弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
たま、みみみ、友崎に誘われて一緒に寄り道をしてから帰った翌日。
俺は昨日のことが忘れられずにいた。
たまと別れたあとのみみみの表情。
きっと、たまのことを何とかしたいと思いながらもあの状況を変えることができない無力な自分に嫌気が差しているのだろう。
口では、『自分はたまを支えられているから大丈夫』みたいに言っていたが、あれは大丈夫な奴の顔ではなかった。
できることなら、俺も何かをしたい。
そうは思っていたものの、俺にできることは大してなかった。
偶然今の席がたまの隣だから、時たま話しかけたりして一緒にいることで嫌がらせへの牽制をすることはできる。
だが、それは四六時中そんなことを続けられるわけではない。
俺だって他に用があれば離れるし、平林さんがターゲットにされてる時に友崎に言った通り急に男子が守る形で介入してきたら紺野が更に不機嫌になって状況が悪化する可能性がある。
それに、たまだって大した用がないのに俺にまとわりつかれたら堪らんだろう。
もしもたまに「急に馴れ馴れしくなってキモいんだけど……」みたいなことを言われたら俺はもう立ち直れないかもしれない!
いや、たまはそんなこと言わないけどね!!
それと、他には……。
「そー、最近エリカも結構イライラしてるみたいでさー」
「なるほどねー、いや神前も大変だなそりゃ」
「ホントそう!さすがにちょっとやりすぎっていうかさぁ。あ、これ本人には言わないでよ?」
「言わない言わない。ってか、今の紺野は怖くて話しかけられないし」
「あはは!たしかに!」
たまとは逆側の俺の席の隣。
神前と会話することも増えていた。
とはいえ、別に探りを入れているとかそういうわけではない。
もともと席は隣だからちょくちょく話しかけるし、仲はそこそこいいんだ。たぶん。
なんなら普通にいいやつで優しくされると惚れそうになる。
たびたびいうが、男子高校生はチョロいのだ。
……俺だけじゃないよな?
まぁ、今回についてもきっかけは簡単で、この前たまと紺野の言い合いに俺が入ろうとして紺野に手痛い攻撃を受けたから、それについてまだ怒ってたりしないよね?みたいに聞いただけだったりする。
それから神前も紺野とはよく一緒にはいるものの、最近のイライラに巻き込まれて色々苦労しているようである。
言葉にはしないものの嫌がらせの実行犯にすらさせられているみたいでかなり辟易しているのが伝わってきた。
そりゃまぁ、断れないんだろう。
神前が悪くないとは言わないが、それについてあまり責める気にもなれなかった。
そんてことを考えていたが数日後にいつもとは違う変化が起こる。
今日の授業の合間の休み時間。
いつものように紺野がたまの机を蹴り飛ばしたのだが、今までならこれを契機に言い合いになるところをたまは我慢したのか何も言うことはなかった。
不思議に思って本人に気づかれないように前を見るふりをしながら周辺視野でたまの方を意識して見ていたら、後ろの方に目配せ、おそらく友崎あたりの方を見ていた気がする。
これによりいつもの言い合いが発生せず、クラス内で起こっていた「またかよ」という非難の空気が生まれることはなかった。
これが続くのであれば、問題の解決までは至らなくても″クラスのみんな″から負の感情をぶつけられる回数は減っていくだろう。
それどころか、むしろ耐えているたまに対して同情の空気を呼び起こして味方を増やすことだってできるかもしれない。
紺野は、そういう空気には敏感なので自分の敵を作りそうになった瞬間辞める可能性だってある。
そういう意味では、たまがそれを耐えることに許容できるのであれば、最善の一手かもしれない。
……でも、ふーん?友崎ねぇ。
後で問いただしてみるか。
***
放課後、俺は部活終わりにそそくさと荷物をまとめて校舎の玄関へと向かう。
生徒の数だけ並んでいる下駄箱を見ながら少し考え……軽く周りをみてから誰もいないことを確認して下駄箱の一つを開く。
他人の下駄箱を開くのは気が引けるが、悪さするわけでもないし友崎なら許してくれるだろう、たぶん。
お、やっぱり靴があるな。
開いたのは友崎の下駄箱。
ここ最近たまと結託しているような怪しい動きを見せるものの、表向き一緒にいるのはなかなか見なかった。
それじゃあと思って次に予想したのが放課後。
そう踏んで下駄箱を見れば、やはり部活に入っていない友崎の靴がまだ残っている。
ということはどこかにいるんだろうな。
どうやって探すか、と思ったところで、なんか回りくどいことやってるよなぁと思ったので開き直って直接聞くことにした。
スマホを取り出し、友崎に通話をかける。
あ、ちゃんと出た。
『えっと、もしもし』
「おう、友崎。今どこ?まだ校舎内だよな」
『え、なんでそれを……?』
「お、やっぱりな?それで、どこだ?」
俺の問いに、友崎は少しの沈黙のあとに場所を答えた。
『……う、わかった。2-2の教室』
「よし、今行く」
『え?』
俺は通話を切るとすぐに教室に向けて歩き出した。
大した距離でもないのですぐにたどり着く。
「よ、待ったー?」
「いや、待ってないというかなんというか」
教室のドアを開いて入ると、そこには友崎とたま、それに水沢もいた。
うん、やっぱりね。
……え、水沢も?
「……あれ、これなんの集まり?」
「ここに来てからそれをいうかねー?」
「友崎のやりそうなことに当たりをつけて来たのに、お前がいるのが一番の疑問なんだよ」
俺はそういいながら自分の顎をクイッと上げて水沢を指す。
「はは……。たぶん分かってると思うけどたまちゃんの味方の集まり、かな?」
「なるほど。けど、そこに水沢を呼んでおいて俺を呼ばないのはないんじゃないの?この俺を一番に呼ぶべきでは!」
「ううん。友崎には、みんなに内緒にしてって私がお願いしてたから」
「あー」
なるほど。
たしかに、俺はともかくみみみや日南なんかには心配をかけたくないって思うよな。
「それに、俺はお前と同じで呼ばれたわけじゃねーよ。ただ、友崎が怪しいことしてんなーって思ってちょっと探したらこの通りってわけだ」
「じゃあ水沢も俺と同じってことか」
「そーいうこと。そして、俺のほうが早くたどり着いたってわけだ?」
「……俺は部活だったし」
別にどっちが早いとか競ってるわけじゃないからくやしくなんかねーし。
悔しいといえばむしろ、たまはともかく友崎からここに誘われなかったほうが悔しいわ。
たまのことを考慮してみみみや日南なら言えないのもわかるけど、俺ならいいだろ!
「ま、いいや。たまちゃんは最近大丈夫か?あれだけ絡まれて、結構鬱陶しいだろ?」
「たしかに、最近相原に絡まれて鬱陶しいかも」
「俺!?」
あぁ、紺野よりうざいと思われてたのか。
もう立ち直れねぇわ……。
「た、たまちゃん。マジで凹んでるかも」
「あはは、冗談だよ。気にしてくれてありがとね」
「うん……」
「いやいや、ダメージ負いすぎだろ」
いやマジでちょっとショックだった。
冗談か、冗談だよな。
「はは、まぁ、俺も冗談だから。効いてないし!」
「必死か」
「はは……」
うるさいぞ水沢!
「俺のことはよくて、結局3人で話しててなんかいい対策出来たのか?」
「俺も今来たところなんだよな。どうなの、文也?」
「え、ああ。方針としてはこれ以上空気を悪くしないように気をつけるとして、他に今の状況をひっくり返す何かが必要だと思ってるところ、かな。でもそんな方法が思いつかなくて困ってるところ」
「なるほど。空気を悪くしない、つまりクラスの全員を敵にしないようにするっていうのは確かに大事だな。けどそれだけだと好転もしないから、ひっくり返す方法ってことか」
「そうなんだよ。けどまだ思いついてなくて……」
そりゃあ、そんな都合のいい方法そうそうはないだろう。
いやまぁ、いくつかおもいつきはするけどさぁ。
あんまりいい方法ではないしなぁ。
「ん?相原、何かありそうな顔してるじゃん」
「え、相原本当か?どんな方法?」
「おいおい、そんな顔してたか?」
なんでわかんだよ……。
「してたしてた。たまーにする思いついたけど言うか言わないかを空気読んで悩んでる時の顔。ほら、もったいぶらずに言えよ」
「なんだお前、俺に詳しすぎるだろ」
だいたい合ってるんですが!
しゃーない、1個だけ言うか。
もう1個の方はいうだけで笑われそうだからな。
「相原、そんな方法があるなら教えてくれ」
「はー、わかったわかった。けどいい方法じゃないからって怒るなよ?……例えばだけどな、矛先を変えちまえばいいんだよ」
「矛先を変える?」
そう、矛先を変える。
攻撃の対象を移してしまえばいい。
「そもそもなんでたまちゃんが今攻撃されてるんだってはなしだ」
「それは……。理由なんてないんじゃないのか?あるなら、中村と泉が付き合い始めてストレスがたまってるからとか、だよな」
「それは紺野が嫌がらせをしている理由でたまちゃんに目をつけた理由じゃないだろ」
「あー、それならエリカを注意したから、ってことか?」
「お、水沢正解。100相原ポイントを進呈しよう」
「いらねーよ」
「それで続きは?それと何が関係あるんだよ」
こいつら最近俺に冷たいよな。
水沢はもともとだったかもだけど友崎は特に。
「じゃあ簡単だろ?俺が紺野の机を蹴り飛ばせばいいわけ。紺野の真似でもして『あっ、ごっめーん。脚すべっちゃったー』とかでも言いながら机を蹴り飛ばせば、ホラ。たまちゃんがターゲットから外れて俺に向く。そしたら後は俺が何とかすりゃ解決だろ」
「は?それじゃ何の解決にもなってないだろ。結局今度は相原が嫌がらせ受けるようになるなら、何も意味ないだろ」
「いや、意味はあるだろ。ドラクエでにおうだちとか強いだろ?タンク役が挑発スキル持つなんて普通のことだっての。それに、俺ならうまくやる自信はある」
根拠はないけどな!
とは言えたまよりはうまく立ち回れるとは思うのも事実だ。
だって最悪は中村に泣きつけば、なんだかんだどうにかできると思うもん。
紺野ってなんつーか、ヘイト管理が上手いからな。
もともと仲の良い中村とか水沢あたりを味方につけちまえば表立って動くことはしないはずだ。
水沢とか中村とかをまとめて敵に回す可能性を考慮すると、だんだんと嫌がらせも縮小して直ぐにやめるだろうさ。
……たぶんな。
「だから1案として、おれが紺野を怒らせて……」
「それはダメ!」
それで解決と言おうとしたところで、今まで俺たちの話を聞いていたたまちゃんが大きな声で遮った。
「それじゃあ紺野と同じでしょ!」
「同じ?な、何が……?」
「紺野が嫌がらせしたからって、こっちも同じことしたら同じくらい悪くなるでしょ!だから、それはダメ!」
「え、えぇ……?」
嫌がらせされてたやつのセリフかよこれ。
俺はやられた分は絶対にやり返さないと気がすまない
殴られたら殴り返すし、舐めプされたら絶対にボコすし、受けた屈辱は返すまで心にしまっておく。
ちなみに友崎にアタファミで負けた数だけ、俺の『デスノート.xlsx』に行数が追加されていっているんだぜ。
……それなのにたまは、嫌がらせされていることを自分のなかにしまい込んで、同じ事をしてはいけない、というのか。
あまりにも正しすぎる。
「はは、相原。お前の負けだな」
「いやまぁ、案を教えろと言われただけだから本当にやるつもりまではなかったし。最終手段ってことにしとこう」
「最終手段でも駄目。そのやりかたは、絶対に間違ってる」
「だ、そうだ」
けどたまらしいといえばらしいよな。
自分には絶対にない真っ直ぐさだから、みみみとかにあんなに好かれるんだろう。
「けど、それじゃあ結局どうすんだよ」
俺の誤魔化すような言葉に友崎が反応した。
「……相原は、なんで自分ならうまくやれるっていう自信があるんだ?」
「なんで、というと?」
「ほら、相原の言い方でいうとなにか理由があって大丈夫なんだろ?相原にあって、たまちゃんにないもの。それが分かれば対策できないかなって」
「そういうことか。まーなんだ、俺は困ったら中村や水沢がいるだろ?こいつらと仲良くしてるところ見せときゃ紺野だって容易には手を出せなくなっていくだろうなーって思って」
俺がそう説明しても友崎は納得していない顔をしていたが、ピンときたらしい水沢が補足を入れてくれる。
「たしかに。エリカってそういう政治的なところがうまいからな。今も俺や修二なんかとは割といい関係でやっていってるから、そんな俺たちと一緒にいる相原に長期的にちょっかいかけるのは、難しいだろうな」
「そっか。相原を攻撃し続けることになれば結果的に水沢や中村まで敵に回すことになりかねない、ってことか。だから相原は何とかできて、逆にたまちゃんは仲がいいのがみみみや日南、後は相原くらいだから……後ろ盾が足りない、的な感じか」
「うん、たしかに。私が仲いいのってそれくらいかも」
補足を受けて納得した友崎と、それを肯定するたま。
そんな二人を見てびっくりした顔をしてから笑い出した水沢。
「ははは、でた。文也のそういうの。それにたままで」
「え?俺何かおかしなこと言ったか?」
「友達はその2人しかいないよねーとか言うか、普通?それをすんなり認める方も認める方だしさ」
「ああ、そういうことね。言われてみればそうかも。まぁ、そこは慣れてくれ」
「そういうところはお前らそっくりだよな。まぁいいや、それで次やること決まった感じ?」
俺が友崎にそう促すと、自信満々にコクリと頷いて答える。
「あぁ。直近の目標は、『水沢と仲良くなること』だ!」