弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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「まぁこんなもんだよな。悔しいけど勝てねぇわ」

 

そう言いながら俺は椅子から立ち上がり、コントローラを椅子の上に置く。

 

「中村、頼む……お前の手で、友崎を倒してくれ……」

「何いってんだお前。まぁ、次は勝つ」

 

ボケたのに軽く流された。

この重めの空気の中でボケた俺を褒めて欲しいんだが。

 

俺はギャラリー側にいた中村と交代する。

どうやら先程までとは違って少しだけ落ち着いたらしい。

たぶんだけど俺が若干の煽りプレイまがいな行動をやり返したので少しはスカッとしたのかもな。

 

なんつーか嫌なことしてきたやつが、今度は自分が同じ目に遭ってるのみると心なしか気分良くなるからな。

今俺最低なこと言ってる気がするけど、人間なんてそんなもんだ。

人を呪わば穴二つ、友崎も相手弱いからコンボ練習したろwみたいな舐めプは相手を怒らせないくらいにとどめるんだな。

 

そして中村対友崎の3戦目が始まる。

結果はまた友崎が全ストックを残して勝ち。

でも、中村の動きはさっきよりはマシになったように感じる。

投げ始動コンボも即死させられる前に抜け始めたし、攻撃も当たり始めた。

とはいえ、まだ1機も奪えてはいないが。

 

「もう一回だ」

 

友崎は信じられないものを見る目で中村を見た。

何故ここまでボコボコにされてめげないのか不思議といった顔だ。

はン、あんまり俺達の中村をなめんなよ友崎ぃ!

 

とはいえギャラリー側の、というかこの部屋全体の空気はとてつもなく重いものになっている。

クラスで特に目立っていて、周りからはアタファミも強いで知れ渡っていた中村が手も足も出ないままボコボコにされて、はや三連敗。

そりゃこうもなるさ。

中村もガチなもんだからなおさらだ。

 

ちなみに俺だけは、対戦直後な上に対友崎戦では過去最高の結果を出したせいか、なんか一周回ってハイになっている、と言うか開き直ってしまった。

 

「あ、私今日、予備校あるから……」

「わ、私も……」

 

紺野エリカと一緒にいた2人、神前と秋山がこの空気に耐えきれなくなったのかそう言って部屋から抜け出そうとする。

 

「嘘つくな。お前ら予備校は木曜日だろうが」

 

しかし中村が呼び止める。

……それはさすがに不味くない?

周りの奴らはこの空気にやられてるし、俺がフォローするしかないのか?

いいけどね、まーた貸しひとつな中村?

 

「まぁまぁ、明日が予備校だからその準備を今日しないととかってことなんだろ?俺は予備校とかよく知らんけど、課題とかあるんっしょ?」

「あ、はは、そうそう。そんな感じ」

「チッ、勝手にしろ」

 

そうして紺野達3人は帰っていく、かと思ったら神前と秋山は帰るようだが紺野は残るようだ。

なんとなくいつも3人一緒のイメージがあったので少し驚いた。

あいや、失礼だったかな。

 

とりあえず出ていく二人に軽く手でも振っておこう。

なんだかんだあの二人もかわいいよね。

ばいばーい。

あ、小さくだけど手を振り返してくれた。

いいやつらかよ。

優しさが染み渡る、惚れそう。(現実逃避)

 

「早くしろよ、もう一回って言ってるだろ」

「……わかった」

 

そしてこんな空気の中でも戦いは続く。

4戦目。

これも友崎がノーミスで勝利した。

中村も動き自体は良くなってきているがまだまだ届かない。

ギャラリー側がさっきから結果を見て空気を重くしているのが、中村にもプレッシャーを与えている感じがする。

まぁ、中村が原因で作られている空気でもあるんだが……。

それでも中村は、もう一回と続けた。

 

5戦目。

ここでついに中村は試合に負けたものの、友崎から1機を奪い取った。

差し合いでそこそこのダメージが溜まった所に掴みを入れ、そこから見事な高難度コンボを叩き込んだ。

MLJ!ムーン、ライト、ジュエル!

前に俺にも叩き込んだよな、そのコンボ!

俺の中でテンションはバク上がり中!

 

たぶんだけど友崎は手を抜いてなどいない。

間違いなく実力で奪い取った結果だ。

いまだボロ負けではあるが、練習の成果は出ていて少しだけ感動してしまった。

これで区切りをつけられるな、なんとか無事に終われそうだ。

 

「やったじゃん、修二!1機、落とした!」

「中村、じゃこれで……」

 

「もう一回だ」

 

ひえっ、マジ?

今回は此処で終わりにしない?

 

「え、いやさっき……」

「1機落として満足だとでも思ったのか?舐めんなっつったろ。もう一回だ」

 

中村はしっかりと友崎の方に顔を向けて言い放つ。

横から見える表情は、自暴自棄になったというものではなかった。

まだまだやる気に満ちているっていうか、1機落としたことの進歩を感じてもう一歩進もうとしているといった感じだ。

 

「修二さぁ、いい加減諦めたら?そろそろキモいんだけど」

 

しかし、そこに横から敵意のこもった声が響いた。

紺野エリカだ。

 

「つーかなに?ゲームごときにマジになっちゃって」

「あ?お前には関係ねーだろ」

 

中村の圧にもどこ吹く風といった感じで紺野は受け流し、馬鹿にしたような態度で笑いながら言う。

 

「はぁー?帰ろうとした人間引き止めようとまでしておいて関係ない?さすがにそれはないんじゃない?アタマいっちゃった?キモー」

「お前を引き止めたつもりはないから。アイツらと一緒に帰ればよかっただろーが。何つきまとってんの?お前こそキモいわ」

 

言い争いはヒートアップしていく。

なにがどうしてこうなった。

 

「はぁ?もしかして私が告っちゃったから調子に乗っちゃった?こんなにキモいと分かってたら、告ってない告ってない。つーかお前じゃ勝てねーから、わたしが見ててもそれがわかるってことは、相当弱いんだねぇ修二?」

「っ!」

 

少し言い淀んだ中村をみて、更に勢いづく紺野。

 

「さっきの相原の方がまだマシだったじゃん。修二さぁ、前から自分でアタファミ強いみたいなこと言ってなかった?それでこれなの?ダッサ」

 

中村はこれには何も言い返せなかった。

紺野は自分が完全に優位にたったことを理解し、更に言葉を続ける。

神前と秋山は先に帰ってくれててよかったかも知れない、3人揃っていたら更にどんな状況になっていたか想像もしたくない。

 

「修二、今日見てた中でアンタがぶっちぎりで下手くそだよ。そんなんでよくリベンジするからみてろ、なんて言えたもんだよね。ほんとダッサい。お前は負・け・た・の。わかる?」

 

そこまで言い放ち、完全に言葉を失った中村をみて調子に乗っていく。

紺野はこれで終わりだとでもいわばりに追い打ちをかけた。

 

「ってか最近放課後ずーっとここで練習してたらしいけど、くだらない努力ぜーんぶ無駄だったね。あー恥ずかしい、しょうもないゲームだね」

 

そう言うと紺野は、時間無駄にしたわーと言いながら部屋を出ていこうとする。

わりぃな中村、俺が間に入れるようなもんじゃなかった。

 

「待てよ、いまなんつった!」

 

しかし紺野が部屋を出る前に、怒りのこもった声が部屋中に響き紺野の足が止まる。

この声は、友崎!?

 

「は?……何、友崎。気に食わなかった?キモ」

「お前はキモとか、それしか言えねーのかよ!」

 

なにが友崎の琴線に触れたのか、紺野に食ってかかる友崎。

そういう所は個人的に好きなんだけど、流石に相手が悪いと思うぞ……。

 

「は?言えるしー。てかなんであんたが急に修二のこと庇い出すわけ?マジ意味不明。あ〜、やっぱキモいやつはキモいやつ同士でつるむのかな〜?」

「……お前らにはわかんないんだろうな。俺はな、勝負に負けたのを状況とかキャラのせいにして、自分では努力せずに言い訳する人間が一番キライなんだ」

「はぁ?だから?さっきから何語っちゃってんの?」

「うるせえ!!」

 

友崎の今まで聞いた中で一番大きな声が響いた。

 

「……前に中村と対戦した時、中村は言い訳したんだ。キャラのせいだってな。その時こいつはなんてくだらないやつなんだろうと思った。けど!今は!中村は!こんな大勢の前で、何度も負けて、それでも何度も戦って!ついに俺から1機を落とすという結果を掴み取った!お前らにはわかんないんだろうな!コイツの!中村の凄さが!」

 

俺は少し唖然としながら聞いていたが、友崎の言っていることを遅れて脳が理解し始める。

やべぇ、友崎めちゃくちゃ熱いこと言ってる。

ちょっと涙出そうになってきた。

そう、中村はすげぇんだぜ。

 

「…つーか結局勝たなきゃ意味ないでしょ」

「中村はな!言い訳する人間じゃなくなったんだよ!何が『努力ぜーんぶ無駄だったね』だ。中村は、この数週間めちゃくちゃ努力を重ねてんだよ!俺にはそれがわかるんだよ!」

 

友崎の叫びに驚いたのか、中村も友崎の方を見る。

 

「さっきの試合、中村が撃墜したときの動き!俺だって毎回成功させることが危ういレベルの高難度コンボだ!MLJ!ムーンライトジュエルと呼ばれる激難コンボなんだよ!一朝一夕でできるものじゃない!それをこんな緊張するような実践の場で成功させた!偶然でできるものじゃないんだよ!すげぇんだ、中村は!!いいか、耳をかっぽじってよく聞きやがれ!お前にはわかんねぇだろうけどなぁ!!中村は!目的を持って!毎日!嫌になっても続けて続けて続けて続けて、それでこうして実際に、小さいかもしれないけど……確実に結果に繋がってるんだよ!」

 

流石の紺野も友崎の予想以上の勢いに口を挟めない。

友崎の絶叫のような言葉はさらに続く。

 

「だから中村を!人の努力を、笑うんじゃねぇ!俺はなぁ、負けたのに言い訳をして努力をしない人間が嫌いだ!アタファミのことをばかにするやつも嫌いだ!けどなぁ、それよりなにより!」

 

友崎は一泊おき一番大きな声で叫んだ。

 

「てめぇで努力もしないで、人の努力を笑う人間がいっっっちばん嫌いなんだよ!!」

 

しばしの沈黙が訪れる。

そんな中、俺は友崎の言葉に感動を覚えていた。

 

いやまぁこんな空気の中早口で叫ぶもんだから言ってることの半分くらいは頭からすり抜けていったんだが、それでも熱さというか情熱というか、そういうのは伝わった。

やっぱさ、友崎のそういうところは嫌いじゃないよ。

でもなぁ……。

 

「キモ。なに語っちゃってんの」

 

紺野の声で沈黙は破られた。

勢いはあった。度胸もあった。

けど、それだけで押し切れるものでもない。

 

「お前が何が好きとか嫌いとか知らないっての。さっきからキモいやつ同士の傷のなめ合い?ゲームなんかにマジになっちゃってハズカシッ」

 

紺野は再度的確に突き刺すような言葉を選んで友崎を責める。

あまりにも舌戦が強すぎる。

この空気、そろそろ俺も耐えられねぇわ。

 

友崎を見てみると助けを求めるかのようにギャラリー側をチラッとみていたように見える。

お前を助けるやつこの中にいんのかよ?

もしかして、おれ?

 

やってみる、か。

なんとか間にたって終わりにする。

友崎の援護でも紺野の味方でもなく、中立ですという事を言いながら今日は終わりにしようという提案をすれば、なんとか、なる……といいなぁ。

いやまぁ紺野側についても別にいいや、友崎とかなら謝りやすいし。

ええい俺も、度胸だ!

 

「今日はさ、このあたりで辞めにしないか?」

 

手をパン!と叩きながら、そう声を上げた。

 

「はぁ?相原もそいつらをかばうってわけ?」

「いやそうじゃないけど、この場はアタファミで対戦するのが目的だったわけだし、中村も勝てそうにはないし、今日はもう終わりでいいじゃん」

「ふーん?アンタも負けてたけどね」

「……いまはいいの、マジでガチってるやつは強すぎる。けと、いつかは勝つけど?」

 

俺は喋っている最中、隣の泉の方に軽く目配せをする。

泉ぃたのむぅ、お前紺野と仲いいだろ。

たぶんお前が今日は終わりにしようとかでもいえば、なんだかんだ仲のいいヤツには甘い紺野は引いてくれるはずだから!

俺の視線に気づいた様子はなかったが、泉は腹をくくったような顔をしていた。

 

「わ、わたしもっ、悪くないと思うけどな。そういうのに本気になるの」

 

しかし泉が発した言葉は場を収めるものではなかった。

おい、泉……?

 

「……は?どういう意味、優鈴」

 

紺野の目が泉の方を向く。

紺野と泉はよく同じグループで仲良くやっているのを目にする。

紺野としても泉は味方、少なくとも相手の擁護をするとは思っていなかったのだろう。

 

「い、いやー、そういうのも少年らしくて美しいかなって」

「へぇ?私じゃなくて友崎の方をかばうってわけ?」

 

泉は紺野の声にビクッとする。

でも泉は止まらなかった。

 

「違うのっ、最近、ほら、私もアタファミ?やって見てるんだけどさー、これがまた奥が深くてね!ほ、ほら、エリカもやろうよ、ね!」

「は?なに話しそらしてんの?」

「そ、そらしてないよー、だっていまアタファミの話ししてたじゃん?ていうかこれさ、小ジャンプっていうのが意外と難しくてね」

「はぁ?」

 

その後もなんともとりとめのない言葉を泉は発した。

痛々しいほどに空回っている。

 

少し前、泉は変わりたいと言っていた。

たぶん、本当にただ頷いて折れることばかりな自分を変えたかったんだろう。

そして今回の紺野の言葉は明確に敵意を持って傷つけるもので、好きな中村や最近仲の良くなってきた友崎といがみ合うというか、傷つける姿を見たくなかったとかなんだろう。

 

「はぁ。優鈴、もういいわ。なんかシラけた」

 

そう言うと紺野は部屋から出ていった。

ついでにギャラリーをしていた他の面子もこれ見よがしにと教室を出ていく。

あ、竹井と水沢まででていくの?

おいおい中村おいてくの?

俺は……、まぁみんな出ていったならまだここにいてもいいか、友崎に声掛けときたいし。

 

「こ、怖かった……」

 

泉はその場にへたり込み、泣き始めてしまった。

マジか。いや、たしかに怖かったわ。

そこに近づいていく中村。

 

「馬鹿、なに無理してんだよ。お前、そんな柄じゃねぇだろ」

「でも、でも……」

 

あー、しくった。

水沢達がでていったのはこういうことか、俺もでていけばよかった。

 

中村は泉に手を差し出して声をかける。

泉は少し気が軽くなったのか大丈夫、と言って自分で立ち上がった。

強いな、泉もさ。

 

2人揃って部屋から出ていくかと思ったら、中村は一度止まり視線だけを友崎に向けて小さく言い放った。

 

「次は勝つ」

 

そこまで大きな声ではなかったが耳に残る声だった。

そして今度こそ2人揃って部屋から出ていく。

部屋には友崎と日南と部屋から出るタイミングを失った俺。

 

「なんなんだこりゃ……」

「知らないわよ」

 

なんか珍しく日南が唖然とした表情をしていた気がする。

うーん、まぁ俺も友崎に声かけてから帰るか。

 

「友崎、悪かったなこんなことになっちまって」

「相原は別に悪くないだろ」

「いやー、呼び出しに行ったの俺だしなぁ。言い訳するわけじゃないけど、俺もこんな人数いるとは思ってなかったんだわ」

 

友崎は俺についてはたいして気にしてはいないようだった。

すまねぇな。

 

「じゃ俺も帰るわ。あ、そうそう、お前の魂の叫び悪くなかったぞ!やっぱりお前は面白いやつだったな!」

「う、うるせぇ」

「はは!じゃーなー」

 

こうして中村のリベンジマッチは無事に終わった。

……無事?

いや無事じゃなかったかも。

まぁ俺はあんまり関係ないし、無事ってことでいいか。

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