えないが、今回の異世界ゲームのフィールドは想像以上に広かった。ポルニャが居なければ、ただ歩いて四つの種族に接触するだけで数日は掛かりそうだ。確かに特典カードはゲームを有利に進められる。
「最初は現状を確認。四つの種族の一つと接触する」
「それは理解したが、どこに向かえばいいか分かってるのか?」
沈黙。俺の言葉を無視して空を飛び続けている。
ポルニャの奴。完全にその場の勢いで飛び立ったな。なら仕方ないから俺がレクチャーしてやるか。この世界は地球の娯楽作品を元に作られている。ならば、王道と言える展開や場所。つまりは森や湖などのオブジェクトの置かれた場所に何かある。
「ポルニャに教える。こういうゲームには必ずと言っても良いが、イベントの起こる――」
「あそこで複数の獣人が取り囲んで、藁で縛ってある誰かを叩いたり蹴ったりしてる」
どうやら俺がアドバイスする暇もなく、この異世界ゲームのイベントを発見したらしい。そしてポルニャの見ている方向を見ると米粒くらいにしか見えな複数の何かが動いていた。
「俺には米粒にしか見えない。具体的に獣人ってのはどんな容姿だ?」
「全身に毛の生えた人型の猫」
「……そうか」
的確な回答に俺は落胆を隠せなかった。もう目に見えて気落ちして呟く。
……そうかぁ、長靴を履いたネコみたいな二足歩行するタイプの獣人かぁ……。いや、ジャパンファンタジーを理解している節がある偽りの神様だから、そこはケモ耳生えた感じの獣人と思ったけど、ガチのケモナータイプの獣人かぁ……そうかぁ……。
俺はちょっと期待したタイプの獣人と違い落ち込む。
「何を落ち込んでいるの?」
どうやらそんな気配を察してポルニャは聞いてくる。
「いや、理想と現実のギャップに打ちのめされた。それより助けた方が良いと思うぞ。こういうのは一種のイベントだ。何かしらの報酬や情報が手に入るはず」
「分かった」
瞬間的に速度が上がり、スポーツカー並みの速さで目的地に向かって飛び始める。
「うぉぉ!……サンキューマント」
俺は急発進したせいで襲い来る風圧に目を潰されそうになっていると、すぐさまマントが俺の顔を覆い風よけになってくれる。命令しなくても仕事をこなすとは出来たマントである。ただ顔を覆われたせいで前が見えず、今度は別の恐怖に襲われるのだが。
真っ暗で何も見えない!その上、空の上を高速で飛行中とかこぇぇぇぇぇ!!
目隠しでほぼ全身を外に晒して空を飛ぶのは中々の恐怖体験である。だがそれもものの体感十数秒で終わりを告げて、止まると同時に地に足が着いた。
「あなたたち、今すぐその藁から離れて。その暴虐を私は見逃せない」
マントが顔から離れて目が見え始めると、手に棍棒や木の槍を持った猫の獣人たちがこちらに向けて武器を構えている所だった。獣人の近くにある藁は所々が赤く染まり、モゾモゾと蠢いている。どうやら絶賛拷問中のようだ。
「誰だ貴様たちは!何故に我らの邪魔をする!」
突然の乱入者に、真っ黒な毛並みに赤いラインを顔に引いた獣人が錫杖のような物をこちらに向けて問うてきた。
「ただの堕天使。私たちはあなたたちにこの世界の真実を伝えに来た」
「……は?何を言っている?」
おいおい。ポルニャまさか……。
ポルニャの突拍子もない答えに意表を突かれて間の抜けた声を上げるリーダーらしき獣人。周りの四人の獣人たちも困惑の表情をしている。ついでに俺も困惑している。
「聞け!私の知る世界の真実を!」
しかしそんな俺達の困惑など気付いてないのか、普段のポルニャを知る俺からすれば決して想像だに出来ない声と天使らしい威厳ある声を上げる。
ダメだポルニャ。物事には順序があるんだ……そんないきなり話すつもりななのか……?マジで言うのか?
俺の心配をよそに、翼を大きく広げて周囲を威圧するような態度で示し。
「この世界は偽物だ!私たちは偽りの神に娯楽として創られた箱庭の中で、偽りの記憶を植え付けられて無意味な闘争をしている!そして私はその偽りの神に反逆し、真の自由を求める者!私と共に偽りの神に反抗するのだ!」
カリスマ性のある声と態度でそう宣言するが、獣人たちは一瞬だけその雰囲気に吞まれかけて呆けた表情をして、すぐさま警戒心のある目付きで睨みつけた。
「貴様は頭がおかしいのか?この世界が偽物?偽りの記憶?馬鹿なことを言うな!気狂いの堕天使め!死ね!千射魔矢(せんしゃまや)!」
リーダーの獣人が錫杖をこちらに向けてそう叫ぶと同時に小さな光の矢が数え切れない程に掃射された。ペットボトルサイズの大きさであるが、一本でも身体に刺されば致命的な傷を負う可能性の高い魔法の矢の群れ。
「天恵の一<<聖なる盾>>」
輝く半透明の盾で受け止める。一本一本は大した威力ではないのか弾かれるが、それが数百と超えればとうとう盾を割り、ポルニャと俺に迫ってくる。
「マント!防げ!」
俺が叫ぶより早くマントは大きく目の前で展開して、盾を突き破った矢の群れを全て防ぐ。魔王のマントの名に恥じない防御力の高さだ。そして全弾防ぎ終わると同時に俺の肩に着く。俺はそれを叩きながら、
「よくやった。そしてお前たちはどうやら俺達に敵対するつもりのようだな」
マントを褒めて、すぐさま目の前の獣人たちを睨む。クリア特典がなければ即死した状況で、マントのもう一つの力が解放される。
「ヒッ!なんだお前は……人間なのに何故そんな禍々しい気配を放つ!」
獣人のリーダーは全身の毛を総毛立たせて、怯えを怒りに変えながら叫ぶ。
「知らん。なんか怒りに呼応してこうなった」
俺の怒りに反応するかのように、家で流れ出た黒いオーラとは比べられない程に禍々しい気配とオーラ量を垂れ流しながら俺は佇んでいた。背後のポルニャからも怯えの色を感じ取り少し精神的にへこんだ。
なんか知らないけど、みんなビビってるなぁ……。ならこの好機を逃さずに一芝居打つか。
俺はポルニャの神々しさとは正反対の禍々しさを持って言葉を放つ。
「退け!もうお前たちに用はない!話を信じないのであればすぐさま消えろ!」
自分の声でありながら力強さと強い畏怖を持たせる声音で俺は叫ぶと、猫の獣人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
戦えば瞬殺される位に弱い相手に実力を見誤って逃げる獣人たちを見て、このマントの威圧効果おかし過ぎるだろ。思いながら背後を振り返ると、様子がおかしいポルニャがいた。
「一騎だよね?」
なぜか心の底から怯えているポルニャを見て、すぐさまオーラを鎮める。
「一騎じゃなかったら俺は誰なんだよ」
いつもの調子でそう答えるとポルニャは俺の胸に飛び込んでくる。
「一騎が変わっちゃったと思って怖かった」
涙声で言うポルニャの頭を撫でる。
「俺ってそんな怖かった?」
「まるで魔王が乗り移ったみたいだった。気配も何もかもが変わってた」
「そうなの?俺、普通に意識あったし気付かなかった」
魔王のマントの使用中に破壊衝動とか邪悪な力に誘惑される事なんてなかった。ただいつもより怖い声を出せて相手をビビらせられて凄いな程度が俺の認識だ。周りはそうは思わずに尻尾を巻いて逃げ出した訳だが。
「それより藁に巻かれた人を助けないと」
血だらけの藁で明らかに重傷であるので誰かを思い出し、俺はポルニャに抱き着かれたまま藁に巻かれて人の所まで行く。
「触りたくないけど……中身は確認しないとなぁ……」
ポルニャを脇に置き、嫌々ながらも藁を解いて中身を検分すると、やはりと言うべきか予感が的中した。
「治療しないと死ぬだろコレ……」
そこには俺の想像していた、猫耳に尻尾の生えた人に近い少女の獣人が全身から血を流して息も絶え絶えに死にかけているのだった。