「おうイングリットの姉ちゃん、カナード達が一区切り終えたから姉ちゃんも今の内に休んどけや」
「は、は・・・・ぃっ!」
ビクッと反応するイングリットには泣くなよと言わんばかりの目が整備班から向けられた。アークエンジェルに来る前は年甲斐も無い口紅でメイクをしていた自分の顔はメイクだけではなく何から何まで徹底的に削がれてしまっているように感じていた。気弱な学徒兵のようだと思われてすらいる程度はわかる。
(私は、やはりアコードどころかコーディネーターですらないのか?)
何故かオルフェが死んではいないとわかるが自分はアコードとして死んだのかもしれない、宇宙で仲間や母がどうなってても自分は捨てられると迄思っている。ラクスは自分で考えるよう言っているが、何をどうやってと。
(だっ、駄目よ。私はラクスの真意が本当に言った通りか知るべきだから・・・・っ、そうだ!)
イングリットが向かったのは医務室だ。シミュレーション漬けだったキラ達は騒ぎを聞いてマユを見舞っている頃だから鉢合わせた振りをする事にした。元々、何かあるマユがラクスのバリアのようになっていると感じたので接点を持つべきとして入った医務室では会話が始まっていた。
「手をナイフで刺されたが、そのままエクステンデットを無力化か、お前は戦士としてはキラより見所があるぞ」
キラも反論の余地が無い程にカナードの賛辞には賛成だ。カナードや正規のザフト軍人であるニコルからしたらキラは身体能力こそ凄いがハッキリ言ってパイロットではなく技術者やデスクワーク向けでもある気質なので生身の格闘分野は恐らくやらせるのは止めた方が良い類いなのだ。一撃で人間を即死させるような拳打等を打ち込めるような相手と出会っては詰む。生兵法とやらに走らせてはいけない。
「大丈夫なようと判断していた僕達の警戒網を潜り抜けたようですが、まさか内通者かスパイが?」
「それを広めたら、疑われるのはお前だぞ」
当面の問題についてニコルが切り出したが返しにシュンとなった。確かにリンへの恩義を知らない側からしたらそうとして次にイングリットに視線が向いたが、やはり過敏になっているのかビクッとしているのでカナ―ドすら気まずくなって話題を変える。
「傭兵ならではな俺の勘が正しければ。俺達がスカンジナビア内に入り込んで暫くした後に入って来た奴等の仕業かもな。リンなら感知してくれたかもしれん」
「あ、あの。話に聞いただけでリンさんの超感覚が凄いと私にもわかりますが、都合良く頼るのは危険なのでは?」
イングリットに注目が集まるが、震えを隠せない表情には真剣さしかない。本人からするとマユとラクスの何かを感知してエクステンデットの研究所跡に降りた際に異常を来した実体験からの発言。そこにあるのがまだ会ってないリンへの打算があるのか自分を照らし合わせた心配なのかまだ理解出来ない。カナードは悪意は無いと見て話を進めた。
「確かにだが、そうせざるを得ない程に必死さが違うんだよ。忘れたのか、エイプリルフールで地球人口の一割が餓死したんだ。そんな仕打ちを受けた側が近くにいるだけで何かが起きるさ」
「け、けど僕はザフトで聞いた程度ですがスカンジナビアはオーブ以上に支援した側なハズでは?」
「それだよ。スカンジナビアは支援した側だからこそ地獄を見た可能性がある。餓死し掛けた人間には助かったと思った後の危険があるんだ【リフィーディング症候群】ってやつがな」
「それ、お姉ちゃんに歴史の勉強見てもらった時に聞いたことあります。餓死し掛けた人間が救助された時に食べ物を貰ったりして、夢中で食べた後にキリが無いくらいの症状を出して、助かるどころか死ぬ」
「そうだ。古来の戦において、兵糧攻めに屈して降伏した兵士達にお慈悲で食べ物を与えた際に高確率でそうなるんだ。良く勉強してるな」
ニコルもキラも甘さが抜けないので話題に立ち入れないとした時にイングリットが挙手して切り込んだ。実を言うと自分は見ているのだ。
【アウラがそれが起きてしまったフリをして雪崩れ込んだ難民を大量に殺害した流れを】
「あの、リンさんって民間人だったのに何でそんな事まで勉強していたのですか?」
「お姉ちゃんは、自分が落ちこぼれって思ってたから生活リズムに食生活迄気を使って徹底的に鍛えながら細かい事迄勉強してた。時々、そんな事まで目にしたようです」
「待て、内容以前に怪我人が長話は良くない。マユは手が完治する迄は大人しくしていろ。いつ人手が足りなくなるかわからんしな」
カナ―ドが何故か安心しているのをイングリットは感じたが、今の状態では暫くの間マユをデスティニーインパルスに乗せる心配から遠ざかるとしていれとは読めない。
とにかく怪我人の前だとして解散となった。どのみち、アウラの所業をマユには・・・・とした時。
(な、何でこんな光景が。イヤ・・・・違う、違うぅぅ!たっ、助けて!誰か、誰かあの人達・・・・を助けて下さ・・・ったっ【助けて】ですって?私が・・・・私・・・・そうだ。あの時、私は・・・・私はっ)
イングリットはアウラに意図的に殺された難民達が死に行く光景を思い出したが、同時に顔を背ける程度だった自分へのおぞましさに恐怖して吐き気を堪えたが、それで力尽きてしまい、意識を無くして倒れてしまった。ニコル達が慌てて介抱する一方で、流れを遠目に見ていたラクスは想像以上の結果が出た以上にイングリットの方が自分より余程マトモなのが嬉しかった。
(・・・・怖いでしょう、身内が何をやってしまっていたか以上に自分がどうしてしまっていたのか理解するのは。そうやって思い当たる事の数だけ傷付いて、後悔して、そこから始まる道をお行きなさい。アウラの敷いたルートから実は自分で抜け出せていた貴女は、幸せになるべきですわ)
その頃、イングリットとは違う意味で目を掛けられた者にも試練が訪れていた。
「おいコラ!今日は二桁超えてたぞ!何匹養蜂をしてるんだ!?」
「ほう、口の聞き方が最初の頃に戻って来たようだ。心臓に毛が生えているような度胸は良いが、毛の生える要素を心臓に取られてるから肝心な部分が子供のままなのかなリンのお嬢ちゃん?」
「人前で言うな無駄デカ女っ!」
劾にシニストからしたらコロニー内に放したら最悪な蜂を養蜂していた側も危険だが、殲滅する方も殲滅する方なので毛云々が何の事と思う余裕は無い、ミナは悪戯っ娘のような笑みを浮かべてあしらっている内に劾とシニストは付き合いが重なって来たから理解が出来た。ミナのリンに対する目は鬼教官やドS女王のようで違う。
「才能を愛していると言ったが、情の無いワケではないのかな?」
「生い立ちが気に入ったのだろう、本来ならナチュラルに毛の生えたレベルのハズがああなった存在は有益だ・・・・だが?」
『シニストさん、接近する物体!高速で接近しています』
報告を受けてリティリアら警戒態勢に入る。ジャマーが無いので機体を遠くにいるのに確認できたが外見がガンダムタイプなのは驚いた。
【デルタ・フレーム】
事態を急いだ側が急速に仕上げた機体だが、これには登場者ですら知らない秘密があった。
『此方は、火星の施設団に所属するアグニス・ブラーエだ。応答されたし』
「私は、リティリアの責任者であるシニスト・ガーフィールドだ。火星の御方が何故このような場所に来られたのだ?」
『率直に言おう。リン・アスカを引き渡せ!今と言う時代、彼女は不要なのだ!火星で安全に過ごしてもらう!』
「シニスト、私に話させろ・・・・リン・アスカは私のものだ!貴様が何故そう言いに来たか知らんが、欲しいならものの頼み方があろう!」
ミナの言い分は勝手だが、命の恩人にしてリンを絡め取ろうとする陰謀を阻止するべく動いてはいるので所有権は誰よりある。それに対してアグニスの返答は使命云々の建前ばかりなので劾達からしても感銘は湧かない。
「たわけ者が!立場や使命以前にあのじゃじゃ馬は私の元で礼儀作法を学ぶ方が先決なのだ。付け焼き刃の思想が一番駄目なのだしな!」
((やらせているのは戦闘訓練だろ!))
『礼儀作法・・・・それを学ばせてどうする気なのだ』
「私の【傍女】にするのだ!」
本妻以外の妻から傍で支える女性の事だが、何をしてそう言うのかと微妙な空気だが、アグニスはそれに引っ掛かった。
『・・・・私物化したいと言うのか、貴様はそれでもサハクという名家の為に尽力している指導者かっ!?』
「ほう、事情はある程度知っているようだが、何故【影】に徹している私が指導者等と言い出すのかな?」
聞いている者達はピンと来た。どうやら事情を知っているようだが、深入りしがちだ。ミナは指導者としては表向きは立っていない、その代わりにリンのような者を機を見て誘拐手前に連れ込んではいるが事情を知ると痛快さすらあるし相手を重んじる形な筋は通している。アグニスは恐らく全ては理解していない。
「では、話を切り上げよう。貴様の目当ての相手は私の所有物に相応しいかどうか確かめてみるが良い」
パンパンと、ミナが手を叩くと静かにミラージュ・フレームがリティリア飛び出した。何かの催しを開くようなレベルに軽い流れであった。
「微妙な流れだが宜しくとやらだ」
『貴様が地球を救った女か。何故だ!何故、こんなところにいる!』
「成り行きだよ、それに被害を多少減らした程度だ。どちらかと言えばザフトの悪趣味野郎の方が功績はでかい!」
「バカな・・・・貴様は知らんのか。あの男がやって来た事を!?」
~~~~~~~~っ。
聞いたのは、確かにとすべき内容だったが、フラガ家の火災の黒幕だとするにしても肝心な部分が掛けているのでリンには響かなかった。
「そりゃ良いな、一大スキャンダルどころじゃないよ・・・・けど、だからこそ。あの酔っ払いには生きてて貰わないとな、お喋りはここまでだよ。貴様はもう・・・・用済みだ(用済みだ)」
何故か最後の声色に違和感があるが、凄まじい殺気を感じたアグニスは機体を急上昇させて直ぐ様に切り札を使った。
【ヴォワチュール・リュミエール】
夢中に動いて本来ならもっと先になるハズな推進技術を更に改造したものを実用化した高速戦法を繰り出す。観戦していたシニストは残像が所々に出てる現象に驚くが、ミナと劾は理論上は可能だった程度にしか見ていない。
『ぐっ、もら・・・・った!』
アグニスは凄まじい負荷に耐えながら背後を取って斬ったハズが空振りさせられた。通過した時には機体の左手を斬られたと理解し、夢中で離脱した。
スピードは上のハズだが、デルタが加速した一瞬で位置を変えていたのだ。戦いは単純な速度だけではない。隕石群に身を隠したミラージュフレームを警戒してライフルを構えたが、隙間からの射撃に右肩を掠められた。遮二無二動くがスピードも残像もまるで意に介さない。
「そんな寝惚けた分身が通用するかっ!」
通常スピードで飛んで来たミラージュフレーム相手に予備のライフルを撃つが消えたように見えた。
【引き付けてサイドに急旋回】
やったのはそれだけだ。何かが搭載しているのだと誤解した際に残った腕を撃ち抜かれていた。
『勝負ありだ。大人しく投降をせよ・・・・その機体を調べたい』
『駄目だっ!アグニス、直ぐに機体を捨てて生身で逃げるか投降をして下さい!』
「ばっ、バカな。何を言っているんだ!」
後方から接近して来た輸送機から聞こえた声は危機感が滲み出ている。事情を聞いてシニストは青ざめていたが?
『やむを得ん、リンよ。お前が降伏せよ、遠隔操作ででもリティリアがやられる・・・・悪くはしないよう交渉するので待っていてくれ』
「やむを得ませんね、アグニスだったな。お前を差し向けた奴等のとこに連れてけ」
アグニスは目的は果たせたが人生最大の屈辱に震えながらリンを誘導した。そこにリンやミナの算段に気付ける余地は無い。
オリ設定解説。
【リフィーデング症候群が多発した設定】
地球上で一割餓死な事態に有り得るだろう要素からの例をアウラの地上での核使用の代案に繋げたが、不安定になっているイングリットに大ダメージになりました。
【デルタ・フレーム】
アグニスの機体として出したオリMS。性能は原作デルタ・アストレイとは一長一短で特に安定性に掛ける。相手がミナにしごかれたリンだから間が悪かった。