弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
金曜日のホームルームを終えると第2被服室に向かい朝と同様に日南との会議が開催される。
「それで、この1週間会話に参加してみてどうだったかしら?」
「……心が死にました。」
どこの会話に参加したときもいじられる事が多かった。
「集団というのはそういうものよ。人数が多ければ誰かが犠牲になるわ。特にあなたは、その陰気な雰囲気を纏っている限りはそうなるでしょうね」
いや、陰気な雰囲気って……。
そうかもしれないけどどうしろと。
あぁ、そういうのを直すために色々しているんだったな。
「重要なのは分析の結果よ。その点はどうだったかしら?」
それはそうだ。
もとより経験値稼ぎ、参加のみでいいと言っていたのは会話を分析するためなのだから。
俺は思ったこと、分析したことを日南に説明する。
「そうだな、俺が思ったことはそれぞれ会話の役割があるってことだな。話題を出す人、それを広げる人、リアクションを返す人。それで、特に話の中心にいたのが話題を出す人、だと思ったかな。次点で、話を広げる人か」
「で、それが?と言う様な当たり前のことね」
う……俺なりの分析だったのだが、当たり前のことだったようだ。
日南は更に言葉を続ける。
「でも、それはあなたにとっては大きな気付きよ。やはりそういう点はnanashiね。やるじゃない」
「そ、そうなのか」
俺はほめられたのか……?
若干照れてしまう。
一度下げてから、上げる。
これが日南のアメとムチの使い分けか。
「これであなたは会話をうまくなるために必要なことを理解出来たはずよ」
というと、つまり……
「新しい話題を出すことと、話題を広げること、ってことか」
「おにただ!」
「でたな、おにただ。もう何度目だ」
日南はコホンと咳払いをしてから続けた。
「必要なことは理解できたわね?じゃあ次にやることもわかるわよね?」
「あーっと……上手い人のマネ、か?」
上達するには上手いやつのマネが1番。
それは間違いないだろう。
話題を出したり広げるのがうまいのは誰だ、みみみとか相原とかか?
「その通り。必要なことはわかっているのだから学ぶべき点も明確でしょ?」
「うーん、たしかにそうなんだけど、そもそも真似をできる段階なのか?ほら、やりたいことが見えてても体がついて行かないこととかってあるだろ?」
たしかに上手い人の操作を真似て上達するというのはゲームでも基本だ。
とはいえそもそもとしてだ。
真似たくても操作方法から把握できてない状態だとどうしようもない、ということはある。
「そのとおりね、当然スキルの習得も必要になるわ」
「だよな、それはそんな一朝一夕で身につくものでも……」
「いいえ、それが1番簡単よ」
「え?」
そういうと、日南は俺に何かを差し出した。
これは、単語帳カード?
受け取ってパラパラとめくってみると中身は。
「これは、会話のネタ!?まさか、話題を暗記しているのか……!?」
そういいながら日南をみるとニッコリと笑顔を浮かべた。
そこまでするのか!?
これは、異常なのでは?
日南の笑みが怖い……。
「いや、普通じゃないだろコレ……」
「何を言っているのよ、敵のステータスや弱点を暗記するのと一緒よ。こうすれば話題なんてなくなりようがないでしょ?」
マジかよ、頭のいいやつはたまに馬鹿なことするよな。
いやでも有効なことを考えるとやっぱり頭がいいのか?
「俺にもコレをやれってことか?」
「もちろんよ。とは言えやり方は任せるわ。あなたも勉強ができないわけじゃないでしょ?自分の覚えやすい方法で暗記すればいいわ」
とんでもない事になったな。
まぁでも本気でやると決めたからには、やるしかないか。
「あとは、日曜日の課題について考えておいたわ」
「おぉ、それで課題の内容というのは?」
日曜日。
どうやら相原の来訪の際の課題を考えてきてくれたようだ。
「相原に対して3回、いじることよ」
「え、俺が相原をいじるのか!?」
「ええそうよ。まぁ反論する、とかでもいいわ。あなたみたいな人間が比較的カーストの高い人と話した際によく陥りがちな事として、ただ相手のことを肯定するだけのイエスマンに成り下がることが多いのよ」
言われた意味は何となく分かる。
たしかにそういう事はあるだろう。
相手のことを肯定してご機嫌をとろうとする。
容易に想像ができるな。
でもそれって……。
「それって悪いことなのか?」
「ええ、最低ね。それを続けた結果できあがるのはリア充ではなく1人では何もできない周りの顔色を伺うだけのくだらない人間、キョロ充よ。それならもうぼっち以下だわ」
えらく攻撃的だな。
とはいえ言いたいことはわかった気がする。
たしかにそれはリア充同士の対等な関係とは違うんだろう。
「そうなることを回避するための手段がいじる、ってことなのか?」
「そのとおりよ。要は対等であると思わせることが必要なの。ただ首を縦に振るだけじゃ都合のいい人間としてしか見られないわ。だから時にいじり、違うと思ったことは自分の意見を持って反論する。そうすれば舐められにくいし、いじられにくくもなるわ」
理屈はわかったが、俺が相原をいじるイメージが全然湧いてこない。
「そう難しく考える必要はないわ。むしろ、相原にだったらなんの問題もないかもね」
「それってあれか?前も言っていたが、相原ならそうそう怒ることはないってやつ?」
前にそう言ってた気がする。
たしかに相原が反論などされても本気で機嫌を悪くしたようなところは見たことがないな。
「それもあるけど、どちらかと言うと相原のキャラの問題ね。彼はなんというか、会話にボケを入れる人間よ。自分から、いじってもいいですよ、っていう空気をだして和ませようとしている。だからあなたは相原が馬鹿なことを言ったら、それにツッコミを入れてあげれば問題ないはずよ」
「馬鹿なことって……」
そう言われて過去の会話を思い返してみると、相原はたしかに周りからいじられたりすることが多い気がするな。
もしかしてこの前コロッケそばを食べながら無難なメニューはなんだとか言っていたのも、その一環だったってことか?
いやでもアレは結構本気に見えたような、わからん……。
「だから相原に対していじるというのは難しいことではないわ。馬鹿なこと言ったらしっかり自分なりの考えで反論してあげなさい。それに、失敗しても相原なら怒ることもないでしょうから、たっぷりトレーニングモードで経験を積むといいわ」
そうか、自分なりの考えで反論。
別に相手が冗談か本気かなんてそこまで関係ないな。
しかし、相原はやはりトレーニングモード扱いなのか。
相原すまんな、またサンドバッグくんになってくれ。
ん……?
「そういえば、さっきの話だといじられる人間は低く見られるってことにならないか?」
ふと感じた疑問を日南に確認する。
「それでも俺の目から見ると、相原はいじられてる割にはお前の言うキョロ充ってふうには見えないし、むしろ時には会話の中心にいるようにも感じるんだけどこれはどうしてなんだ?」
「そうね、それこそうまいこと反論をしたり、いじり返したりしてバランスを取っているってことよ。そもそもいじられる事自体は悪いことではないの」
バランスを取っている、か。
たしかに相原はなんだかんだで自分の意見で反論することも結構あるように感じる。
そう考えると適度にバランスをとっていじられるだけの人間にはならないようにしていたってことか。
「例えばみみみだってよくいじられているけど会話の中心にいるでしょ?そういう人間はいじられる以上に話題を出して存在感をだしていたり、ボケること自体がそういうキャラなんだって周りに浸透させていたりするわ」
みみみについてもたしかにそうだ。
俺でも話しやすいということろにはそういったからくりがあるのかもしれない。
「キャラを浸透……」
「そ、だからいじられるのを、″舐められる″みたいなマイナスなものではなく″愛嬌″のようなものに昇華しているってことよ」
なるほど。
「なんとなく理解はできたが、今の俺にはとても真似できそうにない話だな」
「それはそうね。レベルが2になったばかりのあなたが気にするような話ではないわ。覚えておくに越したことはないけどね」
俺のレベルってまだ2になったばかりだったんですか……。
「とりあえずやることは理解できたわね。誰かが家に遊びに来るなんてリア充らしいイベントじゃない、しっかりやりなさい」
「あぁ」
それに、正直結構楽しみだからな。
「この話は以上かしらね。次の話に行くわ」
次の話…?
まだあるのか。
「1つは、これよ」
そう言って日南は何かを俺に見せた。
この機械は……はて。
再生ボタンに停止ボタン。
「それはなんだ?」
「ICレコーダーよ。今日ここでの会話をすべて録音しておいたわ」
はい!?
なんでそんなもんがでてくるんだよ!
「これで復習できるでしょう?これ、色々と使えるからね。一時的に貸してあげるわ。これでいつでも復習ができるでしょう?」
そう言って日南はICレコーダーを渡してくる。
お、おう、いやでも助かるは助かる。
「あ、ありがとう」
ICレコーダーを受け取り、再生方法など簡単な使い方を教わる。
「それじゃこの話もおしまいね。しっかりと復習しておきなさい。後は最後、明日の話よ」
「明日?明日は土曜日だから学校は休みだぞ?」
「ええ、だからこそよ。それとも何か用事が入っているの?あなたが?」
ぐ……コイツは正確に俺の弱点を付いてくる。
「入って無いけど……」
「ならよかった。昼の11時に大宮駅集合よ。1日付き合ってもらうわ」
こうして土曜日は日南と大宮に行くことになった。
ちょっと長くなったので分割しました。
続きは明日にでも。