弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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たまちゃんが紺野の平林さんへの嫌がらせを注意して以降、教室の空気は最悪のような状態が続いていた。

俺は自席で単語帳を開きながら、視界の端で教室の前方を観察する。

 

「おっと、ごめんねー」

 

昨日までと同じような紺野の言葉。

しかし、変わっていることもある。

 

「紺野!またわざと蹴ったでしょ!」

 

紺野の嫌がらせの対象が、平林さんからたまちゃんへと移ったのだ。

そして、何をされてもおとなしかった平林さんとは違って、たまちゃんは何かされるたびに紺野へと抗議の声を上げていた。

 

「はぁ〜?言いがかりやめてくれる?それともまた暴力でも振るうわけ?」

「ちがっ、あれは偶然で……」

「偶然はこっちなんだけど」

 

紺野はそう言って話を切り上げてスタスタと取り巻きの元へと歩いていった。

そんな態度にたまちゃんはさらに言い返そうとしていたがそれを遮るようにみみみがたまちゃんに話しかける。

 

「おっはよーたま!ほらほら、移動教室の準備しよ!」

 

みみみはいつも以上に高いトーンでたまちゃんの周りを落ち着きなく騒ぐ。

空気を読むのが得意なみみみからみても、やはりこの空気はまずいと言うことなんだろう。

 

紺野は昨日の一件からたまちゃんに対して「暴力」というワードを使って「たまちゃん=悪」というレッテルを貼ら付けながら攻撃を繰り出すことにしたようだ。

ことあるごとに「暴力」と口にしては絡んでいる。

 

「どうした、友崎。移動教室だぞ」

 

たまちゃんたちの一部始終を見ていた俺に向かって相原が声を掛けてきた。

その後ろには中村、竹井、水沢が3人そろってこっちを見ていた。

 

「ワンちゃん遅いっしょ。足が短いのかな?」

「ま、ふーみんだからな」

「はは、それまだ続いてたのか」

 

そんな3人に「うっせ」と返しながら一旦はさっきのたまちゃんの事から頭を切り替え、用意していた教科書を持って移動した。

 

 

***

 

 

それからも毎日のように紺野の嫌がらせは続いていた。

紺野もたまちゃんがここまで食って掛かるとは思わなかったらしく、それがまた気に食わないからなのか日に日にエスカレート、紺野とたまの言い合いの頻度が増えていった。

 

そして、これが続くとクラスのなかの空気もおかしな方向へと向かっていく。

最初こそたまちゃんに対して同情的だった声も、何度も続く言い合いにウンザリして『空気を読めよ』という声に変わっていく。

お前が少し我慢すれば収まる話だろ、とでもいうように。

 

みみみはすぐにこの雰囲気を感じとったようで、たまちゃんを1人にするのは危険と判断してかいつも以上にたまちゃんといることが多くなる。

 

そんな中で、どうやら今日はバレー部が体育館の使用日の関係で休みらしい。

それを知ったみみみが今日は部活をサボってたまと一緒に下校するようだった。

俺もそこをみみみに誘われ、たまとみみみ、それに帰宅しようとしていた相原を捕まえて一緒に下校をしていた。

 

「相原は今日部活はないの?もしかして、サボり?」

「今日は顧問がいないから自由参加。断じてサボりではない。つーか俺はサボったことなんて1度も……1度しかねぇよ」

「なるほど。でも1回はサボったんだ?」

「そ、1回だけね。普段は真面目も真面目で学校も部活も休んだことなかったけど、誰かさんのせいで、ね?」

「え?だ、だれのせいだろうね〜?」

 

たまの質問に答えた相原が、そのまま自然の流れでみみみをイジり始めた。

たまもそれを楽しそうに見ている。

学校ではあんな事が続いているが、この場では間違いなくいつもの3人のやり取りのように思えた。

 

「そういえば相原は中村たちと一緒じゃないのか?」

「そーそー!部活休みなのに一緒じゃないんだ!?」

 

便乗するようにいつもより気持ち大きい声でみみみが話に乗っかってくる。

 

「いつもセットみたいに言うなよ。部活ない日まで一緒ってわけでもねぇよ」

「あー、たしかにはらみーは何もないと1人でフラフラしてるよね。お昼とかもよく1人で食べてるし。みんなと食べればいいのに。友達いないのー?」

「う、うるせー、俺は心が強いから1人でもいいんだよ。むしろ、みんなして群れなきゃ飯も食えんのか?たまもそう思うよな?」

「困ったからって雑に私に振らない!」

 

こころなしか3人の声は教室の時よりも大きい。

でもそれは今がいつもよりも大きいというわけではない。

逆で、教室での声がいつもより抑制されているのだ。

紺野とたまちゃんの言い争いで教室内にはよくない雰囲気が蔓延している。

それがたまちゃんに向かないように声が小さくなっているんだろう。

 

「じゃあ、私はこっちだから」

「うん、じゃあねーたまー」

「おー、また明日」

 

4人で少し寄り道をしてからも駅に到着し、方面が逆のたまちゃんとはここで解散になる。

みみみと相原が手を振るのを真似て俺も軽く手を振ってたまちゃんと別れる。

 

「……どうしてこうなったんだろうね」

 

たまちゃんを見送ったあとにみみみはさっきまでとは違い、暗い雰囲気を漂わせながらぼそっと呟いた。

たぶん、たまちゃんのために無理をして明るく振る舞っていたんだろう。

 

「運とタイミングが悪かった、のかな……」

「わるい。隣の席の俺はもっと何かできたかもしれない。紺野と言い合いになったとき、俺が引くべきじゃなかった」

「はらみーは悪くないよ!友崎の言う通り、運とタイミング、なのかなぁ」

 

相原はたまちゃんと紺野が初めて揉めた時には間に入ろうとした。

しかし、紺野の関係ないやつは引っ込んでいろという言葉に下がらざるを得なかったんだ。

あれ以上粘っていたとしても、状況が好転していたとは思えなかった。

 

相原は引いたことを後悔しているようだが、むしろあの紺野に正面から向かっていったことに賛辞を送るべきだ。

だからやっぱり、運とタイミングが悪かった、と思う。

 

球技大会前から少しずつ積み重ねていったものが、意図せぬ結果をもたらしてしまった。

何か一つが悪かったわけじゃない。

様々な要因が絡み合って起きてしまった事象だった。

 

「たまはなんにも悪くないのにさ。みんなから悪く言われるの、私みてらんない……!」

「「……」」

 

俺も相原もみみみの独白をただ聞いていることしかできなかった。

 

「あのさ。わたし、うまく笑えてた?いつもみたいに楽しく、わははーって」

「……うん。笑えてたと思う」

 

みみみの言葉を受け止め、俺は真剣な言葉で返す。

 

「ほんと?無理してる感じになってなかった?」

「ま、少なくてもさっきまではな」

 

それでも心配をぬぐえないみみみに今度は相原が軽いトーンで返した。

 

「そっか、よかった。わたし、たまのことが好きだから何とかしてあげたいんだけどさ。葵ほど器用じゃないし、友崎ほど頭も良くないし、はらみーみたいな度胸もなくて。だから、私にできることは、たまを支えてあげることだけなのかなって」

「そんなことは……」

 

否定の言葉を言おうとして、みみみに遮られる。

 

「でもさ!これでいいんだよね!こんな私でも、たまの助けになってるんだったら。私はそれでいい」

「そっか」

 

どう見ても無理に自分を奮い立たせているみみみの言葉に、俺はただ相槌を打つしかできなかった。

 

「……ふーん。でも、自虐が過ぎるんじゃねーの?みみみは日南と同じくらい器用に周りと上手くやってるし、友崎とは方向性が違うだけでふつーに頭いいし、みみみの行動力をみて度胸が無いなんていう奴はいないだろ」

「えへへ、そうかな?」

「おう。俺と、たぶん友崎が保証する」

「え、あ、あぁ」

「そっか。うん。もう、はらみー!」

 

そう言ってみみみは相原の背中をバシバシと叩く。

とてもいい音が響く。

 

「いった!なに!?つか、最近俺を叩く力に遠慮ないよね!?」

「あっはっは!」

 

はたから見て明らかにみみみの照れ隠し。

相原は色々言いながらもそれを受け入れるように背中を叩かれていた。

 

この2人、いいコンビだよな。やっぱり。

暗い雰囲気を出したみみみについては、相原に任せておいても問題ないだろうなと思った。

だから、もし俺が何かするとしたらもっと根本的なところだ。

 

 

 

***

 

 

翌日の放課後。

図書館で本を読んでいたがいい時間になってきたので1度教室に戻ったら、いつぞやのときと同じようにたまちゃんが教室から窓の外の陸上部を見ていた。

 

「たまちゃん?」

 

声をかければ一瞬ビクッと反応してからこちらを振り向いた。

 

「どうしたの、友崎?」

「いや、ちょっと話したいと思ってさ」

 

ここでたまちゃんを見つけたのはただの偶然ではない。

約束をしていたわけでもないがたまにここで陸上部をみていると、前に聞いたことを覚えていたからその可能性にかけていたのだ。

 

「ふぅん?」

「まぁうん。紺野とかクラスでのことなんだけどさ」

 

俺のその言葉を聞いてたまちゃんは少し驚いたように目を大きくした。

 

「そのまえに、この前葵にさ」

「え?うん」

「『友崎くんは花火に少し似ている』みたいなこと言われて、でも全然ピンと来なかったんだけど」

「う、うん」

 

あいつ、そんな事を言っていたのか。

 

「いま、なんとなく分かった。思ったことをそのままに口にしちゃうところ」

「それは、そっか。うん」

 

それは俺も日南から言われていたことだ。

 

「それで紺野とかクラスのことだっけ?」

「うん。辛くとか、ないのかなって」

「えっとね、辛いよ?けど、私は大丈夫」

 

そういって微笑むたまちゃんは、たしかにから元気などではなく力強さのある笑顔に見えた。

 

「私は間違っていないって思えてるから、私は平気」

「そっか」

「うん。間違っているのは向こうだし、私は正しい。それに、なんだかんだ私のことを正しいって言ってくれる人もいるから、やっぱり自分は正しいんだって。そう思えてる。私はむしろ、自分を曲げる方が嫌だ」

「うん。だったら、大丈夫だね」

 

たまちゃんは、俺が思っているよりも相当強いということを実感した。

俺もたまちゃんのするべきことを考え、提案する内容を考えていたが、これならそもそも必要なかったのかもしれない。

 

「うん。じゃ、なんでもない。応援してる」

「待って、友崎」

 

俺は俺にできることは何もないと悟って話をきり上げようとしたところでたまちゃんに引き止められる。

 

「私は平気。でもね、みんみが悲しんでるんだ」

 

その言葉に昨日の帰り道のことを思い出す。

そりゃそうだ、みみみとたまちゃんはあれだけ仲がいいんだ。

みみみが無理して明るく振る舞っていたことなんてわからないはずがない。

というか、クラスにいる時だってなんとかしようとフォローして回っていることに気づかないほどたまちゃんは鈍くなんてない。

 

「だからね、友崎。私は自分を変えたい。友崎は最近すごい変わったと思う。前より明るくなったし、空気読んだりみんなと笑ったり、ちゃんと挑戦してちゃんと変わっている」

 

たまちゃんは力強い視線で俺のほうをみており、一度だけ力強く頷くとこう続けた。

 

「私も、自分を変えたい。だからそのやり方を、自分の変え方を私に教えて」

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