イングリットは自分の名前は偽名等ではないがユーラシア連邦所属のコーディネーター辺りからはあこぎと思うべきな流れと自覚している。一つ私心を含めているが使命は果たさねばとアークエンジェルのブリッジに案内されたが、何かがおかしいと感じている。
この艦にいるハズの者が自分をまるで意に介していない。探りを入れたので【同族の気配】で気づくハズとしたがと・・・・そして、未知の感覚があった。
(何か【直接的】ではない。近くにバリアみたいになってる存在があるような・・・・まさか、私にとってのラクス・クラインより・・・・注意すべきな何かが・・・・それは、一体・・・・っ!?)
イングリットは考えるのを止めた。中途半端で不用意な事はいけないとしたが、実際は違う。
【本能がその先を拒んでしまったのだ】
今は任務を果たす事にしたが、それが【逃避】に等しいと理解は出来ないのが彼女の悲運であった。
「私が艦長のマリュー・ラミアスです。重要なメッセージを持って来たようですが?」
「はい、何故か手書きのではなくこのディスクに記録された映像を先に拝見すればわかるとして。安全をお確かめ下さい」
チャンドラが艦の再生機ではなく、一般家庭のレコーダーで再生可能なものだと調べて怪訝な表情を浮かべた。そして、私物の再生機で試しに再生をしたのだが、映ったものは想像を絶した。
そして?
「ぬぁぁあにをやってんのよおっ!あんのバカ姉はあああっ!!」
ブリッジに連れて来られたマユが見たのは、数日前らしい時期に録られたプラントのアイドルコンサートであったが?
【アークエンジェルのクルーからは本物としているラクスと行方不明なリンのデュエットである】
「プラントの歌姫さんと一緒にドレス姿で歌って、踊って、乱入者を凝らしめてな新人アイドル【リン・ヤヨイ】ちゃん・・・・心配してたら斜め上の場でやりたい放題とは恐れ入ったぜ」
「これを届けに来たイングリットさんも上層部の意図も何もわからずに目を丸くして対処不可能だから、一旦退室してもらってマユさんに確認してもらいに来たけど、本当にリンさんだったのね」
「間違えるワケないです。病人みたいに白い肌の色からスレンダーグラマーとやらな肉付き具合までお姉ちゃん以外の何でもないわ!スカートすら近年履かないでいた駄目女として目に焼き付いてますよ。帰って来たらお仕置きでぶっちめてやる!」
極秘回線で見ていたキラとカナード、特にリンに攻撃してしまった負い目を持つキラすら言葉が無かった。何故プラントにいるのかはさておいてリンが生きていたのは嬉しいのだから、マユにお仕置きされる際にやられ過ぎないように祈ると決めた。ぐぬぬ顔でリンのコンサートと終了挨拶からおまけトークまで見終えたマユを退室させた事マリュー達はイングリットに改めて話を聞くことにした。
だが?
「まあ、それはそれは・・・・けど、リンさんが無事に生きていて良かったではないですか」
部屋に戻ってミーアに事情を話したマユは尚も怒りが収まらない、離れていたイングリットすら気圧されたので後回しにした。戦力ではない子供に深入りはしない事に決めたのだ。
【それが、仕組んだ者達の計算通りとなるとも知らず】
「ねえ、ミーアさん。聞きたい事が」
「何ですか?」
「・・・・【アコード】って何ですか?」
息を飲んだ。イングリットの意識がそれてるのも計算しての流れ、ラクスを見据えるマユの両目は光を無くしたようになっていた。兵器を扱う以外でこれが出来る意味すら知っている。何故アコードを知っているのかと聞き、説明に納得したラクスは身体を畏怖から嫉妬と歓喜でゾクゾク震わせてしまった。ラクスとて、かなりの期間同室で過ごしたアスカ姉妹、特にマユの抱える【闇】に気付かない程に愚かではないのだ。
そしてプラントでは。
「確率は上々かと」
シーゲルとデュランダルの計算では、十中八九アークエンジェルの中にいくのはアコードの中でと言うより普通の社会でも良心的とすべきイングリットであろう、他でも構わないのだが一番はやはり彼女だと。問題はそこくらいである。
「しかし、リン・アスカのコンサートを見せた場合に妹さんしかわからない仕草のサインや言葉の暗号をカメラに向けての賭けか・・・・」
「いえ、話によると勝率が高過ぎて賭けとは言えませんな」
【やれますよ】
今回の件をリンと打ち合わせた際、何か映像を見せた者へ暗号か何かで通達出来れないかと贅沢な事を言ってしまったのだが、事も無げに返された。リンの言う通りならマユにこう伝わっている。
【マユ、ミーアさんに【アコード】って何かを聞いてくれ】
自分達なりにオーブ国内の違和感に気付いて度々やっていた二人のやり取りの確かさはレベルが違うと感じた。リンは既に勝ちと踏んで次の準備をしている。
それから二日後、プラントにいるシーゲルもほぼ狙い通りとみて間違い無い流れになる確認が取れた。
シーゲルは危機迫る表情であった。早期解決になるならそれで良いのだがと。
「訓練された特殊な立場なら成し得る流れ、だがアスカ姉妹のは違う。それにしても・・・・まさか【SEEDを発現出来る者】が我等の管轄外で生まれていたはね、しかも【仲良し姉妹】の両方・・・・単に二人が因子持ちなだけでは意味が無かったところだ。これが、どんなに遺伝子を弄っても豊かな暮らしをさせても当人達が積み重ねないと真に掴む事はできない類いな【家族の絆】とやらなのかな・・・・【最強】と銘打つに相応しい到達点だ」
「はい・・・・ですが、それで良いと思います・・・・【あの者】に鉄槌を下すのに最適です」
【あの者】
(デュランダルよ、そこに私や君は含まれていないのなら・・・・君も鉄槌を下されるべきだぞ)
シーゲルの意図を知る術もないでいたアークエンジェル側には微妙な空気が漂っていた。何故かリンのある意味でらしい部分があるバトルライブ突入のコンサートを収録したディスクだけではなく、予定を変更する為の手書きの書があった。イングリットの案内でそこへ向かっていた。
(何故、こんな事に?)
イングリットは、本来いるべき場が準備不足であり【ユニウス落下の被害】を受けてしまっている。だからこそ、何故か協調し始めたユーラシアと大西洋の両連邦の意図を探る為に茶番担当に派遣されたがシーゲルにとっては狙い通りなのだ。予期せぬ事態で甘さを捨てたシーゲルこそがイングリットの天敵であると予想だにしなかった。
そう、イングリットがいる場のどれだけが把握しているかは知らないが、少なくともシーゲルが死亡するくらいの事態になってから動くべきだったのだ。
【それ無しにしてもシーゲルはアコードの恐ろしさ以前に短所を知り尽くしていた】
それを理解していない事からの重圧をイングリットは無意識に感じていたのだから。
「あ、あの・・・・見習い兵でコーディネーターだからと気を張るのはわかるがな、私とて機械や鬼では無いのだし、困ったな・・・・」
イングリットは掴み所が無いので、基本ブレないとされるナタルが話し相手になっていたがマリュー達からしても計算外な事態になった。
元々、自分なりに考えを及ばせてはいたが、ムウの身の上話しに思うところがあった結果、本人も仕事以外で例えば子供の相手をしたりすると、どうも厳しくは当たれないとする自覚がある時な状態になっていた。イングリットをおかしな流れに巻き込まれたワケありコーディネーターの少女と大いに誤解をしているのだ。
客屋代わりの休憩所で事情を聞いているイングリットであるが、代々軍人の家に生まれた堅物と言う情報とはかなり違うと思って戸惑っていた。
「気遣いはありがとうございます。ですが、この後に到着する場では貴官らもお覚悟をするべきかと」
ナタルも意味がわかる。針の筵のような気分の者を気遣う余裕すら無くなるかもしれないのだ。そして、付近に到着した。
「ここが指令にあった場・・・・【ディオキアの研究所】ですか」
「えぇ、何でも【ブルーコスモス】に所属する派閥が以前から帳簿を穴だらけにして得た資金で建造してたらしいわね、ユニウス落下の混乱で不振な動きがあったので調査するように、もしも・・・・もしもだけど、地球とプラントの【休戦】が実現する場合、不穏分子に妨害をされたら厄介だから今の内にってね」
誰もが複雑だ。ユニウス落下の惨劇を機に休戦してくれるならそれは願ったりだが、地球市民の感情はどう作用するのかと。途中の哨戒部隊には破砕作業に尽力したと各国に伝えられた二機の片割れが艦内に無いとも知らないで複雑な目を向けていた者もいたが、真意を問うのを躊躇っていた。
そして、万が一の為にカナードと一応は協力態勢なイングリットが調査に先行、キラは【調整中の為に】ストライカー無しのストライクで基地周辺の警備。ムウは砂漠の基地で回収した地上用戦闘機【スピアヘッド】に乗って警戒任務に就いていた。
「おぉ、こんな時に複雑だが。やっぱり空は良いよなあ・・・・っ」
ムウもそれなりに地上での戦闘機に乗っている男だ。実戦では無い場で地上の空を飛んだ時と空から森林や海を見下ろした時の感動は忘れようは無い。
(機械や乗り物ってのが見せてくれるのは、本来はこういうのであるべきなんじゃね?)
クルーゼとのやり取りを考案する内にムウは母を思い出していた。確かに父やナタル辺りに言わせれば場違いな思考をしていた女だったのかもしれない、人の優しさだけでは世の中渡り合えない見本だったのかもしれないとした時であった。
「何だ。森林に何かが・・・・まるで・・・・って、アレ【バクゥ】じゃねえか!」
ーーーーーーー。
「何ですって!バクゥが一機、研究所に向かってる?」
アークエンジェルでは、警戒はしていたが何故か一機で突貫してくると言う報告に戸惑っていた。
「攻めて来るにしては不自然、まさか・・・・っ!ストライクに連絡!相手は不味い部分を探られない為の基地破壊が目的かもしれないわ、爆発させないか一思いにコックピットを潰して撃破するように、カナード君に連絡を!」
ブリッジクルー達はマリューの言う事を理解した。確かに聞いた流れが本当なら不祥事の証拠隠滅に来てもおかしくはない、何かナパーム等を装備している可能性がある。だが非情な戦いに向かないキラだけでは一思いにやるには不安が残る。カナードにフォローしてもらえばと連絡したが?
『アークエンジェルか、丁度良かった。イングリットの様子がおかしい!施設内のものを見たら・・・・お、おい落ち着け!』
『いや、嫌ぁぁあああああっ!』
通信機越しな声が恐慌状態の見本のような声色だった。一体、何が?とした時に通信が途切れた。弾みで壊してしまったのかとしたがその通りであったのだ。カナードがやれるのはイングリットに打撃を加えて沈静化する事だけだったが、予想より早く外では戦闘が始まった。
「突っ込んで来た?」
何処のか知らないバクゥは高速移動形態のまま、ストライクに正面から突っ込んでくる。キラは足を止めようとバルカンを撃つが、被弾しながらも突っ込んでくる。ストライクを飛び越えようとしたようなので、空中でシールドで受け止めたが、強化されているのか知るのよりパワーがあるだけではない、後先考えているのか疑問な程に推力全開にしている敵と空中で押し合いになったのでライフルを鈍器のように使って弾き飛ばしたが?
「え、まだ来る!?」
空中で四足形態になりながら体勢を整えて再度突っ込んでくるので、組み着かれて人間と大型の獣が生身で取っ組み合いをしているような戦いになる。巨体通しが地面を転がって行くので轟音が周りに轟く、モニターしているアークエンジェルクルーも唖然とする形になった。
「な、何をする気なんですか!事情を話して下さい」
『離せ、離せよ・・・・母さんが、母さんが・・・・死んじゃうだろ!』
『母さん』
接触回線を開いたキラからしたら?
【研究所に突撃しようとする理由が母さんが死んじゃうから】
ワケがわからなくなるが、その内にマウントを取っていたバクゥの背中に小さな爆発が起きた。ムウがタイミングを図って開始した援護射撃が命中したのだ。
『今だ坊主!』
「う、うわあああっ!!」
キラ自身もこの異様な状況から抜け出たかったので、逆にマウントを取りつつストライクの両手に握らせたアーマーシュナイダーをバクゥの喉元に突き刺した。暫く火花が散った後に機体が沈黙した。まるで素手で猛獣と戦った末に刺し殺したような恐怖心を感じる。キラもムウも、戦いをモニターしてた側も、言い様の無い沈黙に暫く支配されてしまった。
イングリット、詳細は続きでな要素の苦いデビューで苦闘開始です。