どうも、ハノイの騎士(バイト)です。【外伝 Dragon's Desire】   作:紅緋

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訳あって再びコラボ作品を書く機会を頂きました。
タイトルまま、外伝的な立ち位置(IFのストーリー)を楽しんで頂ければ幸いです。


どうも、ハノイの騎士(バイト)です。【外伝 Dragon's Desire】(前編)

 ──我は望む。顕現する刻を。

 ──我は望む。闘争する地を。

 ──我は望む。竜統べる者を。

 

 嗚呼、誰ぞ。

 誰ぞ、我をこの闇より解き放ってくれないか。

 もう──もう独りは嫌だ。

 此処には我以外に誰も居ない。

 話す相手も。触れ合える相手も。声を聞ける相手も。

 

 嗚呼、誰か。

 誰か、我を──我を──

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「──なるほど、それで貴方がここに居るのですね」

「そうそう。だから決して不登校とかそういうのじゃないよ」

 

 リンクヴレインズのとある一画。そこには2人の影──ハノイのバイト、ことヴァンガード、こと今上 詩織(いまがみ しおり)と、AI決闘者のグラドスの姿があった。両者共に真剣な表情──という訳ではなく、どこか気の抜けたのほほんとした雰囲気。

 そもそも今の時間帯は平日の午前10時。社会人であれば勤労の義務、学生であれば教育の義務があり、それらに勤しむのが常。

 しかし、1人は人格を持ったAIであるために義務自体が発生しない。残る1人はというと──

 

「いやぁー、まさか林間学校の前日に風邪になっちゃうとは思わなかった」

「それが当日朝になって快復したものの、様子を見るために結局は欠席──という訳でしたか」

 

 ──痛恨の病欠。

 さりとて既にリンクヴレインズを通じて打ち解け合った藤木遊作や穂村尊らとは十二分に親交を深めており、ここで学校行事の力を用いてさらに絆を強める、ということも過度になる。

 ただ一生に1度のイベントの内の1つを棒に振っただけ。そう思えば、ヴァンガードもそう強く悲嘆することは──

 

「でも行きたかったなぁ……みんなでジャガイモ掘りしたり、カレー作ったり、肝試ししたり、デュエルしたり、デュエルしたり、デュエルしたりがあったのに……!」

 

 ──あった。

 

「貴方そこまでデュエル狂いでしたか?」

「違う違う。こう世界の命運を賭けたーとか、負ければ消えるー、みたいなのじゃなくて、ただ純粋にデュエルしてみたかっただけだよ」

「あぁ、そういうことですか」

 

 人間の感情を最近学んできたグラドスからすればヴァンガードの言は理解できた。グラドスにとってデュエルは手段の一つであり、コミュニケーションツールとしても有能であることは、ヴァンガードと幾度もデュエルしたことがあるのでわかる。その機会が失われたともなれば悲しみもすれば嘆きもするだろう。

 ならば自分が代わりに──と言いたいところであったのだが。

 

「しかし残念ながら私も現在デッキの更新作業中のため相手ができません」

「それは予想外。まぁ終わるまで待つよ」

「そうして頂けると助かります。今の私であれば雑談ぐらいなら務まりますので」

 

 新規カードのアップデート、並びに新デッキの調整によりグラドスのデッキは不完全状態のためデュエルできない。既存のカードだけであれば問題ないのだが、うっかり新規カードも含めたままアップデート中のため、数時間はデュエルができない状況。

 急に来た自分に非があるため、ヴァンガードは文句の一つも言わずにまったりと待ち宣言。対してグラドスも多少の申し訳なさを感じつつ作業の手を進めながら電子の口を開く。

 

「そういえば最近リンクヴレインズで小さな歪みが頻発しているんですよ」

「小さな歪み?」

「えぇ、おそらくは直近の新規カード実装に伴うプログラムの変更の影響かと思われますが、何故か数が多くて……」

「へぇー」

「この一週間でおよそ693回ほど」

「おっと思ったより多い」

「はい。ほら、そこでもまた歪みが」

「あっホントだ」

 

 言うや否や、2人の視界の端が不自然に湾曲し始める。ジジジ、と一昔前のテレビの不調が如く不安を煽る音を出しながら発生。

 

「映画とかだとこういった歪みが大きくなって何か問題が出てくるんだけど……」

「そうなのですか? これまでの現象上、数十秒ほどで自然消滅する可能性が極めて高いのですが」

「じゃあ問題ないね」

「えぇ、問題ありま──すいません、問題ありそうです」

「えっ」

 

 グラドスの即座の前言撤回にヴァンガードの目が点になる。

 数十秒も経てば消えると言っていた歪みは縮小するどころか肥大化。バチバチと蒼い稲妻を走らせながら、何もない空間に黒い渦が発生し始める。

 

「今までこんなことは──いえ、今回は状況が異なっていました」

「今までと何が違うの?」

「貴方です、ヴァンガード」

「えっ」

 

 再び目が点になるヴァンガード。さながら推理モノ作品で『貴方が犯人です』と言われたかのような発言に冷や汗をかき始める。

 

「私が居るからってだけでそんな」

「いえ、今思い返せばこの歪みは貴方が居ない時に“限って”発生していました。もしかしたらこれは単純なエラーではなく、何か作為的なものが──」

 

 瞬間、閃光が走る。

 リボルバーのような耐先攻防御の手段を持っていないヴァンガードは思わず目を瞑り、グラドスはいつの間にか実装していたダークモードで対応。

 眩い光が輝き続ける中、光の中からコツコツと足音が響く。段々とヴァンガードたちの方に近づく足音にグラドスはいつでも対応できるように構え、ヴァンガードは目をやられて悶えかける。

 

「ねぇ──」

 

 そんな中、光の中から女性の声が発せられ、光が収まっていくにつれて次第に声の主の姿が明確に。

 先ず目に入る長い青髪。その長髪を靡かせながら歩く姿は堂々としたもの。それでいて眼差しはどこか感情の読めない。

 光が完全に収まり、ヴァンガードの視力も回復。お互いの姿を完全に視認できた状態で、青髪の女性は再び口を開いた──

 

「──ここ、どこ……?」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 時は遡ること数十分前。

 リンクヴレインズが“存在しない”世界である実験が行われていた。

 

 実験と言っても非人道的なものだったり、年端のいかない少年少女を監禁してデュエル漬けにしたりといったことはない。

 ただ、単純にVR世界におけるデュエルの実験だった。

 

 彼女が選ばれた──ではなく、立候補した理由は唯一つ。

 

『それってつまりかVR空間なら人目を気にせずドラゴンと触れ合えてドラゴンに愛を囁いてドラゴンを愛でてドラゴンを──』

『あぁもうわかったからお前で良いよ』

 

 ドラゴンとVR空間でイチャコラするためである。

 そんな彼女の熱意と執念と押しの強さに辟易した担当者は、投げやり気味に承諾。

 彼女はめでたくVR世界へ意識をダイブすることになった──ハズだった。

 

『おい! どうなっている!? 何でこちらで彼女の存在を感知できない!?』

『わかりません! 確かに意識だけはVR空間に在るハズなのですが……“こちらの”VR空間には居ません!』

『何が起きているんだ……!』

 

 異常事態に慌ただしく動く職員らを横目に、ベッドに横たわる彼女に近づく銀髪の美女。

 彼女の手を優しく、指の骨が軋むほどに力強く握り締め、不安げな声色で小さく呟いた。

 

『無事で居てくれ……龍姫』

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「なるほど、つまり貴方──橘田 龍姫(きった たつき)氏は実験でVR世界に入ったものの、元の担当者らと音信不通になったと」

「そう」

「それでいてリンクヴレインズも、SOLテクノロジーも、ハノイの騎士も知識にないと」

「全部初耳」

「なるほど……」

 

 お互いに敵意がないことを確認した後は、お互いの情報交換。

 するとデュエルモンスターズのことはほぼ一致しているが、世界情勢やら一般常識の一部分で大きな差異があることに2人は首を傾げる。まるで一昔前のSFファンタジー作品のような状況。

 とても科学では説明できない現象が起きていることにAIであるグラドスは完全に理解が不可能。龍姫は理解する気がない。そして──

 

(──これよくあるやつだ……!!)

 

 ──ヴァンガードこと今上詩織は1人得心していた。

 

(そっか! リンクヴレインズが異世界っぽい認識だったから意識してなかったけど、どのシリーズでも異世界は存在していた! だからここ(VRAINS)とは違う世界があることに意識は割かなかったけど、まさかこんな展開が──ハッ! まさかこれがVRAINS2!?)

 

 なるほど、やはりそういうことか! と内心で1人うんうんと頷いていると──

 

「ねぇ」

「ひゃいっ!?」

 

 ──突然、目の前が顔面偏差値“だけ”は良い女である龍姫の顔でいっぱいになる。傍目から見る分にはブルーエンジェルやバイラで慣れているものの、流石に不意打ちに対しては後退る。

 

「アナタ──私の知らないドラゴンを持っている」

「えっ」

「2体──いや、3体? よければ見せて欲しい」

「えっと……」

 

 グイっと迫る龍姫に思わず手を前に出して空を揺らす詩織。

 

(どうしよ……ドラゴンって、何出せば良いの? ≪ハック・ワーム≫と≪ジャック・ワイバーン≫と≪クラッキング・ドラゴン≫で良いのかな?)

 

 あわあわと内心大困惑している中、一見すると無感情にしか見えない眼差しがじっと自分を見つめてくる事態にさらに困惑。

 どうすれば良いのかと混乱していると、スッと龍姫が一歩下がる。

 

「なるほど──見たければデュエルで出させてみろということ」

「えっ」

「当然ですね。決闘者のデッキは命に等しいのですから、そう易々と見せる訳がありません」

「グラドス?」

「私も同じ立場ならそうする。さぁ──」

 

 勘違いした1人。

 間違っているようで合っている知識で補足するAI。

 困惑する一般バイト。

 三者三様に反応を示す中、龍姫は率先して歩を進める。そして左腕を草原のようになだらかな胸の辺りまで上げると、何もない空間から突如として決闘盤(デュエル・ディスク)が出現。その無感情な眼差しでジッと詩織──ヴァンガードを見つめ、ほんの僅かに口角を上げる。

 

「デュエルよ」

「あっ、はい」

 

 ヴァンガードは口調が某ゴールドレアの蟹になりつつも、慣れた動きで決闘盤とデッキをセット。

 

(お互いを知るにはデュエルが一番ってのはわかるけど、この人中々強引だなぁ)

 

 ヴァンガードがぽやぽやとそんなことを考えている最中、“念のために”グラドスが周囲にプロテクトを施し外部への情報・外部からの情報を完全遮断。事が事だけに、下手をすればSOLテクノロジーに嗅ぎつけられる可能性もある。そういった面倒事を持ち込まれないように──またそういった面倒事を持ち出されない(・・・・・・・)ように処理を施した。

 

 その間に2人の準備は完了。

 互いに決闘盤を構え、既にデッキトップから5枚のカードをドローし、各々の手札へ。

 ヴァンガードは小さく深呼吸して龍姫を見据え、龍姫はほんの僅かな微笑を浮かべる。

 

「デュエルッ!」

「デュエル」

 

 示し合わせたでもなく、声が重なる。

 

「私の先攻だね。手札の≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を捨て、魔法カード≪トレード・イン≫を発動しデッキから2枚ドロー。墓地に送られた≪デスペラード≫の効果発動。デッキからコイントスを3回行うモンスターを手札に加える。≪リボルバー・ドラゴン≫を手札に」

「機械族デッキ……」

 

 先ずは準備、とでも言うように手札を増やすヴァンガード。先攻5枚だった手札は6枚になり、墓地に最上級モンスターも送ることができた。

 対して龍姫は知っている、あるいは対峙したことがあるのか、公開されたカード群を一見して小さく呟く。

 

「魔法カード≪闇の誘惑≫を発動。デッキから2枚ドローし、手札の闇属性を除外。≪リボルバー・ドラゴン≫を除外して──手札を1枚捨て装備魔法≪D・(ディファレント・)D・(ディメンション・)(リバイバル)≫を発動。除外されているモンスターを特殊召喚し、このカードを装備。≪リボルバー・ドラゴン≫を帰還させる」

「先攻で置くモンスターではありませんが、この状況なら……」

「解説ありがとうグラドス。≪リボルバー・ドラゴン≫を墓地に送り魔法カード≪トランスターン≫を発動。墓地に送ったモンスターと同種族・同属性でレベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する。機械族・闇属性・レベル7の≪リボルバー・ドラゴン≫を墓地に送ったことで──」

 

 回転式拳銃(リボルバー)の機械竜が現れたかと思えば、10秒と経たずにその姿はフィールドから消える。

 光の粒子がヴァンガードの背後へと集約し、それらは戦闘機の格納庫のようなモノへ変貌。その奥に見える重厚な遮蔽ブロックが開くと、さらに同じような遮蔽ブロックが次々と開放される。最奥には妖しく光る翠の双眸──そして幾つもの緑玉球の光。機械的な獣の唸り声が一瞬響き、弾丸のような勢いでそれ(・・)がフィールドへと放たれる。

 

「──≪クラッキング・ドラゴン≫をデッキから特殊召喚ッ!!」

 

 場に(いずる)は漆黒と翠玉の機械竜。山嵐が如き鋭利な機械竜鱗と、その巨躯に埋め込まれている光玉を輝かせ、ヴァンガードの眼前へと鎮座。グルル、と獣染みたモーター音を轟かせながら威嚇する様はさながら主人を守る番犬──否、相対する獲物を前にした猟犬が如く。

 彼女(ヴァンガード)が最も信頼している相棒たる機械竜──≪クラッキング・ドラゴン≫が巨大な体躯で場を震わせる。

 

「≪クラッキング・ドラゴン≫が居る限り、相手の場に出るモンスターはレベルの200倍攻撃力が下がり、さらにその数値分ダメージを与える」

「それは困る。私のデッキは下級・上級を問わずに特殊召喚がとても多い」

「なら展開前にこの子(クラッキング・ドラゴン)をどうにかするしかない。私はカードを1枚セットしてターンエンド」

 

 一先ずは、という形でターンを終えるヴァンガード。

 場には最愛の≪クラッキング・ドラゴン≫とセットカードが1枚、手札は2枚とやや心許ない。

 しかし、高速大量展開が主流の現在では≪クラッキング・ドラゴン≫の影響力は計り知れない。むしろ≪クラッキング・ドラゴン≫が場に出ただけで相手の特殊召喚を牽制できたと言えよう。

 

(さて──どう来るかな?)

 

 自ら『困る』と発言したのだから、これで多少は動きが鈍れば御の字。ヴァンガード自身の【列車】のような最上級モンスターを多用するデッキであればそのまま止まってくれれば良し。

 

「私のターン、ドロー。魔法カード≪一時休戦≫発動。お互いに1枚ドローし、相手のターンまでお互いに受けるダメージは0になる」

「──ん?」

「ほう」

 

 しかし、龍姫が初手で使用したカードで頭上に無数の疑問符──そして、仮想空間では流れないハズの冷や汗が出るヴァンガード。

 

(≪一時休戦≫はどう考えても初手で使うカードじゃない……まさか≪クラッキング・ドラゴン≫の効果ダメージを回避するためだけに? それってつまり──)

 

 思考を巡らせるにつれて自然と嫌な方向に考えが偏る。≪クラッキング・ドラゴン≫は相手が出したモンスターのレベルの200倍のダメージを与える。下級モンスターでも最大800のダメージソースは馬鹿にできない。それを避けるため、お互いにダメージが0になることを選んででも使用した。そう考えると自ずと龍姫のプレイングで答えが出る。

 

「相手の場にのみモンスターが居ることでこの子は手札から特殊召喚できる──現れよ≪聖刻龍―トフェニドラゴン≫」

(やっぱり、上級モンスター……! しかも【聖刻】っ……!)

 

 場に現れたのは黄金の輝きを持つ白竜≪トフェニドラゴン≫。レベル6で攻撃力2200のステータスでは≪クラッキング・ドラゴン≫の餌食となって1200ものダメージを受けていたであろう。そうなれば龍姫が真っ先に≪一時休戦≫を使用したことにも納得がいく。

 

「≪トフェニドラゴン≫をリリース、手札から≪聖刻龍―ネフテドラゴン≫を特殊召喚。この子は場の【聖刻】モンスターをリリースすることで手札から特殊召喚することができる。さらにリリースされた≪トフェニドラゴン≫の効果発動。この子がリリースされた時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚できる。私はデッキから≪エレキテル・ドラゴン≫を攻守0にして特殊召喚」

 

 次いで場に現れるのは先と似たようなドラゴンである≪ネフテドラゴン≫。さらにその傍らには蒼雷を纏った竜の≪エレキテルドラゴン≫まで呼応するかのように出現。突如として2体の上級ドラゴンが現れたこと──そして、その内の1体≪ネフテドラゴン≫の能力を知っているが故にヴァンガードの口が歪む。

 

「手札の≪聖刻龍―アセトドラゴン≫をリリースし≪クラッキング・ドラゴン≫を対象に≪ネフテドラゴン≫の効果発動。手札・場の【聖刻】モンスター1体をリリースすることで、対象の相手モンスター1体を破壊する」

「──っ、リバースカードオープン! 永続罠≪ディメンション・ゲート≫! 自分場の表側モンスター1体を除外する……!」

「避けましたね」

「逃げられたね」

 

 『そりゃ避けるし逃げるよ!』とグラドス(観戦者)と龍姫へ言いたい気持ちをグッと堪えるヴァンガード。まさか清々しいほどのゴリ押しで突破してくることは完全に予想外だったため、驚きで少しばかり精神的にダメージまでもらってしまう。

 

(でも次の私のターンまで≪一時休戦≫の効果で一切のダメージを受けない。【聖刻】使いならこの後は≪聖刻龍王―アトゥムス≫とかでさらに展開してくるだろうけど、それを返せるかは次の私のドロー次第……!)

 

 しかし幸いなことにこのターンでいくら展開されようがダメージを受けることはない。相手の盤面がどうなるかは不明だが、返しのターンになってから──そしてドローカード次第だろうと、ヴァンガードは龍姫のプレイングを注視する。

 

「リリースされた≪アセトドラゴン≫の効果発動。この子も≪トフェニドラゴン≫と同じ効果を持つ。デッキから≪ラブラドライドラゴン≫を攻守0にして特殊召喚──私は、レベル6・ドラゴン族の≪エレキテルドラゴン≫と≪ラブラドライドラゴン≫でオーバーレイ・ネットワークを構築。聖なる印を刻む龍の王よ、その号令で新たな竜を呼び出さん。エクシーズ召喚、顕現せよ、ランク6≪聖刻龍王―アトゥムス≫」

(来た……!)

 

 そして【聖刻】の王道の動きが始動。2体のドラゴンが光へ身を転じ、現れた黒渦に導かれるように投じられる。直後、閃光と共に紫と金で彩られた龍の王──≪アトゥムス≫が光臨。

 

「オーバーレイ・ユニットを1つ使い≪アトゥムス≫の効果発動。デッキからドラゴン族1体を攻守0にして特殊召喚する」

レダメ(レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン)辺りでさらに横に広げてくるかな……!)

 

 順当に考えるならば展開能力を持ったドラゴン族でさらに横に広げ、各種素材にして強力な布陣を敷くこと。今のヴァンガードにそれらを妨害・抑制する手段はないため、ただ静観するのみ。

 

「私は──デッキから≪妖醒龍ラルバウール≫を特殊召喚」

「……うん?」

「特殊召喚に成功時に≪ラルバウール≫の効果発動。手札を1枚捨て自分場のモンスターを対象に同種族・同属性のモンスターをデッキから手札に。手札から≪ドラゴンメイド・ティルル≫を捨て≪ラルバウール≫と同じドラゴン族・闇属性の≪亡龍の戦慄-デストルドー≫を手札に加える」

「んんー?」

 

 しかし、静観を決め込もうとした矢先に使用されたカードの違和を感じるヴァンガード。

 ≪ラルバウール≫、≪ドラゴンメイド・ティルル≫、≪デストルドー≫──確かに全てドラゴン族ではあるし、サーチ効果を持った≪ラルバウール≫や、自己蘇生効果を持ちチューナーでもある≪デストルドー≫も、まだ理を解することができる。

 

(何でそこに【ドラゴンメイド】!?)

 

 ≪ドラゴンメイド・ティルル≫の存在だけ解せない。

 

(いや待って……確かに【聖刻】は上級モンスターが多いし、展開能力的にも【ドラゴンメイド】との混ぜモノはアリと言えばアリ……?)

「手札の≪デストルドー≫を捨て魔法カード≪調和の宝札≫を発動。手札の攻撃力1000以下のドラゴン族のチューナーを捨てて2枚ドローする」

(さらっと情報アド消して手札補充してきた。この人エグイ……!)

「≪ラルバウール≫を対象に墓地の≪デストルドー≫の効果発動。レベル6以下のモンスターを対象に自身を特殊召喚。その後、対象にしたモンスターのレベル分≪デストルドー≫自身のレベルを下げる──私はレベル1の≪ラルバウール≫にレベル6となった≪デストルドー≫をチューニング。白雲より来たれ、茜空より来たれ、双角振るい、大地を焦土と化せ。シンクロ召喚。招来せよ、レベル7≪燦幻昇龍バイデント・ドラギオン≫」

 

 ヴァンガードが自身を無理矢理納得させようとしている最中、次いで(・・・)EX(エクストラ)デッキから現れるは紅白の双龍≪バイデント・ドラギオン≫。先の≪アトゥムス≫が西洋竜に近い姿であったことに対し此れは蛇龍が如き東洋龍。グルルルと唸り声を上げる≪バイデント・ドラギオン≫──を従える、無表情そうでありながら僅かに口角が上がっている龍姫に、得も言えぬ感情を抱くヴァンガード。

 

「≪バイデント・ドラギオン≫がシンクロ召喚に成功した場合、墓地のドラゴン族・炎属性を鳴き戻す。おいで≪ティルル≫」

「──っ、展開補助のドラゴン……!? しかも≪ティルル≫ってことは……!」

「わかっているなら説明は早い。≪ティルル≫は召喚・特殊召喚成功時にデッキから【ドラゴンメイド】1体を手札に加え、その後【ドラゴンメイド】1体を手札から墓地へ送る。デッキから≪ドラゴンメイド・チェイム≫をサーチし、そのまま墓地へ」

 

 双龍の咆哮に応じピョン、と≪ティルル≫が可愛らしく着地。両隣をゴツいドラゴンに挟まれているものの、臆することなく気丈な顔でむしろ睨み返す。かわいい。

 

「ドラゴン族・レベル3の≪ティルル≫にレベル7の≪バイデント・ドラギオン≫をチューニング。深淵を統べる神よ、異界の権能で以て我に力を、敵に裁きを齎せ。シンクロ召喚。招来せよ、レベル10≪深淵の神獣ディス・パテル≫」

「デカいの来たね……!」

「攻撃力3500……!」

 

 ──が、すぐに愛らしい姿は消え失せる。≪バイデント・ドラギオン≫と≪ティルル≫がそれぞれ緑輪と光玉へ転身。一瞬の閃光の後、1体の竜──邪竜が現れる。全身が悪辣な白亜と残虐な紫毒で塗りたぐられ、病的なまでに白い無数の腕が異形感を増す。ドラゴンでありながらもドラゴンとはナニカ違う異質な存在にヴァンガードとグラドスは警戒を露に。

 

「そして場のランク6の≪アトゥムス≫1体でオーバーレイ・ネットワークを構築。疾風迅雷の(はや)さと強さを双槍に宿し、眼下の敵を穿て。エクシーズ召喚、顕現せよ、ランク7≪迅雷の騎士ガイアドラグーン≫」

「……うん?」

 

 ここでふとヴァンガードは疑問を感じる。

 このターンは≪一時休戦≫の効果でお互いにダメージを受けることはない。そんな状況でわざわざ攻撃できない≪アトゥムス≫を守備貫通持ちの≪ガイアドラグーン≫に重ねて出すことに何の意味があるのかと。

 内心で不思議がっているヴァンガードを尻目に、龍姫は残った3枚の手札の内の1枚に指をかけた。

 

「手札から魔法カード≪死者蘇生≫を発動。墓地の≪ドラゴンメイド・チェイム≫を墓地より復活させる。そして特殊召喚時に≪チェイム≫の効果発動。デッキから【ドラゴンメイド】魔法・罠カード1枚を手札に加える。デッキから魔法カード≪ドラゴンメイドのお召し替え≫を手札に」

「まぁそっちは素材が揃っているからやるよねぇ……!」

「≪ドラゴンメイドのお召し替え≫を発動。場の≪チェイム≫と≪ネフテ≫、【ドラゴンメイド】とレベル5以上のドラゴンで融合。黒衣の竜の侍女よ、聖印持つ竜と一つとなりて、統べる竜を呼び起こせ。融合召喚、現出せよ、レベル10≪ドラゴンメイド・シュトラール≫」

 

 黒衣の竜の侍女≪チェイム≫がコソコソと≪ネフテドラゴン≫の陰に隠れていたものの、龍姫が発動した魔法で共々墓地へ。『ひぃん』と情けない声が一瞬だけ聞こえたが、その直後に光となって消ゆる。そして、その光の彼方よりバッサバッサと物々しい羽ばたき音が反響する。

 ふとヴァンガードが天を見上げると、そこには肢体──ではなく、筋骨隆々の肉体を持った竜人≪ドラゴンメイド・シュトラール≫が降りたとうとしていた。そのまま轟音撒き散らす羽音と共に雄々しく着地。1度、龍姫の方へ跪いて忠誠を示すと、すぐに反転しヴァンガードを見据える──どころではなく、まるで射殺すかのような眼差しを向ける。

 

(こわっ──いやそれ以上に普通に厄介……!)

 

 持ち主に愛されているのか、はたまた暴走した忠誠心が為せる行為か。

 どちらにせよ≪シュトラール≫の存在に眉を顰めるヴァンガード。

 攻撃力3500という並の最上級モンスターを凌駕する膂力を持ち、その上あらゆるカードの発動を無効化し、自身をメイド姿である≪ドラゴンメイド・ハスキー≫(攻撃力3000)へ転じる能力を持った≪シュトラール≫は難敵だ。

 先の≪ガイアドラグーン≫召喚に比べれば、まだ追加で出したカードとしては理解できる──

 

「──あれ?」

「……融合、シンクロ、エクシーズですか……」

 

 ──が、ふとそこでヴァンガードは気づく。

 『場にリンク以外のEXデッキから出す奴揃ってる』と。

 

「……あの、まさかとは思いますけど、その残った2枚の手札で──」

「──勘が良い子は好き。手札から儀式魔法≪高等儀式術≫を発動。儀式召喚するモンスターのレベルと等しくなるよう、デッキから通常モンスターを墓地に送り儀式召喚する。私はデッキからレベル2の≪守護竜ユスティア≫、≪ギャラクシーサーペント≫、≪プチリュウ≫の3体を墓地に送り、合計レベル6となる儀式召喚を執り行う」

「やっぱり!?」

 

 フィールドの6つの篝火が順に灯される。ボッボッ、と燦然と照られる焔が正六角形の陣を描き、その焔に天上より黄金の光が降り注ぐ。6つの光は次第に肥大化、全ての光が等しい大きさになると巨大な1柱へと化す。

 巨大な光柱が段々と収縮していくと、先ず目に入るのは黄金の装飾が施された透き通る蒼い翼。続けて力強さと女性のような柔らかさとしなやかさ、両方を兼ねた竜と人が合わさった体躯。

 そして──凛々しさと慈愛。強かさと柔和さが合わさった表情の竜人──否。

 

「祝福の祈りを聖なる歌に乗せ、天上まで届かせし(とき)、蒼穹の竜姫(りゅうき)が舞い降りる──儀式召喚。光臨せよ──《竜姫神サフィラ》!」

 

 竜の姫──≪竜姫神(りゅうきしん)サフィラ≫が満を持して光臨。

 これで龍姫の場には、儀式・融合・シンクロ・エクシーズ──リンクを除いたEXデッキから出すモンスターが勢ぞろい。

 

「これは中々に壮観ですね」

「見てる側はそうだろうけど、ちょっとこれは普通にヤバげだからね……!?」

 

 のほほん、と観戦者側に回っているグラドスは呑気に称賛。AIらしからぬ反応に悲しむべきか喜ぶべきか。

 

「でも次のターンまで貴方が発動した≪一時休戦≫の効果でお互いにダメージは受けない。返しのドロー次第だけど、まだ巻き返せ──」

「──バトルフェイズ」

「……えっ」

 

 突然のバトルフェイズ宣言で頭上に疑問符が乱舞するヴァンガードとグラドス。ダメージを与えられない状況、かつモンスターで攻撃宣言しても効果が発動する訳でもない盤面(・・)で一体何を、と考える間も与えずに龍姫の口が開く。

 

「≪サフィラ≫、≪ガイアドラグーン≫、≪ディス・パテル≫の順で攻撃」

「あっはい」

 

 ≪サフィラ≫は掌から光の奔流──所謂レーザービーム的なモノを放つが、≪一時休戦≫の効果でヴァンガードの周囲は半透明半円のバリアで攻撃も衝撃もない。

 続けて投げられる≪ガイアドラグーン≫の槍も、≪ディス・パテル≫の悍ましい多腕ビンタも。

 

(何を考えてるんだろ……)

「──モンスターが3回攻撃宣言したバトルフェイズ。墓地の≪バイデント・ドラギオン≫の効果発動。墓地からこの子を復活させ、さらに相手の魔法・罠カード1枚を破壊する」

「え゛っ!?」

「永続罠≪ディメンション・ゲート≫を破壊──さぁ、貴方のドラゴンを見せて」

 

 ヴァンガードが疑問に思っているのも束の間、突如として墓地から双竜の≪バイデント・ドラギオン≫が蘇り、その余波で≪ディメンション・ゲート≫が粉砕。

 永続罠≪ディメンション・ゲート≫は自分モンスターを除外する効果と、自身が墓地に送られた場合、自身の効果で除外したモンスターを呼び戻す──つまり。

 

「──っ、≪クラッキング・ドラゴン≫を帰還……!」

「まだ私のモンスター(ドラゴン)の攻撃は残っている。≪シュトラール≫で≪クラッキング・ドラゴン≫を攻撃」

「くぅ……!」

 

 無理矢理引きずり出された≪クラッキング・ドラゴン≫。勇ましくも攻撃力で上回られている≪シュトラール≫相手に『グルル……!』と威嚇するが、対する≪シュトラール≫はその(自慢の)豪腕ビンタ一発で刺々しい≪クラッキング・ドラゴン≫の巨躯を破壊。逞しい。

 

「これでキレイになった」

「これは見事な更地ですね」

「これホントキツいって……!」

 

 先の攻防でヴァンガードの場は完全に空。

 残っている手札も2枚のみと心許ない。その上で──

 

「エンドフェイズ。≪サフィラ≫の効果発動。デッキから2枚ドローし、1枚捨てる──速攻魔法≪超再生能力≫を発動。このターン、私がリリース、手札から捨てたドラゴン族の数だけドローする。私は≪トフェニドラゴン≫と≪アセトドラゴン≫をリリース。≪ティルル≫と≪デストルドー≫を捨てたので合計4枚ドローする」

「アドバンテージ差ぁ……!」

 

 ──龍姫は盤面を盤石とする。

 

 場には──

 

    儀式の≪竜姫神サフィラ≫。

    融合の≪ドラゴンメイド・シュトラール≫。

  シンクロの≪深淵の神獣ディス・パテル≫、≪燦幻昇龍バイデント・ドラギオン≫。

 エクシーズの≪迅雷の騎士ガイアドラグーン≫。

 

 ──合計5体もの大型ドラゴン族が並び立つ──否、(そび)え立っている。

 手札も≪超再生能力≫で4枚もドローし、返しも万全。

 ライフポイントは2000と半分になっているが、≪一時休戦≫の効果でヴァンガードのターンで勝負を決めることはできない。

 

(……これ普通にマズいのでは?)

 

 状況は圧倒的に不利。しかし、自分のデッキにはある程度逆転用のカードが幾つか入っている。それを引き当てることができれば、と一縷の望みを託してデッキトップに指を置く。

 

「私のターン──ドロー!」

 

 ドローカードを一瞥し、すぐさま元々の手札の1枚に指を伸ばす。

 

「魔法カード≪シャッフル・リボーン≫発動! 自分の場にモンスターが居ない時、墓地のモンスターを効果無効にして特殊召喚する!」

「どうぞ」

「──っ、墓地から≪デスペラード≫を蘇生! ≪デスペラード≫をリリースし魔法カード≪アドバンスドロー≫発動! 自分場のレベル8以上のモンスターをリリースし、2枚ドローする!」

「それは止める。≪シュトラール≫の効果発動。≪アドバンスドロー≫の発動を無効にし、自身をEXデッキに戻す。その後、EXデッキから≪ドラゴンメイド・ハスキー≫を特殊召喚する」

 

 蘇った途端に再び墓地へ。≪デスペラード≫は5秒と経たずに姿を消してしまった上、起死回生のドローカードさえも潰される。

 これでヴァンガードの手札は残り1枚──

 

「墓地に送られた≪デスペラード≫の効果発動! デッキから≪ブローバック・ドラゴン≫を手札に加える」

「どうぞ」

「魔法カード≪闇の誘惑≫発動! デッキから2枚ドローし、その後闇属性を1体手札から除外! ≪ブローバック≫を除外」

 

 ──ではない。

 なけなしのリソースを使って手札を交換。残された2枚のカードを一見。直後に龍姫の盤面を視認。

 

「リバースカードを2枚セットして、ターンエンド!」

「……私のターン、ドロー」

 

 ヴァンガードが行ったのは2枚のセットのみ。

 現状であれば妨害効果を持つ≪シュトラール≫が居ないため、余程のことがない限り発動自体は問題なく行える──

 

「場の≪サフィラ≫を手札に戻し魔法カード≪巨竜の羽ばたき≫を発動。魔法・罠カードを全て破壊する」

「──っ」

 

 ──発動さえできれば。

 場の≪サフィラ≫が光となって龍姫の手札へ回帰。それに合わせて竜の暴風が吹き荒れ、ヴァンガードに残された2枚のセットカードはあえなく崩壊。

 モンスターは居ない。

 魔法・罠すらもない。

 手札さえ存在しない。

 完全に目に見える(・・・・・)範囲でヴァンガードの対抗手段は全て潰えた。

 

「魔法カード≪創造の聖刻印≫を発動。自分場のドラゴン族エクシーズ1体を素材としてカード名が異なる【聖刻】エクシーズモンスターのエクシーズ召喚を行う」

「──っ」

「≪ガイアドラグーン≫でオーバーレイ・ネットワークを構築。聖なる印を刻む天の龍よ、その権能で我らを守り給え。エクシーズ召喚、顕現せよ、ランク8≪聖刻天龍―エネアード≫」

 

 しかし、この状況で愚直に進む龍姫ではない。

 

(あの2枚のリバースカード……罠だった。それに序盤の≪D・D・R≫で捨てたカードもわからない。墓地から発動するカードが最悪3枚だとしたらその3妨害に備えたカードを出すのは必定)

 

 龍姫は相手を侮らない。いかなる時であろうと可能性が0でなければ決闘者は最後まで死力を尽くすのが常だ。例え優勢側であろうと、相手に万が一の可能性があれば自分の敗北へ直結する。それ故に──逆転の芽を摘んでいく。

 

「魔法カード≪儀式の準備≫を発動。デッキからレベル7以下の儀式モンスターを手札に加える。その後、墓地に儀式魔法があれば手札に加えることもできる。私はデッキから≪古聖戴(こせいたい)サウラヴィス≫を手札に加え、墓地から≪祝祷の聖歌≫を回収する」

「≪サフィラ≫の効果で捨てていたカード……!」

「ご名答。そのまま儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を発動。場の≪バイデント・ドラギオン≫をリリースし──再び光臨せよ≪竜姫神サフィラ≫ッ!!」

 

 続けて≪巨竜の羽ばたき≫で戻った≪サフィラ≫を再び盤面へ。総攻撃力こそ落ちたものの、再び≪バイデント・ドラギオン≫を墓地に置けたことで自己蘇生効果を狙える上に、墓地の≪祝祷の聖歌≫で≪サフィラ≫に破壊耐性も得られた。ならば次は──と、龍姫は1枚の手札に指をかける。

 

「手札から≪ドラゴンメイド・ラドリー≫を召喚」

「……えっ?」

「召喚に成功した≪ラドリー≫の効果発動。デッキトップ3枚を墓地に送る──そして墓地の≪ドラゴンメイドのお召し替え≫の効果起動。場の≪ラドリー≫を手札に戻し自身も手札に戻す」

 

 突然の愛らしいランドリーメイドの少女≪ラドリー≫の登場に意表を突かれたヴァンガードだが、同時になるほどと感心。

 

(いやこの世界で相手が確認できないデッキトップ3枚を墓地に送れて、融合魔法回収のためのコストと素材になるんだから≪ラドリー≫って入れ得なのでは?)

 

 そして若干思考が偏る。

 

「これで可能性を潰す。魔法カード≪ドラゴンメイドのお召し替え≫を発動。手札の≪ラドリー≫と場の≪ハスキー≫で──」

「──その瞬間、墓地から罠を2枚発動! ≪光の護封霊剣≫!! そしてライフを半分の2000支払い≪トランザクション・ロールバック≫!!」

「──っ、≪シュトラール≫が出る前に……!」

 

 勝ち確の一歩手前。この瞬間を待っていたとばかりに、ヴァンガードは墓地の罠を起動。

 

「墓地の≪光の護封霊剣≫を除外することで相手は直接攻撃できない! そして≪トランザクション・ロールバック≫のは自分墓地の罠を発動コストを無視してコピーする! 私がコピーするのは──≪裁きの天秤≫!!」

「ここで──大量ドローカード……!?」

 

 『迂闊だった』龍姫はそう思いながら目を細め、自身のプレイング──盤面に目を向ける。

 龍姫の場には4体のモンスターと発動中の≪ドラゴンメイドのお召し替え≫の5枚。

 対してヴァンガードの手札・場のカードは0枚。

 ≪裁きの天秤≫はその差の数だけドローできる──本来であれば、≪裁きの天秤≫自身が残り差は4枚になっていた。だが≪巨竜の羽ばたき≫で諸共全て破壊したため、5枚もドローできる状況を作り出してしまったのは他でもない龍姫自身。自分のプレイングの甘さに歯軋りしつつ、ヴァンガードへ視線を移す。

 

「≪裁きの天秤≫の効果を得た≪トランザクション・ロールバック≫の効果で5枚ドロー!!」

「……改めて≪ラドリー≫と≪ハスキー≫で融合。≪ドラゴンメイド・シュトラール≫……!」

 

 ≪サフィラ≫と同じように再び場に現れる≪シュトラール≫。

 しかし今回は若干不安げな表情を龍姫に見せる。先ほどは優勢だったが今度は相手の手札が5枚。しかも≪シュトラール≫自身が場に馳せ参じる前に妨害を使われてしまった。まるで自分の失態、とばかりに≪シュトラール≫はぎゅう、と強く自分の拳を握り締め、悔しそうな顔になる。

 

「墓地の≪置換融合≫自身を除外して効果発動。墓地の≪ハスキー≫をEXデッキに戻して1枚ドロー──リバースカードを2枚セット」

 

 だがそんな忠臣メイドの不安を払うかのように、龍姫はいつものクール(を装っている)表情へ。

 淡々と自分のプレイングを進めていき、ヴァンガードのターンに備える。

 

「エンドフェイズ。≪サフィラ≫の効果で2枚ドローし、1枚捨てる──これでエンド」

「……私のターン、ドロー」

「スタンバイフェイズ、≪シュトラール≫の効果で墓地から≪ティルル≫を蘇生。特殊召喚成功時の効果でデッキから≪ドラゴンメイド・フランメ≫を手札に加え、そのまま捨てる」

 

 ふぅー、と緊張をほぐすように小さく息を吐くヴァンガード。

 ドローカードを一瞥してから、改めて龍姫の盤面を確認。

 場には≪サフィラ≫、≪シュトラール≫、≪ディス・パテル≫、≪天龍エネアード≫、≪ティルル≫の5体。

 セットカードが2枚とある上に、手札には≪サウラヴィス≫も控えている。

 あれだけ大型のドラゴンを扱うとなれば妨害や除去の可能性は極めて低い。また──

 

(あの人は絶対に自分のモンスターで決めたがるタイプだ)

 

 ──自分のモンスター、ドラゴンに絶対的な自信を持っているが故の驕り。

 原作でもライバルを始めとして著名なドラゴン使いは一貫して自分のドラゴンに誇り(プライド)驕り(プライド)を持っており、偏屈な決闘者が多い──というか全員だ。

 それ故、対峙している龍姫も同じタイプ。なればここは──

 

「手札の≪マシンナーズ・カーネル≫を捨て、≪十種神鏡陣(トクサノシンキョウジン)≫を発動! レベル10となるように手札・場のモンスターを墓地に送り、2枚ドロー!」

「……通す」

「≪マシンナーズ・ギアフレーム≫を召喚! 召喚成功時にデッキから【マシンナーズ】モンスターを手札に加える!」

「……通す」

「私はデッキから≪マシンナーズ・アンクラスペア≫を手札に加える──そして効果発動! ≪アンクラスペア≫がドロー以外の方法で手札に加えられた時、手札から特殊召喚する!」

「通す……」

「≪アンクラスペア≫を特殊召喚し特殊召喚成功時に効果発動! デッキから【マシンナーズ】1体を墓地へ送る!」

「通す……!」

「私はデッキから≪マシンナーズ・ルインフォース≫を墓地へ!」

 

 怒涛の展開。ドローカードを含めて6枚ある手札ではどれが本命であるか絞るの判断が非常に難しい。初動が本命か? それとも妨害を吐かせるためのカードで次手が本命か? それとも──と、疑心暗鬼に陥る決闘者は少なくない。

 そんな中、龍姫のスタンスは一貫している。

 

(──最後に出てきた奴を潰す)

 

 エース、フィニッシャーを叩く。仮に耐性や妨害効果等があったとしても、その効果を持っているという知見は得られる。ならば次ターンからそれを意識したプレイングを心がければ良いという、ある意味で潔いスタンス。だが──

 

「私はレベル4・機械族の≪ギアフレーム≫と≪アンクラスペア≫でオーバーレイ・ネットワークを構築! 来たれ、ランク4! ≪ギアギガント(クロス)≫!!」

「≪ギアギガントX≫……!」

「オーバーレイ・ユニットを1つ使い、≪ギアギガントX≫の効果発動! デッキからレベル4以下の機械族1体を手札に加える!」

「通す……!」

「私はデッキから≪古代の機械箱(アンティーク・ギアボックス)≫を手札に加え、効果発動! このカードがドロー以外で手札に加わった時、攻撃力か守備力のいずれかが500の機械族・地属性を手札に加える! 攻撃力500の≪マシンナーズ・ピースキーパー≫を手札に! さらに魔法カード≪闇の誘惑≫! デッキから2枚ドローし手札の≪マシンナーズ・パゼストレージ≫を除外!」

 

 ──止まらない。本命のための準備が終わらない止められない妨害を当てられないの三重苦。

 

(手札が減らない……!)

 

 お前が言うな、と言われそうだがヴァンガードのプレイングを見て龍姫は内心で焦りを見せ始めた。ここまで伸ばしてしまったのは自分だが、しかし残った5枚の手札で別の展開ルートで回される可能性も十二分にある。だからこそ妨害はいつも最後に当てるつもりなのだ──

 

「速攻魔法≪手札断殺≫を発動! お互いに手札を2枚捨て、2枚ドロー!」

「──っ、通、す……!」

 

 ──それ故、手札に防衛手段としてあった≪サウラヴィス≫も捨てざるを得ない。

 

「魔法カード≪死者蘇生≫発動! 墓地の≪マシンナーズ・カーネル≫を復活させる!」

「──っ、≪シュトラール≫の効果発動……! 自身をEXデッキに戻し≪死者蘇生≫の発動を無効……! そしてEXデッキから≪ハスキー≫を呼ぶ……!」

「速攻魔法≪マグネット・リバース≫を発動! 墓地の通常召喚できない機械族1体を蘇生! 墓地より起動せよ──≪マシンナーズ・カーネル≫ッ!!」

 

 そして、出てくるであろう本命を止める──ことができない。

 

「≪カーネル≫自身を対象に≪カーネル≫の効果発動! ≪カーネル≫とその攻撃力3000以下の相手モンスターを全て破壊する!」

「──っ、≪ディス・パテル≫の効果発動……! 相手がモンスター効果を発動した時、除外されている自分・相手カード1枚を持ち主のデッキに戻し、その元々の持ち主によって効果が変わる……! 私は貴方の≪ブローバック・ドラゴン≫を貴方のデッキに戻し、≪カーネル≫の効果の発動を無効にする……!」

「そこは止めるよね……!」

「……止めさせられた、とでも言っておく」

 

 龍姫のできる妨害は使い果たした。残りはセットされた防御用のカードのみ。

 あとはヴァンガードのプレイングをただ静観するのみ──

 

「魔法カード≪アイアンコール≫発動! 自分場に機械族が居る時、墓地のレベル4以下の機械族を効果無効で蘇生! 蘇れ≪ピースキーパー≫!」

 

 ヴァンガードの場には3体の機械族。

 最上級の≪マシンナーズ・カーネル≫。

 エクシーズの≪ギアギガントX≫。

 下級の≪マシンナーズ・ピースキーパー≫。

 

 一見すれば『機械族』以外に目立つ共通点はない。警戒すべき≪カーネル≫の除去も止め、場には高レベルと低レベルとランク持ちのみ。ここからさらなるエクシーズやシンクロ、龍姫の知る限りで融合にも『繋げる』ことはできない──

 

「私は≪カーネル≫、≪ギアギガントX≫、≪ピースキーパー≫の3体をリンクマーカーにセット!」

「──っ、リンク召喚……!?」

 

 ──リンク(繋ぐ)召喚以外だったなら。

 

「召喚条件は機械族モンスター2体以上! 来たれ、リンク3! ≪幻獣機アウローラドン≫!!」

 

 巨大兵器の≪カーネル≫、汎用人型の≪ギアギガントX≫、潤滑油的な≪ピースキーパー≫。

 3体の機械族が橙色の光となり8方向のアローヘッドの内、左・下・右下へ吸い込まれる。

 閃光が走り、その中から漆黒の戦闘機がEXモンスターゾーンへと着陸する──

 

「≪アウローラドン≫がリンク召喚に成功した時、自分場に≪幻獣機トークン≫を3体特殊召喚する!」

 

 ──3機の随伴機を伴って。

 

「≪アウローラドン≫の更なる効果! 自分場のモンスター2体をリリースし、デッキから【幻獣機】1体を特殊召喚する! ≪アウローラドン≫自身と≪幻獣機トークン≫をリリースし──チューナーモンスター≪幻獣機オライオン≫を特殊召喚!!」

「ここで、チューナー──ということは」

「当然、この召喚方法! 私はレベル3の≪幻獣機トークン≫2体にレベル2の≪幻獣機オライオン≫をチューニング! 来たれ、レベル8! ≪HSR(ハイスピードロイド)カイドレイク≫!!」

 

 巡り変わる機械族たちが1機に集約。シンクロ召喚特有の緑輪と光玉へと身を転じ、リンク召喚の時と同様に一瞬の閃光。

 直後、ヴァンガードの頭上に影が生まれる。

 巨大な戦闘機と(ドレイク)を模した翠翼持つ機械竜──≪HSRカイドレイク≫がEXデッキより発艦。

 

「シンクロ召喚成功時に≪カイドレイク≫の効果発動! このカード以外の──全てのカードを破壊するッ!!」

「リセット効果……!? チィ、リバースカード──」

 

 機械竜が咆哮を上げると、その翠翼が光輝く。まるで光を溜め込むかのようにその輝きは増していき──瞬間、閃光。

 蓄えられた光は豪雨のように龍姫の場のドラゴンに降り注ぎ、1体──また1体と、無惨にも破壊されてゆく。

 破壊から免れる方法がないドラゴン達は成す術なく全滅──

 

「──墓地の儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を除外し≪サフィラ≫の身代わりとする……!」

「アレを耐えますか……!」

「でも≪サフィラ≫以外は全部除去したし、リバースカードも全部剥がした。あとは──」

 

 そう口にしながらヴァンガードは自身の手札、龍姫の残りライフポイント2000を見比べ──片頬が上がる。

 

「──あのライフポイントを削る手段を用意するだけ! シンクロ素材で墓地に送られていた≪オライオン≫の効果! 場に≪幻獣機トークン≫を投影!」

 

 ≪カイドレイク≫の隣にトークンが生成。

 そして残された3枚の手札の内、2枚に同時に指をかける。

 

「魔法カード≪二重召喚(デュアルサモン)≫を発動! このターン通常召喚を2回まで行える! 手札から≪ジャック・ワイバーン≫を召喚!」

「≪ジャック・ワイバーン≫……!」

「効果を知ってるなら重畳! ≪ジャック・ワイバーン≫の効果発動! 自身と場の機械族を除外し、墓地の闇属性を復活させる! さぁ、来たれ──」

 

 黒い装甲に覆われた飛竜≪ジャック・ワイバーン≫が現れたかと思えば、その身と投影されている≪幻獣機トークン≫を次元の彼方へと飛ぶ。飛んだとは別に漆黒の渦がヴァンガードの場の地面より現れ、とある『巨躯』がゆっくりと浮上する──

 

「≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」

「このタイミングで──≪クラッキング・ドラゴン≫……!?」

 

 ──≪クラッキング・ドラゴン≫の姿が。

 再び『グルルル……ッ!』と威嚇するような機械的な唸り声をあげ、龍姫の場に唯一残った≪サフィラ≫を睨む。

 当の≪サフィラ≫は涼し気な表情で気にする様子もない。

 

「場に機械族だけが2体居ることで魔法カード≪アイアンドロー≫を発動! デッキから2枚ドローし、この後1回しか特殊召喚できない──」

 

 最後の手札も増強に使い、残った2枚の手札──そして墓地を一瞥し、ヴァンガードの口角が上がる。

 

「──けど、これで十分! 永続魔法≪マシンデベロッパー≫を発動! 場の機械族の攻撃力を200アップさせる! そして、墓地の≪古代の機械箱≫・≪ギアフレーム≫・≪アンクラスペア≫のレベル4を3体除外し──深淵より来たれ! ≪マシンナーズ・ルインフォース≫!!」

「ここで、攻撃力4600──いや、4800……ッ!?」

 

 最後にヴァンガードの場に現れたのは漆黒の巨大兵器──≪マシンナーズ・ルインフォース≫。≪クラッキング・ドラゴン≫に匹敵する巨躯を震わせ、≪クラッキング・ドラゴン≫の隣へと鎮座。

 これでヴァンガードの場には≪カイドレイク≫・≪クラッキング・ドラゴン≫・≪ルインフォース≫の3体という大型機械が並ぶ。さらにその攻撃力は≪マシンデベロッパー≫によって微力ながら強化。3200が2体と、4800という『神』をも超える攻撃力を誇る。

 

「普通なら≪ルインフォース≫が≪サフィラ≫を攻撃してその超過ダメージだけで終わる──ハズだけど、墓地に何を仕込んでいるかわからないからね。万全を以て当たるよ」

「……いや、その考え方は普通。『遠慮なく』来ると良い」

 

 やや、引っ掛かる発言にヴァンガードは小首を傾げるが、潔く敗北を認める言だろうと納得──

 

(──まだ、何かある)

 

 ──しない。あの表情は勝負を諦めていない。それどころか、このターンでの負けはないという確信さえ感じられるほどの余裕。

 

(なら、その余裕(慢心)を粉砕する)

 

 ふぅ、と一拍と一呼吸置いて、ヴァンガードはキッと龍姫を見据える。

 

「じゃあお言葉に甘えて──≪ルインフォース≫で≪サフィラ≫攻撃!」

 

 数多の銃火器を備えた漆黒の巨躯が起動──両腕、両肩、両脚部に備えた砲とミサイルを一斉に斉射。暴風雨の如く降り注がれる弾幕は容赦なく≪サフィラ≫を襲う。

 そして攻撃力差2300のライフポイントが残りライフポイント2000の龍姫を敗北へと導く──ことはない。

 表示された龍姫の残りライフポイントは850。≪ルインフォース≫が与えた戦闘ダメージは1150──つまり、半分の戦闘ダメージとなっている。

 

「──残念だけど、私は≪カイドレイク≫の除去効果に合わせて≪ハーフ・アンブレイク≫を発動していた。このターン、私が受ける戦闘ダメージは半減し≪サフィラ≫も戦闘では破壊されない」

「なっ──」

 

 『ズルい!!』という大声を寸でで飲み込むヴァンガード。

 

(ふぅー……いやいやいや、これもある意味お馴染みの『発動していた』だから、ズルくも何もない……! それに私のモンスターの総攻撃ならライフポイントを0に──あれ、ちょっと足りない?)

 

 フッと盤面を見直すヴァンガード。

 相手の場にはこのターン≪ハーフ・アンブレイク≫の効果で戦闘破壊されず、戦闘ダメージが半減になる攻撃力2500の≪サフィラ≫。

 自分の場には永続魔法≪マシンデベロッパー≫によって攻撃力3200となっている≪カイドレイク≫と≪クラッキング・ドラゴン≫、そして攻撃済みの攻撃力4800の≪ルインフォース≫。

 

「──このターンで彼女を倒すには攻撃力が300ほど足りませんでしたね。≪一族の結束≫を採用するべきだったのでは?」

「ぅぐ……いやいや、私のEXデッキには機械族以外も居るからギリ採用範囲外」

「ふむ、それも道理ですね。どちらにせよ、次のターンに備えるべきかと」

「そうだね──でも、残った2体で攻撃してからね! ≪カイドレイク≫と≪クラッキング・ドラゴン≫で≪サフィラ≫に攻撃! トラフィック・ブラスト・ストーム!!」

 

 残った2体はさながら合体攻撃。≪クラッキング・ドラゴン≫と≪カイドレイク≫は共に竜口からブレスを放ち、それが半透明のバリアで守られている≪サフィラ≫へ直撃。

 攻撃力3200と2500の差し引き700──の半分。350のダメージが2回、龍姫のライフポイントから引かれ、残りライフポイントは150。

 

「……むぅ」

「……? 私はリバースカードを1枚セットし、ターンエンド」

 

 少し不満げな龍姫の表情を訝しみつつ、ヴァンガードはターンを終える。一体何が、と思ったところで後攻1ターン目の攻防を思い出し納得。

 

(3回の攻撃宣言があったから≪バイデント・ドラギオン≫を自身の効果で蘇生できる──けど、蘇生したら≪クラッキング・ドラゴン≫の『クラック・フォール(効果ダメージ)』で終わる)

 

 残り150のライフポイントしかない龍姫側からすれば攻撃力150以上のモンスターの召喚は直死を意味する。

 この状況を返すには≪サフィラ≫の攻撃力を5200以上にするぐらいしかないが、生憎と龍姫の今のデッキでは攻撃力4900にすることが精一杯。

 

(……マズいかも)

 

 現在、ヴァンガードの場には攻撃力3200の≪クラッキング・ドラゴン≫と≪カイドレイク≫、そして攻撃力4800を誇る≪ルインフォース≫と、大型2体・超大型1体を圧倒的な質量。

 セットカードは1枚のみだがそれも耐性付与やカウンター罠などであれば、この状況は限りなく(・・・・)詰みに近い。

 

「……あっ、このターン≪手札断殺≫で≪サウラヴィス≫が墓地に送られているため≪サフィラ≫の効果を発動。デッキから2枚ドローし、1枚捨てる効果を選択」

「どうぞ」

 

 あくまでも限りなく(・・・・)というだけであって、この状況から逆転できるカードはデッキに眠っているハズだ。

 己が組んだ最愛のデッキを見やり、自分の想いに応えてくれるという確信から、内心でそっと微笑む。

 龍姫は『……ふぅー』と1度深呼吸し、呼吸を整える。そして、デッキトップに指をかけ──

 

 

 

 

 

『──勝ちたいか?』

 

 

 

 

 

「──っ、!?」

 

 突然、頭の中に声が響く。まるで頭蓋骨を直接金槌で殴り、その反響を強引に言語化したような──極めて苦痛で、不愉快な声。

 

『貴様は優秀な決闘者だ。それをたかだか馬子(バイト)風情に負けて良いのか? 仮にも別世界で“プロ”と称される者が』

「……誰?」

『質問に質問で返すのは感心せぬな。貴様は我の問いに答えるだけで良い──勝ちたいか?』

 

 それはさながら地獄に落ちる寸前に垂らされる蜘蛛の糸。声自体は不愉快極まりないのだが、不思議とその言には砂漠のオアシスのように蠱惑的。

 しかし、それに対して龍姫は『はぁ』と内心でため息をつき、どこの馬の骨とも知れぬ相手に当然の言葉を投げる。

 

「『勝ちたい』じゃない──勝つ」

「──ほぅ……!」

「私は、私自身の力で彼女に勝──」

『──よろしいッ!! 良き意気だ!! それに貴様ならば我が力(・・)を受けるに相応しい──さぁ、我に身を委ねよッ!!』

「はっ? 待っ──」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 突然、デッキトップに指をかけた龍姫の動きが止まる。

 先ほどまでデュエル中は鋭敏な動きで、決して無駄なことをしなかった龍姫が、だ。

 俯いたままピクリともせず、まるで糸の切れた人形が如く。

 

「……どうかしましたか?」

 

 AIながら、どこか不穏を感じたグラドスは心配半分──警戒半分で『龍姫』の方へ歩み寄る。

 あと数歩で手が届こうかの距離で、『龍姫』はグラドスに向けて制止を促すかのように手を伸ばす。

 心配無用、とでも言いたげな行動にグラドスはその足を止め──

 

(──プロテクト、さらに追加)

 

 ──直感(・・)で緊急事態を察した。

 そのまま龍姫を見据えた状態でゆっくりと後退り、一瞬だけ視線をヴァンガードへ送る。

 アイコンタクトを受け取ったヴァンガードは小さく頷き、『龍姫』へと視線を向ける──否、警戒の色を露にして睨む。

 

 するとその敵対心を感じたのか『龍姫』はゆっくりと顔を上げ、先ほどまでの無表情からは予想だにできないほどの満面の笑み。

 両頬に引っ張られて口角はニッコリと上がり──『藍色』だった瞳が『金色』へと化し、その双眸が妖しい光を灯す。

 

「──≪サフィラ≫の効果で2枚ドローし、1枚捨てる」

「……改めて、ターンエンド」

 

 ほんの一瞬。龍姫がドローしたカードが光る。

 そしてコンマ1秒にも満たない刹那の間に、ジジジとバグのようにカードが乱れる。

 

「ワタシのターン、ドロー」

「──っ、」

 

 違う。目の前の相手は『橘田龍姫』ではない。

 ほんの少しの会話。ほんの数ターンしか語り合えていないが、ヴァンガードは悪寒にも似た直感を確信。

 

「──貴方、誰?」

「フム……ワタシは≪クラッキング・ドラゴン≫を対象に墓地の≪ブレイクスルー・スキル≫を除外して効果起動。その針鼠機械竜を無力化する」

「──っ、罠カード≪マグネット・フォース≫発動ッ! このターン、私の場の機械族は自身以外の相手モンスターの効果を受けな──」

「速攻魔法≪皆既日蝕の書≫を発動。表側表示モンスターを全て裏側守備にする」

「ぐっ……!」

 

 口ではなくデュエルで語れ、と言わんばかりに『龍姫』はヴァンガードの発言を無視し、プレイング続行。

 おそらくは先ほどのドローで無理矢理『書き換えた』であろうカードでヴァンガードのエース──どころか、切り札級の大型機械をまとめて寝かせる。

 

「さて……『誰?』と問うたな。その問いにはこのカードで答えるとしよう──魔法カード≪龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)≫を発動」

「なっ──」

「ワタシ──『我』は墓地の

 融合モンスター≪ドラゴンメイド・ハスキー≫、

 シンクロモンスター≪深淵の神獣ディス・パテル≫、

 エクシーズモンスター≪聖刻天龍―エネアード≫、

 ペンデュラムモンスター≪アモルファージ・イリテュム≫

 ──4体のドラゴンを融合素材として除外」

 

 4つの召喚方法で出されるドラゴンが体。中空に一瞬だけ現れたかと思えば『龍姫』の背後の黒い影へと吸い込まれていく。

 無形の影は各ドラゴンを喰らい、次第に肥大化。龍姫のドラゴンで最も巨大だった≪エネアード≫の大きさを超え、フィールドで最大の巨躯を誇る≪ルインフォース≫すら凌駕する。

 翼と呼ぶには歪。体躯と呼ぶには異形。竜──ドラゴンと呼ぶには悍ましい、ドラゴンのようなナニカが場に現出する。

 

「統合召喚。我が姿に恐れ、慄くがよい。我が名は──≪覇王龍ズァーク≫ッ!!」

「──っ、≪ズァーク≫!?」

 

 現れ出でるは最強のして最凶の巨竜──≪覇王龍ズァーク≫。

 ヴァンガード自身も知っている──などと浅い関係ではない覇王龍の登場に目を見開く。

 

「何でズァークがそこに!?」

「知れたこと──この娘(龍姫)が我が呼び声に応え、そしてその依代(よりしろ)に相応しかった。ただそれだけの話だ」

「だからって、別の世界の人を……!」

「それが何だと言うのだ? 貴様にはわかるまい──我の孤独、我の空虚、我の希望、その全てを……!」

 

 龍姫の体を介しズァークは忌々しげに口を開く。無表情である龍姫の顔は憤怒の色に染まり、その憎悪の矛先は対峙するヴァンガード。

 

「我を出せる決闘者はVRAINS(ここ)にいるか? 居ないであろう……! あの弾丸の小僧(リボルバー)とてペンデュラムは使わん! それがどうだこの娘は? 我が希望に加え、儀式とリンクまで体得している──この娘こそが我の欲していた決闘者! 我の希望なのだ!!」

 

 ズァークの語る言葉に口を紡ぐグラドス。全て──という訳ではないが、自我が芽生えた故の孤独は少しだけ共感できる。

 しかし、それが他世界の人間を強引に連れて来る──それどころか、身体と意識を乗っ取って良い免罪符になりはしない。

 

 おそらく本心・本音からそう語っているのであろうが、ズァークの身勝手な言に目尻を下げるヴァンガード。

 その眼差しにはズァークへの悲しみや憐れみ──そして、呆れの色が確かに出ていた。

 

「……ズァーク。それは『希望』じゃない──貴方の『欲望』だよ……」

「『望み』には変わりあるまい……! これ以上の問答は不要! 特殊召喚した我の効果発動! 貴様の場を全て破壊するッ!!」

 

 怒りの慟哭とも言うべきか≪ズァーク≫は咆哮を轟かせる。

 その衝撃でヴァンガードの場に寝かしつけられた3体のモンスターは全て破壊される──

 

「破壊された≪カイドレイク≫、≪ルインフォース≫の効果発動! ≪カイドレイク≫が相手によって墓地に送られた場合、デッキから【スピードロイド】を手札に! ≪SRメンコート≫を手札に加える! ≪ルインフォース≫が破壊された時、レベル12以下になるよう除外状態の【マシンナーズ】を3体まで特殊召喚! 来たれ≪ギアフレーム≫、≪アンクラスペア≫、≪パゼストレージ≫!」

 

 ──が、その破壊をトリガーとして強固な防護壁を築き始める。

 

「さらに特殊召喚した≪パゼストレージ≫の効果! 墓地の【マシンナーズ】の効果の発動を封じて特殊召喚! 蘇れ≪ピースキーパー≫!」

 

 3体だった壁は4体に増え、さらには手札に≪メンコート≫まで備える鉄壁の守り。

 その上、墓地には≪マシンナーズ・カーネル≫まで待機しており、正攻法での突破は困難を極めるであろう守備陣。

 

「しゃらくさい……! 魔法カード≪闇の量産工場≫で墓地の通常モンスター2体を手札に戻す! ≪ユスティア≫と≪神龍の聖刻印≫を手札に加え──それぞれ≪調和の宝札≫と≪トレード・イン≫の糧として墓地へ! 我はその効果によりドローする!」

 

 しかし、その布陣を粉砕せんとズァークが動く。2枚だった手札を魔法カードと書き換えの外法(げほう)で手札を3枚に増強。

 

「永続魔法≪星遺物の守護竜≫! 墓地の≪ラルバウール≫を復活させ、特殊召喚時の効果発動! 手札を1枚捨てデッキより≪デストルドー≫を手札に加える! そして≪ラルバウール≫を対象にライフを半分の75捧げ≪デストルドー≫の効果! 自身を≪ラルバウール≫のレベル分下げ、レベル6で特殊召喚する!」

 

 ドローカードを一瞥する間もなくズァークはカードを決闘盤に叩きつける。そして龍姫の流れるようなプレイングとは真逆の、荒々しいプレイングでモンスターを次々と展開。

 

「レベル1の≪ラルバウール≫にレベル6となった≪デストルドー≫をチューニング! シンクロ召喚! 出でよ──≪オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン≫!!」

「なっ──」

 

 そして繰り出されたモンスターにヴァンガードは絶句。

 ≪オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン≫の能力を知っているが故に表情は険しくなる。

 

(≪メンコート≫と≪マシンナーズ・カーネル≫を封じられた……!)

 

 6枚の壁の内、2枚を無力化。さらに通常の戦闘破壊で2体は減らされるため、返しのターンで生き残るモンスターは2体──

 

「≪ドラゴラド≫を召喚! こやつが召喚に成功した時、墓地の攻撃力1000以下で通常(能なし)モンスターを蘇られる! 来い≪ラブラドライドラゴン≫!!」

「レベル4とレベル6のドラゴン族──チューナー……!?」

「貴様も自身の敗北を察したようだな……! 我はレベル4の≪ドラゴラド≫にレベル6の≪ラブラドライドラゴン≫をチューニング! 来い≪トライデント・ドラギオン≫!!」

 

 ──という僅かな希望を蹂躙するかの如く、ズァークは最後の手札を決闘盤へ叩きつけた。

 2体のドラゴンから生まれしは三つ首の獄炎竜──≪トライデント・ドラギオン≫。

 

「≪トライデント≫が場に出た時、自軍カードを2枚破壊し、このターン3回の攻撃を可能とする! 糧となれ≪星遺物の守護竜≫──そして神を驕る≪竜姫神≫よ!」

「──っ、なんてことを……!!」

 

 表側の≪星遺物の守護竜≫、そしてセット状態だった≪サフィラ≫を劫火が襲う。

 裏側故にソリッドビジョンでは何の演出もない──故に、まるでただそこに在る『モノ』を焼却処分したかのような扱いよう。

 

 僅かなターンでの攻防だったが≪竜姫神サフィラ≫こそが龍姫のエースカードにして魂のカードであるとヴァンガードは確信していた。

 それをまるで当然の犠牲、必要経費とばかりに何の感情も持ち合わせずに扱ったズァークに沸々と怒りさえ込み上げる。

 

「バトル! 2体の炎竜よ、その邪魔な壁を蹴散らせい!!」

「ぐっ……!」

 

 ≪オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン≫、3回攻撃を得た≪トライデント・ドラギオン≫が容赦なくヴァンガードの壁となっていた4体の【マシンナーズ】を木端微塵に。本来であれば≪ピースキーパー≫のサーチ効果、≪カーネル≫の自己蘇生効果が発動するハズだが、バトルフェイズにモンスター効果を封じる≪オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン≫により封殺。それどころか手札にある≪メンコート≫まで死に札と化した。

 

「さぁ──これでトドメだ! 我の攻撃を受けることを光栄に思うが良い!」

「ぁ──」

 

 守る壁も。防ぐ盾も。全てを蹂躙されたヴァンガードに≪ズァーク≫の攻撃を回避する手立てはない。

 大口を開け、口内に毒々しい緑色の粒子をチャージ。嘲笑うような表情でヴァンガードを見下し──それを放つ。

 4000もの攻撃力による直接攻撃。

 

 ヴァンガードの決闘盤のカウンターが、0のライフポイントを告げる──





タイトルや前書きにて『外伝』という単語で表記していますが、作者としては『劇場版』のつもりで書いています
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