どうも、ハノイの騎士(バイト)です。【外伝 Dragon's Desire】   作:紅緋

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中編


どうも、ハノイの騎士(バイト)です。【外伝 Dragon's Desire】(中編)

 

 ズァークの放った毒々しい緑色の粒子光線がヴァンガードを襲う。人1人が容易に包まれるほどに長大かつ巨大な光の奔流はヴァンガードの全身を覆い、その一撃は一瞬にしてライフポイントを抉り削り切った。

 幸か不幸か質量的な衝撃がなかったため、ヴァンガード自身は後方に弾き飛ばされたり派手に転げ飛ぶといったことはない。しかし、その身が『神』に近しい存在である覇王が放つ熱量。当然、無傷で済むハズがない。

 仮面は半壊とヒビ割れ、アバターも不具合を起こしているかの如く身体の末端の幾つかが消失。五体満足ではあるが、満身創痍に近い状態──常人であれば立つことすらままならないであろう。

 

「ヴァンガードッ!!」

「……だい、じょうぶ……っ!!」

 

 だが、それでもヴァンガードは両足をしっかりと地に付けて立っている。膝を突くという無様を晒すでもなく、ただ意地と執念でだけ、だ。

 駆け寄ろうとするグラドスを手で制し、ヴァンガードは半分掠れた視界で眼前の龍姫──の意識を乗っ取ったズァークをキッと睨む。

 その気丈な振る舞いに気を悪くするでもなく、むしろズァークは本人(龍姫)が絶対にしないであろう下卑た笑みを浮かべ、上機嫌に歯を覗かせる。

 

「ククク、我の攻撃を受けてなおも立っていられるか……! よい──実によいぞ。褒めて遣わす」

「それは光栄……と、答えれば良いの、かな……!?」

「フハハ! 問答も心得ておるか! 愉快愉快ッ!」

「──っ」

 

 さながら傲慢なる王──覇王と、それに謁見する臣下が如きやりとり。グラドスからすれば児戯にも等しい受け答えを満身創痍のヴァンガードが付き合ってあげて(・・・)おり、それを世間知らずな上位者が気をよくしているだけの光景にしか見えない。

 友人(ヴァンガード)を無碍、かつ見下した態度に一部脳内回路が焼き切れるような感覚を覚え、グラドスは決闘盤(デュエルディスク)を展開。嘲笑う龍姫(ズァーク)に怒りを滲ませる。

 

「ほう、次はそこな機械人形(AI)が相手か? よいぞ、今の我は機嫌が良い──身体が馴染むまで(・・・・・・・・)相手になってやろうぞ」

「……是非とも。貴方の蛮行──いえ、凶行は私が止めます」

「ふむ、可笑しなことを──我の行いは蛮行でも凶行でもない。『覇道』よ」

 

 カカカ、とグラドスの言さえも戯言と切り捨てるズァーク。

 自分こそが正義、自分こそが絶対、自分こそが世界と言わんばかりの言動に、グラドスは存在しない眉を(ひそ)め、存在しない奥歯を強く噛み締め、存在しない血が熱く煮え滾る。

 

「今度は最初からこの娘(龍姫)のデッキを繰るでな──準備運動程度にはなってもらうぞ?」

「ならばその準備運動で貴方には敗北してもらいます……!」

「フハハ! 最近の機械人形(AI)は冗談も嗜むか! 良い、良いぞ!」

 

 またも本人(龍姫)が絶対にしないであろう、大口を開けて仰け反るほどの大笑いを披露するズァーク。

 あまりにも無礼な態度に幾つかの回路がショートするほどの憤怒を胸の内に抱え、グラドスは先ほどよりも強くズァークを睨む。

 

 ひとしきり笑い終えると、ズァークは大笑いでできた小さな涙を浮かべ、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら決闘盤を構える。

 それに対峙するように同じくグラドスも決闘盤を構え──

 

「デュエ──」

「デュエ──」

「──待って」

 

 ──制止の声が響く。

 

 今まさにデュエルが始まらんとする寸前、ヴァンガードは遮るように決闘盤が装着されたグラドスの手を下げさせた。

 水を差された、とばかりにズァークは少しだけムッと唇を尖らせ、グラドスはヴァンガードの言葉と行動にバイザーの光()を丸くする。

 

「……私が、やる……!」

「──っ、何を言っているのですか……!? その体では立っているのもやっとでしょう……!」

「関係、ない……! これは……多分、私の撒いた種。だから、私が自分の手で治める……!」

 

 半ば──否、息も絶え絶えな状態であるのに、ヴァンガードは瞳の炎を強く燃やしながら、グラドスを見据える。

 電子の世界であるのに強い想いを感じさせる──まるで、ロウソクの最後の炎のように。

 

「ぅ、ぐっ……」

 

 その強い瞳の炎に一瞬たじろぐグラドス。ズァークの戯言や圧には決して屈することはなかったが、ヴァンガードのこの強い眼差しには無意識下で後退ってしまう──それほどまでに、ヴァンガードの意志は、鋼のように固い。

 

 たじろいだグラドスの一瞬の隙を見逃さなかったヴァンガードは、すかさずグラドスとズァークの間に体をねじ込む。そして決闘盤を起動させ、ズァークと対峙せんとばかりに、その背でグラドスに語る──

 

「……わかりました。情け程度ですが、せめてこれを」

「……ん?」

 

 ──折れたグラドスは、はぁとため息を吐きながら、渋々引き下がった。

 しかしただ降りただけではなく、空間上にディスプレイを投影。コンソールを操作すると、ヴァンガードの体が淡く、優しい光に包まれる。

 

「可能な限り痛覚を遮断するプログラムを貴女に施しました。これで多少の時間は保つハズです」

「──ありがとう」

「ですが、これはリンクヴレインズでは限りなく黒に近いプログラム──時間経過と共にリンクヴレインズ内の修正プログラムが働き、最終的にはエラーとして排出されます。どうか、その前に決着を」

「……努力するよ」

 

 友人(グラドス)の尽力に心からの感謝を。彼の希望には苦笑いで答え、ヴァンガードは決闘盤(デュエルディスク)を展開。

 虚構ではあるが、今は満身創痍ではない──ほぼ万全の状態。グラドスとの強い絆を胸と手に携え、一呼吸置いてから──目を見開き、ズァークに視線を向ける。

 

「ふむ……茶番は済んだか?」

「貴方との覇王様ごっこ(おままごと)とは違うからね」

「ほう、言うではないか──小娘風情が」

「小娘風情に言われてるんだよ、覇王様」

 

 ビキ、と龍姫(ズァーク)のこめかみに血管が浮かび上がる。

 わなわなと小さく振るえ、顔を下に向けて無言のままズァークも決闘盤を展開。

 

 両者の決闘盤が対戦相手を認識し、中空にアバター名とライフポイントが投影。

 沈黙が流れる中で互いにデッキから5枚をドロー。先攻・後攻が確定し、準備が完了する。

 

 示し合わせたでもなく、一拍置いた間から──一転。

 ズァークは眉間に皺を寄せ、あからさまに怒りに満ちた──それこそ、竜の逆鱗に触れたかの如く、烈火の表情を見せる。

 対してヴァンガードは普段と同じ表情──に限りなく寄せ、内心では史上最大級の緊迫感を抱きながら、立ち向かう。

 

「デュエルッ!!」

「デュエルッ…!」

 

 決闘盤が示す先手はズァーク。初期手札5枚を一瞥し、ズァークは『ふむ』と顎下に指先を当てる。そして逡巡し──

 

「──やはりこの娘(龍姫)のデッキは良い……! 我は手札から≪聖刻龍―アセトドラゴン≫をリリースなしで召喚! こやつはレベル5だが攻撃力を1000にすることでリリースなしで召喚可能!」

 

 ズァークは不敵に微笑むと、手札の1枚に逸る気持ちを載せて決闘盤へ叩きつける。

 

「≪アセトドラゴン≫を贄として(リリースし)魔法カード≪ダウンビート≫を発動! 贄としたモンスターと同種族・同属性でレベルが1つ下のモンスターをデッキから呼び出す! 来い! ≪聖刻龍―ドラゴンヌート≫!!」

 

 場に光り輝く西洋竜が現れたかと思えば、一瞬にして光となって霧散。散り散りになった光は竜──ではなく、竜人の姿を象る。

 

「リリースされた≪アセトドラゴン≫の効果! 手札・デッキ・墓地よりドラゴン族の通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する! 来たれ≪神竜ラグナロク≫!」

「──っ、≪神竜ラグナロク≫……!?」

 

 ≪ドラゴンヌート≫ではなく、新たに呼び出された通常モンスターに警戒を露にするヴァンガード。

 前のデュエルに倣えばレベル6を出して≪聖刻龍王―アトゥムス≫へと繋げるのが龍姫の戦術だったが、あえてそのセオリーを潰しての展開。別ルートでの展開で何を出されるのかと、目を細めてズァークの行動を眺める。

 

「≪ドラゴンヌート≫を対象に速攻魔法≪ドロー・マッスル≫を発動! 場の守備力1000以下のモンスターを対象とし、このターン戦闘破壊耐性と付与し、我はデッキから1枚ドローするが──その前にカード効果の対象となったことで≪ドラゴンヌート≫の効果発動! リリースされた≪アセトドラゴン≫と同じ効果だ! デッキより≪守護竜ユスティア≫を特殊召喚!」

「チューナー……!?」

「察したようだな──我はレベル4の≪ドラゴンヌート≫にレベル2の≪ユスティア≫をチューニング! シンクロ召喚! 来い! レベル6≪ドロドロゴン≫!」

 

 透き通るような青い竜が現界し、即座にその身を緑の円へと転じる。2つの円に≪ドラゴンヌート≫が身を投じると──閃光。

 一筋の光が走り、その中から汚泥を身に纏ったような、汚泥が竜を成形しているようなドラゴン≪ドロドロゴン≫が招来した。

 

「≪ドロドロゴン≫の効果! 自身と含め自分場のモンスターで融合召喚を行う! さらに≪ドロドロゴン≫自身は融合素材として記されたモンスターの代わりにもなる! 我は≪ドロドロゴン≫と≪神竜ラグナロク≫で融合召喚! 来い! レベル7≪竜魔人キングドラグーン≫!!」

 

 中空の渦へと白竜と泥竜が融け合うように吸い込まれる。白と緑の2色が混じり合い其処から現れ(いずる)は紫紺の枠。

 頭を人の上半身とし、下半身を龍とした魔人≪竜魔人キングドラグーン≫が顕現する。

 

「我の楽しみはまだ終わらぬぞ! 永続魔法≪星遺物の守護竜≫を発動! 発動時に墓地の≪ドラゴンヌート≫を蘇らせる! さらに場のモンスター1体を対象にそのモンスターの位置を変える!」

「対象に取る効果……!」

「そうさな! つまり再び≪ドラゴンヌート≫の効果が起動する! 来い! レベル4・ペンデュラムの≪竜魔王ベクター(ペンデュラム)≫!」

 

 墓地に行ったかと思えば再び盤面へ。馬車馬のように酷使されつつも≪ドラゴンヌート≫は偽りの持ち主を睨みつつ、その力でデッキより≪ベクターP≫を喚ぶ。

 

「レベル4の≪ドラゴンヌート≫と≪ベクターP≫でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 来い! ランク4≪竜魔人クィーンドラグーン≫!」

 

 次いで場に現れるは竜女の魔人≪竜魔人クィーンドラグーン≫。彼女のやはり、といったように不機嫌そうな顔を隠そうともせず顕現。その美麗な顔でズァークを一瞥してからそっぽを向く。

 

「手札のレベル8≪ダークストーム・ドラゴン≫を捨て魔法カード≪トレード・イン≫を発動! レベル8モンスターを手札から捨て2枚ドローする! 続けて≪クィーンドラグーン≫の効果! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地のレベル5以上のドラゴンを効果を無効にして復活させる! 来い≪ダークストーム≫! そして≪ダークストーム≫を贄として魔法カード≪アドバンスドロー≫! 場のレベル8以上をリリースし2枚ドロー!!」

 

 怒涛の手札交換と蘇生、補充。傍若無人を体現するかのように龍姫のドラゴンを好き勝手に弄ぶ様はまさに覇王、とでも言えよう。

 

「これは良い引きよ──装備魔法≪ドラゴン・シールド≫を≪クィーンドラグーン≫に装備! 如何なる戦闘ダメージを与えることも受けることもないが、如何なる破壊からも身を守る!」

「面倒な……!」

「辟易するにはまだ早いぞ? ≪キングドラグーン≫の効果! 手札よりドラゴン1体を特殊召喚する! 来い──レベル8≪アモルファージ・イリテュム≫!」

「──っ、本当に面倒な……!」

 

 これで締め、とばかりに紫色の竜≪アモルファージ・イリテュム≫が降臨。

 両翼を≪キングドラグーン≫と≪クィーンドラグーン≫に挟まれ──否、守られる光景にヴァンガードは口元を歪める。

 

「最後にカードを1枚セットし、我はターンエンドだ──さぁ、貴様にこの盤面を踏破できるか?」

 

 ニチャリ、と本来の人格であれば絶対にしない下卑た笑みを浮かべるズァーク。

 融合モンスター≪キングドラグーン≫。

 エクシーズモンスター≪クィーンドラグーン≫。

 ペンデュラムモンスター≪アモルファージ・イリテュム≫。

 場には3体のモンスターが並んでいるが、その全ての効果を知っているが故にヴァンガードの表情が険しい。

 

(≪キングドラグーン≫でドラゴンをカード効果の対象にできない。≪クィーンドラグーン≫の効果で戦闘破壊耐性を付与。≪イリテュム≫の効果で私はEX(エクストラ)からの特殊召喚を禁止──この手札(・・・・)じゃなきゃサレンダーも考えちゃうねこれは)

 

 各々の効果で互いに互いを守る鉄壁の布陣。

 常であればどれか1体でも出せれば御の字のハズだが、不幸にも元の持ち主のデッキがそれを成し得てしまう。

 融合、儀式、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、リンク──全ての召喚法を内蔵し、かつそれら全てを余すことなく振るうデッキ。

 これが並行世界における最上位(トップ)の称号の一端を担う決闘者──橘田龍姫にしか扱えないドラゴンデッキだ。

 

「私のターン、ドロー」

 

 しかし、解決策は既にヴァンガードの手中にある。

 

「それじゃ──」

 

 ヴァンガードは6枚の手札から1枚のカードを抜き取り──

 

「──ドラゴン退治といこっか」

 

 ──決闘盤へ静かに差し込む。

 

「速攻魔法≪皆既日蝕の書≫を発動。相手の表側モンスターを全て裏側守備表示にする」

「──ほぅ」

 

 瞬間、ズァークの場に居た全てのドラゴンがその姿を消す。代わりに現れるのは裏側横向きになったカードと、それらを示す裏側守備モンスター共通のソリッドビジョン。

 その姿がなければ≪キングドラグーン≫のドラゴン全てに付与する対象耐性も、≪クィーンドラグーン≫の戦闘耐性も、≪アモルファージ・イリテュム≫のEX封じも意味を成さない。

 たった1枚のカードでズァークの盤面は瓦解したも同然。

 

「手札の≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を捨て魔法カード≪トレード・イン≫を発動。手札のレベル8モンスターを捨てて2枚ドロー──さらに墓地に送られた≪デスペラード≫の効果。このカードが墓地に送られた場合、デッキからコイントスを3回以上行う効果を持つモンスターを手札に。私は≪リボルバー・ドラゴン≫を手札に加える」

 

 目下の脅威が1枚のリバースカードのみとなった今、ヴァンガードはその1枚に注視しつつもデッキを回す。順当に手札交換と増強を行い、入れ替わった手札を一瞥。思考を電子回路のように働かせ、次の一手に移るために手札のカードに指をかける。

 

「私の場にモンスターが居ないため魔法カード≪シャッフル・リボーン≫発動。自分墓地のモンスターを効果を無効にして復活させる──来て≪デスペラード≫」

「ふむ……確か其奴は表になったコインの数だけ破壊する奴だったか。しかし、効果がなくては只の木偶よのぅ」

「≪デスペラード≫をリリースし魔法カード≪アドバンスドロー≫を発動。自分場のレベル8以上のモンスターをリリースして2枚ドローする──そして、墓地に送られた≪デスペラード≫の効果が再び起動。デッキから≪ブローバック・ドラゴン≫を手札に加える」

「──っ、其奴サーチ効果に制限がないのか……!?」

 

 ギリィ、と噛み締めながら≪デスペラード≫を見やるズァーク。確かにサーチ回数に制限がないのは珍しいかもしれないが、サーチ先が限定的過ぎるのだから別に構わないでしょ、と内心で毒づきながらヴァンガードは手札を補充。

 元々の手札、そして新たに加わったカードを一見し──

 

(──うん?)

 

 ──入れた覚えのないカードで頭上にクエスチョン。はて、と思い起そうとし──ふと、観戦しているグラドスへ視線を。

 当のグラドスはただ無言で二人の様子を見守っている──が、ヴァンガードの視線に気づくや否やコクリと首肯。

 

(あ、あの時に仕込んだねグラドス……!)

 

 数十分前のプログラム注入時。あの時にグラドスはこっそりとヴァンガードのデッキにカードを混入させていたのだ。

 普段であればデッキ枚数が増えて少し勝手が変わることで眉をひそめるものだが、ヴァンガードは入れられたカードを見て納得の表情を内心で浮かべる。

 

(でも、確かにこのカードはありがたいね。早く(・・)終わらせられる)

 

 グラドスの気遣いに感謝しつつ、ヴァンガードはそのカード──の隣のカードを決闘盤へ。

 

「魔法カード≪闇の誘惑≫発動。デッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性を除外。2枚ドローして≪ブローバック≫を除外。続けて手札を1枚捨て装備魔法≪D・(ディファレント・)D・(ディメンション・)(リバイバル)≫を発動。除外されている≪ブローバック≫を帰還させこのカードを装備」

 

 手慣れた動きでカードを繰るヴァンガード。あとは自身の()さえあれば、このターンで()()だ。

 

「セットされた魔法・罠カードを対象に≪ブローバック≫の効果発動。コイントスを3回行い、2回以上表なら対象のカードを破壊する」

「ふむ……続けるがいい」

 

 ≪ブローバック≫の効果起動に一瞬ズァークはピクリと反応するが、すぐに平静を装う。破壊されても良いカードか、それともこのタイミングでは使えないカードか。どちらにせよ効果の発動宣言はしてしまった。装填される弾丸を止めることはできない。

 

「コイン──トス……!」

 

 中空に3枚のコインが同時に放られる。クルクルと回転しながら上昇し、一定の高さまで昇ればあとは自由落下。チャリンチャリンとソリッドビジョンながら金属製の甲高い音が響き、全てのコインが地に落ちる。

 

「ぐっ……!」

「フハハハ! まさか全て裏とは……! 運がないのう!」

 

 その結果は凄惨。全てのコインが裏となり発射準備していた≪ブローバック≫は弾詰まり(ジャム)で困惑の表情。

 セットカードは破壊できず、現状ではモンスター1体の戦闘破壊が関の山だろうと、ズァークは次善の状況に笑いが止まらない。

 

「さぁさぁ早くバトルフェイズに移るが良い。尤も、どれを葬るかは悩むだろうがな。対象耐性の≪キング≫か? それとも戦闘耐性の≪クィーン≫か? はたまたEX封じの≪イリテュム≫か」

 

 ゲラゲラと下品に嗤うズァーク。コイントスの失敗がよほどツボにハマったのか、一見して上機嫌とわかるほど。

 しかし──

 

「──手札から魔法カード≪パワー・ボンド≫発動。機械族・融合モンスターの融合召喚を行う」

「──むっ?」

 

 ──その笑みが止まる。

 

「手札の≪リボルバー・ドラゴン≫と場の≪ブローバック・ドラゴン≫を融合! 来たれ≪ガトリング・ドラゴン≫ッ!!」

 

 リボルバーとオートマチック、2体の闇機銃竜が1つへと融け合う。

 一口しかなかった各々の砲門は一挙に無数のそれへ。鈍い鋼色の体躯を輝かせ、頭部と両腕の砲口を挨拶代わりとばかりに咆哮。キュラキュラと鳴る車輪はまるで先のズァークを逆に嘲笑うかのよう。

 紫銀の闇機銃竜≪ガトリング・ドラゴン≫がヴァンガードの眼前へ聳え立つ。

 

「≪パワー・ボンド≫の効果により≪ガトリング・ドラゴン≫の攻撃力は倍の5200となる!」

「──っ、大層な攻撃力だが、我のモンスターは全て守備表示だ。ダメージを与えることはできんぞ……!」

「ならダメージを与えられる状況にするだけ! ≪ガトリング・ドラゴン≫の効果発動! コイントスを3回行い、表の数だけ相手モンスターを破壊する!」

 

 ぎゅいーんと≪ガトリング・ドラゴン≫の弾帯が巻き取られる。同時に頭部と両腕のガトリング砲もその照準を裏側守備になっているモンスター3体へ定め、コイントスの結果次第でいつでも斉射可能。

 

「くく、先は全て裏だった貴様に当てられるか? 運にも見放された現況では其奴の効果も無意味──」

「墓地の≪銃砲撃(ガン・キャノン・ショット)≫を除外して効果発動! 2回以上コイントスを行う場合、その結果を全て表にする!」

「きさ──≪D・D・R≫の手札コストか……!」

 

 慢心。その一言に尽きるズァークは一瞬にして顔を歪める。

 天運に身を任せたのではなく、天運を掴みに行くヴァンガード。

 投じるでもなく中空に3枚のコインが放られ、それら3枚が不自然な動きで地面へ落下。当然、結果は全て表。

 

「3体のモンスター≪キングドラグーン≫、≪クィーンドラグーン≫、≪イリテュム≫を破壊っ!!」

「チィ……!」

 

 一斉掃射により裏側のカードは一瞬にして蜂の巣。バトルフェイズを行う前にズァークの壁となるモンスターは一掃され、彼を守るものは何もない。さらに──

 

「バトルフェイズ! ≪ガトリング・ドラゴン≫でダイレクトアタック!」

 

 ──襲い来るは≪パワー・ボンド≫の効果で攻撃力5200となった≪ガトリング・ドラゴン≫。守ってくれる壁のないズァークがこの一撃を受ければ即ゲームエンドとなる致命の一撃。

 ズァークは成す術もなくこの一撃を一身に──

 

「──罠発動ォ! ≪死魂融合(ネクロ・フュージョン)≫!! 我の墓地のモンスターを融合素材として除外し、融合召喚する!」

「──っ!?」

 

 ──受けるハズがない。

 

「我は墓地の≪キング≫、≪ドロドロゴン≫、≪クィーン≫、≪ベクター(ペンデュラム)≫の4体──融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムの4体のドラゴン族を融合素材とする! 四天の龍を統べ、第5の次元に君臨する究極龍よ! 今こそ我と1つとなるのだ! 出でよ! ≪覇王龍ズァーク≫!」

 

 中空に先ほどまで場に居た≪キングドラグーン≫と≪クィーンドラグーン≫。そして元より墓地に居た≪ドロドロゴン≫と≪ベクター(ペンデュラム)≫が浮遊霊のように漂う。それらが融け合いながら次元の彼方へと吸い込まれ──閃光。

 刹那の光の後、再びヴァンガードの眼前に紫色の覇王龍──≪ズァーク≫が顕現する。

 

「我が特殊召喚に成功した場合、貴様の場を殲滅する! 消え失せよッ!!」

「ぐっ──!!」

 

 まるで目覚めを告げるように、咆哮。激烈なる衝撃波を伴った雄叫びはただそれだけでヴァンガードの≪ガトリング・ドラゴン≫を一瞬にして鉄塊へと変える。

 

「ククク、残念だったなァ。せめて≪ブローバック≫の効果が成功していれば我をワンショットキルできたものを」

「……このターン、私はまだ通常召喚を行っていない。手札から≪ジェネクス・ニュートロン≫を召喚。カードを2枚セットしてエンドフェイズ。≪ニュートロン≫が召喚したターンのエンドフェイズ、デッキから機械族チューナー1体を手札に加えることができる。私はデッキから≪A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス) サイクロン・クリエイター≫を手札に」

 

 皮肉るズァークの下種な笑みには目もくれず、ヴァンガードは粛々と進行。召喚とセット、エンドフェイズでの手札補充を行い、ターンを終えようとし──

 

「……そして≪パワー・ボンド≫の効果で融合モンスターの元々の攻撃力分──2600のダメージを受ける……!!」

「カカカ! 自ら勝手にライフを減らすとは滑稽なり!」

 

 ──ダメージを受ける。

 

 一気に2600ものダメージを受け、ヴァンガードの残りライフポイントは1400。

 手札はサーチした≪サイクロン・クリエイター≫1枚。

 場には≪ジェネクス・ニュートロン≫と2枚のセットカードのみ。

 

 対してズァークの場には≪覇王龍ズァーク≫が聳え立つだけ。

 幸いなことにズァークの手札も0枚だが、ライフポイントは無傷の4000。

 

 相対するモンスターがそこまででなければまだどうにでもなる状況。しかし──

 

「我のターン、ドロー」

「ドローフェイズに罠カード≪威嚇する咆哮≫を発動ッ! このターン貴方は攻撃宣言できない!」

「姑息な手を……」

 

 ──相手は攻守4000で対象・効果破壊耐性のある覇王(バケモノ)。一手でも誤れば1400のライフ(DDB射出ライン)はすぐに消し飛ぶ。なればこそ、ズァークの手札が1枚しかない今、ヴァンガードは次ターンに備えて動く。

 

「さらに≪ニュートロン≫をリリースし、罠カード≪魂の転身≫を発動! 召喚したレベル4モンスターをリリースして2枚ドロー!」

「張り切りよる……!」

 

 これでヴァンガードの場にカードはなくなった。しかし、このターンは≪威嚇する咆哮≫で攻撃宣言自体を封じており、一切の戦闘ダメージを負うことはない。そればかりかドローカードで手札を増強、次の通常ドローも合わせれば手札は4枚となる。4枚の手札があれば、まだ活路は見出せる──ヴァンガードはドローカードを一瞥してからズァークの方へ視線を向ける。

 

「ふむ……我はカードを伏せてエンドとしよう」

「……私のターン」

 

 そのヴァンガードの視線に気づいたズァークは、カードをなぞっ(書き換え)て決闘盤へセット。

 ニチャリと下卑た笑みを浮かべるズァークに侮蔑の眼差しを向けつつ、ヴァンガードは静かにドロー。

 4枚ある手札に一通り目を通し──

 

「手札から≪深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト≫をリリースなしで召喚! このカードは自身の攻撃力を0にすることでリリースなしで召喚できる! さらに手札の≪弾丸特急バレット・ライナー≫の効果発動! 自分場のモンスターが機械族・地属性のみの場合、このカードを手札から特殊召喚する!」

 

 ──覇王(ズァーク)を倒すための行動へ移る。

 

「レベル10が2体……」

「私は≪エクスプレス・ナイト≫と≪バレット・ライナー≫でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク10! ≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫!!」

 

 2体の大型列車がターンテーブルに乗るようにエクシーズの渦へ。2つの光が重なり、より輝きを増した巨大な光がフィールドを照らす。

 ヴァンガードの後方から列車特有の地響きを轟かせながらフィールドへ向けて走り──

 

「──罠発動」

「なっ──!?」

 

 ──脱線。

 ≪グスタフ・マックス≫は線路から大きく外れて横転する。そのまま外壁に車両全体が横当たりし全損。ボディや内部の機械、車輪といった数々の部品が乱雑に散らばる。

 

「カウンター罠≪昇天の黒角笛(ブラックホーン)≫。貴様のモンスター1体の特殊召喚を無効に、破壊する」

「な、んでそんなカードを……!」

「何で? 貴様も様々な召喚法を繰るであろう? ならばその中で大半に有効なカードに書き換え──入れるのは当然ではないか」

「くっ……!」

 

 さも当然とでも言うように傲慢な笑みを見せるズァーク。

 一方のヴァンガードはまたも必殺の一撃を断たれたことに焦燥を感じ始める。

 デュエル前にグラドスから痛覚遮断のプログラムを施されたと言えど、リンクヴレインズ内の修正プログラムで解除されるのも時間の問題。現に段々とヒリつくような痛みが端々から始まり、長時間のデュエルは危険だと脳と体が訴え始める。

 

「──っ、魔法カード≪一時休戦≫発動……! お互いに1枚ドローし、次の相手ターンまでお互いに受けるダメージは0になる……!」

「足掻きよる……まぁ精々我を楽しませるが良い」

 

 互いにドローカードを一瞥。表情を変えるでもないが、ヴァンガードは走り始めた痛みと芳しくないドローカードに奥歯を噛み締め、痛みを隠すようにズァークを睨みつける。

 

「エンドフェイズに≪バレット・ライナー≫の効果発動。このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズ、自分墓地の≪バレット・ライナー≫以外の機械族を手札に加える。私は墓地の≪エクスプレス・ナイト≫を手札に」

「我のターン、ドロー。カードを2枚セットしてターンエンドだ」

「私の、ターン」

 

 ヴァンガードの自分ターンを終えると、ズァークはただカードを伏せてターンを渡す。ダメージを与えられない以上、無駄な行動をしなかったか、はたまたこのデュエルに飽いてきたか。どちらにせよ、ズァークは当初よりかは落ち着いた──否、ヴァンガードを道端の小石に向けるような眼差しを向けている。

 場には絶対的な攻撃力と何人にも干渉されない耐性を誇る≪覇王龍ズァーク≫が居るのだ。その他を些事と軽んじても無理はない──が。

 

「レベル10の≪エクスプレス・ナイト≫をコストに魔法カード≪十種神鏡陣(トクサノシンキョウジン)≫を発動。手札・場から合計レベルが10になるようモンスターを墓地に送り、2枚ドロー──手札の≪ジェット・シンクロン≫を墓地に送り、魔法カード≪ワン・フォー・ワン≫を発動! 手札のモンスターを墓地に送り、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! 来て≪ダークシー・レスキュー≫!」

 

 その道端の小石にズァークを躓かせんとばかりにヴァンガードのデッキのギアが上がる。

 

「墓地の≪ジェット・シンクロン≫の効果! 手札を1枚捨て、自身を墓地から特殊召喚! さらに攻撃力0の≪ダークシー・レスキュー≫を対象に魔法カード≪機械複製術≫を発動! 場の攻撃力500以下の機械族と同名カードを2体までデッキから特殊召喚する! 2体の≪ダークシー・レスキュー≫をデッキから特殊召喚!」

「ふむ、弱小なれどレベル1モンスターが4体か……」

 

 つまらなそうに、欠伸を噛み殺した表情で盤面を見るズァーク。レベル1が4体ならば精々がランク1が2体。チューナー混じりなのでレベル4シンクロも居るかと、予想を立てるが、いずれにせよその程度なら≪覇王龍ズァーク()≫の相手にはならないと、慢心しきった態度を隠そうともしない。

 

「レベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル1の≪ジェット・シンクロン≫をチューニング! 来たれレベル2≪フォーミュラ・シンクロン≫! (シンクロ)素材となった≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドローし、シンクロ召喚した時≪フォーミュラ・シンクロン≫の効果で1枚ドロー!」

「今回は邪魔はせんでおいてやろう。好きなだけ展開するが良い」

 

 ピクリ、とズァークの言にヴァンガードの肩が僅かに動く。目を細く鋭くした上で、ほんの少しだけ口角が上がる。

 さながら『二言はないね?』とでも言いたげな、不敵なそれ。

 

「レベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル2の≪フォーミュラ・シンクロン≫をチューニング! 来たれレベル3≪武力の軍奏(ぶりきのぐんそう)≫! (シンクロ)素材となった≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドローし、シンクロ召喚した時≪武力の軍奏≫の効果で墓地から≪フォーミュラ・シンクロン≫を効果を無効にして復活させる!」

 

 1度回転数を上げたギアは止まらない。≪ダークシー・レスキュー≫3体と≪ジェット・シンクロン≫を並べた時点で0枚だった手札は3枚にまで増え、ヴァンガードの場のモンスターは着実に成長して(レベルを上げて)いく。

 

「レベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル3の≪武力の軍奏≫をチューニング! 来たれレベル4≪水晶機巧(クリストロン)-クオンダム≫! (シンクロ)素材となった≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー!」

 

 手札を4枚まで増やし、場にはシンクロ・チューナーが2体──これで打ち止めだろう、とズァークは相も変わらず気だるげな眼差しのまま──

 

「装備魔法≪継承の印≫を発動! 墓地に同名モンスターが3体存在する場合、1体にこのカードを装備して特殊召喚し──このタイミングで速攻魔法≪地獄の暴走召喚≫を発動! 特殊召喚した攻撃力1500以下のモンスターと同名カードを手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する! 墓地から2体の≪ダークシー・レスキュー≫を特殊召喚!」

「むっ──!」

 

 ──だったが、僅かに眉が動く。

 4枚あったヴァンガードの手札は2枚に減ったが、再び場には≪ダークシー・レスキュー≫が3体並ぶ。

 また本来であれば≪地獄の暴走召喚≫の恩恵でズァークも同名モンスターを出すことができるが、EX(エクストラ)デッキから出された≪覇王龍ズァーク≫はこの恩恵を賜れない。自ずとヴァンガードだけが暴走した歯車の如く展開を加速させていく。

 

「レベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル4の≪クオンダム≫をチューニング! 来たれレベル5≪アクセル・シンクロン≫! (シンクロ)素材となった≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー! さらにレベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル2の≪フォーミュラ・シンクロン≫をチューニング! 来たれレベル3≪HSR(ハイスピードロイド)コルク10(じゅう)≫! (シンクロ)素材となった≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー!」

 

 2枚に減った手札が再び≪ダークシー・レスキュー≫のドロー効果で増えていく。レベル1しか並んでいなかったハズのヴァンガードの場にはいつの間にかレベル5とレベル3、レベル1まで並ぶほどになっており、合計レベルは9──一体、どこまで伸ばす気だとズァークの目が細くなる。

 

「レベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル3の≪コルク10≫をチューニング! 来たれレベル4≪アームズ・エイド≫! (シンクロ)素材となった≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー!」

 

 足されていくシンクロ、それに伴うドローでいつの間にか手札は5枚。4枚からスタートした手札が≪ダークシー・レスキュー≫6回と≪フォーミュラ・シンクロン≫で7枚ものドローをしてここまで伸ばすかと、ズァークは内心で少しだけ感嘆の念を覚える。

 

「──レベル4≪アームズ・エイド≫にレベル5≪アクセル・シンクロン≫をチューニング! 来たれ! レベル9──」

 

 このターン中、幾度と現れる緑輪と白星が最後の輝きを放つ。5つの緑輪は金色に輝き、白星も同じように黄金へと色が変わる。金色の輪と星が一条の光へと変わり、眩いばかりの金色の光柱がヴァンガードの場に(そび)え立つ。

 光の中から見える色は3つ。

 1つは青。長大かつ巨大な右腕。

 1つは緑。鋭利かつ刺々しい左腕。

 1つは金──と見間違うほどの黄色。

 巨大な体躯は竜を模し、その両腕には竜には似つかわしくない重厚な機械──否。

 

「──≪パワー・ツール・ブレイバー・ドラゴン≫ッ!!」

 

 力と勇気の名を冠した機械竜が招来する。

 

「何だこやつは……!?」

 

 今までヴァンガードの内より幾度かデュエルを見てきたズァークだが、完全初見となる≪パワー・ツール・ブレイバー≫の出現に目を見開く。

 ドラゴンのようであり機械と、今までに≪クラッキング・ドラゴン≫や≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を目にしたことはあっても、このモンスターの現出は想定外。

 一体何者なのか、というズァークの問いに対し──

 

「≪パワー・ツール・ブレイバー≫の効果! (シンクロ)召喚時、デッキから装備魔法3種類を自身に装備させる! ≪巨大化≫、≪魔導師の力≫、≪重力砲(グラヴィティ・ブラスター)≫の3種類を装備!」

「なっ──」

 

 ──カード効果の説明で答える。

 ≪巨大化≫により≪パワー・ツール・ブレイバー≫の攻撃力は5000に上昇。

 ≪魔導師の力≫によりさらに魔法・罠ゾーンの数×500攻撃力が上昇。

 そして≪重力砲≫により攻撃力をさらに400上昇させ、戦闘相手をバトルフェイズの間だけ無効にする。

 

 まさに起死回生の一手を担うモンスターだ。

 

「≪重力砲≫の効果で攻撃力を400アップ、リバースカードを2枚セットし──バトルフェイズ! 攻撃力7900となった≪パワー・ツール・ブレイバー≫で≪覇王龍ズァーク≫に攻撃ッ!!」

 

 カード効果の対象にならず。

 カード効果で破壊されない。

 攻撃力4000を誇る超大型モンスター──≪覇王龍ズァーク≫。

 その攻撃力に胡坐をかいていた故か“純粋”な力勝負を挑まれることはほとんどなかった。

 それ故にその対策を“自前”で用意する術をしてこなかったのだ。

 ただの力に下される現実にズァークは射殺すに≪パワー・ツール・ブレイバー≫を睨み、歯が砕けんばかりに歯軋り。

 

「──撃って」

 

 しかし現実は非情。攻撃命令を下された≪パワー・ツール・ブレイバー≫の≪重力砲≫から黒紫色に鈍く光るレーザーが真っ直ぐに≪ズァーク≫へと放たれる。

 直撃したレーザーは直後に大爆発を起こし轟音が響く。

 

 ≪覇王龍ズァーク≫を倒すには十分だが、ズァーク自身を倒しきるには少しばかり足りない──だが≪覇王龍ズァーク≫さえ倒せれば勝ったも同然。

 激しく土煙が舞うが、これが晴れればズァークのモンスターは空。あとは残りライフポイント100だけのズァークを倒せば──

 

「なっ……!?」

「≪ズァーク≫が……倒れていない……!?」

 

 ──と、ヴァンガードが思っていたところに非情な現実が突き付けられる。

 今まで静観していたグラドスも思わず声を荒げてしまうほど。

 まだ──≪覇王龍ズァーク≫はそこに居るのだ。

 

「──驚いたぞ小娘。よもや小手先小細工ではなく、純粋な力のみで我を超えたことは褒めて遣わす──だが」

 

 土煙が晴れていく中、ズァークは伏せられていた2枚のカードの内の1枚を露に。

 そのカードは永続罠──

 

「≪ディメンション・ガーディアン≫。こやつ(龍姫)が元より入れていたカードに助けられたわ……つくづく我は強運よ」

「──っ、悪運が強い……!」

 

 ──≪ディメンション・ガーディアン≫。

 自分モンスターをあらゆる破壊から“守るだけ”のカード。

 本来であれば龍姫の≪竜姫神サフィラ(エースカード)≫を守り、中~長期のデュエルで堅実にアドバンテージを稼ぐために入れられたカードだが、それが≪ズァーク≫を守る一助と化してしまった。

 

 仕方ない、と言い切るにはあまりにもな結果だが、これ以上ヴァンガードには手立てはない。

 軋むアバターに痛みに耐えながら、セットしてあるカードと手札に次ターンの望みを賭ける。

 

「……ターン、エン──」

「罠発動≪覇王の逆鱗≫」

 

 しかし、その望みを断とうとするようにズァークが動く。

 ズァーク──≪覇王龍ズァーク≫に従うように4体の竜が推参。

 ≪覇王眷竜オッドアイズ≫、≪覇王眷竜ダーク・リベリオン≫、≪覇王眷竜クリアウィング≫、≪覇王眷竜スターヴ・ヴェノム≫──覇王の下に堕ちた四天の龍がその姿を現す。

 

「小娘──」

 

 4体の竜が顕現したことを見届け、ズァークは僅かに俯いていた顔を上げる──

 

「──覇王たる我を下にしたこと。覇王たる我の生命(ライフポイント)を脅かしたばかりか、致命の寸前に至らしめたこと。そして覇王たる我に守勢のカードを使わせたこと──」

 

 ──憤怒の色に染まった顔を。

 

「──万死に値する……ッ!! 貴様は文字通り我の逆鱗に触れたッ!! 生半可な負け方ができると思うなァ!!」 

 

 眉間には深くシワが刻まれ、目は完全な敵意の籠ったそれ。

 竜の瞳孔が細まるのと同じように、三白眼に似た殺意の塊のような眼差しをヴァンガードに向ける。

 

「我の、ターン! 我は≪スターヴ・ヴェノム≫の効果発動! 自分・相手の場・墓地のモンスターの効果を得る!」

「──っ、≪パワー・ツール・ブレイバー≫の効果発動! 1ターンに1度、自分・相手メインフェイズに自分場の装備魔法を墓地に送り、相手モンスター1体の効果を無効にするか表示形式を変更する! ≪巨大化≫を墓地に送り≪クリアウィング≫の効果を無効!」

「小賢しいッ!! ≪スターヴ・ヴェノム≫よ! ≪デスペラード≫の効果を得よ!」

 

 ≪巨大化≫のメリット・デメリットで攻撃力が変化していた≪パワー・ツール・ブレイバー≫がその力を行使。

 同じシンクロモンスターである≪クリアウィング≫の力を削ぎ、自身は攻撃力を≪魔導師の力≫と≪重力砲≫の効果で4900とする。

 

「バトルフェイズ! ≪スターヴ・ヴェノム≫よ! ≪デスペラード≫の効果で彼奴の紛い竜を滅ぼせ!!」

「ぐっ……!」

 

 中空へ乱暴にソリッドビジョンのコインが3枚放られる。3枚の内2枚が表となり、追加のドロー効果こそなかったものの≪パワー・ツール・ブレイバー≫は呆気なく爆散。

 

「これで貴様のフィールドは空だ! 我の一撃で沈むが──」

「罠発動≪攻撃の無敵化≫……! このターン、私が受ける戦闘ダメージは全て0になる……!」

「──お、のれぇ……!!」

 

 トドメの一撃──の寸前でヴァンガードの場に残された2枚の内の1枚が表に。

 ≪パワー・ツール・ブレイバー≫を守るか自身のライフポイントを守るか直前まで悩んでいたが、ズァークの1枚の手札が単体強化・弱体化のカードである可能性を捨てきれず、なし崩し的に≪パワー・ツール・ブレイバー≫を犠牲に自身を守る選択肢を選んだ。

 結果的には生き延びた──が、このターンでもダメージを与えられなかったズァークの怒りのボルテージは高まるばかり。

 前のターンは≪一時休戦≫、その前のターンは≪威嚇する咆哮≫──ヴァンガードの減ったライフポイントは≪パワー・ボンド≫の自傷ダメージのみ。

 

「速攻魔法≪グリード・グラード≫発動! 相手シンクロモンスターを破壊したターン、我は2枚ドローする! 2枚ドローし──さらに≪グリード・グラード≫! 2枚ドロー! 3枚目ぇ! ≪グリード・グラード≫!! さらに2枚ドロー!!」

「ふざけたドローを……!!」

 

 盤面は勝っていると言えど1ダメージも与えられずに、ライフポイントも上に立たれている。この状況に怒りをぶつけるようにズァークはドローカードを発動し──2枚の内の1枚を書き換え──さらに1枚を書き換える。覇王の欲望は留まることを知らないとばかりに、一気に1枚だった手札を4枚にまで増やす。

 あからさまな反則行為にヴァンガードは節々に走る痛みに耐えながら目を細める。

 

「魔法カード≪スタンピング・クラッシュ≫! 我の場にドラゴンが居る時、相手魔法・罠カードを破壊し500ダメージを与える! その最後のリバースカードを滅してくれる!」

「リバースカード≪砂塵の大竜巻≫発動! 相手の魔法・罠カードを破壊する! ≪ディメンション・ガーディアン≫を破壊!」

「おの、れぇ……!」

「さらに手札から魔法・罠カードを1枚セットできる!」

「だがダメージは受けてもらうぞ!!」

 

 ダメージを負いつつもズァークの行動をいなし、次ターンへと備えるヴァンガード。

 ライフポイントは900と1000を切ったが、まだ戦えるし手札のカードのコスト(・・・)も払える。

 

「えぇい……! 次の──次のターンで叩き潰してやろうぞ……! 我はリバースカードを3枚セットし、ターンエンドだ!!」

 

 怒り任せに残った3枚の手札を決闘盤に叩きつけるズァーク。

 何度も何ターンもダメージを与えられない怒りを表しているかのよう。そしてそれはズァークのフィールドにも現れている。

 ≪覇王龍ズァーク≫、≪覇王眷竜オッドアイズ≫、≪覇王眷竜ダーク・リベリオン≫、≪覇王眷竜クリアウィング≫、≪覇王眷竜スターヴ・ヴェノム≫──覇王とその眷属たる5体のドラゴン。

 用済みの≪星遺物の守護竜≫、3枚のリバースカード。

 手札こそ0枚、ライフポイントも僅か100という状況だが、フィールドだけは圧倒的な物量と質量。

 

 並の決闘者であればこの状況を見ただけで裸足で逃げ出してしまうだろう──並の決闘者であれば。

 

「私のターン、ドロー」

 

 ヴァンガードは並──凡庸とは言い難い。

 

「800ポイントのライフを支払い、装備魔法≪再融合≫を発動。墓地の融合モンスター≪ガトリング・ドラゴン≫を復活させ、このカードを装備する」

 

 運命の悪戯か、はたまた本人の天運か。定められた物語のレールは幾度も粉砕してきた。

 

「≪ガトリング・ドラゴン≫の効果発動。コイントスを3回行い──」

「カウンター罠≪龍皇の波動≫発動! 相手場で発動した効果モンスターの効果を無効にし、破壊する!」

 

 これまでも。

 

「手札を1枚捨て、速攻魔法≪ツイン・ツイスター≫発動。残ったリバースカード2枚を破壊」

「えぇい……! リバースカードダブルオープン! 速攻魔法≪コンセントレイト≫! 通常罠≪仁王立ち≫! ≪仁王立ち≫の効果で我の守備力を倍にし、≪コンセントレイト≫で倍化した守備力を攻撃力に加算する! よって≪覇王龍ズァーク()≫の攻撃力は──12000だッ!! さらに墓地の≪仁王立ち≫を除外し、このターン貴様は≪覇王龍ズァーク()≫にしか攻撃できないッ!!」

 

 これからも。

 

「罠発動──」

 

 ≪再融合≫、≪ツイン・ツイスター≫でヴァンガードは自身のライフポイントを100まで削り、3枚あった手札も全て使い切った。

 同時に懸念点であったズァークのリバースカード3枚も全て露にし、場には5体のドラゴンと攻撃力12000となった≪覇王龍ズァーク≫。さらにはその攻撃力12000(バケモノ)にしか攻撃を許されない状況。

 

 ヴァンガードに残されているのは前のターンに≪砂塵の大竜巻≫でセットしたカード1枚のみ。

 だが──

 

「──≪蘇りし天空神≫」

 

 ──その1枚が趨勢を変える。

 

「なっ──そのカード、は……!?」

「自分墓地の≪オシリスの天空竜≫を蘇らせ、神の恩恵によりお互いに手札が6枚になるようドローする──時を超え、次元を超えなお語り継がれる神よ! 我は失われし王の名の威光を以て幻神をこの地に招く――今こそ招来せよ! オシリスの天空竜!」

 

 ズァークが龍姫の身体を乗っ取ってから暗雲が立ち込めていたリンクヴレインズ。その暗雲を切り裂くように轟雷が神罰の如く降り注ぐ。

 断たれた雲間から見えるは巨大かつ長大な『赤』。

 ズァークの巨躯をも遥かに超える絶対的な存在──『神』。

 かつて伝説の決闘王が愛用したとされる三幻神が1体──≪オシリスの天空竜≫。

 暗雲を身に纏った赤雷で切り裂き、降り注ぐ光明と共に降臨する様は『神』の名に嘘偽りない。

 

「こ、この状況で『神』だと……!? だ、だが今の≪覇王龍ズァーク()≫は『神』をも超える攻撃力12000()がある! いくら『神』と言えど『覇王』たる我に勝てる道理は──」

「速攻魔法≪超電導波サンダーフォース≫発動ッ! 相手の表側モンスターを全て破壊し、破壊し墓地に送った数だけドローする!!」

「ぐっ──ぎっ……!!」

 

 神雷。≪オシリス≫の巨大な顎が開かれ、天災と見間違うばかりの雷がズァークの場に降る。

 ≪ズァーク≫こそ耐性で抗うように耐えるが、従属する4体の【覇王眷竜】が『神』の一撃に耐えられるハズがない。

 ≪覇王眷竜オッドアイズ≫は彼方に葬られ、それ以外の3体は地に斃れる。

 斃れた躯を貪る──否、労わるように≪オシリス≫はその身の糧とし、その糧はヴァンガードの手札と化す。

 

 合計8枚の手札──攻撃力8000となった≪オシリス≫は、未だ慢心している≪覇王龍ズァーク≫へその鋭い眼光を向ける。

 

「く、くくく残念だったな小娘……! 我の眷属を葬ったところで『神』は我に及ばぬ!! 我は『神』を超えているのだ!!」

 

 手札はある。

 魔法・罠カードは使い果たした。

 【覇王眷竜】は居ない。

 だが、それでも『神』をも超える“力”の≪覇王龍ズァーク≫は健在。

 『神』を超えた──そう豪語するズァークの姿は酷く傲慢で──

 

「──それはどうかな」

 

 ──滑稽だ。

 

「私も、このカードを使う──速攻魔法≪コンセントレイト≫! 自身の守備力分、攻撃力を上げる!」

「なっ──ぁ……」

「手札を1枚使用したことで私の手札は7枚。よって≪オシリス≫の攻撃力・守備力(・・・)は共に7000。つまり≪オシリス≫の攻撃力は7000アップし──14000」

 

 『神』──≪オシリス≫の体を纏う雷が赤く変色する。

 自身の体色と同じ赤い雷。その力は『神』の威光をさらに輝かせ、その神々しさは威圧感すらも超越。

 在るのは──畏怖。

 

 覇王と言えど『王』。人の世の限界とも言える器が、世界の器たる『神』に勝る道理は存在し得ない。

 

「──バトルッ!!」

「あっ、あぁ……!」

 

 無意識の内にズァークは後退る。

 眼前には赤く輝く轟雷を纏いし天空の神。

 

(何故だ……! 何故こんなことに!?)

 

 ガチガチと恐怖心で震える歯が鳴る。

 自分は何も悪いことはしていない。

 世界が我を閉じ込め、光が届かぬ闇に追いやったのではないか。

 

 それを世界の歪みを活用して異界から依代を呼び出し、その身をもらっただけ。

 闇より深い深淵から脱する欲望(希望)を抱いて何が悪い。

 狭間から見る決闘に憧れる欲望(希望)を抱いて何が悪い。

 自由になれることを夢見る欲望(希望)を抱いて何が悪い。

 

「≪オシリス≫の攻撃!! 超電導波サンダーフォースッ!!」

「あっ、がっ──あぁあああああぁぁぁっ!!」

 

 赤く巨大な轟雷が≪覇王龍ズァーク≫へと放たれる。

 その一撃は背後に居るズァークにまで貫通し、見る見るうちにその身が赤雷で焼き焦がれていく。

 数秒か数十秒か。天罰、神罰に等しい神の裁きを受けた≪覇王龍ズァーク≫は塵一つ残さずにリンクヴレインズからその姿が消える。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 残っているのはズァーク──ではなく、その依代にされた龍姫。神の一撃を受けたのはズァークと言えど、体は彼女のまま。

 全身の端々が雷で焼かれつつも、膝をつくことはなく、顔は呆然(・・)と『天』を見上げている。

 

「……ぅ」

 

 そんな彼女の元へ駆け寄ろうと、ヴァンガードは足を動かそうとし──止まる。

 

(マズい……消耗し過ぎた……)

 

 《覇王龍ズァーク》の一撃。

 ダメージが残ったまま無理と意地を通しての連戦。

 自傷ダメージや『神』を使用したことでの精神力の摩耗。

 挙げればキリがない様々な要因が、デュエル終了と同時にヴァンガードの体にドッと押し寄せる。

 

(せめて、無事だけは確認……しないと……)

 

 重く激痛の走る体を押してフラフラと歩を進めるヴァンガード。

 だがやはり体が言うことを聞かない。足がもつれ、そのまま地面へと倒れ込みそうになり──

 

「──運びます」

「……ありがとう……」

 

 ──グラドスが支える。

 肩を貸してもらい、ヴァンガードとグラドスの2人は未だ呆然と立ち尽くす龍姫の方へと歩を進めていく。

 未だ地に倒れないのは体が頑強なのか、それとも精神力が異常なのか──それともズァークの意識が残っているのか。

 

 2人はゴクリ、と唾を飲み込んでから龍姫の顔を見て──

 

「……ヴァンガード、これは……?」

「えぇ……」

 

 ──困惑。

 意識がなさそうと言えどズァークの邪悪な雰囲気は感じられない。

 

 だが、龍姫の表情がおかしい。

 

「何故この方は恍惚とした表情なのでしょうか?」

「私が聞きたいよ」

 

 まるで好物を目にしたような──想い人のあられもない姿を見て昂ったような。そんな、ある意味で幸福そうな表情の龍姫を見て、ヴァンガードはガクリと肩を落とす。

 

「何かもう……疲れた」

 

 緊張の糸が解れたか。

 はたまた毒気を抜かれたか。

 もしくはドン引きして落ち着いたか。

 

 ヴァンガードは安心しきったと同時に、その意識は眠るように落ちていった──





後編へ続く
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