「選ばせよう」
カナードが明けの砂漠の扱いについて冷たく言い放った言葉だ。そもそも正規の捕虜でも無いから一般的な扱いをする義務は無い。第一、水と食糧からして養う分は到底無いからやむ無しだ。任されて艦を降りて虎と話し合いをするなりなんなり好きにしろと言ったが?
「俺達に虎の飼い犬になれと言うのかっ!?」
「違う、ザフトも連合も同じと言い放つレジスタンス等を艦内に置くのは危険だからこう言っている」
事実だ。事情聴取でサイーブが言い放った事であるが、元々そういうものだと見ていたのがカナードが主に対応している理由だ。対話をしてもマリュー達ではその辺りには上手く対処は出来ないとした。
「そもそも飼い犬とは何だ?戦うなら戦うで勝てば良いだけだ」
まんまと黙らせる事に成功した。そう、勝てば良い・・・・つまり、反論するなら勝てないと認めてると言う事だ。
彼等の頭に血を昇らせる言い方をするカナードの狙いは協力要請を出させない事にある。仮に協力した場合は虎よりはマシ程度に見なされてる事が理由で連携は取り難く、それを踏まえての戦術面の問題である。この先、停戦が偽りだった等の展開となりザフトと戦闘になるとしてストライクにブリッツを前面に出して戦うと仮定した場合、只でさえ撹乱になるか否かな者達が猪突猛進して自分達の足下で無理をしている図となるであろうし、それでは囮になってもらうかどうかな使い方しか出来ない。
最悪なのはレジスタンス達を庇う戦い方をして相手に見抜かれたらそこを狙われかねないから厄介と迄考えねばならない。
(俺やリンにバジルール少尉ならともかくキラがそんなのに耐えられるワケが無い。連中がバクゥにでも踏み潰されてるのを尻目にザフトのMSを倒してるとしたら、それに集中するしかない状況だと言う事で後に響く)
仮にストライクしかまともな戦力が無いとしたらそうなるだろうが、今は情勢が違う。第一にアークエンジェルはアフリカをどう脱出するか以前にするかどうかすら決めかねている。
ユニウス落下影響でアフリカのこの辺り以外はどうなっているか不明。そのお陰で停戦したのだから無理に脱出を試みたらザフト側が襲い掛かって来るかもしれない。バルトフェルドは話が通じるが他はどうか知れないのだ。
「最後に、お前達の潜伏場の物資貯蔵場を攻撃したのが虎かどうか不明だから対話から人道的な支援をしても無駄に終わるだけかもしれん、ザフトのMSを使ってるからってザフトとは限らないのだ。他に言う事は無いならさっさと出てけ、襲い掛かって来たのにこうする事の意味は考えてくれよ?」
言われたようにするしかないゲリラ達の姿にまんまと厄介払いに成功したカナードは彼等が歯軋りしながら退散し始めるのを背にして退散した。
【情報を吹き込んだのが誰か聞き出さないのも策の内なのだとしながら】
そして、明けの砂漠が艦を降りた後にカナードはキラと今後の打ち合わせを始めた。
「そう言うワケだ。俺達はこの先にどうするかはともかく機体の調整を万全にするのが急務になる」
「けど、大丈夫なんでしょうか・・・・アフリカ以外がユニウス落下でどうなっているかわからないのを除いても彼等だけで砂漠の虎と戦うなんて」
「うむ、連中が当面考えてる策が上手く行かなければ大人しくしてるしかないさ」
「【策】・・・・それは一体?」
「アークエンジェルを乗っ取る事だ」
「え、どうやってです!?」
「その事についてだが、最初にキラよ。俺は大西洋連邦の人間に見えるか?」
「え、え・・・・と、どちらかと言えば違う地域の人に見えます」
「そうだ。明けの砂漠のような連中は何やら毛色が違う俺みたいのが目を離した隙に警備兵に何か探りを入れる可能性がある。どんな形にせよ裏取引とやらを持ち掛けさせよう誘い、連中の中で何やら頭が回りそうなのから残りたがるのを潜入させておきつつ退散する際に未確認のフリをしてもらう、有りがちな手段だが?」
『カナード君、作戦成功だ!管制室と見せかけた倉庫にランボー姿の男と金髪の何やらうるさいのを閉じ込めた』
「と言う流れにしたワケだ。兵器を使って殺し合うばかりが戦争ではないのだ」
チャンドラからの通信が来るまでの流れにキラは唖然としていた。MSを扱えれば良いワケではない実例を見れたからだが、自分とそう変わらない年齢のコーディネーターはどう育って来たのだろうとする目を向けた。
そんなキラに以前のカナードなら激昂しただろうが、その気配が殆ど起きない自分に複雑な心境であった。
(それに、俺も連中を悪く言えはしない。策が上手く行ったのは【他を下に見れる機会】に飛び付いたから、少し前の俺を見てるような気分とはこの事)
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「この卑怯者共めっ!」
拘束されて喚き散らす粗暴な女の子に周りは辟易していた。カナードの奨めで現場に赴いたキラも言動には引いていたが、気になるので近付いた時。
「お、お前・・・・!」
「あ、君・・・・あの時にモルゲンレーテに・・・・」
「お前が何故、パイロットスーツなんか着てこんな所にいる!?」
警備兵の隙間を潜って殴り掛かるカガリの手をカナードが掴んで取り押さえた。殴らせない方が都合が良いのだ。
「何だ知り合いか、おい【キラ】・・・・お前は、この娘・・・・いや、別に良い。取り調べ室で吐いて貰う事項追加だな」
ランボー男の反応が無いのにしか関心を向けてないとは知れないカガリは尚も喚き散らすがそれも策の内、精々好き勝手にしろよとカナードは呆れ混じりに内心ほくそ笑んだ。
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取り調べでカガリは唖然としていた。自分達が何故かバルトフェルドとの会談内容を誤解する情報を吹き込まれたのだと指摘された。何故会談等を了承したのかと聞くと、担当を任されたムウが淡々と告げた。
「ザフトと共闘してユニウス7破砕の支援やった直後な上にその画像まで出回ってるからなあ、会談を無下にするのわバツが悪いし火種にはなりたくねえのさ」
「共闘した理由は何だっ!」
「答えられないな、第一に守秘義務ってもんだし・・・・」
「あの白紫の機体はどうしたっ!」
【白紫】
しつこいと言いたいが、ムウは理解した。カガリの声色からして名前は知らないかもしれない機体に何か思うところがあるのだろう、ここは・・・・として。
「クルーゼの機体と共闘してユニウス7の破砕を邪魔する奴等を見事に蹴散らしたスーパーエース様に関心があるようだが、何やら敵さんに向けるような言動だな。一応はユニウスを砕く為に働いてくれたんだから感謝くらいはしなよ、それとも砕かれないまま落ちてくれたら良かったのかい?」
何やら黙った事で当たりだとした。執着があるが、流石に言った通りの事を否定する迄にはなれないのだろう。
(けど、このお嬢ちゃんはミラージュ・フレームに関心があるようだけど、まさか自分が欲しいワケじゃないよな、もしくは・・・・)
ムウの疑念については、ミラージュ・フレームに実際関わっている者が解き明かし始めていた。
「おい、贅沢は敵じゃないか。偏った食い方は太るぞ」
このリン・アスカ!仮にもマユに見栄を張りたくて運動や節制をしてたから痩せてるんだ。野菜が足らんのにこれは・・・・と思えるくらいのものがテーブルに置かれていた。
「口の聞き方に気を付けよリン。二重の意味で命の恩人が食事を共にと誘った時に対するものではないな」
悔しいが事実だ。何故かストライクに攻撃されて機体のコントロールを取り戻したら、目の前にいる人物に助けられた。
【ロンド・ミナ・サハク】
オーブの五大氏族の御方らしいが、どこだか知らない場に連れられて、怪我は無いか聞かれた迄は良い。その後に宛がわれた部屋で休んでたら何気に疲れが溜まってたらしく爆睡してた。
そして、部屋に乱入して来た謎の一団に襲われ三人を素手で倒した後に残った一人が銃を向けた。どうしたものかと思ったら、ミナさんが真横からそいつのこめかみを撃ち抜いていたんだ。命の恩人は否定出来ない。そして、この状況だ。
しかし。
【マトンのロースト】
マトンを丸ごと時間と手間を掛けてローストしたものが特大ステーキに野菜を義理で添えただけのもののように皿に乗せられてるが、このサイズでマトン特有の匂いがしない、どうやら匂いの元になる脂肪を取り除いた後に相当上手く調理をしたな。添えられているソースもかなり手が込んでいるのが見ただけでわかる。苛立つ気持ちを抑える為にも食べたのだけど。
「~~?」
嫌な匂いが無いのはわかるけど、これはとして表情に出さないようにした。
「どうだ。噂によるとかなりの料理上手と聞いたから手の込んだものを用意したが?」
「脂肪をローストしながら流して、掛かっているのはそれを漉した肉汁に出汁やお酒に醤油等を加えて作ったソースですか・・・・経験が無い材料については答えられません」
「ふむ、流石だ」
食後に俺は奨められるままにどこの施設なんだ?と言いたい大浴場を使わせて貰って身体を洗ってたが、後ろから怖気を感じた。
「ほう、綺麗な身体をしておる」
「何の真似だ!」
「裸の付き合いとやらだよ、これなら腹を割って話せよう?」
堂々と身長以上に規格外な肢体を隠す事なく胸を張って乱入して来たとしか言えん、デカいだけで決まると思うなと言いたくてもオーラからして違うからどうもならん。
「どうした。見せられんのか、まさか貴様は本当は男だとでも?」
「何の冗談だっ!俺は女・・・・っ」
振り返ったら片手を掴まれて釣り上げられていた。やっぱり只者じゃない・・・・と気を取られた時。
【俺は敗北をした】
「すまぬ、余はお前に同じ女として素直に謝罪をする」
見られた。並んで入浴するミナ様は申し訳なさそうに俺に告げた。
「しかし、無駄毛を剃ってる風でも無かった。家族相手にはどうしていた?」
「手製の着け毛をしてた」
そうだ。俺はマユと風呂には入ってたがせめてもの見栄があるんだとして、人生で最も情けない工作をしていた。
「まあ、気は晴れたのではないかな・・・・【味覚のついで】になら便宜は図ってやるぞ、調べた限りなお前にしては不自然だったからわかったぞ」
見抜かれていた。あのマトンのローストを食べた時に匂いだけで判別出来た要素の大半だけじゃなく、肉の味も感触も舌では半分は感じられなくなっていた。口振りからして、俺なら知らない味でも多少は推測出来るって調べてたから違和感抱いたんだろうなと思った後に事情を話してくれた。
正直、Xナンバーを巡る裏には腹立たしくなるが。ユニウス近くで戦った連中の言い分とほぼ同じだし、俺についての事に話題が移ってからは聞くしかなかった・・・・ヘリオポリスでマリューさんを口封じに殺してたら今頃はとせざるを得ないな、またマユに救われた。
「ミラージュ・フレーム・・・・正確には本来は後にするハズが急遽に、お前が乗れば即座に戦えるように仕上げてあった機体、あれの正体はアストレイと呼ばれるシリーズのプロトタイプ製造に便乗して本来のと同じようで違うコンセプトにしつつ開発したMS、特に違うのは精神感応システムとでも言う類い、いやそれすら生易しいものが積まれているタイプな点だ。貴様は密かに選出したパイロット候補の中で適任過ぎたのだ」
「選出・・・・オーブにあったゲームですか?」
「うむ、その後にも他に密かな検査をしていたようだな、だからヘリオポリスでアレに乗るよう誘導された。その前にお前を消そうとしたのまでいる経緯でな」
手が込んでるな、じゃあ何故こんな事に。
「経緯が問題だから様子を伺っていたのだ。救助したのはストライクに攻撃されたのも含めて偶然だ。機体を調べたところユニウスに向かう前にXナンバーを二機を瞬時にねじ伏せた時にシステムがお前の力に追従しきれず。リミッターが半分近く破壊されてしまった。覚醒とやらが計算を遥かに越えていた。今のままでは味覚だけではなく、機体に乗る度に何かを少しずつ失うだろうな」
「それも知っていたんですか?」
「最近だ。故に詳細はまだ完全にはわかっておらぬが、お前達からしたらお偉いさんとやらが大事な御輿や手足となる者をアレに乗せたくても不備を起こさせるワケにはいかん、お前は差し詰めあの機体に積まれたシステムの安全確立を成立する為のモルモットだな、行方不明と思わせた方が良いから、暫くはここにいるのだ」
「けど・・・・」
「妹の元に帰らねばならんと言うか、下手にアレに乗り続けて人間で無くなって行く身体で妹の傍にいる気か?」
【人間で無くなって行く】
その言葉に怖気を覚えた。それでも俺は。
「安心せよ、一応はお前の妹が乗る艦に不備が起きないよう手を回す。余はお前の才能に惚れ込み愛しているだけとされるべきだろうが、それでもお前の味方だ。命の恩人として命令するぞ、お前は全てが終わった後に治療を終えた身体で妹の元に帰るのだ・・・・ミラージュ・フレームが近くにあるだけで妹は危険だ。何故ならマユ・アスカはお前の次を争う候補だった。だからこそ『奴等』は機体のOSをお前以外に扱えないように仕上げたのだよ」
ミナさんの言う事は全て真実としか感じないくらい理解出来てしまった。首謀者の正体、陰謀に巻き込まれた悔しさや怒り、何よりも俺はもうマユを守るためだけに戦う事は出来なくなったんだと認めた瞬間、何年か振りに泣いていた。
前書きに一番嬉しいのは体調やメンタルとか気遣ってくれる人。