どうも、ハノイの騎士(バイト)です。【外伝 Dragon's Desire】   作:紅緋

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後編です。
正直一番遊びました。


どうも、ハノイの騎士(バイト)です。【外伝 Dragon's Desire】(後編)

 

「──知ってる天井だ」

 

 パチリ、と目を覚ますヴァンガード。先ず目に入ったのは、先ほどまでグラドスと雑談していた個室の天井。幸いにも見知った場所で覚醒したことに内心で胸を撫で下ろし、続けて自分の体の感覚を確かめる。

 あれだけの激闘を繰り広げたにも関わらず不思議と体を動かすことに不便はない。それどころか普通に運動もできるぐらい回復している。

 思ったよりも疲労が少なかったか、それとも疲労が取れるまで長時間回復に費やしていたか──どちらにせよ、あの激戦後とは思えないほどに体が軽い。

 多少の違和感を覚えつつも、近くにグラドスか≪クラッキング・ドラゴン≫が居るだろう、とヴァンガードはゆっくりと上体を起こそうとし──

 

「──うん?」

 

 ──傍らに見覚えのない、見知った(・・・・)人物──ではなく、竜人が居たことに気付く。

 

「──っ!」

 

 竜人だけでは語弊があった。竜侍女──【ドラゴンメイド】が居た。

 全身を桃色の侍女服に身を包んだメイド──≪ドラゴンメイド・ナサリー≫はヴァンガードの意識が覚醒していることに気付くや否や、パタパタと小走りでどこかへ駆ける。

 

「──うん?」

 

 頭上にクエスチョンを3つ浮かべるヴァンガード。

 1つ。何でリンクヴレインズ内でご丁寧にベッドに寝かされていたのか。

 1つ。何でグラドスも≪クラッキング・ドラゴン≫も居ないのか。

 1つ。あの≪ナサリー≫ is 何?

 

 訳が分からない、と頭を抱えようとした時──

 

『ご主人ー!』

「イダっ!!」

 

 ──≪ナサリー≫が消えた扉の向こうから、超高速で飛来する物体──ミニマム化した≪クラッキング・ドラゴン≫がヴァンガードの腹部へダイレクトアタック。

 ミニマム化していると言えど≪クラッキング・ドラゴン≫は機械族。そして男子が見たら100人中90人は『トゲトゲかっけー!』と言うようなビジュアル。

 つまり──

 

『ご主人大丈夫! 痛くない!?』

「現在進行形で痛いかなァ!!」

 

 ──接触されると普通に痛い。

 グリグリザクザクと小っちゃい体いっぱいに甘えてくる≪クラッキング・ドラゴン≫は愛らしい──が、痛いものは痛い。

 どうどう、とじゃれてくるゴールデンレトリバーを抑えるように落ち着かせ、ふぅと一息。

 

「起きましたかヴァンガード」

「≪クラッキング・ドラゴン≫の突撃羨まし──元気そうで何より」

「あぁ、うん無事に起き──何て? あと後ろ」

 

 一息入れた直後に扉からグラドスと龍姫(たつき)とその背後からぞろぞろとメイド──【ドラゴンメイド】が勢揃い。

 【ドラゴンメイド】のアバターの人が来たの? と思いかけるも、僅かに違和感。

 アバターにしてはやたらと精巧──かつ、体格差まで完璧に再現。まるで本物と見間違うかのような──

 

「看病ありがとう≪ナサリー≫。みんなも手伝ってくれてありがとう」

「──」

「フンスフンスフルス」

 

 ──本物だった。

 所有者(龍姫)と同じ断崖を誇らしく張りながらドヤ顔する≪ラドリー≫を横目で見つつ、ヴァンガードは小首を傾げる。

 

「えっと……どういう状況?」

彼女(龍姫)が救護向けのモンスターを実体化させて貴方を治療しました」

「何それリンクヴレインズの新機能?」

「……こっちの人はカードの実体化できないの?」

「逆にそっちの人はカードの実体化できるんだ」

 

 ジェネレーションギャップならぬワールドギャップ。『えぇー……』とお互いに若干引き気味。

 しかしそこは(少しだけ)大人の龍姫がコホンと咳払いして仕切り直し。

 キリっと真面目な表情になり、意外とイケメンみある顔を真っ直ぐヴァンガードへ向ける。

 

「本題に入る──ヴァンガード、ありがとう」

「……うん?」

「ドラゴンに体を乗っ取られる素敵体験──じゃなかった。危うく心身共に竜になって昇天──でもなくて」

「うぅん?」

 

 『この人まだ欲望が抜け切れていないんじゃ』とヴァンガードが訝し気な視線を向けると、背後に控えていた≪ハスキー≫が攻撃力3000を誇る握力で龍姫の尻をギリィと抓る。

 ピャー、と小さく情けない悲鳴を上げ、涙目になりながら改めて咳払いで仕切り直し(したつもりに)する龍姫。

 

「──貴方のお陰で自我を取り戻せた。ありがとう」

「いや、アレはこっちにも責任があったし……ごめんなさい」

 

 確かにヴァンガードはズァークを(龍姫諸共)倒して力技で助け出した。

 しかし、元を辿ればズァークが強引に龍姫をこちらの世界に呼び出したことが原因であり、龍姫は被害者側だ。

 それを面と向かって感謝されることは筋違いであると思っており、ヴァンガードは困ったように顔を俯かせ──

 

「じゃあお詫びにデュエルしてくれれば良い」

 

 ──すっ転んだ。

 

「で、デュエル脳……」

「最初は邪魔(ズァーク)が入った。次はほとんどアレ(ズァーク)がデュエルしていた。だから今度はちゃんと()とデュエルして欲しい」

「そう来るかぁー」

「ヴァンガード。彼女の治療のお陰で回復したのですから改めてデュエルしても良いのでは?」

「外堀も埋められたかー」

 

 AI(グラドス)が人的感情を持ったことを喜べばいいのか、はたまた情に絆されてしまったことを悔やむべきか。

 ヴァンガードが『うーん』と悩んでいると、手元の≪クラッキング・ドラゴン≫がもぞもぞと地中から這い出るモグラのようにピョコンと顔を出す。

 

『ご主人ー! ボクも不完全燃焼だからやろうよー!』

「≪クラッキング・ドラゴン≫がやる気になってるなら──って、そういえば最初は出てこなかったけど、どうして?」

『あのヒトちょっと怖かった』

「失礼な。私はドラゴンとそれに類するモノを愛でたいだけ。貴方の相棒“は”奪ったりしない」

「どこの世界でもドラゴン使いは偏ってるなぁ」

 

 『偏屈なドラゴン使いはテコでも動かないからなぁ』と、身に覚えがあり過ぎるヴァンガードはゆっくりと腰を上げる。

 半ば諦めたように──そして、今度は心底楽しそうな笑みを浮かべながら決闘盤(デュエルディスク)を構えた。

 

「じゃあ今度は正真正銘、邪魔の入らない真っ当なデュエルをしよっか」

「ありがとう」

 

 ヴァンガードの笑みに龍姫も微笑み返す。指をパチンと鳴らし、背後に控えていた【ドラゴンメイド】達がカードへ変化し龍姫のデッキに収まる。

 そして収められたデッキホルダーからデッキを抜き取り──懐から1枚のカードを入れ替え──決闘盤にデッキをセット。

 

 邪推も打算も思惑も、しがらみが一切ない、ただの純粋な決闘(デュエル)

 対峙した決闘者(デュエリスト)の間に余計な言葉は不要。

 2人は互いに決闘盤を構え、不敵──とは縁遠い。単純にこれからの決闘(デュエル)に期待を込めた笑みを浮かべ──

 

「デュエルッ!!」

「デュエル」

 

 ──始まりの声を重ねた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「私の先攻。手札の≪粛声の竜賢姫サフィラ≫自身を捨て効果発動。デッキから儀式魔法を墓地に送り、戦士族かドラゴン族の光属性・儀式モンスター1体をデッキから手札に加える。私は儀式魔法≪高等儀式術≫を墓地に送り、デッキから≪竜姫神サフィラ≫を手札に加える」

「──っ、実質専用サポート……!」

 

 先のデュエルでは見られなかった──否、見せなかったカードにヴァンガードは早くも警戒の眼差しを向ける。

 一般的に手札事故率の多い儀式召喚デッキで儀式魔法・儀式モンスター1組を見える範囲に持ってくる効果は単純に強力。初手から儀式召喚、またそれに伴う様々な召喚方法が来るだろうと身構えた。

 

「手札から魔法カード──≪星呼びの天儀台(セレスティアル・セクスタント)≫発動。手札・場のレベル6モンスターをデッキの一番下へ戻し、2枚ドローする。私はレベル6の≪サフィラ≫を戻して2枚ドロー」

「うん──?」

 

 しかし、身構えた矢先に手札コスト。このターンは展開はしないのだろうかと疑問に思っていると──

 

「魔法カード≪儀式の準備≫と≪儀式の下準備≫発動。デッキからレベル7以下の儀式モンスターを手札に加え、その後墓地の儀式魔法を手札に加える。デッキからレベル7の≪古聖戴(こせいたい)サウラヴィス≫、墓地から≪高等儀式術≫を手札に。≪儀式の下準備≫はデッキの儀式魔法を選びそのカードに記された儀式モンスターをデッキ・墓地から手札に加える。儀式魔法≪祝祷の聖歌≫、儀式モンスター≪竜姫神サフィラ≫を手札に加える」

「ぅぇっ……!」

 

 ──全速前進(フルスロットル)

 先攻側の初期手札5枚がいつの間にか7枚にまで増えるアドバンテージの暴力。その内4枚は公開情報であり儀式魔法・儀式モンスターの2組。

 まさか2体を同一ターンに出しはしないだろうと、ヴァンガードはこめかみに汗を垂らす。

 

「儀式魔法≪高等儀式術≫を発動。儀式召喚するモンスターのレベルと同じになるよう、デッキから通常モンスターを墓地に送る──私はレベル2の≪プチリュウ≫、≪ギャラクシーサーペント≫、≪守護竜ユスティア≫を墓地へ送り儀式召喚を執り行う」

 

 フィールドの6つの篝火が順に灯される。ボッボッ、と燦然と照られる焔が正六角形の陣を描き、その焔に天上より黄金の光が降り注ぐ。6つの光は次第に肥大化、全ての光が等しい大きさになると巨大な1柱へと化す。

 巨大な光柱が段々と収縮していくと、先ず目に入るのは黄金の装飾が施された透き通る蒼い翼。続けて力強さと女性のような柔らかさとしなやかさ、両方を兼ねた竜と人が合わさった体躯。

 そして──凛々しさと慈愛。強かさと柔和さが合わさった表情の竜人──否。

 

「祝福の祈りを聖なる歌に乗せ、天上まで届かせし(とき)、蒼穹の竜姫(りゅうき)が舞い降りる──儀式召喚。光臨せよ──《竜姫神サフィラ》」

 

 竜の姫──≪竜姫神(りゅうきしん)サフィラ≫が光臨する。

 

「初手からエース……!」

 

 たらり、と横頬に汗が流れるヴァンガード。

 ≪サフィラ≫自体は馬鹿げた攻撃力も、こちらを抑圧する拘束力も、幾度も除去するような効果は持っていない。

 だがその恐ろしさは1戦目で嫌というほどに思い知らされている。

 無視できない2500の攻撃力。

 専用儀式魔法による1度限りの破壊耐性。

 何より条件さえ整えば毎ターンの疑似≪天使の施し≫による堅実なアドバンテージ稼ぎ。

 

 1戦目は≪サフィラ≫より優先して対処しなければならないドラゴンが居たからこそ対応が後回しになってしまったが、同じ轍は踏むものかと意を決する。

 アドバンテージ差を広げられる前に勝負を決めるか、もしくはその差がつかないように早めに退場させるか──そのどちらかに絞る、とヴァンガードは口を強く結んだ。

 

「──手札のレベル7≪古聖戴サウラヴィス≫を除外し、魔法カード≪七星の宝刀≫を発動。手札・場のレベル7モンスターを除外して2枚ドローする」

「……うん?」

「手札から≪ダークストーム・ドラゴン≫を捨て魔法カード≪トレード・イン≫発動。手札からレベル8モンスターを捨て2枚ドロー」

「うんんー?」

 

 しかし、強く結んだ口は秒で緩む。

 ≪サウラヴィス≫は相手ターンで≪サフィラ≫の効果を能動的に使用することに適したモンスター。わざわざそのカードをコストにしてまでデッキを加速。そして墓地肥やし・手札交換と、さらにデッキを掘り進める理由がわからない。

 情報アドバンテージでも消しにきたのかと思っていると──

 

「魔法カード≪トライワイトゾーン≫を発動。墓地のレベル2以下の通常モンスター3体を蘇生させる。蘇れ≪プチリュウ≫、≪ギャラクシーサーペント≫、≪ユスティア≫」

「──っ、そのカードを狙って……!」

 

 ──すぐに答えの半分(・・)が示された。

 

(≪トライワイトゾーン≫はレベル2以下の通常モンスター限定だけど3体も蘇生させるパワーカード。しかもレベル2で統一されてチューナー、非チューナーも居るから(シンクロ)召喚も(エクシーズ)召喚も(リンク)召喚も何でもできる……! 手札によっては融合モンスターまで出される可能性も──)

 

 ありとあらゆる可能性。

 ドラゴン族ならレベル4以上の(シンクロ)モンスターは粒ぞろいが多く、(エクシーズ)モンスターも魔法カード等を用いれば一気に高ランクまで到達し、(リンク)召喚は言わずもがな。

 一体何を出してくるのかと、1ターン目でありながらヴァンガードはさらに警戒を強めるように目を細め──

 

「続けて──2000ライフを支払い、魔法カード≪天声の服従≫を発動」

「……うん?」

「モンスターカード名を宣言し、そのカードが相手のデッキあれば私の手札に加えるか私の場に召喚条件を無視して特殊召喚のどちらかを相手が選ぶ」

 

 ──一瞬で丸くなる。

 

「ちょ、まさか──っ!」

「私が宣言するモンスターカード名は──」

 

 瞬間、ヴァンガードのデッキの1枚が光る。

 白光のようであり──黄金のようであり──赤雷のように輝く1枚。

 そのカードがデッキから音もなく弾き出され、弾丸のように龍姫が掲げた指先へと吸い込まれる。

 

 人差し指と中指でそのカードを挟み、龍姫は微笑──否。高揚により頬を紅潮させ、緊張で動悸のように息を吐きながら、指をほんの少し動かす。

 ヴァンガードから見て裏側だったカードが反転し、デッキから抜き取られたカードが露になる──

 

「──≪オシリスの天空竜≫」

 

 ──『神』のカードが。

 

(えっ、ちょ──何で自動的に手札の方に!? 今の状況なら特殊召喚以外の選択肢がないのに!?)

 

 決闘盤(デュエルディスク)が選択の余地を与える(いとま)もなく、『神』のカードは自然と龍姫の手札へ──まるで自らが望むように。

 通常であれば宣言の処理が入るハズが、その宣言自体ができなかったことにヴァンガードは困惑するも、その顔を窺うこともせずに龍姫は頬をほんのりと朱に染め、奪った(導かれた)カードを天空に捧げるようにかざす。

 

「私は、3体の竜を神への供物と(リリース)し──アドバンス召喚」

 

 幼竜3体が光となって天へ昇る。天上へと昇った光は黒雲を生み出し、その(はらわた)から雷鳴が轟く。

 彼の轟音は竜の咆哮を超越したそれ。それと比較すれば獣の雄叫びも戦士の勝鬨すらも赤子の産声に感じるほど。

 超常は人智の及ばぬ範囲──

 

「降臨せよ──≪オシリスの天空竜≫……ッ!!」

 

 ──≪神≫の領域。

 

「──っ」

 

 相対する『神』を前にしてヴァンガードは一瞬呼吸を忘れ、無意識の内に唾を飲み込む。

 眼前のモンスター──『神』である≪オシリスの天空竜≫が放つ重圧は今までに対峙してきたモンスターの比ではない。

 単純に攻撃力やレベルなら上はあったが、そんな数字上では決して量ることのできない、純然たる『格』。

 双眸ならぬ双口には赤雷が走り、赤と黒の長大なる巨躯も同様。

 人の身であれば決して従えることのできない(ことわり)──自然の驚異、神の御業たる轟雷を繰る天空神。

 ≪オシリスの天空竜≫が“愉快”そうな笑みをうかヴァンガードに向けて牙を剥く。

 

(まさか≪オシリス≫を奪取されるなんて……ていうかあの人(龍姫)大丈夫なの!? 『神』の召喚は相当な負担のハズ……!)

 

 驚愕と緊張、心配と不安が入り乱れ、ヴァンガードは複雑な表情で龍姫の顔に視線を向けると──

 

(……なんか大丈夫そう)

 

 ──ケロっとしていた。

 いや、正しくは平然を装っているかのよう。

 

「これが……『神』……しゅごい……!」

「うえぇ……」

 

 もはや本性を隠そうともせず、眼前の≪オシリスの天空竜≫を見てハァハァと息を荒げ、口端にはうっすらと涎が見える始末。

 召喚に伴う負担を純粋なる不純な気持ちが凌駕しているのだ。限界を超えたその先を見て、半ば無敵の人に近い精神状態。その不安定な状態を『ドラゴンへの盲目的な狂愛』だけで維持している女だ。面構えが違う(気持ち悪い)

 

「はぁ、はぁ……ふふ、私はリバースカードを2枚セットして、エンドフェイズ。儀式召喚に成功した≪サフィラ≫の効果起動。デッキからカードを2枚ドローし1枚捨て──速攻魔法≪超再生能力≫発動」

「うげっ」

「このターン、手札から捨てた・リリースしたドラゴンの回数だけデッキからドローする──私は≪竜賢姫サフィラ≫を自身の効果、≪ダークストーム・ドラゴン≫をコストで捨て、3体のドラゴンを『神』に捧げた。よって5枚ドローする……!」

 

 興奮で目が血走りかけている龍姫は勢いよくデッキから4枚のカードをドローし、自身の手札を6枚へと増やす。

 6枚もの手札により≪オシリスの天空竜≫の攻撃力・守備力は一気に6000の大台へ。『神』の名に相応しい圧倒的な力──それを先攻1ターン目で出してくる龍姫にヴァンガードは一種の畏敬と気持ち悪さを感じる。

 

 フィールドには≪オシリスの天空竜≫と≪竜姫神サフィラ≫の2体。珍しく≪サフィラ≫が守備表示ではあるが、それでも守備力2400はそれなりに高い。

 魔法・罠ゾーンに伏せられたカードは2枚。

 手札は5枚、ライフポイントは≪天声の服従≫を用いたため半分の2000。

 

(──キッツっ!!)

 

 改めて相手の盤面を一見したヴァンガードは心の中で毒づく。

 ≪サフィラ≫はまだ良い。高い攻守だが圧倒的と言うほどではない。

 セットカード2枚も許容範囲。常識的な範疇だ。

 

 ただシンプルに『神』が強い。

 ≪オシリスの天空竜≫の能力を全て知っているが故にその強さも隙も把握しているヴァンガードだが、ここ(VRAINS)で先攻1ターン目に出して良いカードではないと憤る。

 幸いにもルール改正により多少はデッキの動きに幅ができたものの、それでもリンク召喚主体のVRAINSでは鬼のような──いや、まさに『神』に相応しい強さだ。

 

 あの≪オシリスの天空竜≫を相手するとなれば、原作のように『神』を無視してデュエル自体に勝利するか、馬鹿正直に真っ向からパワー勝負を挑まなければならない。

 だがそれを眼前の龍姫(ドラゴン狂い)が易々と許すか?

 答えは“否”だ。

 

 ならば──

 

「私のターン、ドローっ! 手札から≪深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト≫をリリースなしで召喚! このカードはレベル10だけど、自身の攻撃力を0にすることでリリースなしで召喚できる! さらに手札から≪弾丸特急バレット・ライナー≫の効果発動! 自分場のモンスターが機械族・地属性のみの場合、このカードを特殊召喚できる! ≪バレット・ライナー≫を守備表示!」

 

 ──両方(・・)の手段で攻略する。

 

「手札を1枚セットして──≪バレット・ライナー≫をリリースして通常魔法≪十種神鏡陣(トクサノシンキョウジン)≫発動! 手札・場からレベル10になるようモンスターを墓地へ送りデッキから2枚ドロー──にチェーンして速攻魔法≪連続魔法≫! 手札を全て捨て、直前に発動した通常魔法の効果をコピーする!」

 

 2両の列車が発車──直後に1両が回送。ヴァンガードは残った手札3枚全てを使い≪十種神鏡陣≫と≪連続魔法≫のコピー効果で一気に4枚のカードをドロー。手札・場のカードは6枚と後攻1ドローと総数は変わらない──

 

「手札から捨てた≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫の効果発動! 墓地に送られた場合、デッキからコイントスを2回以上行うモンスターを手札に加える! ≪リボルバー・ドラゴン≫を手札に加え──魔法カード≪闇の誘惑≫発動! デッキから2枚ドローし、闇属性を除外! 2枚ドローしてから≪リボルバー・ドラゴン≫を除外!」

 

 ──訳がない。

 即座に墓地送りでアドバンテージを生み出す≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫、サーチされた≪リボルバー・ドラゴン≫をコストの≪闇の誘惑≫で手札増強&交換。場に≪エクスプレス・ナイト≫を残したまま手札5枚、セットカード1枚という状況を作り出す。

 

「魔法カード≪臨時ダイヤ≫発動! 墓地の攻撃力3000以上の機械族を守備表示で復活させる! 再び発車せよ≪バレット・ライナー≫!」

「レベル10のモンスターが2体……」

「来ますか、ヴァンガードのエースの1体……!」

「レベル10の≪エクスプレス・ナイト≫と≪バレット・ライナー≫でオーバーレイ・ネットワークを構築! 出発進行! ランク10! ≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫!!」

 

 現れ出でるは超弩級列車。先のズァークとのデュエルでは発車事故により場に現れることすら許されなかったが、元来の龍姫のデッキには召喚無効も召喚時に除去をする魔法・罠カードは入っていない。よって≪グスタフ・マックス≫はその雄大かつ巨大な姿を遺憾なく顕現させる──

 

「≪グスタフ・マックス≫の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手に2000ポイントのダメージを与える!」

 

 ──龍姫を即死(ワンショットキル)させるために。

 

「≪天声の服従≫にはビックリしたけど、その代償は大きい……! 残りライフ2000なら≪グスタフ・マックス≫の射程距離! これで終わりに──」

「墓地から罠カード≪ダメージ・ダイエット≫を除外して効果適用。このターン、私が受ける効果ダメージは全て半減される」

「──したかったなァ!!」

 

 しかし、そうは簡単にライフポイント(タマ)を取らせないのが別次元の最上位(トップランカー)決闘者(デュエリスト)

 セットカードや場のカードを消費するではなく、≪サフィラ≫の効果で破壊耐性という≪祝祷の聖歌≫を切らずに取ったバーン対策。そんなピンポイントな対策(メタ)があるか! とヴァンガードの眉間にシワが寄る。

 

「『神』を無視するのは戦略の一種だけど、もう少し楽しもう。まだまだ『神』の雄姿を見足りない……!」

「ドラゴン使いめ……! だったら、私はランク10の≪グスタフ・マックス≫でオーバーレイ。ネットワークを再構築!」

 

 恍惚の表情を浮かべる龍姫に呆れ笑いを浮かべ、ヴァンガードはもう1つの手段を講じる。

 ≪グスタフ・マックス≫がエクシーズの渦という名の車庫に入り、内部で(魔)改造。車輪の轟音を響かせ≪グスタフ・マックス≫よりも一回り巨大な列車が複線ドリフトでフィールドに颯爽と登場する。

 

「人の恋路を邪魔するもの皆、鉄の馬にて粉砕されよ! 出発進行! ランク11! ≪超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ≫!!」

「……でっか」

 

 『神』である≪オシリスの天空竜≫に匹敵する巨大さ。対峙する光景はまるで怪獣映画のよう。

 ほげーっと龍姫が半ば呆気に取られる中──≪オシリスの天空竜≫が動く。

 

「──≪オシリス≫は相手が攻撃表示で召喚・特殊召喚した場合『召雷弾』を放つ。出したモンスターの攻撃力を2000ダウンさせ、攻撃力が0になったモンスターは破壊される……!」

「──っ、そんな素晴らしい効果がっ!?」

「だから攻撃表示であんまり出したくなかったんだけど、ね……!」

 

 ≪オシリスの天空竜≫の双口の内、上顎が開く。既に口内に蓄えられていた雷撃は文字通り雷の速さで≪ジャガーノート・リーベ≫に直撃。全身の至るところから火花が走り、こちらも文字通り半壊に近い状態に。

 

「ふぅん……攻撃力4000あったから『召雷弾』を食らっても攻撃力2000は残るんだ」

「実質半減されてキツイけどね……! でも、ここから追いつくっ! ≪ジャガーノート・リーベ≫の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、攻撃力・守備力を2000アップする!」

 

 周囲に浮いていたオーバーレイ・ユニットの光が≪ジャガーノート・リーベ≫本体に吸い込まれる。取り込まれた光は≪ジャガーノート・リーベ≫の全身を包み込むように光り輝き、先の『召雷弾』で負った損傷を回復。本来の4000という『神』に匹敵する攻撃力を取り戻した。

 

「──バトル! ≪ジャガーノート・リーベ≫で≪オシリス≫に攻撃ッ!!」

「攻撃力4000で、攻撃力5000の『神』に……?」

 

 そして劣るハズの攻撃力でヴァンガードは攻撃命令(アタック・オーダー)

 ≪ジャガーノート・リーベ≫は車輪を仰々しく駆動させ、最速最短真直ぐに≪オシリスの天空竜≫へとその車体を突貫させる。

 射程距離──より遥かに短い、完全に砲塔自体を直撃させる勢いで驀進。それに合わせてヴァンガードは手札の1枚に指をかけ──

 

「──リバースカードオープン。罠カード≪補充要員≫」

「──っ、」

 

 ──龍姫の場のセットカードの1枚が露になる。

 

「≪補充要員≫は自分墓地にモンスターが5体以上いる場合、墓地から攻撃力1500以下の効果モンスター以外(・・)のモンスターを3体(・・)手札に加える。墓地から通常モンスターの≪プチリュウ≫、≪ギャラクシーサーペント≫、≪ユスティア≫を手札に加える」

 

 6枚だった手札が9枚に。増やした手札の質はともかく、ただ1枚の罠を発動しただけで3枚もの手札増加。この暴力的な手札増強により手札の数だけ攻守が変わる≪オシリスの天空竜≫も暴力的に強化。

 その攻守は──9000。

 

「これで≪リミッター解除≫でも届かない」

 

 誇った(ドヤ)顔でそう言い放つ龍姫。機械族が相手ならば爆発的な強化を生む≪リミッター解除≫を警戒するのは当然。ならばその強化値を(もっ)てしても届かない範囲に攻撃力を上げれば良い──実に脳筋(シンプル)な答えだ。

 そんな龍姫に対しヴァンガードは顔を俯かせ──ニヤリと、顔と口角を上げる。

 

「ダメージステップ! 速攻魔法≪コンセントレイト≫発動! ≪ジャガーノート・リーベ≫の攻撃力に自身の守備力を加算する!」

「あぁ、そっちだったんだ──ん、守備力?」

 

 『はて?』と龍姫は≪ジャガーノート・リーベ≫の現時点でのステータスを確認。

 攻撃力は『召雷弾』の影響と≪ジャガーノート・リーベ≫自身の効果により4000。

 守備力は『召雷弾』の影響なし。つまり自身の効果で守備力は単純に上昇し6000。

 

「まさか──」

「──そう! ≪ジャガーノート・リーベ≫の攻撃力は10000になるッ!!」

 

 4000+6000=10000──小学校低学年でもできる簡単な算数だ。

 

 後攻1ターン目から現れた10000(5ケタ)の攻撃力を前に龍姫の目が細まる。残りライフポイント1000では素直に直撃を受ければジャストキルとなり敗北必至。その状況であるにも関わらず龍姫は相も変わらず冷淡な表情のまま──

 

「ダメージ計算時に罠カード≪ハーフ・カウンター≫発動。攻撃されたモンスターは攻撃モンスターの元々の攻撃力の半分を攻撃力に加える」

「いぃっ!?」

 

 ──残りの1枚を発動。

 攻撃力が1000上回っていたハズが、逆に1000超えられる──シーソーの如く変化する攻撃力、そして徹底した高攻撃力対策にヴァンガードは素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。

 

「≪オシリス≫、反撃を」

 

 龍姫の命令──ではなく、懇願する声を聞き、≪オシリスの天空竜≫は嬉々として双口の下顎を開く。

 突撃してきた≪ジャガーノート・リーベ≫。その砲塔を鮫のように食らいつき、突進を止める。キュラキュラと車輪が高速駆動するが、圧倒的な力の前に押しに押しても微動だにせず。そして──巨大な雷撃が砲塔から≪ジャガーノート・リーベ≫の全身を包み込む。10000の攻撃力を生かす前に11000もの攻撃力で一蹴。爆散する部品すら残さず、神の雷により≪ジャガーノート・リーベ≫は一瞬にして鉄屑と化した。

 

「惜しかった。他に強化するカードを使われていたら1ターンで退場していた」

「こっちは1ターンで退場させたかったんだけどね……! 私は残った3枚の手札を全てセットしてエンドフェイズ! 墓地に送られた≪バレット・ライナー≫の効果起動! 墓地から自身と同名以外の機械族を手札に加える! 私は≪エクスプレス・ナイト≫を手札に加え、ターンエンド!」

 

 エース──それもフィニッシャークラスのモンスターをあっさりと撃退した≪オシリスの天空竜≫──そして龍姫のプレイングに舌を巻きながら、ヴァンガードは傍から見れば自棄気味に手札を全て魔法・罠ゾーンへ。

 

 ヴァンガードの場にモンスターは存在しない。

 しかし魔法・罠カードは4枚ものカードが伏せられ、あからさまなほどに次の龍姫のターンを凌ぐという姿勢が見て取れる。

 その代償か手札は≪エクスプレス・ナイト≫1枚。ライフポイントは反撃で3000はあるものの、眼前には攻撃力9000──いや、次のドローカードも含めれば5桁の10000への攻撃力に達する≪オシリスの天空竜≫が居るため無いに等しいと同義。

 

 ≪オシリスの天空竜≫が座す龍姫の場には他に≪サフィラ≫が1体のみ。

 魔法・罠カードは先の攻防で使い切り存在しないが、その成果として手札は圧巻の9枚。

 ライフポイントこそ4分の1の1000しかないが、『神』の前では些細なこと。

 

(やはり『神』はおぞましい……)

 

 このデュエルを特等席で観戦しているグラドスは存在しないハズの唾をゴクリと飲み込む。

 以前、ヴァンガードが≪オシリスの天空竜≫を使った時は相棒の≪クラッキング・ドラゴン≫と共に並べ、互いの効果で相手モンスターの召喚・特殊召喚を封殺するコンボを用いた。

 対して龍姫は≪竜姫神サフィラ≫の手札補充、自身のデッキのサポートカードを“強引に”≪オシリスの天空竜≫と噛み合わせるように活用している。

 細かいスタンスは違えど、ただ1体──一柱で戦局を支配する『神』の存在は大きい。

 

 1ターンでその対処を行おうとしたヴァンガードは言わずもがな、さらに『神』を活用──さながら神格化とでも言えよう──させる龍姫も伊達ではない。

 先ほどはつい言葉を発してしまったが、これ以上の発言は無粋。むしろこのデュエルを余すことなく自身のメモリに残し、これからに活かさなくてはと、グラドスは固唾を飲んで趨勢を見守る。

 

「私のターン、ドロー。手札の≪ギャラクシーサーペント≫を捨て魔法カード≪調和の宝札≫を発動。手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーを捨て、デッキから2枚ドロー──手札から≪聖刻龍-アセトドラゴン≫を攻撃力1000にすることでリリースなしで召喚」

「──っ、そのカードは……!」

「何もなければ不届き者(ズァーク)が使っていたのと同じコンボルート。≪アセトドラゴン≫をリリースし魔法カード≪ダウンビート≫発動。リリースしたモンスターと同種族・同属性でレベルが1つ下のモンスターをデッキから特殊召喚。レベル5・ドラゴン・光の≪アセトドラゴン≫を糧にデッキからレベル4・ドラゴン・光の≪聖刻龍-ドラゴンヌート≫を守備表示で特殊召喚。さらにリリースされた≪アセトドラゴン≫の効果。デッキから≪神竜ラグナロク≫を攻守0にして特殊召喚」

 

 前のズァークとのデュエルでの初動。上級のドラゴンを利用し、下級と通常モンスターへの展開に繋げていく。

 

「守備力900の≪ドラゴンヌート≫を対象に速攻魔法≪ドロー・マッスル≫発動。効果対象になった瞬間、≪ドラゴンヌート≫の効果発動。墓地から≪ギャラクシーサーペント≫を攻守0にして特殊召喚。≪ドロー・マッスル≫の効果で1枚ドロー」

 

 既に2枠使われているモンスターゾーンをミチミチと使う龍姫。

 既に場に居る≪オシリスの天空竜≫も≪竜姫神サフィラ≫もはただ黙して龍姫の展開を見守るだけ。

 

「レベル4の≪ドラゴンヌート≫にレベル2の≪ギャラクシーサーペント≫をチューニング。深淵より出でし無形よ、現世にその形を成して現せ。シンクロ召喚、招来せよ、レベル6≪ドロドロゴン≫」

 

 2体の竜が転じるは薄緑の泥竜。一見するとさして強力そうなモンスターには見えないが、それでも龍姫のデッキの展開には必要不可欠。

 

「≪ドロドロゴン≫の効果発動。(シンクロ)召喚した自身と場のモンスターで融合召喚を行い、自身は融合素材に代わりにできる。≪ドロドロゴン≫を≪ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの支配者―≫として扱い、場の≪神竜ラグナロク≫と融合。神魔の力を得し支配者よ、その力で竜に選別の加護を齎せ。融合召喚、現れよ、レベル7≪竜魔人 キングドラグーン≫」

「うっ……!」

 

 次いで現れ出でるは半人半竜の魔人≪竜魔人キングドラグーン≫。

 ステータス的には上級モンスターとして標準的ではあるものの、その効果は極めて強固。

 

「≪キングドラグーン≫が居る限り相手は場の全てのドラゴンを効果の対象にできない──そしてもう1つの効果発動。1ターンに1度、手札からドラゴン族1体を特殊召喚できる。私は手札から≪ゲートウェイ・ドラゴン≫を特殊召喚」

「そのカードってことは……!」

「知ってるなら話は早い。≪ゲートウェイ≫の効果起動。1ターンに1度、手札からレベル4以下のドラゴン族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。私はレベル4の≪竜魔王ベクター(ペンデュラム)≫を特殊召喚」

 

 (元)上司が愛用しているカードが1枚を出され、さらにそこから連鎖のようにドラゴンが出てくる。少し前であればそこから(リンク)召喚に繋がるのだが──

 

「レベル4の≪ゲートウェイ≫と≪ベクターP≫でオーバーレイ・ネットワークを構築。竜弦を響かせ、その音色で闇より竜を誘え。 エクシーズ召喚。顕現せよ、ランク4≪竜魔人 クィーンドラグーン≫」

 

 龍姫が選んだのは(エクシーズ)召喚。≪キングドラグーン≫を追うように龍姫の場に姿を現したのはその≪キングドラグーン≫の対となる、守護者の上半身と神竜の下半身を持つ女王≪竜魔人クィーンドラグーン≫。

 

「≪クィーンドラグーン≫の効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地からレベル5以上のドラゴンを効果を無効にして蘇らせる──戻れ≪ドロドロゴン≫」

「──っ、壮観って言えば良いかな……!」

 

 龍姫の場には5体のドラゴン。

 エースにしてマイフェイバリット、竜の姫である≪竜姫神サフィラ≫。

 対象耐性を付与する竜の王≪竜魔人キングドラグーン≫。

 戦闘耐性を付与する竜の女王≪竜魔人キングドラグーン≫。

 効果を無効化された≪ドロドロゴン≫。

 そして──ヴァンガードが誇る切り札にして、今はその竜に崇められし天空の神──≪オシリスの天空竜≫。

 (ペンデュラム)(リンク)を除いたドラゴンが勢揃いしている。

 

「速攻魔法≪聖蛇の息吹≫を発動。自分場に儀式・融合・(シンクロ)(エクシーズ)モンスターの内2種類以上存在する場合発動でき、その種類の数だけ効果を得る」

「全部揃ってる……!」

「そう、だから全部の効果を得られる。2種類以上の効果で墓地・除外状態のモンスターを回収。≪古聖戴サウラヴィス≫を回収。3種類以上の効果で墓地の罠を回収。≪補充要員≫を回収。4種類の効果で魔法を回収。≪調和の宝札≫を回収」

 

 1枚のカードが3枚のカードに早変わり──発動コストと参照にする条件こそ厳しいが、その条件こそ満たせば爆発的なアドバンテージを生み出すカードで龍姫の手札は8枚に回復。

 

「手札の≪ユスティア≫を捨て≪調和の宝札≫発動。2枚ドロー」

 

 さらには手札交換も行い、前のターンの≪補充要員≫で(かさ)増しでしかなかった通常モンスターを全て有用なカードに変換。これで龍姫の8枚の手札の内、情報が割れているのは≪祝祷の聖歌≫、≪補充要員≫の2枚だけ。残りの6枚は正体不明のカード。

 

「……≪サフィラ≫を攻撃表示に変更し、バトルフェイズ」

 

 ドローカードを一瞥した龍姫は何をするでもなく、そのままバトルフェイズへ。

 

(多分あのセットカードは大半が展開用。無効や妨害だったら既に切ってる。それがないなら余程の発動条件か大半がブラフ)

 

 今までの龍姫の行動に何も反応しなかったが故の読み。

 例え攻撃反応系であろうと対象を取る効果ならば≪キングドラグーン≫の効果で守ることができ、対象に取らないカードでも損害が少なければ儲けものだ。

 

(≪ミラフォ≫だったら泣く)

 

 一抹の不安を抱えつつ、龍姫は攻撃命令を出そうと口を開き──

 

「──リバースカード、フルオープンッ!!」

「──えっ」

 

 ──その口があんぐりと開いたままになる。

 

「罠カード≪ゴブリンのやりくり上手≫! ≪ゴブリンのやりくり上手≫! ≪ゴブリンのやりくり上手≫! 速攻魔法≪非常食≫!」

「その、コンボは……!!」

 

 古の決闘者(デュエリスト)が用いた手札増強手段。尤も、指定された4枚のカードを全て揃えなければ発揮できないため決闘者(デュエリスト)側に相当なドロー力がなければ発動することさえ困難とされるコンボ。

 それをこの状況で──さらには手札から発動するモンスター効果が蔓延る現代において、このコンボは強力──

 

「≪非常食≫は墓地に送った自分の魔法・罠カードの数の1000倍ライフを回復する! 3枚の≪ゴブリンのやりくり上手≫を送ったから3000回復! そして≪ゴブリンのやりくり上手≫は墓地の≪ゴブリンのやりくり上手≫の枚数プラス1枚ドローし、その後手札1枚をデッキの一番下に戻す! “今の”私の墓地に≪ゴブリンのやりくり上手≫は3枚! よって4枚ドローして1枚戻す──これを3回行う!!」

 

 ──そして凶悪。

 ヴァンガードは4枚ドローし手札を1枚戻して手札は4枚に。

 続けて4枚ドローし1枚戻して手札は7枚へ。

 最後に4枚ドローし1枚戻し──手札は10枚へと増える。

 オマケのようにライフポイントも回復し一気に6000へ。

 

「──っ、≪オシリス≫で攻撃ッ……!」

「攻撃宣言時、手札の≪工作列車シグナル・レッド≫の効果発動! 相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを守備表示で特殊召喚し攻撃対象を自身に変える! さらにその戦闘では破壊されない!」

「むっ……!」

 

 バトルフェイズ移行の宣言をした以上、龍姫にできることは攻撃宣言だけ。『神』ならばその圧倒的な力で何が出て来ようと粉砕できると信じ──過信し、半ば焦るように攻撃宣言。

 だがそんな龍姫のプレイングの裏をかくように出てきたのは下級モンスターの≪シグナル・レッド≫。赤い警告灯を鳴らしながらヴァンガードの目の前へと急発進&急停止。≪オシリス≫が放つ雷の矢をその小さな体いっぱいに受け止め、なおも耐える。

 

「なら≪クィーンドラグーン≫で攻撃」

「これは防げない──」

「続けて≪キングドラグーン≫で──」

「──でも、こっちはどうかな? 手札から≪機動要犀(きどうようさい)トリケライナー≫を守備表示で特殊召喚!」

「何っ……!?」

 

 小さな列車を屠ったと思えば、次いで現れるは黒鉄の犀──≪トリケライナー≫。現実なら2番目に巨大な地上生物を模した機械巨獣も≪シグナル・レッド≫同様にヴァンガードの盾となる。

 

「守備力──2800っ……!」

「今の貴方の場に≪トリケライナー≫を倒せるのは≪オシリス≫だけ。だけどその≪オシリス≫は攻撃を終えている!」

「ぅぐっ……!」

 

 『完全に防がれた』、と龍姫は奥歯を噛み締めた。どんな攻撃順であろうとヴァンガードはその都度≪シグナル・レッド≫と≪トリケライナー≫を出す順番を変えるだけで良いのだ。一切のダメージを与えられないどころか、相手の場に上級モンスターを残してしまったことに龍姫は眉間にシワを寄せる。

 

「……メインフェイズ2。私は≪オシリス≫に≪レアゴールド・アーマー≫を装備。続けてカードを2枚セットし、エンドフェイズへ移行。このターン、手札から光属性モンスターが墓地へ送られたので≪サフィラ≫の効果が起動する。私はデッキから2枚ドローし1枚捨てる効果を選択」

「──っ、また面倒な状況を……!」

 

 ≪トリケライナー≫を残したままターンを終える龍姫。

 場には5体のドラゴン、1枚の装備魔法。そして2枚のセットカードという状況。

 手札は枚数制限の6枚を抱え、ライフポイントは1000のまま。

 

 対してヴァンガードの場には≪トリケライナー≫1体のみ。

 しかし手札は未だに8枚あり、ライフポイントも変わらず2000を維持。

 

 龍姫の場に『神』こそ存在するが、決闘者(デュエリスト)には手札の数だけ可能性があると、かの決闘王(デュエルキング)も語っていた。

 よって8枚の手札──

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズに≪トリケライナー≫は守備力が500下がる」

 

 ──否。9枚もの手札があれば様々な可能性がある──

 

「先ずは私も≪星呼びの天儀台(セレスティアル・セクスタント)≫発動。≪トリケライナー≫をデッキ下に戻して2枚ドロー」

 

 ──10枚になった。

 ヴァンガードはドローしたカードを一瞥し、僅かに口角が上がる。そしてその内の1枚を勢いよく決闘盤へ置く。

 

「手札から≪カードガンナー≫を召喚ッ!」

「≪カード・ガンナー≫……? えっ……!?」

 

 呼び出されたモンスターを前に龍姫は頭上に疑問符。一時(いっとき)は機械族使いなら誰もが使用していたカードだが、高速展開環境の現代では少々力不足。だが下手に破壊すれば≪カードガンナー≫自身の効果で1枚ドローされる恐れもあるため、≪オシリス≫の『召雷弾』で下手に破壊しなくても良い──そう思った時。

 ≪オシリス≫は龍姫の意思とは無関係に上顎の口が開く。まるで『神』に歯向かう者に対して、一切の例外も許さずに神罰を与えんとするか如く。

 『神』の行動に龍姫の目が見開き、思わずヴァンガードへ視線を向ける。

 

「騙していたつもりはないんだけどね……≪オシリス≫の『召雷弾』って“強制効果”なんだ」

「なっ──」

 

 龍姫の顔が驚きの色に染まる──それと同時に≪オシリス≫の『召雷弾』が≪カードガンナー≫を襲う。攻撃力が400しかない≪カードガンナー≫は呆気なく破壊されそのまま墓地へ──

 

「魔法カード≪シャッフル・リボーン≫発動! 自分場にモンスターが居ない時、墓地からモンスターを効果を無効にして特殊召喚する! 私が呼び出すのは──≪カードガンナー≫! 攻撃表示(・・・・)!!」

「ぐっ……!」

「特殊召喚したタイミングで≪オシリス≫の『召雷弾』が起動し──それにチェーンして速攻魔法≪地獄の暴走召喚≫発動! 特殊召喚した攻撃力1500以下のモンスターと同名カードを手札・デッキ・墓地から特殊召喚する! デッキから2体の≪カードガンナー≫を攻撃表示で特殊召喚!!」

「──っ!?」

 

 ──行ってからすぐに場へ。

 未だ『召雷弾』の残滓が残る中で呼び出され、再び≪オシリス≫の口が開き──同時に2体の≪カードガンナー≫が現れる。

 直後≪シャッフル・リボーン≫で蘇った1体が破壊され姿を消す。それを≪オシリス≫が見届けるや否や、新たに現れた2体の≪カードガンナー≫にも『召雷弾』を放ち、やはりすぐに鉄屑へ。

 

「破壊された3体の≪カードガンナー≫の効果で3枚ドローし──魔法カード≪貪欲な壺≫! 墓地の≪カードガンナー≫3体、≪グスタフ・マックス≫、≪ジャガーノート・リーベ≫の5体をデッキに戻して2枚ドロー!」

「手札12枚……!?」

 

 召喚権こそ使ったもののヴァンガードの手札は圧巻の12枚。龍姫の2倍の手札枚数であり、今の龍姫の場は耐性にこそ秀でているが、妨害能力はほぼ無いに等しい。

 あの12枚の手札から何を駆り出されるのかと、頬に汗が垂れる。

 

「手札を1枚捨て魔法カード≪死者転生≫発動! 墓地の≪デスペラード≫を手札に戻す!」

 

 戦闘ではなく効果で倒しに来るのかと龍姫は身構えようとし──早計だと意識を切り替え。そも機械族はドラゴン族と同じく大抵のことは何でもできる万能種族だ。今更何が出てきても大きく驚きはしない──

 

「相手にのみモンスターが居るため手札から≪サイバー・ドラゴン≫を特殊召喚! さらに魔法カード≪融合強兵≫発動! 融合モンスターを公開し、その融合素材モンスターをEXデッキ・墓地から効果無効で特殊召喚する! 私は≪鎧皇竜サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン≫を見せ≪サイバー・エンド・ドラゴン≫を特殊召喚!!」

「──っ、サイバー……!?」

 

 ──と誓った瞬間に大きく目を見開く。

 【サイバー】は龍姫の親友が愛用しているカードであり、しかも召喚・公開されたカードを見て、脳裏に化け物耐性を持ったモンスターを思い出す。

 

(あのカードの召喚条件は相当厳しいハズ……! 1ターンで出せる訳が──)

「≪サイバー・ドラゴン≫を対象に魔法カード≪融合識別(フュージョン・タグ)≫を発動! EXデッキの≪鎧黒竜サイバー・ダーク・ドラゴン≫を見せ、そのカード名を得る! そして──魔法カード≪パワー・ボンド≫!! 機械族融合モンスターの融合召喚を行う!」

「──1ターンで……!?」

 

 白銀の機械龍とその三つ首の機械龍が1体へと融け合う。一瞬の閃光の直後、現れ出でるは黒鋼と白銀の機械龍。元の三つ首の白銀龍はそのままに、その背に巨大な黒鋼龍を背負うかの如く。

 

「地獄を経て皇帝は完成せり──表裏を呑み込み勝利への渇望を満たせ! 融合召喚! 降臨せよ、≪鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン≫ッ!!」

「──っ、」

 

 眼前に現れた巨大な機械龍を前に龍姫は顔を歪める。≪鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン≫は親友の奥の手の中の奥の手の切り札。『神』相手なら不足なし。むしろ相応しいとも言えるが、よもや純粋な“力”だけでの突破にここまで費やすか、とヴァンガードの豪胆さに尊敬と皮肉を抱く。

 

「≪パワー・ボンド≫の効果で融合召喚した≪サイバー・ダーク・エンド≫は元々の攻撃力は倍の10000になるッ! さらに相手が発動したカード効果も受け付けない──例え≪オシリス≫の『召雷弾』あっても!」

「本当に優秀で厄介な効果……!」

「バトル! ≪サイバー・ダーク・エンド≫で≪オシリス≫に攻撃ッ!」

 

 装備された≪レアゴールド・アーマー≫の効果で≪オシリス≫にしか攻撃できない状況。しかし攻撃力10000にもなれば、攻撃力6000の≪オシリス≫を屠ることも容易い──

 

「リバースカード、ダブルオープンッ! 罠カード≪補充要員≫と≪牙竜転生≫ッ! 墓地の攻撃力1500以下の効果モンスター以外のモンスター3体を手札に加え、除外状態のドラゴン1体を手札に加える!」

「なっ──」

「墓地の≪ギャラクシーサーペント≫、≪ユスティア≫、≪ラグナロク≫の3体。そして除外状態の≪プチリュウ≫を手札に加える!」

 

 ──ハズだった。

 龍姫は最初の攻防と同じように2枚の罠を発動。再び手札だけを増やし、その数は10枚。手札の数だけ力が増減する≪オシリス≫も当然ステータスが変わり──その攻守は10000。

 

「迎え撃って……!」

「≪サイバー・ダーク・エンド≫の攻撃は止まらない……!」

 

 ≪オシリス≫の轟雷と≪サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン≫の光線が衝突。

 片や『神』。片や神をも超える(レベル12)機械龍。並大抵のモンスターが行う攻撃とは一線を画し、衝撃の余波だけでリンクヴレインズの建造物や地面がバグのように乱れていく。

 しかし、とは言っても攻撃力は同じ。攻撃力が同じ値であれば当然──

 

「くぅ……!」

「うっ……!」

 

 ──相打ち。

 衝突していた攻撃が前振りもなく巨大な爆発を引き起こし、それに巻き込まれるように≪オシリスの天空竜≫と≪鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン≫は共に消滅。

 これで龍姫の場には4体のドラゴンが残り、ヴァンガードの場には──

 

「機械族・闇属性が戦闘・効果で破壊された場合、≪デスペラード≫を自身の効果で特殊召喚する!」

「ここで、そのカード……!」

 

 ──新たな黒鋼の機械龍が姿を現す。

 

「≪デスペラード≫の効果発動! バトルフェイズに自身の攻撃を封じる代わりにコイントスを3回行い、表の数まで相手モンスターを破壊──それにチェーンして墓地の罠≪銃砲撃(ガン・キャノン・ショット)≫を除外して効果発動! コイントスの結果は全て表になる!」

「しまっ──!」

 

 今まで手札コストや魔法カードのコストにしかされなかった鬱憤でもたまっていたのか、≪デスペラード≫は喜びの声を上げるように弾倉を回転。弾丸の入った倉をセットするや否や、一斉砲撃。≪キングドラグーン≫、≪クィーンドラグーン≫、≪ドロドロゴン≫の3体は胴体に巨大な風穴を開けられ──直後に爆散。

 これで互いに場のモンスターは1体──勝負は振り出し。

 

「≪デスペラード≫の効果で3枚表になったから1枚ドローし──≪デスペラード≫をリリースして≪アドバンスドロー≫発動! 自分場のレベル8以上のモンスターをリリースして2枚ドロー! さらに墓地に送られた≪デスペラード≫の効果でデッキから≪ブローバック・ドラゴン≫を手札に加える!」

「1枚で何枚分の仕事するのその子(デスペラード)……!」

「≪闇の誘惑≫を発動して手札の≪ブローバック≫を除外し──装備魔法≪D・(ディフェレント・)D・(ディメンション)(リバイバル)≫を≪リボルバー・ドラゴン≫に装備して特殊召喚! そして≪サフィラ≫を対象に≪リボルバー・ドラゴン≫の効果発動! コイントスを3回行い──」

「手札の≪サウラヴィス≫を墓地に送り効果発動! カード効果の対象にした≪リボルバー・ドラゴン≫の効果の発動を無効にする!」

「なら≪リボルバー・ドラゴン≫を墓地に送り魔法カード≪トランスターン≫を発動ッ!」

 

 潤沢な手札を惜しみなく使いヴァンガードはデッキを高速回転。一仕事を終えた≪デスペラード≫は満足そうに光となり、それをヴァンガードの(手札)へ。続けて後続も出るが、やはり同じようにすぐに光へと変わり──

 

「デッキから──≪クラッキング・ドラゴン≫を特殊召喚ッ!!」

 

 ──最愛のエースを呼び出す。

 エースである≪クラッキング・ドラゴン≫もやる気に満ちているのか、全身の駆動音を唸るように鳴らして対峙する≪サフィラ≫を威嚇。

 対する≪サフィラ≫は『竜姫』の名のように威厳と落ち着きを持った態度──ではなく『神』を葬られた怒りがあるのか、表情が険しい。

 

「私は残った5枚の手札を全てセットし、エンドフェイズに≪パワー・ボンド≫の効果で5000のダメージを受ける……!」

「エンドフェイズに≪サフィラ≫の効果発動! 光属性が手札・デッキから墓地に送られたため、デッキから2枚ドローし、1枚捨てる効果を適用! ≪ラグナロク≫を捨てる……!」

 

 『神』が退場し決闘(デュエル)は一区切り──ではない。むしろここからが本番、とばかりに両者のボルテージは昂っていく。互いに外面用の冷淡が仮面を脱ぎ捨て、そこにあるのは純粋に決闘(デュエル)を楽しむ2人の姿だけ。

 

「私のターン、ドロー……!」

 

 龍姫はドローカードを一瞥し、再度状況を確認。

 自身の手札は10枚あるが、内3枚は通常モンスター。

 場には≪サフィラ≫のみ、魔法・罠カードもない。

 ライフポイントは1000を残すのみ。

 

 対してヴァンガードの場には≪クラッキング・ドラゴン≫1体のみ。

 魔法・罠カードは5箇所全て埋まっており、手札は0枚。

 ライフポイントは≪非常食≫で回復した後、≪パワー・ボンド≫のデメリットで5000ダメージを受けて龍姫と同じ1000。

 

 単純なアドバンテージ差だけで言えば龍姫の方に分がある。

 しかしヴァンガードの場に居る≪クラッキング・ドラゴン≫がモンスターの展開を許さない。レベル5以上上級モンスターを出しただけで残りライフポイントが1000の龍姫は即終了となる──なれば。

 

「手札から速攻魔法≪禁じられた聖杯≫発動! ≪クラッキング・ドラゴン≫の攻撃力を400アップさせ、効果を無効!」

「──っ、簡単にやってくれるね……!」

 

 同じく潤沢な手札から対策を講じるだけ。

 

「魔法カード≪魔法石の採掘≫を発動! 手札の≪ギャラクシーサーペント≫と≪ユスティア≫を捨て、墓地の≪トライワイトゾーン≫を回収する!」

「手札の通常(バニラ)を処理だけじゃなくて、パワカ回収はちょっと辛いなァ!」

「手札から≪竜の尖兵≫を召喚! 手札からドラゴン族を捨て、自身の攻撃力を300アップ! 手札の≪プチリュウ≫を捨て攻撃力を2000にし──魔法カード≪トライワイトゾーン≫発動! 墓地の≪プチリュウ≫、≪ギャラクシーサーペント≫、≪ユスティア≫の3体を特殊召喚!」

 

 ≪クラッキング・ドラゴン≫さえ封じ、リバースカードに注意を払いながら龍姫は一気に手札を消費。11枚あった手札は残り5枚──

 

「私は≪竜の尖兵≫、≪プチリュウ≫、≪ギャラクシーサーペント≫、≪ユスティア≫の4体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れよ、リンク4≪鎖龍蛇-スカルデッド≫!」

「≪スカルデッド≫かァ……!」

 

 ──ではなくなった。

 4体のモンスターが中空に出現したリンクマーカーへと吸い込まれ、その上と下方向3つが赤く灯る。一瞬の閃光の後、1体の竜──≪スカルデッド≫が現出。

 

「≪スカルデッド≫の効果発動! 4体以上を素材としたリンク召喚成功時、デッキから4枚ドローし3枚戻す!」

「まだ手札を増やす……!」

 

 『お前が言うか』と言われそうなことを思いつつも、ヴァンガードは冷や汗をかきなかがら龍姫の一挙一動を注視。どこで強力な(ヤバイ)ドラゴンが出てくるかはわからない。どこかしらで止め、なおかつ伏せられたカードの発動タイミング(・・・・・・・)も見極めなければならないのだ。

 

「≪スカルデッド≫の効果発動! それにチェーンして手札の≪深淵の獣(ビーステッド)マグナムート≫の効果発動! 自分墓地の≪キングドラグーン≫を除外して自身を特殊召喚! ≪スカルデッド≫の効果で手札から≪デブリ・ドラゴン≫を特殊召喚!」

「うぇっ、チューナーと非チューナーでレベル10ってことは──」

「特殊召喚成功時に≪マグナムート≫の効果発動! エンドフェイズにデッキからドラゴン族をサーチ──そしてレベル6の≪マグナムート≫にレベル4の≪デブリ・ドラゴン≫をチューニング! 深淵を統べる神よ、異界の権能で以て我に力を、敵に裁きを齎せ! シンクロ召喚! 招来せよ、レベル10≪深淵の神獣(ビーステッド)ディス・パテル≫!」

「──やっぱり!」

 

 半ば予想していたものの、初戦で見せた邪竜が姿を見せたことにヴァンガードの表情はさらに険しくなる。

 除外したモンスターを使って効果無効や破壊をしてくるのだから厄介なことこの上ない──

 

「≪ディス・パテル≫の効果発動! 除外状態のモンスターを帰還させる! ≪キングドラグーン≫を帰還! そして≪キングドラグーン≫の効果発動! 手札からドラゴン1体を特殊召喚する! ≪ドラゴンメイド・チェイム≫を特殊召喚! ≪チェイム≫の特殊召喚成功時、デッキから【ドラゴンメイド】魔法・罠を手札に! ≪ドラゴンメイドのお召し替え≫を手札に加える!」

「うぇっ!? 帰還効果まであったの!?」

「手札に加えた≪ドラゴンメイドのお召し替え≫発動! 場の≪チェイム≫と≪キングドラグーン≫を融合! 黒衣の竜の侍女よ、竜魔人の王と一つとなりて、統べる竜を呼び起こせ! 融合召喚! 現出せよ、レベル10≪ドラゴンメイド・シュトラール≫!」

 

 ──本当に。

 続けて現れるのはお馴染みメイド長の≪ドラゴンメイド・シュトラール≫。≪ディス・パテル≫と同じレベル・攻撃力を携えて隣に並ぶ。

 

「ライフを800支払い、装備魔法≪再融合≫発動! 墓地の≪キングドラグーン≫にこのカードを装備して特殊召喚! さらに≪キングドラグーン≫の効果発動! 手札からドラゴン1体を特殊召喚する! ≪亡龍の戦慄-デストルドー≫を特殊召喚し──レベル7の2体でオーバーレイ・ネットワークを構築! 迸る熱き血潮を滾らせ、悉くを黒く溶かし尽くせ! エクシーズ召喚! 顕現せよ、ランク7≪黒溶龍騎(こくようりゅうき)ヴォルゲニシュ≫!!」

「まだ並べるの……!?」

 

 さらに場に現れるは漆黒の炎龍≪ヴォルゲニシュ≫。潤沢にあった手札を10枚以上使い、龍姫の場には攻撃力2500超えと3500超えのドラゴンが2体ずつ。≪禁じられた聖杯≫で攻撃力が上がっていても、化け物2体(ディス・パテルとシュトラール)には僅かに及ばない。

 残っている龍姫の手札は1枚。盤面、そして場のモンスターの効果を逡巡し、ヴァンガードは決闘盤へ指を伸ばす。

 

「罠カード≪和睦の使者≫発動! このターン≪クラッキング・ドラゴン≫は戦闘破壊されず私が受ける戦闘ダメージも0になる!」

「≪シュトラール≫の効果発動! 相手が発動した効果を無効にする!」

「チェーンして罠発動≪ブレイクスルー・スキル≫! ≪シュトラール≫の効果を無効にする!」

「それにチェーンして≪ヴォルゲニシュ≫の効果発動! オーバーレイ・ユニットを2つ取り除き≪クラッキング・ドラゴン≫を破壊する!」

「さらにチェーンして罠カード≪マグネット・フォース≫発動! このターン≪クラッキング・ドラゴン≫は相手モンスターの効果を受け付けない!」

「くっ……リバースカードを1枚セットして、このままエンドフェイズ!」

 

 罠とモンスター効果の応酬。これに競り勝ったのはヴァンガード。

 このターン、効果ダメージ手段を持たない龍姫にこれ以上できることはない。ほぼ(・・)全種類のドラゴンを並べながら、決め切れないという状況に歯痒さを覚えながらカード1枚を伏せてターンの終わりへ。

 

「≪マグナムート≫の効果によりデッキからドラゴン族の≪アモルファージ・イリテュム≫を手札に加える!」

「また面倒なドラゴンが……!」

「さらに≪サフィラ≫の効果発動! このターン、光属性の≪ギャラクシーサーペント≫を手札から墓地に送ったため、デッキから2枚ドローし1枚捨てる効果を使う!」

 

 エンドフェイズでの手札増強により龍姫の手札は0枚から2枚へ──

 

「そして墓地へ捨てた≪コドモドラゴン≫の効果発動! 自身が墓地に送られた時、このターンのバトルフェイズを放棄し、手札からドラゴンを特殊召喚する! 来い!≪アモルファージ・イリテュム≫ッ!!」

「面倒なドラゴンをエンドフェイズに出すなァ!!」

 

 ──ならない。

 幸か不幸かこのターンは≪和睦の使者≫でバトルフェイズを行っても無意味だったため、龍姫の驚異的なドローで≪コドモドラゴン≫を引き入れ、その効果で最後の一押しで展開。

 一気に龍姫の場には6体のドラゴンと1枚のリバースカードというおぞましい制圧布陣が完成。その相手盤面を前に、ヴァンガードの持ち札は≪クラッキング・ドラゴン≫と2枚のセットカードのみ。

 

「このタイミングで罠発動≪深すぎた墓穴≫発動! 次の自分ターンのスタンバイフェイズに墓地の≪デスペラード≫を復活させる!」

「ぐっ……!」

「≪深すぎた墓穴≫は効果処理を終えて墓地へ──行ったタイミングで罠カード≪裁きの天秤≫発動! 自分手札・場と相手場のカード枚数の差だけドローできる! 私の場には≪クラッキング・ドラゴン≫と≪裁きの天秤≫の2枚! 貴方の場には6体のドラゴンとリバースカードが1枚の計7枚! よってその差の5枚ドローする!」

「──っ、そのために≪深すぎた墓穴≫をこのタイミングで……!!」

 

 ヴァンガードは自分ターンの前に一気に5枚のカードをドロー。しかし手札は増えたものの、まだ手が足りないのか、表情は険しいまま。

 

「……私のターン、ドロー! スタンバイフェイズに≪デスペラード≫を復活!」

 

 だが、ドローカードを一見しその顔が少しばかり和らぐ。

 ふぅー、と先ほどの攻防から息を入れるように深呼吸し、改めて龍姫の盤面に視線を移す。

 

 ≪竜姫神サフィラ≫、≪ドラゴンメイド・シュトラール≫、≪深淵の神獣ディス・パテル≫、≪黒溶龍騎ヴォルゲニシュ≫、≪アモルファージ・イリテュム≫、≪鎖龍蛇-スカルデッド≫──儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクの6種類のドラゴンが勢揃いしている光景は圧巻の一言。

 さらには≪イリテュム≫でEXデッキからの特殊召喚は禁止され、≪シュトラール≫の効果で1度だけカードの発動を止められる上、≪ディス・パテル≫の効果で無効か破壊が飛んでくる。

 セットカードがあるものの、これまでの流れから妨害系のカードではないと龍姫のデュエルスタイルから半ば確信。

 手札は1枚のみで、ライフポイントも≪再融合≫で使って残りは僅か200。

 

 一方の自分(ヴァンガード)の場には≪クラッキング・ドラゴン≫と≪デスペラード≫のみだが、手札は6枚もありライフポイントも1000はある。

 そしてこの手札──残りのドロー(・・・・・・)次第ではあるが、一先ずは突破ができそうだと胸を撫で下ろす。

 

(そもそもドラゴン使いは自分のドラゴンで相手を叩きのめす性質だしね)

 

 もう1度深呼吸し──意を決するヴァンガード。

 

「墓地の≪ブレイクスルー・スキル≫を除外し効果発動! ≪シュトラール≫の効果を無効にする!」

「通し……!」

「続けて──ペンデュラムゾーンにスケール9の≪クリフォート・ツール≫とスケール1の≪クリフォート・アセンブラ≫をセッティング!」

「──っ、ペンデュラムモンスター……!?」

 

 ヴァンガードの場に門柱のようにペンデュラムカードが置かれる。今まで使用してこなかったカード群に龍姫の目が大きく開くが、それを横目にヴァンガードはプレイングを続行。

 

「≪ツール≫のペンデュラム効果発動! 800ライフ支払い、デッキから【クリフォート】カードを手札に加える! デッキから装備魔法≪機殻の生贄(サクリフォート)≫を手札に加える!」

 

 手札を2枚使ってペンデュラムスケールを設置、その後のサーチで手札は5枚に。EXデッキにさえ関わらなければペンデュラムモンスターはその力を十全に発揮する。

 ヴァンガードは残った手札5枚の内の2枚に指をかけた。

 

「ペンデュラム召喚! 来たれ! ≪クリフォート・ゲノム≫! ≪クリフォート・アーカイブ≫!」

 

 ペンデュラムゾーンのスケール間から現れるはさらに2機の機械。ヴァンガードの場に一気に3体のモンスターが並び、その内2体は同じレベル──≪イリテュム≫を対処してエクシーズ召喚が来るかと龍姫は身構える。

 

「永続魔法≪冥界の宝札≫! 装備魔法≪機殻の生贄≫を≪ゲノム≫に装備! ≪機殻の生贄≫を装備したモンスターは【クリフォート】モンスター2体分のリリースに使用できる!」

「≪冥界の宝札≫と2体分リリース──まさか……!?」

「私は2体分となった≪ゲノム≫と≪アーカイブ≫をリリース! アドバンス召喚! さあ、機殻の最終兵器よ! 起動せよ! ≪アポクリフォート・キラー≫ッ!!」

 

 2機が光の粒子となり、弾けた光は1機の機械──それも巨大なそれに成る。

 翼とも、腕とも言えない柱の如き機械柱4本を携え、さながら空中要塞が如くゆっくりと降下。機械であるが故に無機質に龍姫の盤面を見下ろす──否、見下す様は不気味そのもの。

 

「永続魔法≪冥界の宝札≫の強制効果、リリースされた≪ゲノム≫、≪アーカイブ≫、≪機殻の生贄≫の順で効果を発動! ≪機殻の生贄≫が場から墓地に送られた場合、デッキから【クリフォート】モンスターを手札に加え、リリースされた≪アーカイブ≫は相手の魔法・罠1枚を破壊! 同じくリリースされた≪ゲノム≫は相手モンスター1体を手札に戻す! ≪冥界の宝札≫は2体以上のアドバンス召喚した時にデッキから2枚ドローする!」

「ぐっ……! チェーンして罠カード≪和睦の使者≫! 私のドラゴンは戦闘破壊されず、私はこのターン戦闘ダメージを受けない……!」

「──っ、逆順処理により≪機殻の生贄≫の効果でデッキから≪クリフォート・エイリアス≫を手札に加え、≪アーカイブ≫の効果で≪和睦の使者≫を破壊し、≪ゲノム≫の効果で≪ディス・パテル≫をEXデッキに戻し、≪冥界の宝札≫の効果で2枚ドロー!!」

 

 デッキから≪クリフォート・エイリアス≫をサーチし、龍姫の盤面を損害を与え、さらにデッキから2枚ドロー──先ずは一矢を。残りはドローカード次第、とヴァンガードはドローカードを一瞥し、すぐにその内の1枚を決闘盤へ。

 

「手札のレベル8の≪エイリアス≫を捨て魔法カード≪トレード・イン≫を発動! デッキから2枚ドロー!」

 

 あわよくば、とドローしたかったカードである≪トレード・イン≫を用いさらにドローを加速。新たにドローした2枚を見やり──口角が上がる。

 

「バトルフェイズ! ≪デスペラード≫の効果発動! コイントスを3回行い、その表の数まで相手モンスターを破壊する! 今回は墓地の≪銃砲撃≫がないから、完全に運任せだけどね……!」

「……多分全部表。その子(デスペラード)、すごくハリキってるから」

「そうだと良い──なっ!」

 

 ソリッドビジョンに3枚のコインが投影。それが一斉に放られ、重力に従って全て落下する。クルクルと数回転してパタリと寝ると──

 

「ほ、ホントに表だ」

「だから言ったのに」

 

 ──3枚全てが表。

 ≪デスペラード≫は弾倉を回転させて先ほど以上の喜びの声を上げ、ドスドスと重く響く足音を鳴らしながら龍姫の場へ突貫。そして3体のドラゴン──≪シュトラール≫、≪ヴォルゲニシュ≫、≪イリテュム≫に狙いを定め、一斉砲撃。3体は守られる術がなく、轟音と共に爆散。追加効果でヴァンガードは1枚ドローしつつ、これで龍姫の場のドラゴンは当初の6分の4──

 

「メイン2! ≪キラー≫の効果発動! 1ターンに1度、相手は手札・場のモンスター1体を墓地に送らなければならない!」

「……≪スカルデッド≫を墓地に送る」

「カードを2枚セットし、エンドフェイズ! ≪アセンブラ≫のペンデュラム効果発動! このターンリリースした【クリフォート】モンスターの数だけドロー! デッキから2枚ドロー!」

 

 ──いや、6分の1へと激減する。

 EXデッキからの特殊召喚、2種の妨害を踏み越えて更地に近い状態にされたことに龍姫は感嘆するかのようにため息を零す。

 自分(龍姫)ターンへの備えとして2枚のリバースカードも忘れず、さらには次のヴァンガードのターンに攻め込むための準備(2ドロー)もある用意周到っぷり。

 

「私のターン、ドロー」

 

 大半のドラゴンを除去され、逆に頭が冷えてきたか龍姫は淡々とドローカードを一見。

 ドローカードと相手の場へ交互に視線を移し──

 

「速攻魔法≪魔力の泉≫発動。相手表側魔法・罠カードに破壊耐性を付与──そして、表側の魔法・罠の数だけドローし、私の表側の魔法・罠の数だけ手札からカードを捨てる。3枚ドローし、1枚捨てる」

「≪天使の施し≫かなっ……!?」

「今捨てた≪置換融合≫の墓地効果発動。自身を除外し墓地の融合モンスターをEXデッキに戻し1枚ドローする。≪シュトラール≫を戻して1枚ドロー」

 

 ドロー加速で龍姫の手札は4枚にまで回復。改めて盤面と手札を一瞥し──

 

「速攻魔法≪皆既日蝕の書≫を発動。場のモンスターを全て裏側守備表示にする」

「ぅぐっ……! でも、≪キラー≫は魔法・罠の効果を受けないから裏側守備にはならない! さらに自身のレベル未満のモンスター効果を受けず、特殊召喚されたモンスターの攻守は500下がる!」

「それは……ちょっと厄介──けど、解決札を引ければ良い。手札から≪スニッフィング・ドラゴン≫を召喚し、効果発動。召喚成功時にデッキから≪スニッフィング・ドラゴン≫を手札に加える。続けて魔法カード≪闇の誘惑≫。デッキから2枚ドローし、手札の闇属性──≪スニッフィング・ドラゴン≫を除外」

 

 ──動く。

 厄介な≪クラッキング・ドラゴン≫と≪デスペラード≫を無力化したものの、それでも攻撃力3000の化け物(キラー)が居る。あれを突破する手段を探しにデッキのカードをサーチ、ドローで探していく龍姫。

 そして──探し当てた。

 

「──永続魔法≪星遺物の守護竜≫発動。発動時の効果処理で墓地の≪ドラゴンヌート≫を蘇生。そして≪ドラゴンヌート≫を対象にモンスターゾーン移動の効果を発動し──≪ドラゴンヌート≫がカード効果の対象になったことでモンスター効果起動。手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚。デッキから≪ラブラドライドラゴン≫を特殊召喚」

「チューナーってことは……!」

「レベル4の≪ドラゴンヌート≫にレベル6の≪ラブラドライドラゴン≫をチューニング──この世の全てを焼き尽くす煉獄の炎よ、紅蓮の竜となり劫火を吹き荒べ! シンクロ召喚! 煌臨せよ! レベル10≪トライデント・ドラギオン≫ッ!!」

 

 龍姫の場に招来されるは三つ首の獄炎龍≪トライデント・ドラギオン≫。黎明期よりシンクロ召喚を用いるドラゴン使いの最強フィニッシャーを呼び出し、その熱に呼応するかの如く龍姫のボルテージも上昇。

 

「≪トライデント・ドラギオン≫の効果発動! シンクロ召喚成功時、自分場のカードを2枚まで破壊! 私は≪星遺物の守護竜≫と≪スニッフィング・ドラゴン≫を破壊する! そして破壊した数だけ追加攻撃ができる!」

「うっ──けど、今の≪トライデント・ドラギオン≫の攻撃力は2500! 私の≪キラー≫には届かない!」

「装備魔法≪団結の力≫を≪トライデント・ドラギオン≫に装備。これで攻撃力は1600アップし、今の攻撃力は4100!」

「余裕で超えてきたっ!?」

「≪サフィラ≫を攻撃表示に変更し──バトルフェイズ! ≪トライデント・ドラギオン≫で≪キラー≫に攻撃!」

 

 攻撃力をも超え、さらに3回の攻撃を可能とする≪トライデント・ドラギオン≫の業火が≪キラー≫へ迫る。

 攻撃力差は1100──何気に≪ツール≫の発動コストで800のライフを支払っていたヴァンガードの残りライフは200。この攻撃が通っただけで敗北必至。

 

「ダメージ計算時に罠カード≪パワー・ウォール≫発動! 戦闘ダメージ500につき1枚デッキトップからカードを墓地に送ってダメージを0にする!」

「でも≪キラー≫は破壊させてもらう!」

 

 ヴァンガードのデッキトップ3枚が飛び、超過ダメージをバリアを張るように守る。

 ≪キラー≫こそ戦闘破壊されたものの、未だ場には≪デスペラード≫と≪クラッキング・ドラゴン≫の2体が居る──裏側守備表示で。

 

「続けて≪トライデント・ドラギオン≫の二撃目を≪デスペラード≫に! 三撃目を≪クラッキング・ドラゴン≫へ!」

「ぐっ、破壊され墓地に送られた≪デスペラード≫の効果でデッキから≪ツインバレル・ドラゴン≫を手札に加える……! けど、≪クラッキング・ドラゴン≫はやらせない! 罠カード≪攻撃の無敵化≫発動! ≪クラッキング・ドラゴン≫はこのターン破壊されない!」

「チィ……!」

 

 ≪トライデント・ドラギオン≫の猛攻によりヴァンガードの場は一瞬にして焼け野原──寸前へ。

 場のモンスターは≪クラッキング・ドラゴン≫を残して全滅し、残っているのはペンデュラムゾーンの≪ツール≫と≪アセンブラ≫、表側の≪冥界の宝札≫のみ。

 

「……私は、≪トライデント・ドラギオン≫をリリースし魔法カード≪アドバンスドロー≫発動ッ!! 場のレベル8以上のモンスターをリリースして2枚ドローし、ドローした2枚のカードをセットしてターンエンド!」

「リバースカード2枚かぁ……!」

 

 攻撃力4100の≪トライデント・ドラギオン≫が居なくなったと言えど、未だに龍姫の場に≪サフィラ≫は健在。

 何度倒そうと試みても決して倒れず、逆にヴァンガードに致命の一撃を与えようとするデュエルは気が抜けない──

 

(でも──楽しい)

 

 ──が、自ずとヴァンガードは笑みを浮かべていた。

 途中でズァークという介入があったものの、今の2人は互いに背負うモノも賭けるモノもない、純粋な決闘(デュエル)

 一番最初に『神』を奪われて焦ったヴァンガードだったが、それはそれで『神』を相手に挑むというのも、また違った楽しさがあった。

 お互いに自慢のモンスターを繰り出し、倒し、倒され。

 圧倒し、制圧し、逆転され、また逆転して──その繰り返し。

 ただそれだけ。

 それだけのデュエルが、単純に楽しい。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 しかし、互いにリソースが尽きかけている。

 お互いの手札・場・墓地・ライフポイントの状況的にこれがラストターンになるだろうとヴァンガードは察した。

 そして自分の手札をじっくりと見て、フィールド・墓地の状況。

 相手の≪サフィラ≫、そして伏せられたセットカードを見て──

 

「手札から永続魔法≪マシンデベロッパー≫を発動! 自分場の機械族は攻撃力が200アップする! さらに速攻魔法≪リミッター解除≫発動! ≪クラッキング・ドラゴン≫の攻撃力を倍──6400にする!」

 

 ──動く。

 4枚の手札の内2枚を使い、相棒の≪クラッキング・ドラゴン≫を大幅に強化。攻撃力6400ともなれば並大抵のモンスターどころか『神』すらも超えている。

 

「最後に装備魔法≪エアークラック・ストーム≫を≪クラッキング・ドラゴン≫に装備! ≪クラッキング・ドラゴン≫が相手モンスターを戦闘破壊した時、もう1度攻撃できる!」

 

 過剰、と思われるほどの強化を≪クラッキング・ドラゴン≫に施す。攻撃力は『神』を超え、万が一≪パワー・ウォール≫や≪ガード・ブロック≫で戦闘ダメージを防がれても≪エアークラック・ストーム≫の二撃目がある。

 懸念点は龍姫がどれだけリバースカードで≪サフィラ≫に強化をするのか、だ。

 もしも『想定以上』の強化があったら敗北。『想定以下』であれば勝利──実にシンプルな結末だ。

 

 ヴァンガードは今までで一番息を大きく吸い込み──吐いて、深呼吸。

 呼吸と気持ちを整えて、強い眼差しを龍姫と≪サフィラ≫へ向ける。

 

「バトル! ≪クラッキング・ドラゴン≫で≪サフィラ≫に攻撃!」

 

 ≪クラッキング・ドラゴン≫が急上昇。≪リミッター解除≫により全身の駆動系が限界を超え、過剰稼働により悲鳴を上げる。口内に淡く緑色に輝く粒子を蓄え、その砲口を眼下の≪サフィラ≫へ。

 

「トラフィック・オーバー・ブラストッ!!」

 

 ヴァンガードの攻撃名宣言と同時に、緑色の極大レーザーが放たれる。対する≪サフィラ≫は微動だにせず。かと言って諦観している訳でもない。

 チラリ、と≪サフィラ≫が背後の龍姫に視線を移すと、龍姫は静かに頷き──決闘盤へ指を伸ばした。

 

「罠カード≪魂の一撃≫発動ッ! ライフを半分の100支払い──≪サフィラ≫の攻撃力を4000から今のライフポイントの差分、アップする!」

「──っ」

 

 ≪魂の一撃≫。

 窮地であればあるほど、自分モンスターを強化する逆転カードの1枚。それをライフポイント200の龍姫が使えばどうなるか──

 

「攻撃力は3900アップし──6400になるッ!!」

 

 ──その攻撃力は≪クラッキング・ドラゴン≫と同じとなる。

 同じ攻撃力となった≪サフィラ≫も対抗するように掌から黄金の光線を放つ。

 緑と金。2つの光が衝突し、その力は拮抗。

 

「≪クラッキング・ドラゴン≫は戦闘耐性がある──でも、それは≪サフィラ≫も同じ。墓地の≪祝祷の聖歌≫を破壊の身代わりにできる。だからこの攻撃は無意味。戦闘破壊をトリガーとする≪エアークラック・ストーム≫の条件を満たせず、私にダメージを与えることもできず──≪クラッキング・ドラゴン≫は≪リミッター解除≫の効果で自滅する」

 

 勝ち誇ったように──

 

「貴方の手札は2枚あって内1枚は≪ツインバレル≫。1枚は速攻魔法の対抗策があったかもしれない──けど、魔法・罠ゾーンは≪ツール≫、≪アセンブラ≫、≪冥界の宝札≫、≪マシンデベロッパー≫、≪ジャンク・アタック≫の5枚で埋まって、新たに発動することはできない──」

 

 口角を上げ──

 

「──つまり、私の勝ちはほぼ確定」

 

 ──龍姫はそう言い放った。

 

 そんな龍姫に対し、ヴァンガードは真っ直ぐに彼女を見据え──

 

「──それはどうかな?」

 

 ──不敵に微笑む。

 

「ライフを半分の100支払い、墓地から罠カード≪トランザクション・ロールバック≫自身を除外して効果起動!」

「なっ──」

「自分墓地の罠カードの効果をコピーする! 私がコピーするのは──≪転生の預言≫ッ!! 『お互いの墓地』のカードを2枚までデッキに戻す!!」

 

 瞬間、龍姫の顔が驚愕の色に変わる。

 手札も、場も埋まっていてはカードの発動はできない──だが、墓地のカードの効果の発動はできる。

 ≪転生の預言≫の効果を得た≪トランザクション・ロールバック≫により、龍姫の墓地に在った≪祝祷の聖歌≫がデッキへ。≪サフィラ≫の全身をほのかに覆っていた光が消え、破壊に対する術を失う。

 そして──

 

「≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」

『グオァッ!!』

 

 ──限界を超えた≪クラッキング・ドラゴン≫の攻撃が≪サフィラ≫を襲う。攻撃力こそ同じではあるが、耐性の有無が勝負の分け目。

 ≪サフィラ≫は悔しそうに目を細め、背後の龍姫に謝るように目礼。それを見届け──爆発。

 轟音が響き、フィールドには土煙が舞う。

 

 モクモクと濃い土煙が薄くなるとモンスターゾーンには≪クラッキング・ドラゴン≫1体だけが居るのみ。

 龍姫の場に──彼女を守るモンスター、ドラゴンは居ない。

 

「≪クラッキング・ドラゴン≫で、もう1度攻撃ッ!!」

 

 装備魔法≪エアークラック・ストーム≫の効果を得た≪クラッキング・ドラゴン≫が再び攻撃を放たんと口内に緑色の粒子をチャージ。

 未だ土煙が晴れ切っていない龍姫へ照準を合わせ、その姿が鮮明になった瞬間に撃つ──

 

「──罠カード発動」

 

 ──その、つもりだった。

 

「≪ヘル・ブラスト≫」

 

 その攻撃を放つ前に≪クラッキング・ドラゴン≫の全身が赤く光る。そしてチッチッ、と時計の針が進むような音まで発し始めた。

 一体何が起きているのかと≪クラッキング・ドラゴン≫はあたふたと困惑した表情でヴァンガードにその眼差しを向ける。

 

「≪ヘル・ブラスト≫は自分モンスターが破壊された時、相手の一番攻撃力が低いモンスターを破壊し──お互いにその攻撃力の半分のダメージを受ける」

「えっ、ちょ──」

 

 『想定外』。完全に意表を突かれたヴァンガードは焦るように手札・墓地を確認するが、対抗策はない。

 あわあわと慌てふためく≪クラッキング・ドラゴン≫を尻目に龍姫はニッコリと満面の笑み浮かべ──口を開く。

 

「私の≪サフィラ≫を倒したことは誇って良い──けど、それはそれでムカつく。だから、私と一緒に地獄に付き合ってもらう……ッ!!」

 

 直後に般若の形相となって。

 

「そ、そんな無茶苦茶な……!!」

 

 直後、≪クラッキング・ドラゴン≫を中心に大爆発。

 『ピギィ~!』という愛らしい悲鳴と共に、100しかなかった2人のライフポイントに1500のダメージ──両者同時にライフポイントが0を告げた──

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「正座」

「はい」

「はい」

 

 デュエル終了後。ヴァンガードと龍姫はグラドスの前で正座させられていた。

 

「何を考えているのですか? 『神』なんて使ったらどれだけリンクヴレインズに負荷がかかるか想像できない訳ないですよね?」

「こっちの人じゃないから知らなかった」

「まさか『神』を奪われるとは思わなかった」

「……まぁ、不可抗力な面があったことは認めましょう。ですが何ですかアレは? 先攻1ターン目に出しますか? 普通」

「出したかったから……」

「それで出せたら苦労はしません。ヴァンガードもヴァンガードです。もっと早く『神』を倒せたのではないですか?」

「≪デリックレーン≫と≪リミッター解除≫と≪レッド・リブート≫が来なかったから……」

「……まぁ、ドロー面は仕方ありませんね」

「何かその子(ヴァンガード)に甘くない?」

「突き詰めれば貴方の所為ですよ?」

「ごめんなさい」

 

 お説教タイム。2人の預かり知らぬところでグラドスは周囲にプロテクトをかけたり、厄介な輩(リボルバー、ゴーストガール)に嗅ぎつけられないようにと、あの手この手を尽くしていたのだ。それを知らぬ2人はあははうふふヒャッハーで決闘(デュエル)していたのだから、ここまでグラドスが怒るのも無理はない。

 

「ハァ……まぁ良いでしょう。それに長時間の決闘(デュエル)のお陰で、貴方の決闘盤(デュエルディスク)の解析も完了しました。この座標に調整すれば元の世界に戻れるハズです」

「本当……!? ありがとう超絶優秀有能AI……!!」

「いえ、貴方をこのままここ(リンクヴレインズ)に置いた方が危険だと判断していたので」

「確かに。私が居たらランキング1位になって序列とか色々と他の人の面子潰しちゃう」

「ポジティブシンキングが過ぎる……」

 

 ハァ、と本来はしないハズのため息をつきながら、グラドスは中空にコンソールを出現させ操作。少しだけタイピングをすると、何もない空間に黒い渦が出現。バチバチと電気混じりの黒い渦は如何にも不気味ではあるが、龍姫は気にすることなくその渦へ向かって一直線。そこで黒い渦に入る前に──踵を返す。

 

「ありがとう。今回、私は何の苦労もしていないけど、楽しいデュエルができた」

「それはこっちの事故みたいなモノだったから。でも、私も楽しいデュエルできたからありがとう」

「何の問題もなければ来て頂いても構いませんが……今回は偶然と偶然が重なった事象ですからね。砂漠で針を見つけるようなものですので、次はないかと」

「そっか……それじゃあ──」

 

 穏やかな笑みを浮かべ、龍姫はそのまま後ろ歩きに黒い渦へ。

 自分の胸元ぐらいにまで手を上げ、それをヴァンガードとグラドスに向けて小さく振るう。

 

「──またね(・・・)

 

 そう言い残すと、龍姫と黒い渦は自然消滅。まるで最初から何もなかったかのよう。

 

 残された2人はお互いに顔を見合わせ──苦笑。

 

「またねって──砂漠で針を見つけるぐらい難しいって言ったばかりなのに」

「色々と破天荒な人ですから、その針を見つけられなくもなさそうなのがまた……」

「そうだね。でも──」

 

 ヴァンガードは静かに龍姫が消えた場所へと歩を進める。そこで手を振ったり、足を出してみたりとするが、やはり何もない。

 縁は完全に断たれた──そうは思っていないと信じて──否、確信しているのか、龍姫の去り際と同じような笑みを浮かべる。

 

「──その『また』があったら嬉しいな」

「……そうですね、今度は私が相手をしましょうか」

 

 ヴァンガードの笑みにつられてか、グラドスも目に見えない笑みを浮かべる。

 

 いつかの『また』があれば──

 2人は胸の片隅にその望み──『希望』を抱く。





今回は素敵な提案をして頂いたウボァーさんに心から感謝しています。
お陰様で個人的には好き放題エンジョイさせるだけのデュエルを3つ書けたことが楽しく嬉しかったです。

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