弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
週明けの中、朝からクラスの雰囲気が変わっていることを感じていた。
それも悪い方向に。
『自己中』『悲劇のヒロイン気取り』『暴力女』『ビッチ』。
昼休みまでにクラスの端々からたまに聞こえてきた単語の数々。
この言葉が指している人物は……。
「……」
当然俺の隣の席でいつもに比べて元気のないこの人物だろう。
それに気を使ったみみみが、いつもより明るい声で振る舞いつつ学食に行こうと誘っていた。
俺は出ていく二人を見送りながら考える。
土日を挟んだだけで何が原因でこんなことになってしまったのか。
休みに何かあったのか……?
「なぁ相原、ちょっといいか?」
とりあえず飯でも食うか、と思ったところで友崎に声をかけられ、手招きされる。
あまり大きな声で言いたくない話のようだ。
話の内容は予想がつくけど。
「友崎。それに水沢も。いいけど、飯は食うから手短にな」
「あぁわかった」
そういいながらおれはカバンから出したハンカチに包まれている弁当を自分の机に置いてから友崎たちのところに向かう。
「で、なにか?」
「あぁ、たまちゃんなんだけど……」
友崎の口から説明を受ける。
大体は俺も気づいていたことと同じ。
だが友崎は俺以上に情報お集めていたようだ。
友崎が言うには昨日のファミレスでたまと俺たち三人が一緒にいたことを誰かに見られたことが原因なんじゃないか、ということだった。
「それはヤバい状況かもな」
「だよな……」
「迂闊だったな。そりゃあ、学校から近いファミレスなんだ。誰かが見て、そこから悪意の切り抜きをすることだって考えるべきだった」
つまり誰かが目撃して、それをクラスの女子グループのラインで拡散したらしい。
そのへん友崎は泉に裏取りもしているようだ。
「そりゃ俺たち三人がたまを守っているカタチに見えるもんな。エリカからすれば面白くないか」
「そりゃそうだ、解決したと思って浮かれてたな……」
「これって収まりかけていた紺野の嫌がらせがまたエスカレートする可能性もあるよな?」
「ありありだね。というか、エリカの性格を考えると間違いなくする。メンバーに修二と仲のいい俺や相原がいるのもまずかった」
俺は二人の話を聞きながら打開策を考える。
とはいえこうやって人とのぐちゃぐちゃした付き合いを考えるのはそんなに得意じゃないんだ。
なんかもう、こう、全部取っ払ってしまいたい。
……あぁもう、あの案でいいかな?
この間の放課後、解決策を聞かれた時に俺が紺野の机を蹴るなりして矛先を俺に向ける案の話をしたが、それはたま本人に却下されてしまった。
だが俺にはもう一つ思いついた案があった。
それをするには、ちょっと度胸が必要だし説明するのも憚られたので黙っていたが、これ以上ゴタゴタするくらいなら……。
「相原、さっきから黙ってるけど話し聞いてたか?」
「あ、すまん。ちょっと考え事」
「しっかりしてくれよ。たまの席に一番近いのはお前なんだから」
「おう。あ、半分くらい聞いてたから。物を壊されないように可能ならたまの近くで様子見とこうねって話だよな?」
「そういうこと。聞いてるじゃねーか」
そうして一旦の情報共有を終えた。
ただ、俺たちはまだ事態を甘く捉えていたらしい。
その日の放課後に事件は起きた。
***
放課後、部活に行くために荷物をまとめ、ただなんとなくゆっくり移動したい気分だった俺は座席でダラダラしていた。
それ自体は割といつものことだが、途中でクラスのなかの雰囲気がいつもとは違うものになっていることに気がつく。
クラスの後ろ側。
ロッカーの前で顔を伏せているたまと、それを囲むように立っているみみみや日南、それに友崎や水沢が見えた。
「なに、どういう状況?」
小声で友崎と水沢に声をかける。
「……やられた」
「ストラップが壊された、らしい」
そう言って少し体をずらす水沢。
そこからうなだれているたまの姿が見える。
手元にはいつぞやの友情の証として渡されたストラップがあり、そのストラップの背中は大きく引き裂かれていた。
「ごめんね、みんみ……ごめん」
「たま……ほら、またみんなでおんなじの、買お?」
「でも、あの時みんなでもらったのに……」
「そんなの関係ないよ!」
俺は声をかけることはできなかった。
けど、涙目で少し顔を上げたたまと目が合った。
「相原……友崎も」
「あぁ」
「わたし、これを見つけたときにね、クラスにまだ紺野がいたんだ。その時また、紺野に、わーっていろいろ言いそうなった。けど……」
「……おう」
「でも、我慢したんだ」
「……すげぇな、それは」
「うん。だけど、だけどもう、私逃げたいっ……」
そう言ってたまの手元に数滴の雫が落ちる。
「ッ!」
教室を見渡し、紺野の姿を探す。
ただし、クラスに紺野はいない。
しかし遠巻きにこちらを観察していた、いつも紺野と一緒にいる神前と秋山が目に入った。
衝動的に向かっていこうとした俺に、水沢が俺の肩に手を当てとめる。
「相原、本当にそれが最善か?」
……。
怒りは収まらないが、水沢の言葉は正しかった。
こういう時に全体を見渡せている水沢は、誰よりも頼りになる。
「……そうだな。違うわ」
少しの冷静さを取り戻し、改めて神前と秋山を見る。
神前は俺に気づいて気まずそうにしており、秋山はたまを取り巻く俺たちを見ても興味なさそうにしている。
そういえば、神前はあのストラップがどういうものかを知ってるんだったな。
俺の隣でその話を何度か聞いているんだから。
ってことは実行犯は……いや、犯人探しに意味はないか。
結局のところ、この後どうするのが最善なのか、だ。
犯人を探して吊るし上げる?
犯人に同じ目に遭わせる?
そんなの、たまが望むことじゃない。
やったとしてもただむしゃくしゃした俺の気が少し晴れるだけ。
場合によっては更に険悪な関係になり、よりひどいいざこざに発展することだってありえる。
この問題を解決する方法は、たまを元気付けることと二度と紺野たちに嫌がらせをさせないことの2つ。
たまを、元気づけるのはみみみたちに任せよう。
無論俺にできることがあれば協力はするが、たまと一番の親友のみみみが適任だ。
だから俺は、紺野たちの嫌がらせを抑える。
もともとあの嫌がらせをどうにかする案はあったんだ。
実行に移す度胸さえあれば、まぁ多分うまくいく。
タイミングも、明日でいいだろう。
もしも今日のことで紺野が満足して嫌がらせをやめるのであれば、それで終わらせてみんなでたまを元気付けてやればいい。
でも、まだ嫌がらせを続けるのであれば、俺の出番だ。
***
そして翌日。
……。
「あれ、何?」
「えっと。さぁ?」
朝、教室に入ってどまんなかを見ると、盛大にひっくり返っている机がある。
あの位置は、紺野の机だな。
俺の隣の席で紺野と仲のいい神前に聞いてみるが知らないらしい。
一瞬、これの犯人はたま?と頭をよぎったが性格を考えるとありえない。
みみみ?日南?友崎?いや、どれもありえないだろ、そういう奴らじゃない。
内乱?でも神前も知らなそうだし、このクラス以外?
いや誰でもいいんだけどこの状態がまずいだろ、また紺野が騒ぐし昨日の今日だとたまに絶対突っかかる。
周りを見るが、まだクラスに人は少なく半分以内くらいだ。
つーかどうして誰も直さないんだよ。
いや、誰かのせいにするな俺、こういう時は自分が動くんだよ。
「……どれ、よいしょっと」
「え、相原それ直すんだ?」
意外そうに見てくる神前。
「まぁ、見て見ぬふりはできんでしょ。あ、俺がやったみたいに誤解されそうになったら助けてよ?」
「……ふふっ。どうしよっかなー?なんて。わたしも手伝うよ」
そう言って神前も転倒した机の近くに散らばった机の中身を元通りに直していく。
なんだよ、神前はやっぱりいいやつじゃん。
いや本当に助かる。
だってなんだかんだ女子の私物だから俺が触りにくいんだもん。
俺は机を起こしてから落ちてる教科書類の埃を払って机に載せる。
神前はその他の小物などを拾って多分元のとおりに戻していた。
「こんな感じだったかなぁ?」
「正直助かった。神前、サンキュー」
「あはは。なんかお礼言われるのも変だけど、どういたしまして」
紺野が途中で来て一悶着起きたりしなくてよかった。
見られたら直してるのに絶対なんかふっかけられてたじゃん。
まぁ結局のところ机を起こしてもの拾うだけだったから1分もかかってないしな。
そうして大したことはしてないながらも一仕事終えた気分でふーっ!と自席に腰を下ろせば、俺の席の隣でたまと話している日南の視線に気付く。
「……ん?なんか用?」
「ううん。でもちょっと意外だったから」
主語がなくても日南が言いたいことは分かった。
けどさぁ、神前といい意外意外ってなんなのよ。
「えー、俺ってそんなに冷たい人間に見える?」
「うーん、そういうわけじゃないけど。昨日はすごく怒ってると思ったから、ちょっとびっくりしたかも」
「ふーん。……俺は自分のことをいい奴とは思っていないけど、いい奴になりたいと常日頃思ってますよ」
隣で聞いていたたまが、俺のそんな言葉を聞いて笑い出した。
「あはは、なんか相原らしいかも」
「出たな、おれらしいってやつ!しかし、また1つ徳を積んでしまったか!なーんて」
……たまも、昨日からみみみや日南達に元気づけられて表面上明るく振る舞っているようだ。
なら俺も、余計な気を使うのではなくそれに乗っかっていつも通りに振る舞おう。
ガハハと笑う俺に、日南はさらに聞いてくる。
「じゃあ、さっきのは『いい奴』になるための行動?」
「そう。俺の理想の『いいやつ』なら当たり前にやる行動。そして、まずは行動、人生の基本ルールだぜ。知ってたか?」
「あ、えらそう!」
「いやごめんて」
日南の言葉になんか妙な引っかかりを覚えながらも、用が済んだらしく、その後はまたたまに向き直って話を始めていた。
はて。
***
それから放課後。
後は部活に行って今日は終わりだ。
今日に限って言えば、まだ紺野の嫌がらせは起こらなかった。
しかし、どうやら『このまま何もなければいいなぁ』という俺の気持ちは通じなかったらしい。
「わるーい、足すべったー」
それは既に謝る気すら全く感じさせない声音。
それとともにたまの机が大きく揺れて筆箱が落ちる。
もはや蹴ってから謝るのではなく、謝りながら蹴っている状態だ。
俺は横目にたまを見ると、耐えるというよりも完全に気落ちして理不尽に対する悲しみで満ちていた。
朝、明るく振る舞っていたのもやっぱり無理をしていたというのが目に見える。
俺は、俺の友人をここまで追い詰める紺野たちが許せないと思った。
本当に、何も起きなければそれでよかったのに。
そうすれば、時間がたまの傷も癒していっただろうに。
そうすれば、俺がこんなことを行動に起こさなくても済んだろうに。
俺は席を立ち、紺野を呼び止める。
「なぁ紺野。今の明らかにわざとだろ。いい加減にそういうのやめないか?」
「はぁ?だから謝ってるじゃん。つーか、前も言ったけどお前は関係ないんだから引っ込んでろよ」
「謝れば何してもいいってか?それに、俺にだって関係あるね!」
「関係ある?何言ってんの。これは私と夏林の問題だから。お前は関係ねーだろ」
以前と同じような事を言って俺を黙らせようとしてくるが、今回については俺も止まらない。
ちゃんと反論を整えてきた。
以前から考えていたが実践しないだろうと思っていた俺の解決案。
それは。
「関係あるに決まってるだろ。いいかよく聞け」
一呼吸置いてから息を吸込み、怒鳴る訳では無くただ大きく通る声を意識して。
「俺の彼女に嫌がらせしてんじゃねぇぞ」
そう言い放った。