弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
水曜日の朝、第二被服室にて日南と前日の振り返りを行っていた。
それで駅に乗ってから起こったハプニング、みみみと同じ駅だったため途中まで二人きりで帰宅したことを日南に話した。
「ちょっとしたトラブルがあったにしろ、うまいことやったじゃない」
「ハハ……」
日南は俺の最寄り駅を大宮と勘違いしていたようだが、実際は誤りで俺とみみみは同じ北与野駅だったわけだ。
「まぁでも、俺でもできる話をみみみが盛り上げてくれただけだけどな」
これについては、コミュ力お化けのみみみ様々だ。
「謙遜することないわ。そういう部分があるにしろ、あなたにも得意なことがあったっていうことね」
「俺に、得意なこと……?」
そんなものがあったのか?
そのままの疑問が口から出る。
「家庭科室のときもそうだったけど、あなたはどうやら『自分の考えをそのまま喋る』のが得意みたいね」
「自分の考えをそのまま?けどそれって普通のことじゃないか?」
そう口にする俺に、日南は指をちっちっと振りながら答える。
こんなあざといジェスチャーまで様になっているところが憎い。
「それがそうでもないの。むしろ苦手な人のほうが多いわ」
「え?」
思ったことを口にする、それが苦手とか難しいとかそういう事があるのだろうか。
「例えばみみみ。折れるのが得意なのよね?自分の考えを言うのが得意だと思う?」
「あ、そういうことか。周りに合わせたことを言うのが得意、ってことだな」
「そのとおりよ」
なるほど。
たしかに周りに合わせるとそれは自分の考えではなく周りが求めてること、だ。
「あと、花火。あの子はたぶん得意よね?自分の考えを言うの」
「たしかにな」
「あの子みたいなタイプは多かった?少なかった?」
たまちゃんみたいなタイプか。
それは……。
「少なかったな。そうか、これが得意なのって珍しいのか」
「ええ。つまりはそれがあなたの武器、長所、必殺技よ」
おぉ、俺の必殺技か。
「今後なにか困ったことがあったらそれに頼るといいわ。覚えておいて」
「ああ、わかった」
この課題はあと3日続く。
そしたら自分の武器を知って置くに越したことはない。
これも分析することの一つだな。
「それじゃあ昨日の振り返りはそんなところかしら。話を進めるわよ」
「お願いします」
「といっても、残り3日は同じことの繰り返しね。会話に参加して観察をしてもらう。準備はできてるかしら?」
「準備と言っても、こんなの現場に赴くしか。気持ちの準備ってことか?」
誰と話すかすらわからないのに、心構え意外になにかあるのか?
「よくわかってるじゃない」
やっぱりね。
「それと、会話に参加するまでやることはないでしょうからやることを追加しましょう」
「やることを追加?」
「そ、サブクエストよ。好きでしょう?」
「まぁ、好きだな。サブクエスト」
たしかに日南に呼ばれるまでやることがないわけだし、その間に別の課題というと効率がいいのかも。
サブクエと言えば、前回は相原を昼食に誘ってクリアしたやつだな。
「それで具体的には何をするんだ?」
「相原くんの昨日の予定について確認する、ってのはどうかしら」
はて、いまいちピンとこないな。
「昨日の予定って、どういう事だ?」
「そうね、昨日下校の際に相原くんも誘ってみたの。あなたともそこそこ仲はよさそうだし、みみみもいれば乗ってくるかなとおもって。でも、予定があると言って断られたわ。先に約束がある〜ってね。それで、今回はそれを聞き出すのを課題とするわ」
なるほど、昨日は相原にも声をかけていたのか。
てか、みみみもいれば乗る?
とりあえず、誘ったが予定があると断られたから、その理由を聞きだすのが課題と。
でもそれって。
「それはつまり相原を調べてこい、ってことか……?」
「ええそうよ。なにか気になることでも?ってあぁ、そういうこと」
日南ははぁ、ため息を吐いた。
えぇ、俺なにか悪いこと言ったか?
「つまりあなたは相原くんについて調べさせられ、情報を売れと言っているように聞こえた、ということかしら?」
「あ、あぁ。言葉にすると概ねそんな感じ、かな?なんかそれって不誠実じゃないか?」
日南はもう一度はぁ、とため息を吐いてから口を開く。
「この課題にした理由はあなたに目的を持った会話をさせるためよ。今までは会話を成立させることのみが目標だったから、狙った情報を引き出す練習ね。だったら、もし聞いた内容を私に話しにくいと感じたなら、やったかどうかの報告だけでいいわ。その判断はあなたに委ねる。これでいいかしら?」
まあ、それなら。
「……おう」
「一応言っておくけど、そもそも理由を知りたいだけなら自分で聞いたほうが断然早いわ。課題としてだしたのはさっき言った通り、ちょうどいいからよ」
たしかに、それはそうだよな。
「納得してもらえたようね。それでも抵抗があると言うのなら無理強いはしないわよ。あくまでサブクエストだから、メインに専念したいならそれでもいいわ」
「気を悪くさせたなら悪かった。すまない。でもやるさ、俺は基本的に達成率は100%に埋めたい派なんだ」
こうして今週のこり3日のレベル上げに加え、サブクエストが始まった。
***
朝のホームルーム前に教室へ戻る。
サブクエストについて、できるうちに解決をと思い相原の方を見るが、どうやら中村たちと話をしているようだ。
話を聞きに行くにしても既に会話をしていたら、そこに交じるのはなかなか難しい。
特に中村と話しているところに交じるとか絶対に無理!
少なくとも今話しかけるのは得策ではないな。
一応期限はまだあるわけだし、今は様子見としよう。
そんな感じで様子を見ている間にホームルームが始まるチャイムがなった。
その後もお昼にと思っていたのだが、昼にはメインの課題の方で日南が仲の良いグループとの会話に混ざれるような手配をしていたので、相原と会話することはなかった。
サブにかまけてメインをサボるわけにはいかないのでこっちはこっちでキッチリと会話へと参加をする。
攻略の鍵ってのはこういうメインクエストで得た知識を使う、とかもよくあるパターンだしな。
そうこうしているうちに、何もアクションを起こすこともできず、もう学校が終わるホームルームの直前だ。
放課後にも話しかけるタイミングは作れるかも知れないから、いったんメインサブ含め状況をまとめよう。
昨日からメインについての取り組みは2回行った。
1回目は昨日の放課後の帰宅。
2回目は今日のお昼だ。
そこで会話に参加して気づいたこと。
それは、それぞれの会話での役割だ。
既に学んだことだが、会話をするにはまず話題が必要になる。
だが会話に参加してみた所、その話題を出す人物というのは実は特定の人物だけだったりする。
みみみとかがそうだろうな。
つまり、ざっくり言ってしまえば役割が決まっているんだ。
話題を出す人、その話題を更に広げる人、リアクションを返す人、などなど。
この中でも特に「話題を出す人物」というのが、会話の中心にいたように感じる。
つまり、会話に参加して存在を示すということは、新しい話題を出せなければだめだということだろう。
メインについての現在の分析はこんなところだ。
続いてサブの方。
こちらは、メインの分析と合わせると見えてくるものがある。
相原から昨日の放課後していたことを聞き出す課題。
これはつまり自分で話題を出して相手の反応をもらうことの練習、なのだろう。
相原に話しかけ、昨日は何をしていたのか?と言う話題を出す。
そこで期待通りの反応を貰うことができればクリアということだ。
あとはタイミングとどう話をするかだが……。
もう今日のチャンスも多くない。
ホームルームが終わり次第、相原に話しかけに行くとしよう。
相原は部活に行くはずだが、その前に少し時間はあるはずだ。
ホームルーム後、挨拶も終わり生徒は各自部活に行ったり帰路についたりとそれぞれのことをし始めた。
俺はすぐにでも動けるようにスクールバッグに荷物をまとめ済み。
予定通りサブクエストを終わらせるため相原に話しかけに行った。
「あ、相原ちょっといいか?」
「ん?」
相原は周りをちらっと見渡してから答えた。
「これから部活なんだ、手短にならいいぞ?」
ほぼほぼ想定通りの反応だ。
あとはこっちで『昨日何していた?』と言う話題を出せばクリアだ。
「あぁ、わかった。いや大したことじゃないんだが、昨日って放課後何してたんだ?」
相原は小さく「昨日…?」とつぶやいて顎に手を置いて考えるようなポーズを取ってから答える。
「あー、昨日の放課後?なんで?なんかのアリバイ的な?」
それは回答というよりは真意を確認する言葉だった。
それはそうだ、必ず聞かれたので答えました、となるわけがないのだ。
つまり話題を出したら、その話題に乗るか乗らないかの判定がされる訳か。
……盲点だった。
「え、いやそんなわけじゃないが……」
そのままのらりくらりと流されてしまい、部活の時間だからということで相原は去っていった。
流石にこれから部活に行くと言っているのにそれを止めることは俺にはできない。
くそっ、今日は失敗か。
ただいろいろと得るものはあった、と思う。
今日はだめだったが明日もチャレンジだ。
***
昨日の失敗から反省もした。
昨日は部活に行く時間ということで会話を切り上げられてしまった。
なら解決法は至って簡単、早々に時間切れにならない時に聞けばいい。
昨日はメインとしての課題の方でお昼は日南達とのグループで会話に参加していたが、本日は昼は空いているため昼食に誘えばいい。
前回のサブクエストのときと同じだな。
昼食作戦だ。
昼休みに入り相原の方を確認する。
席を立ったので、これから購買か食堂へ向かうのだろう。
なら、作戦開始だ。
「相原、もしかして今日は食堂か?」
「おう、今日は食堂だな。友崎もか?」
よし、俺はこれに乗っかる。
「あぁ、俺も今日は食堂だよ」
「なるほどなー、じゃ行くか」
「お、おぅ」
なんだかんだでこんな話をするのも数回目なので慣れてきた。
行くか、というのはご飯を一緒に食べましょう、というのと同義だとこの前学んだからな。
作戦成功だ。
こうして俺と相原は食堂へと向かった。
幸い食堂で2人分の席はそれほどの苦労もなく無事取ることができた。
俺と相原はテーブルの上に運んできたお盆を置いて席に座る。
そしてなんとなく相原の注文を見る。
「なぁ友崎、無難じゃない食堂のメニューってなんだと思う?」
「お前の注文したやつ。なんで蕎麦にコロッケ入ってんの?」
コロッケそばってなんだ。
食べてる途中に芋が崩れたりしないのか?
そもそもコロッケと蕎麦って合うのか?
「舐めてんのかお前、蕎麦の中でもコロッケ蕎麦は無難も無難だろーが!」
「えぇ……」
食べたこと無いから否定するだけの材料もないけど、俺のイメージの中ではあまり合う気がしないような。
いやこの話はおいておこう。
サブクエストがあるからな。
「そんなことより、結局一昨日って放課後なにしてたんだ?昨日は聞きそびれたし」
「ぁー、一昨日ね。その話まだ続いてたのか」
「勝手に終わらせないでくれ」
まぁたしかに部活で忙しそうにはしていたが……。
けどなんか言いたくなさそうな雰囲気は感じる。
理由はよくわからないが。
……いやこれ、もしかして嫉妬か?
とは言え俺からうまく聞き出す方法というところが思いつかなかった。
そんな時、昨日の反省会で日南に言われたことを思い出す。
『それがあなたの武器、長所、必殺技よ。困ったことがあったらそれに頼るといいわ』
そうだな、思ったことや考えた事をそのまま言うのが俺の武器だ。
それにどうせ相手は
思ったことを、そのままな。
「相原ってもしかしてみみみのこと好きなのか?」
いや失敗したかもしれん。
口にしてから後悔した。
だが相原は普通に回答をしてきた。
いや、普通か……?
若干慌ててる気もする。
「逆に、みみみのことが好きじゃないやつなんているのかよ。容姿端麗で勉強スポーツも出来て話も面白い、クラスの人気者だろ」
「それは、たしかに……?」
みみみは俺でも話しやすいし、たしかにみみみか好きじゃない人間っていうのはあんまり思いつかないな。
誰とでもうまくやれる、そういうイメージがある。
てか、相原若干顔赤くないか?
「あぁーっ、俺が一昨日の放課後何してたかだっけ?」
相原は誤魔化すように話をもとに戻した。
なるほど、なんとなくわかったことがある。
相手が話しにくい、または話したくないことを話題にすれば他の話にすり替えてくるのだ。
「そう。そんなにうらやましがるなら相原も一緒に帰ればよかったのに、断ったんだろ?」
これも俺の本音だ。
「まぁな。大したことじゃないけど先約があったからな。あ、そうだ、俺と友崎は最寄駅近いしお前の家にアタファミ対戦しに行っていいなら答えてやるよ」
「なんだその条件は……」
どういう理屈でその流れになったのかわからん。
これがリア充的には普通なのか……?
「いやぁローカルでもアタファミで対戦してみたいなって。この前からいろいろアタファミの話はするし熱帯もするようにはなったけどさ、対面でアタファミやったことないだろ?ちょうどいいかなって」
ローカル対戦か。
それは確かにちょっと引かれるものがある。
俺はレート対戦でこそ全国一位まで上り詰めてはいるが、ローカルでの対戦経験はほとんどない。
有志の検証ではアタファミはネット対戦とローカル対戦ではネットの遅延等により0.1秒ほどズレがあるなんて聞いたことがある。
この違いでネット対戦ではかなりの成績を収めていても、実際に大会に出たらなかなか活躍できないとは結構聞く話だ。
そのズレってものが対戦でどう影響が出るのか、興味はあるな。
中村との対戦は、ローカルではあったが実力が違いすぎたしあれはノーカンにしておこう。
俺と相原でもまだ結構の実力差はあると思うが中村よりは強いのはたしかだし、相原とはちょくちょくネット対戦をしているので今急激に成長しているのもわかる。
でも、家に人を呼ぶっていうのもいつぶりだろうか。
いや、腹をくくろう。
課題達成しつつローカル対戦、ダメトレとして悪くない。
「あ、あぁ、わかった。じゃあそれでいいや。今日うちに寄ってくってことか?」
「いやぁー平日は部活あるからちょっと厳しいかなぁ。日曜の午前とかどう、遊び行くわ」
そういえばそうか。
相原なんだかんだそこそこ部活も頑張っているようだし、それを待ってたら遅くなる。
日曜は、特に予定もなかったし問題なしではあるな。
ま、俺はほとんどの休日がフリーだが。
「日曜ね、わかった。それで、結局一昨日は何してたんだ?」
相原が忘れてた!みたいな顔をしてから答える。
「旧校舎の方に行ってテレビを使わせてもらって、中村達とアタファミやってた。中村ヤバいぞ、打倒友崎に燃えてんの」
「えっ、マジ……?」
「そりゃもうマジもマジよ。まぁそういうことでリベンジマッチは楽しみにしてろよ」
こうして、日曜日に相原と遊ぶ約束を取り付けられつつ、サブクエストは無事に完了した。