弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
「装備してた武器が偶然ボスの弱点属性付きで、装備していた盾が偶然ボスの使う属性に耐性があった、くらいの奇跡ね」
「やっぱりすごい奇跡だよな、これって」
俺は土曜日、日南と会っていた。
事の発端は、金曜日の泉にアタファミを教えた件が解散になったあと、個別に泉から「ありがとね」と短いメッセージが来ていたのだが、返信しなきゃという想いはあったものの正解がわからずに日南にこういうときどうすればいいの?とSOSを出した。
そしたらこの件については、会って報告しなさい、と言われたわけだ。
「たしかに今回の件は運がいいということが重なった結果でしょうね。けど、前に言ったことは覚えているかしら?運の話」
運の話、か。
もちろん覚えている。
運がよかったってのは行動があってのことって話だったよな。
「あぁ、もちろん覚えてるよ。でもさ、あまりにも都合のいいように行きすぎじゃないか?昨日の泉の件。それに菊池さんの件も。日南が裏で根回ししてるとかじゃないだろうな?」
最近は俺の都合のいいように行き過ぎているのだ。
泉の件はもちろんのこと、他にも菊地さんが俺なんかに興味を持ってくれていた理由も。
それは、俺がいつも移動教室の際に図書館に行き、読みもしないのに手に取っていた本がたまたま菊池さんの好きな本だった、なんてすごい偶然だった。
しかも俺は図書館にいる口実のために手にとっていただけで中身は読まずただたとアタファミの戦略を考えていたのに……。
「なに言っているの、私はなにもしていないわ。根回ししているのはあなたよ」
「は?俺?」
「前と同じことを言わせないで頂戴。すべてあなたが行動を起こしたものよ。移動教室のたびに図書館に言っていたのも、優鈴からティッシュを借りるために話しかけたのも、中村をボコボコにしたのも、毎日2回優鈴に話しかけたのも、全部あなたが起こした行動でしょ?」
それはそうかも知れないが……。
イマイチ納得しきれない部分はある。
「偶然が重なったりはしているわ。でも前も言ったかも知れないけどあなたはもう少し自分の出した結果を見て自分で評価をしてもいいんじゃないかしら?まぁ、それでもモチベーションが保てるのならいいけど」
「ある程度は、自分でも評価してるよ」
「……そう?」
俺がそう言うと日南は嬉しそうな表情をした。
たまにそういう表情をするのズルいと思う。
普段は割と辛辣なことを言ってくるのに、俺の成果などを自分のことのように喜んだような態度をとられると、ギャップが。
「ならいいのよ。どう?自分の頑張りで人生を好転させるって、美しいと思わない?」
「あぁ、俺もそう思えるようになってきたと思うよ」
「そっか、それはよかったわ」
俺は今自分を変えるために日南の言われるままではあるが行動をして、たしかな実感を得ていた。
結果が出るっていうのが、本当に楽しいのだ。
そんなふうに軽く振り返っている時に、ふと相原のことを思い出した。
アイツも2年前は陰キャ寄りで、変わったのは去年の間という話だった。
「そういえば日南はさ、去年の相原がどんな感じだったかって知ってるか?」
「去年の相原?」
「あぁ、昨日相原の家に行ったわけだけどさ、その時に中学の卒業アルバムを少し見せてもらったんだよ。そしたらあいつ、中学の頃や高校1年の頃はパッとしない……というか言葉を気にせず言うと陰キャだったんらしいんだよ」
「そう言われると、そうだったかもしれないわね。私もクラスは違っていたし、女子ならまだしも他クラスの男子となると接点も少ないから詳しくは知らないわ。それこそ部活で姿が見える程度よ」
そうか、そもそもクラスも違ってたんだな。
日南もあまり相原についてはよく知らないないようだ。
「でもたしかにいつの間にか雰囲気は変わっていっていたと思うわ。彼、今は結構部活に熱心だけど去年の始めは全然記憶にないから、途中から頭角を現してきたんでしょうね」
そういえばみみみもそんなこと言っていたっけ。
始めはサッカーも全然上手くなかったけど、今では中村と並ぶくらいに上達したとかなんとか。
「詳しくは本人か去年同じクラスだった人間に聞いてみたほうがいいわ。それにしても、去年は陰キャだった、か。もしかしたらちょうどいいかもね」
ちょうどいい?
なにがだ?
「味方を増やしておくことは今後の助けにもなるし、もしかしたらあなたが自分を変わるためのノウハウも持っているかも知れないわね。いっそのこと聞いてみたらどう?どうやって自分を変えたのかって」
それは正直少し考えていた内容だった。
ただ、まだ人との距離感に慣れていない俺は、踏み込み過ぎることを恐れていたように思う。
たぶん、相原とは順調に友好関係を築けてしまったがゆえに壊れることを考えて保守的になっていたようだ。
あぁ、よくないな、どうせあいつはサンドバッグくんなんだから横アタックを叩き込んでぶっ飛ばすくらいの気持ちで構えてよかったのかもしれない。
「まぁ、そこは無理にとは言わないわ。リア充になるためのノウハウは私が既に持っているもの。でもあなたにとって他の人間からそういう事を聞くのはいい刺激にもなるかもね」
「そう、だな。今度機会があったら直接聞いてみるよ」
日南はそう、と言って持っていたスプーンをテーブルに置いた。
日南が注文していたパフェは結構な量があったはずだが、空っぽになっている。
よくそんなに食べられるな……。
「それで、菊池さんの件は決めたのかしら?」
菊池さんの件……。
小さい目標、『日南以外の女の子と二人きりでどこかへ出かけること』をクリアするのに菊地さんを誘うという話だ。
菊地さんが俺に興味を持ってくれている理由ははっきりして、それに対して日南は完全に脈アリだと言った。
しかし、俺はこのことに対して菊池さんを騙していると言う負い目があり、素直に喜ぶことができなかった。
だって、本当は菊地さんが俺に興味を持ってくれたきっかけの本を読んでいないのだから。
だが日南は、だからこそ『デート』をしてくるべきだと言う。
最初のきっかけが大事なのではなく、そこからどうお互いを理解していくかが大事なのだと。
でも俺は、騙したままデートに誘うのは″不誠実″なのではないかと思った。
……ただこれも少し前に日南に言われたばかりで、″不誠実″という言葉を盾にして菊池さんから逃げているのかもしれない。
むしろ好意を無碍にしているのではないか、という考えも浮かび、なにが正しいのかわからず思考がぐるぐると回っている。
だからまだ答えは出せていない。
「まだ迷っている……。なにが正しいのか分からなくなって……」
日南はそんなふうにくちごもる俺を見て、はぁとため息をつき、財布から何かを取り出した。
「あなたはまだ正しいとか正しくないとか、そんな事を言っているのね。ま、いいわ。でもそろそろ決めて頂戴。これを渡しておくわね。どうするか決めて、実行してから報告して頂戴」
「これは、映画のチケット?」
「ええ、今度の日曜日の試写会よ。これなら日付も決まっているから誘いやすいし、向こうももしも嫌なら用事があると断りやすいわ。それに映画という共通の話題ができるから会話もしやすくなるでしょ?」
「な、なるほど……。まだ迷ってはいるけど、一応もらっておくよ。ありがとう」
日曜日、ということはそれまでに決めろということだろう。
それに菊池さんも急に誘われても予定があるだろうから、デートに誘うとしても数日前。
木曜だとさすがに遅いよな……?
「それじゃあ今日はここまでにしましょう。私も用事があってそろそろいかなきゃなの。今日は私ばかり食べていたし交通費もあるから、ここは出すわ」
一瞬断ろうかとも思ったが、日南はこういうところは頑なに譲らないだろうし、素直にお礼を言うことにした。
それから数日が経ち、水曜日の放課後。
俺は旧校舎の第二被服室に行くために教室を出た。
時間的には余裕があるので結構ゆっくり目で歩いていたのだが、玄関に着く少し前くらいに俺のスマホがブルッと振るえた。
LINEが来たようで、スマホの画面を見てみると相原からのメッセージのようだ。
『今どこ?まだ学校にいる?』
なんとなく不穏な感じを受けつつもスルーするわけにもいかないよな、と思い返信する。
『一応いる。そろそろ玄関。』
これだけ打ってパッと返すとすぐに既読が付き、返信まで返ってきた。
『ちょっと玄関で待っててくれ。今行く』
嫌な予感が加速する。
用件も書けよ相原。
ただ、先週は俺から似たようなLINEを送っていたこともあり断るわけにもいかないかと思い、少し待つことにした。
「お、友崎はっけ〜ん」
数分したら相原が玄関へと到着する。
そしてその後ろには中村と仲のいい水沢がいて、なんとなく観察するような目で俺を見ている。
「友崎、残念だったな。呼び出しを食らったぞ」
「え……?」
相原は若干腹立つ顔をしながらそんな言葉を吐いた。