弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
先週は俺にとって色々と大事件があったわけだが、終わってみればクラス内では別に大きな変化はなく、なんか肩透かしを受けてしまった気がする。
俺にとって大事件だったことでも、他のクラスメイト達からしたらそれほどのことでもなかったようだ。
先週こそ野次馬根性から中村との対戦の件で質問を何度かされていたが、今はもうそれも落ち着いて平和な学校生活に戻っていた。
「あ、友崎友崎ー!」
「おお?泉」
でも、なんだろうな。
数週間前に比べてクラスでも話せる人間が増えてきた。
こういうところで進歩があったことに少なからず嬉しさを感じている自分がいる。
「たぶん暗記、完璧!」
「おお、マジか」
「マジマジ!」
まさに、ふんす!って感じの仕草で泉がそう声をかけてきた。
こうしてリア充グループ筆頭女子みたいな泉と普通に会話することなんて、少し前の自分では想像もつかなかったんだからな。
まぁそれはそれとして、あの事件で紺野に啖呵を切ってしまった分、紺野たちからはたまに俺に聞こえる位の声でキモーいとか必死すぎーって言っている……。
それを除けば平和なもんだった。
そう思ってはいたんだが、4時間目の開始前にいつもとは違うことが発生した。
「よう友崎」
「ん?」
移動教室のため家庭科室へ移動があるのだが、その前に水沢から話しかけられたのだ。
コイツは中村たちとよく一緒につるんでいて、参謀役のようなイメージがある。
この前は相原と共に俺を呼び出しに来たな。
となると……。
「えーと……また呼び出し?」
「違う違う!普通に話しかけただけ。どんだけ呼び出し慣れてるんだよお前!」
はははと笑いながらそんな軽い感じに言われる。
結局俺はほぼ初対面でもお前呼びされるくらいの弱キャラなんだな、と再認識しながらも呼び出しではないことに少し安堵する。
「それで、話しかけただけって?」
あー、そういえば少し前に相原も同じ感じで話しかけてきたような。
リア充って存在は理由もなく話しかける変わった生き物だったな。
「だけもクソもねーだろ。ほら、この間はすごかっただろ?」
「この間って言うと、紺野のことか?」
「そうそう、あんなにエリカの恨み買ったやつは初めて見たわ」
「う、うるせ!」
練習しているトーンを意識しながら、明るいトーンでツッコミを入れる。
そんな感じで話を聞いていた所、要約するとこういうことらしい。
俺が紺野に向かって啖呵を切ったことの内容はだいたい同意、それを本人に向かって言い切った俺に感動したらしい。
それで味方はいるぞって伝えたかった、と。
だから話してみたくなったし、ついでに今度ゆっくり何人かで飯でも食いながら話をしないかという事だ。
味方、か。
少し前までは無縁の言葉だった気がするので少し嬉しく思う。
しかし……
「何人かで、メシか」
「あぁ。あ、もちろん修二はなしでな」
「え、ああ」
俺の懸念を察知したかのように水沢は言葉を続けた。
エスパータイプか……?
「そりゃそうだろ、嫌だろ、修二とは」
「ええと、まぁ」
そんな感じで言葉を濁した俺に水沢はアドバイスのようなことを言った。
「友崎さぁ、そこは『あぁ嫌だわー』とか即答したほうがおもしれーよ?」
「……なるほど、たしかに」
これがリア充の会話スキルか。
内心感心している間にも水沢は話を進めていく。
「で、何人かと言うと、相原とは仲いいんだろ?1人はアイツでどうだ?」
「あぁ、そうだな。相原なら俺もいいと思う」
水沢よくみているよな、俺みたいな目立たない人間の交友関係まで把握しているあたりは本当にそう思う。
「よし、じゃああいつは後で誘ってみよう。で、もう一人」
少し間をおいてニヤリと笑いながら続ける。
「葵、なんてどうだ?」
この人選にはドキリとさせられた。
よくみているというか、よく見すぎているだろ。
「あ、ああ。日南ね」
動揺を悟られないよう、なんとか冷静を心がけて返答をする。
「そそ、最近仲いいっしょ。それとあとは女子一人だと葵も居心地悪いだろうから、女子を1人か2人誘ってメシでもいけたら面白いねって感じかな」
「なるほど、それは面白そうだな。あ、」
「ん、なんかあるか?」
覚えた技はすぐに使って試したくなるのがゲーマーだよな?
威力や使い勝手の確認は基本中の基本だ。
言ってやれ、俺。
軽く両手を開いて待った、というようなポーズを取りながら口を開く。
「こ、紺野はなしでな」
「!、はっはっは、いいね分かってきたじゃん友崎。オーケー、それにどうせ呼んでも来ないっての」
なるほど、こういうことか。どうやら成功らしい。
でも、あまりに強い相手にこれをやると聞かれたときが怖いから時と場合を選びそうだ。
「はは、よし、じゃあまた声かけるわ。あぁ4限後に相原にも声かけにいくか」
「おっけー」
泉の『おっけー』を意識して明るい口調での返答を行う。
とりあえず話はまとまったようだ。
それにしても、みみみにも泉にも相原にも言われたよな、最近日南と仲よさそうだって話。
リア充って人間関係に機敏すぎないか?
あとは、一緒に飯、か。
正直少し怖気付いているところはあるっちゃあるんだが、これくらいなら俺にでもなんとかなるんじゃないだろうか。
相原に日南と俺でも話せる相手を置いてくれるあたりやはり水沢は気配りとかできる人間なんだろうな。
それから昼休み前に相原を誘ってOKの返事をもらい、相原はみみみとたまちゃんを誘ってみみみからはOKをもらったとのことだった。
これで5人か。
***
「さ、久しぶりの作戦会議ね」
「お手柔らかにお願いします」
この第二被服室での会議はあの事件以来初めてとなる。
日南は火消しにあちこち動いてくれていたのでなかなか開催ができなかったのだ。
「じゃあまず1つ目の話ね。出していた小さな目標は覚えているかしら?」
「ああ、もちろんだ『日南以外の女子と2人で出かける』、だよな。そしてそれも……」
「ええ、日曜日のデート、楽しかったかしら?」
そう言われて顔が熱くなるのを感じてしまう。
「う、うるせ。でもとりあえず目標はクリアになるんだよな?」
「もちろんよ。結果がどうであれ、あなたは経験を積んだわけだからね。報告自体は昨日電話で聞いたから特にいいわ、なにか言い忘れたことはあったかしら」
「あぁ、とくにはない、かな」
昨日のことを思い出す。
------------------
初めの方は順調にいったと思う。
大宮駅で集合して、話をしながら映画館まで行って、無事に映画鑑賞はできた。
菊池さんは私服も可愛くて、『男の人とこうして出かけるのは初めてで、緊張します』なんて言われた時は俺も誇張抜きでドキドキしすぎて心臓が飛び出るかと思ってしまった。
ただ……その後に事前に調べておいた店でランチを取りながら映画の話をしていた際、最後に、菊池さんから俺の話は急に喋りやすくなったり、逆に急にしゃべりにくくなることがあるって事を言われた。
その時、俺が少しだけ築きかけていた自信が砕ける音がした。
はは、何思い上がっちゃってたんだろうって。
調子に乗っていた自分が恥ずかしくなった。
最後に電車で別れる前には、また今日みたいに一緒に出かけたりしたい、と言ってくれた。
それが社交辞令なのか本心なのかはわからなかったが、なんとか俺が踏みこらえられているのはこの言葉のおかげだろう。
------------------
「今の貴方にしてはよくやったと思うわ。失敗したこともあったのかもしれないけど、最終的には大成功じゃない」
俺の落ち込んでいるような雰囲気を感じ取ったのか、そうフォローを入れる日南。
珍しく優しいな……。
「あなたは目標をまた1つクリアしたのよ、それも今回はものすごい早さで。思い出してみなさい。3週間前の
あなたが女子と一緒に2人きりで買物に行くなんて想像できたかしら?」
「……無理だな」
なんなら今の俺でも想像できない。
昨日のことが夢のようだ。
「確実に進歩しているのよ。それに、今までだって失敗だらけだったじゃない。黒星が1つ増えたくらいで悩むことじゃないわ、切り替えなさい」
あぁ優しいかと思ったが、いつも通りだった。
励ましているのはわかるが、言葉が辛辣だ。
コイツはこういうやつだったな。
「はぁー、はいはい。そうだな、失敗した分は挽回するしかないんだよな。本音を言うなら失敗しないで成長したいんだけどな」
「よくわかってるじゃない、これからのことを考えましょう。まぁ、失敗なくして成功なし、よ。そこは諦めなさい」
エジソンだっけ?
俺は豆電球の開発でもしているのか?
「でも、改めて目標達成おめでとう。この結果はあなたが掴み取ったものよ。もっと喜んでもいいと思うわ」
満面の笑顔でそう言ってくる日南。
くそ、やっぱりそういうとこはズルい。
俺は少し照れながら、あ、ありがとうとかえす。
「それじゃあ新しい目標について決めましょう」
「あぁ、よろしくお願いします」
「それで、次の目標なんだけど、考えていたものはあるのだけど、1つ刻むことにするわ」
そういいながら黒板に書き込む日南。
書き終わってから改めてこちらを向き口を開く。
「新しい目標。それは、『あなたの納得のできるデートを行うこと』よ」
「納得の行く、デート……?」
「ええ、そうよ。あなたは昨日のことを引きずり過ぎなの。そんな状態では前に進めないわ。せっかく目標は達成できたのに、あなたの中では昨日の出来事は失敗として認識しているんじゃない?」
確かにその通りだ。
目標は達成できただろう。
でも、その内容はどうだったかというと、しゃべりにくいと言われてしまったことが引っかかり続けている。
「あぁ、昨日の事は反省点が多かったと思う。日南は最終的には大成功と言ったけど、俺の中では失敗だったと思っている」
「でしょう?だから、あなたが納得のできるデートができればこの目標をクリアとしましょう。まぁ、要は延長戦みたいなものよ。どうにもあなたは達成率を100%にしないと気がすまない
「わかった、それで進めさせてくれ」
「えぇ、当面はデートを成功させるためのスキルを上げていくことを考えましょう」
延長戦、か。
そうだな、失敗を取り戻さなきゃ前になんて進めないから。
「じゃあ最後にだけど、何か状況で変わったことはあるかしら?」
「変わったこと……あ。1個あるな。」
4限前に水沢と話したことを思い出した。
「水沢に話しかけられた。なんか、紺野に啖呵きったのを面白がられたって感じで」
「そういえば、今日は何回か話していたわね」
「あぁ、それであのときのことに同意してくれたっていうか、今度何人かで飯もいかないかって言われた。相原や日南も入れて5、6人でって話でさ」
「ふぅん、水沢が、ねぇ」
眉をひそめる日南。
なんか珍しいな、他人の話でこういう表情をするのはあまり見ない気がする。
俺の評価を下すときにはだいたいこんな感じではあるのだが……。
「水沢になんかあったか?」
「いいえ、大したことではないわ。けど何人かでご飯か、ちょうどいいかもね」
「ちょうどいい?」
「あなたの会話スキル、風香ちゃんにしゃべりにくい時があるって言われちゃったんでしょ?練習にちょうどいいじゃない」
「あぁ、たしかに、水沢に相原に日南。ここに2人入れてとなると、会話のいい練習にはなるかも」
あとはみみみも決まっているんだっけ?
なんだこのリア充メンツは。
「それでメンバーはもう決まっているのかしら?」
「さっきの4人に、相原がみみみを誘ったらしいから5人は決まっているみたいだな。みみみと一緒にたまちゃんにも声かけたらしいんだけど、そこは断られたって。だからあと一人どうするかって状態。まぁ5人でもいいかって雰囲気みたいなんだけど」
「なるほど……」
そう言って考える日南。
「じゃあそっちもちょうどいいわね」
「……というと?」
「決まっているじゃない、もうひとりはあなたが誘うのよ。デートに誘ういい練習になるわ」
そういうことですよね〜。