弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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「日南、聞いてくれ!小さい目標をクリアしたかもしれない!」

 

月曜日の朝、恒例の第二被服室。

俺は堂々と日南に言い放つ。

 

「えっ、ほんとう?家族かしら?それとも相原かしら?」

 

日南は俺の報告を聞いて嬉しそうにしている。

こういうところがなんというか、ずるいと思う。

 

「ああ、実は両方なんだ!相原と、妹。それで言われた内容でクリアになるか判断してくれよ」

「2人からなんてやるじゃない。周りからみてもあなたの努力の成果が現れている証拠ね。それでなんて言われたの?」

「あぁ、まず妹からなんだが…」

 

俺は一息置く。

心のなかではドラムロールがなっている。

 

「『それ、お兄ちゃんのセンスだけじゃありえない変化よね。色気づいて脱オタの本でも読んだ?』、だ!」

 

日南は困惑半分、苦笑半分といった表情になる。

 

「……目標はクリアでいいけれど。よくその言葉で喜べるわね?」

「うるせぇ!クリアはクリアだろ!」

「まぁ、そうね。あとは相原のほうは?」

 

1つため息をつかれてから続きを促される。

ため息をつくことはないだろ。

 

「たしか、『髪はイメチェンかなんかか?最近はなんかクラスでも話すのみるようになった気がするし』って言われたぞ!あ、あと服装も褒められた、と思う」

「あら、そっちは文句なしね。先にこちらを聞きたかったわ」

 

だよな、よかった。

 

「改めて、初めての目標達成おめでとう。偉いわ」

「あ、ありがとう」

 

日南は笑顔で祝福してくれた。

少し呆気にとられる。

でも正直なところ課題をクリアしたのは日南のアドバイスのもと、美容院で髪を切り服はマネキンのままだ。

俺はなにもしていないんじゃないか。

 

そう言おうとしたところで踏みとどまる。

『人間、自分が出した結果については自身を持つべきだわ』

日南に言われたことを思い出した。

たぶん、小さいことでも俺自身がやったこと、選んだこともあったはずだ。

 

「───一応言っておくわ。服はマネキン一式そのままだし、髪も切っただけね。だけど、私についてきたその行動と意志。それに、今も続けている表情や姿勢の矯正。毎日の努力は少なからず効果を発揮しているわ。あなただけの力ではないけど、でもこれは。あなたが自分で、自分自身の手で掴み取った結果よ」

 

口にはしなかったが日南は俺の考えを察していたようだ。

俺の思っていたこと、抱えていたモヤモヤのようなものを言語化して俺を真っ直ぐと見据える日南。

 

「だからもう一度言うわ。おめでとう」

「……おう、ありがとう」

 

今度は心から感謝の言葉を口にできたような気がする。

 

「さて、次の目標だけど、先に昨日のことを聞こうかしら。出していた課題もうまくいった?まぁ、目標も達成できたことを考えるとうまくやったんでしょうけど」

「ああ」

 

俺は昨日の事を日南へ報告する。

 

「そうだな、課題の方からだけど、問題なくクリアしたと思う」

 

いじる、反論するという内容で数えたところとして

・駅まで呼ばれて「ご苦労」と言われたことに対して

・部屋を物色し始めたことに対して

・ラーメン屋に行く際に妹もどうだといったことに対して

これらに俺の考えを持って反論した、はずだ。

 

それと俺から自発的に相原をいじったこととして、LINEでみみみに連絡を入れていたことに対して冷やかすようにいじった。

 

「……っていうところだな。あとは途中から数えなくなったけど相原のボケに対してツッコミを入れたと思う。たしかに、日南が言ってた通りよく馬鹿なことを口走っていたな」

「なるほどね、OKよ。特に自分からいじる、これが出来たことは大きな一歩ね。その積極性は大事なことだもの。相原も面白い反応をしたんじゃないかしら?」

 

そう、だな。

 

「むせてたな。その後仕返しとばかりに日南と怪しい関係なんじゃないかと返されたよ……。深くも聞かれなかったし適当にごまかしたけど」

「ふぅん、まぁ仲良くなれてよかったわね。やられたらやり返す、対等であるには必要なことよ。でも、前より気安さなどを感じられたんじゃないかしら?」

 

日南の言う通り、前よりも相原と仲良くなれたような気がする。

これは勘違いとか気の所為とかではないはずだ。

 

「あぁ、なんか実感みたいなものはあったと思う」

「それは何よりね。そういうことの積み重ねが自信につながるわ。結局何かする時にはやる気とか自信とか、そういうものがいちばん重要なの。結果を出して自信をつけ、次に繋げる。正のスパイラルね」

 

なるほど。

たしかにいま、目標や課題をクリアできたことにやる気や自信がでているところだ。

 

「あと、クリア後に言うのは申し訳ないんだけど、課題について1つだけ注意が必要なことを言い忘れていたわ。今後のためにも話しておくわね」

 

課題は無事にクリアだと思ったが、何か問題があっただろうか。

 

「課題のいじること、だけどいじり過ぎについては注意が必要ね。まぁ、相原みたいにわざとボケている相手にはその限りでもないんだけど」

 

いじり過ぎに注意が必要……?

 

「それは一体、どういう意味だ?」

「いじるってことは相手に毒を吐くことだったり、反論は相手の言っていることに逆らうことになる。そんな風にいつでも攻撃的な人のこと、あなたならどう思うかしら?」

 

なるほど、それはたしかに……。

 

「……ウザいな」

「そう、ウザいのよ。前はキョロ充の話をしたけど、それと同レベルだわ。これもよくいるのよ、とりあえず人の提案を否定から入るような人がね。せめてそこに自分の考えの代案があるならまだしも、得意げになっていちゃもんだけをつける生産性のかけらもないつまらない人間が結構とね」

 

おぉう、こっちもキョロ充のときと同じく偉く饒舌だな……。

日南も今の自分を作るまでに色々と苦労をしていたことが少し伝わって来た気がした。

 

「あぁ……。だから本当は課題も3回以上、ではなく″3回″って話だったのか」

「そうよ。でも相手が相原だったら反論に関しては気にすることはないわね。あなたからいじったのも1回だけならそれも合わせてちょうどよかったかもしれないわ」

 

相原だったら問題がない、か。

これはどういう……いや、少し考えるか。

なんとなくはわかる、後は言語化だ。

 

「相原なら反論に関して問題ないっていうのは、アイツが自分から反論される前提で話すことが多いから、ってところか?」

「ええ、あなたも少しはわかってきたわね。前に言った通り、相原は会話にボケを入れる人間よ。言い換えればツッコミ待ちなのよ。だからそれに対しての反論については問題ない、むしろ喜ぶんじゃない?」

 

よし、あっていたようだ。

しかし、考えることが多すぎる。

こういうことを自然とやっているのか、リア充って生き物は……。

 

「とりあえず昨日のことについては以上だな。あとは、普通に遊んで終わったよ。あ、まぁラーメン食べに行ったりはしたけど。そういえばラーメンと一緒に写真撮られたな……。なんか、普通に楽しかった」

「大成功じゃない。さっきも言ったけど確実にあなたの努力は実を結んでいるわ。この調子で、新しく次の小さい目標を作ってチャレンジしていきましょう」

「…おう!」

 

正のスパイラル、だったな。

やる気になっているのはそのとおりだ。

今なら何でもこいだ、こなしてみせるさ。

 

「それじゃあ早速だけど新しい小さい目標についてはもう決まっているわ。それは、これよ」

 

そういいながら日南は黒板に新しい目標を記載していく。

 

『私以外の女の子と二人きりでどこかへ出かけること』

 

…………は!?

いやいや待ってくれ。

早すぎるだろう!

アリアハンから洞窟を抜けたらバラモス城があったようなものじゃないか!?

 

「ちょっとまて!そんなのもう付き合っているようなものじゃないか!」

 

そういうと日南はかわいそうなものを見るような目で俺を見てくる。

な、なんだよその顔は!

 

「2人で出かけるイコール付き合っているだなんて、そんなこと中学生でも言わないわよ?」

 

なん……だと……?

そんなばかな。

 

「そう、なのか……?」

「まぁたしかに付き合うことを視野に入れとの場合も多いでしょうけど」

「そ、それじゃあ……」

 

俺にはまだ早いと言おうとしたところで日南のあまりにかわいそうなものも見る目に言葉が止まる。

もはやそれは呆れを通り越し憐れみとなっていた。

 

「……まだこれ以上話す?」

 

俺はもう何も言い返すことはできなかった。

 

「とにかく、この目標に向かって邁進して貰うわ。それで今日からの課題はね」

 

そこでいったんためを作る。

ああ、もう今度こそ何でもこいだ。

 

「泉優鈴に2回話しかけることよ」

 

いやまて!

ヒロイン攻略は菊池さんって話じゃなかったのか!?

菊池さんはどこへ行った!?

 

「ちょっと待て!」

「いちいち話の腰を折らないでもらえるかしら」

 

だったら俺の理解を超えた内容ばかりにしないでほしい。

 

「だってこれは確実におかしいだろ!?お前、メインヒロインは菊池風花って言ってたよな?なんで菊池風花ではなく泉優鈴なんだ!?」

「いいわ、順番に説明してあげる。メインヒロインはたしかに菊池風花よ。でもわざわざ一人に絞って可能性を狭める必要はあるかしら?例えばだけど、STG(シューティングゲーム)をやる時に残機がないときと残機に余裕がある時、どっちがいい動きをできるかしら?」

 

急に関係ない話をされた気がしたが、考える。

STG(シューティングゲーム)で残機なしと余裕がある時か。

まぁ普通に考えると……

 

「残機がゼロだと緊張で普段通りの動きができない人のほうが多そうかな?」

 

中には追い込まれてから粘る人もいるとは思うが。

背水の陣だ!あんた一人で陣なのか?ってさ。

 

「おにただ!」

 

でた、おにただ。

そういえばブインもSTG(シューティングゲーム)だな。

対戦機能までついてたっけ。

 

「普通残機があって余裕がある方がいい動きができるのよ。恋愛も同じ、もしも菊池さんに絞ったとして、失敗を恐れて縮こまるでしょうね。なら、他にも候補が何人もいるほうが余裕を持って駆け引きもできるわ」

「言いたいことはわかったけどさ、でもそれってつまりキープってことだろ?だって、俺だぞ?俺なんかにそんな事ができるのか?それに、相手にも不誠実なんじゃ……」

 

何人もキープしておく。

それができるかどうかは置いておいても、あまりに相手に対して失礼なのではないか。

 

「あなたの悪いところが全て出ている返答ね。自分を低く見る癖と、もう何回目になるかわからないその″不誠実″という言葉を盾にするのはやめなさい。『でも』、『だって』、『俺なんか』。あなたのその自分を卑下にする態度のほうが、これからあなたを好きになってもらおうとする相手にとってよっぽど不誠実なんじゃないかしら?」

 

日南の言葉にぐうの音も出なかった。

それは、まさしく正論で俺の言葉が全ていい訳であることを理解させられた。

 

「それに、別に嘘をつけと言っているわけじゃないの。いいわ、あなたレベルに落として話をしてあげる。ただ女の子と仲良くなるだけよ。仲良くなった先のことはわからないってだけ。あなたは友達を複数人作ることは″不誠実″なのかしら?」

 

それはたしかに、仲良くなることは不誠実なんかじゃないはずだ。

そういうことなら、たしかに問題ないのか?

なんだか上手く丸め込まれている気がする。

 

「でも、それでも菊池さんからの評価が下がったら意味ないんじゃないのか?」

「そうはならないわ。あのね、現実ではある女の子の好感度を上げると、他の子の好感度も上がるのよ。大抵の場合はね」

 

え?どんなメカニズムで……?

えっと……

 

「つまり、女子の間で評判が上がるってことか……?」

「簡単に言えばそうね。他にも独占欲を刺激したり、株が上がって見えたりとか、いろいろ要因はあるけど。あなたもイメージしてみたらどうかしら。」

 

想像してみる?

 

「あなたと仲のいい知人……相原でいいわ。相原がクラスの女子と仲良く話していて、あなたはたまたま近くにいたので話を聞いていた。聞こえてきた内容はアタファミについて楽しそうに談義をしていた、と。そうなったらあなたも少しその相手に興味が湧くんじゃないかしら?」

 

なるほど……たしかにアタファミが好きな相手とわかったら興味が湧くかも。

顔くらいは覚えるかも知れない。

って……

 

「いやでもそれは俺がアタファミが好きだからそこに興味持つだけじゃないのか?」

「それはあまり関係ないわ。たとえ関係ない話題だったとしても話が弾めば周りは『アイツ、意外と面白いやつなんだな』みたいに思うでしょ?そういうことの積み重ねで評価は上がるの。あとは、友達が親しげに話しているのをみるだけで安心感や仲間意識を覚えたりね。まぁ友達がいないあなたには分からないかも知れないけれど」

 

おい、最後に毒を吐く必要あったか?

でも言っていることはわかったし、これも日南が計画を立てて考えた目標であるように思える。

 

「わかったよ、やれるだけのことはやってみるさ。それに、たしかにこれくらいこなさないと中くらいの目標の達成だって遠いだろうしな」

 

進級までに彼女を作る。

そんな高い目標があるのにたかが話しかけることでコケてなんて、いられないだろう?

 

「ええ、よく言ったわ。それで話しかける内容だけど…」

「いや、それは大丈夫。話題の方は暗記を始めたから、たぶんいける」

 

俺は日南の言葉を遮ってそう口にする。

日南は少し驚いた顔をしてから嬉しそうに笑う。

 

「それなら、任せるわね」

 

よし、任された。

 

「まぁ、そんなに身構えなくても今のあなたならこなせるわ。忘れたかしら、あなたはすでに似た課題をこなしているじゃない」

「……そういえばはじめの課題も女子に3回話しかけることだったな。その時は話題を用意してもらっていたが、今回は俺が暗記してきたものだ」

「そうよ、あの時も優鈴とは会話できたわけだし問題ないでしょ?ほら、一歩ずつあなたは経験値を積み上げてきているのよ」

 

あぁそうだな、一度はやったことか。

なら出来ないわけがない。

そう自分を励ましたところで日南から一言。

 

「あ、言い忘れていたけどこの課題は今週の毎日の課題ね。合計10回優鈴に話しかけることになるわ」

 

あー、やっぱりダメかも……。

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