「アスランが隊長としてやっていけるか不安と言うのかね?」
ハインラインに接触して指定日を待つクルーゼは休暇中の【元副官】アデスとプライベートで会って喫茶店に入っていた。アデスも言った通り、先日の海賊にしてやられてイージスを損傷させたアスランは隊長としては個人プレーに走るし気遣いに欠けるとして危機感を持った。外見の胡散臭さ以外は自ら動きがちなのを含めても隊長に相応しい振る舞いをしていたクルーゼの後釜にしては不安どころではない危機感を抱いて相談しに来たのだが?
「クルーゼ隊長、いえ今はクルーゼさんとでも呼びますが・・・・いつから、そんな趣味に?」
「何だ。自分の分が欲しいなら普通に注文したまえ、たまには悪くないぞ?」
クルーゼが食べているのは、お約束通りな外見のショートケーキであった。ユーモアのセンスは多少あるにしても、冗談ではないようだ。
「アスランに関しては、ミゲルやニコルのような者がいてくれなければ勉強やMSの操縦は出来ても隊長には向いてない男だったとするだけだ。ザラ委員長は元々はアスランが軍人になる事を望んでなかったようだし、上手く休戦にでもなったら潮時くらいかな」
バッサリ切り捨てたが、アデスも言われた事に気付かないような男ではない、そもそも兵士として優秀なら指揮官として優秀なワケではないので選択肢の一つだろう、だがクルーゼはアスランの気負いと言うより苛立ちを滲ませている原因は知っている。
【キラに接触出来る機会が無い】
アデスには悪いが、暫くこのままでとした辺りでおかしいと考えた。
【都合の良い駒のハズだったのに鬱陶しい思いをさせてしまっている負い目を感じている】
ここは話題を逸らそうとしたが、それがどうなるか考えられないのもクルーゼであった。
「アデス、アスランやニコルの話題で思い出したので、一つ相談だが・・・・ニコルより少し年下くらいの【少女】が喜びそうな物は何か、君に良い知恵は無いかね?」
「・・・・は??」
予想外過ぎる問いにアデスは野太い声を出した後に空いた口が塞がらない顔で固まった。含むものはあるにはあるクルーゼだが、アデスから見たら真剣味しか無かった。
その頃、地球ではクルーゼが把握していない部分からの事態が動き出していた。
「な、何なんですかこれは!?」
「どうやら、他にもこういう場があって・・・・この研究所は【ロドニア】辺りに移転する前だったようだな、加えてユニウス落下の混乱で暴動でも起きたようだ」
キラはカナードが持ち帰ったデータで見る研究所内の光景が信じられ無かった。イングリットがショックを受けていたのはこれが原因とされる映像をブリッジで見ていたが、ナタルですら現実としたくはなかった。
研究員らしき者達が惨殺され、何かの標本にでもされているような子供達の脳髄、他にも見るに耐えない惨状だ。
ディオキアも被害を受ける前は海辺の美しい街であったハズが近くにこんな恐ろしい施設があった等とする空気の中、淡々と語るカナードは研究所の内容を説明した。
「遺伝子操作を忌み嫌う連中は、これを選んだのさ。ナチュラルの肉体を薬物から精神操作の類いで強化してブーステッドマンやエクステンデットと銘打たれた存在に改造している。MSパイロットと言うより生体CPUとしてな、誰か噂くらいは聞いていただろう?」
ナタルが目を逸らした。真実と理解出来ても受け入れたくはないのだ。
「そんな・・・・こうまで、こうまでしてコーディネーターの排除をやりたいんですか、ブルーコスモスは!」
「そうだろうな・・・・非難染みた目を向けてくれているが、今更じゃないか・・・・【コーディネーター側はこういう事をやってないとでも】?プラントには【サーカス】と言って、これと比べればどうかはわからんが、傍目には非道な研究くらいやる場があると聞いたぞ」
聞く側は確かにそうだと苦い表情になった。
何度も思ったが、初期の遺伝子操作ブーム以降で注文通りではない、又は自分達が頼んだのを隠蔽する為に捨てられたコーディネーターは多いと聞いたが、それ以前に遺伝子操作を研究し始めてコーディネーターを産む技術を開発した側がこれくらいなレベルの非道をしていない保証は無い。だがムウが堪らずにと言うより聞いておかねばならない事を切り出した。
「博識で冷静なのは結構だが、そうも淡々と言うんじゃないよ・・・・若さに似合わないぜ?」
「キラやアスカ姉妹と違って【親ガチャ】とやらに外れを引いた側だからな、このレベルの現実くらいは目の当たりにしてるんだよ」
カナードの生い立ちは初対面の時に聞いている。
【捕らえられて実験動物扱いされていた】
アークエンジェルの大人達は、カナードがキラを見る目が当初厳しかったのは、普通に暮らせていた側との落差としていたのだ。キラとてフレイに言われた事が頭にあるので自分も下手をしたら目にした光景の中にあった脳髄の一つのようになっていてもおかしくないと考えてしまえていた。
「とにかく、データをまとめましょう。指令を送った御方の意図が連合内の不正を暴く為だとする可能性もあるハズよ!」
楽観論で逃げの思考となるかもしれないが、マリューのまとめが正解ではない確証も無いのだ。それに、イングリットと捕虜にした少年兵の様子も気になるとしてクルー達は行動を開始した。
イングリットはカーテンで覆われたベッドに寝かされて目覚めてはいたのだが、悪く言えば狸寝入りで様子を見ていた。
【自分に何が起きたのか?】
研究所の中の光景は知識にはあった。自分達はあれ以上に非情な手段すら辞さない覚悟すら説かれて育ったハズなのに・・・・原因は一つしか考えられ無かったとした時に何故か乗っていた学生達が下働きの一環で医薬品等を届けに来たが複雑な様子の者もいれば、この場にいるのが自分ではなく他の同胞でなくて良かったとする言動と内心の者がいた。
『ふん、何か地獄に仏な協力者と思ったら無様ね!リンのように鬼みたいに強いコーディネーターと思ったら・・・・』
『ま、まあ良いじゃん。コーディネーターだってピンからキリとか言ってたのはフレイなんだしさ?』
【生まれてから最大の屈辱】
卑屈を絵にした内心が見て取れるナチュラル等に溜飲が下がる思いをさせているのを理解出来て涙を堪えていた。自分はコーディネーターを越えた存在なのにと、訓練で出た数値だけでなら最上級とされるコーディネーターより遥かに上だ。
だが、ならば改めて何故あんな事になったのかと考えてしまった。
『言うなよ、まだ寝てる女性もつい最近までキラみたいに普通に過ごしてたのかもしれない』
『ちょっと、医務室で騒がしくし過ぎちゃダメでしょ。サイみたいに勉強したりするのが良いわ』
退室して行く学生の中でトールと言う名の学生の声が何故か恐ろしく響く、能力を使わなくてもわかるがトールからは善意しかない。それだけなのにとした時。
(・・・・ふん、何を勉強してるのかともかくね。遺伝子操作されてる側はどうやって勉強してるのかしらね。勉強出来るだけで本番や苦境には弱いんじゃない?)
フレイの内心の声を聞いて声を出すのを堪える。自分がイレギュラー的な思考を向ける対象をそんな風に見られてと思った時。
(何故、私はそんな・・・・違う!【オルフェ】はそんなレベルの努力をしているような者では断じてない!・・・・何故、何故なの?)
『それは、貴女が気付いているからではありませんか・・・・【わたくし達の欠陥】を』
「・・・・ラクス・クラインっ!」
「いえ、私はミーア・キャンベルですわ。根回しはしましたからクルーの方々に聞かれる心配はありません、お話をしましょう」
唐突に現れてベッドの横の椅子に付添人のように座るラクスに対して茶番をと言いたいイングリットだが、人の事は言えない。そもそも、何故この場にいるかの推測はあるが・・・・自分は彼女をどうするべきか理解している。
「連れて行きたいのなら構いませんが、わたくしは【毒親】には従いませんわ」
「ど、毒親ですって?何という・・・・」
「何をおっしゃいます・・・・どのみち貴女のように【何故かあるべきでない感情を芽生えさせた欠陥品】が存在する時点で明らかではないですか、第一に運用者に毒親は不適任と思えるわたくしの方が【デスティニープラン】の運用を真面目に考えていますわ」
呑気に病人に食べさせる為のリンゴをしゃりしゃり剥き始めるラクスにはまるで危機感が無いとイングリットは理解した。その気になればラクスを拉致して逃げ出す程度は出来る。ラクスが使っている果物ナイフでも取り上げれば自分には充分なのに・・・・それに、自分を欠陥品と言い放つラクスと感覚が繋げられない。不備があるのが明らかだと受け入れたくないと葛藤し始めていた。
「イングリットさん、わたくしにも願望が出来てしまいましたの・・・・【欠陥品同士】として手を組みませんか?」
優雅に微笑むが、イングリットには恐ろしいものに感じられた。自分自身も欠陥品とするラクスの意図は一体・・・・とした時、周囲が闇に染まったように見えた。そしてイングリットが見たのは【赤い瞳】だ。ラクスがリンと出逢った際にお題目を並べたが、自分の為に死んでくれた人々を考えから外した言動をして怒りを買った時のもの。ラクスは未だにこれを心に焼き付けている。
「如何です。これがわたくしに向けられたのです・・・・【軽蔑】して【殴りたい怒りを押し殺した目】です・・・・けど、向き合ってくれていますわね、貴女の【母】ならば、この後にどうします。殴ったりはするけど、浅はかに終えて貴女を切り捨てるでしょう?」
何故か事実とわかる。自分の母はラクスの言う流れで終わりになると・・・・そして、オルフェもだと。その瞬間、何故か両目に涙が溢れて流れ始めた。自分達はその程度の絆しか無いのかと。
「リンさんは、しっかり怒って向き合ってくれますわ、わたくしを連れ出した方の母もそこまではやってくれません。アコード絡みの思考や概念から逃げられてないのですからね」
「リン・・・・リン・アスカ。想定外の存在故にやらせるのは露払い程度だったハズの女・・・・」
リンの戦闘データを見ていたイングリットは身震いしながらも現実は受け入れている。アレは機体性能だけの問題ではない、今のような状態になったからこそわかる。少なくともミラージュ・フレームに乗ったリンとマトモに戦ったとしたら総掛かりでもなければ?
【自分達は皆殺しにされる】
ある意味でニコルと同じ考え方と立ち位置なのだ。現実が見えているが周りに認めてもらえない部分と、ラクスに言わせれば弱点であり逆鱗が見えてない部分が特に。
「恥じる必要はありませんわよ、不用意に仕掛けては半数は殺される程度で済むかどうかなハズ。そうなるより余程良いです・・・・それより、リンさんは戦闘力以前に・・・・真っ当な家族の形を知る御方、コーディネーターが捨ててしまいそうなものを持つ数少ない御方です。貴女達も本来は無用としていたような認識ですから、頂いても構いませんね?わたくしは・・・・リンさんより年上ですが、幾日か同室で過ごして、一緒にお料理をしたりして、思ってしまったのですわ・・・・この人なら良かったと、イングリット・トラドール・・・・ラクス・クラインとして頼みます。手をお貸し下さい」
呼び掛けに対してイングリットは自然に光を無くしたような瞳になったラクスの手を取ってしまった。本来、イングリットはラクスの下に付く側ではある。しかし、これは違うのだと理解したし、ラクスの内情も理解した。
【壊れていた】
ラクスはとっくに壊れていたのだ。個人的に能力を使う以外な形に知る必要もあるし、壊れた部分を補うものを見つけてしまったのだと理解した。
神ではなく、悪魔の誘いであったのかもしれない、だが・・・・自分の為ではなく。
「ありがとう、イングリットさん・・・・同志や友達としたいですが、概念を知らない貴女には学び始めていただきますから、当面こう言ってあげます。リン・アスカの為・・・・わたくしの【母になって欲しい女性】の為に働きなさい」
十数年前の種二次である意味で楽しげなラクスを参考にした私作ラクスが私的な行動開始。
おかんキャラなシンは濃い方々に揉まれたりしてたもんだとしみじみした故なリンの今後や如何に?