弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
「泉、ちょっといいか?」
「ん?友崎、何?」
俺は課題を達成すべく泉へと話しかける。
水沢と相原には泉を誘っていいか朝に確認済みだ。
あの2人、中村よりも来るの早くて助かった。
特に水沢は中村といることが多いからな……。
逆に相原は結構一人でフラフラしてるイメージがあるが。
「この前さ、中村の誕生日ってそろそろって話してたじゃん?」
「え、そのはなし!?そろそろじゃないし、まだ一ヶ月も先だよ!?」
そう、俺の作戦はこれだ。
中村への誕生日プレゼントを一緒に考えちゃおう作戦。
これなら自然に誘うことができるはず。
事前に日南に聞いてみても、泉が誕生日プレゼントを用意する可能性は高く、1ヶ月も前ならまだ用意はできていないはずだ。
「けど、何か渡す予定なんだろ?」
「それは、そうだけど。ちょっと待って、これ何の話!?」
泉は若干顔を赤くしており、顔の熱を冷まそうと手でパタパタと仰いでいる。
「それでなんだけどさ、今度俺と水沢や相原、あと女子は日南とみみみもいて、どこかメシでもいかないかって話をしてるんだけど、どうせなら女子も3人がいいねって話しをしてて」
「うん。あ、それで私?」
うん、作戦通りに自然な形で誘えたんじゃないか?
これなら大丈夫だろう。
「そう、そんな感じ。ほら、水沢とか相原って中村と仲いいじゃん?そしたら中村が喜びそうなものとかわかりそうだしいいかと思って」
「たしかに!」
泉はなるほど!というような顔で手をポンと打つ。
「日南とかみみみもそういうこと得意そうだしさ、みんなで買いに行くのはどうかと思って」
「あ、でもいいよ。なんか、悪いし!」
え、悪い?悪いってなんだ。
想定していなかった回答に思考が停止する。
「だってご飯の予定なんでしょ?私の買い物にみんなを付き合わせちゃうのも悪いし!」
その言葉にハッとする。
そういえば泉はこういう風に周りに気を使う性格をしていた。
「みんなは何か買うの?」
「あー、えーと、わからん」
「はは、だよね!そしたら、みんなも買うなら私も行こうかなぁーって感じかな!」
まずいまずいまずい、何か言わなきゃ。
「ほら、俺も買うし!」
「え?」
「俺も中村にプレゼント買うから!」
「は?」
泉が素っ頓狂な声をあげる。
いやもう引くことなんかできるか、行くしかない。
「いや、仲直りっていうかさ。アイツも悪いやつじゃないみたいだし、アタファミ好き同士仲良くできないかなって……」
思ったよりも言い訳がスラスラとでてくる。
妙なところでスキルアップしたことを実感してしまった。
「だから、誕生日とかきっかけに仲良くできないかなってさ!」
「いい!」
え?
泉は俺の両肩をガシッと掴み話し始めた。
「それすっごくいいよ!わたしもさー、ちょっと嫌だなーっておもってたんだよね!ほら、私って修二と仲いいじゃん?で、最近は友崎とも話すじゃん?どっちも仲いい人同士だからできれば喧嘩みたいになってほしくないなーって思ってたんだよね!あ、ごめん!」
「お、おう」
ハッとしたように、肩を掴んでいた手を離す。
「でもさ、友達同士の喧嘩って悲しいじゃん!だから私と仲いい人同士もさ、仲良くしてほしいっていうか、あ、なんか熱くてキモいかな……?けど、そういうのいいと思う!」
「そ、そう?よかった」
「だから私も協力する!一緒にプレゼントを買いに行こ!」
こうして俺は泉を誘うことに成功した。
中村へ誕生日プレゼントを買うということにはなったが……。
***
放課後、第2被服室に向かう前に誘えたことを水沢と相原に伝えておこうと声を掛けようとする。
どちらに声を掛けるか少し悩んだが相原は最悪LINEもあるし水沢の方を優先する。
「水沢、今いいか?」
「おー、どした?」
気安い感じながら嫌悪感を抱かせないようなトーンで水沢が反応する。
「飯に行く話なんだけどさ、泉を誘えたよ。でもさ、ちょっと趣旨が変わっちゃうんだけど問題なければ中村への誕生日プレゼントの買い物にも付き合ってもらえないか?」
「あ、そー言うこと?俺はいいぞ。あ、おい相原、ちょっとこっち来いよ。まだ部活まで時間あんだろ?」
水沢は俺への回答をするとともに、荷物を持って教室の外に出ようとしていた相原を呼び止めて声をかけた。
あぁ、そっか普通に呼べばよかったのか。
いやでも俺がこっち来いよ、なんていうのもなんかおそれ多いような……。
「ん、なに?あぁ友崎もか、って言うと例の話?」
「そそ、例の話。優鈴を誘えたってさ」
「おぉー、やるじゃん友崎!」
相原の素直な称賛に少しむず痒くなる。
「あぁ、でも飯だけじゃなくてさ、中村の誕生日プレゼント選びに買い物にも行くことになりそう、かな」
「あ、そうなの?まぁ俺はそれでもいいよ。どうせ大宮とかにでたらどこか寄ろうと思ってたし。でも日南とみみみには連絡入れないとな」
「ああ。でも日南の方は大丈夫」
「お、そーなの?じゃみみみには伝えとく。まぁLINEでいーか」
どうやら水沢も相原も飯が買い物に変わっても別に気にしないらしい。
相原はスマホを取り出したのでたぶんみみみに連絡を入れたのだろう。
助かったな。
「ってことは泉のプレゼント選びを手伝うってことか」
「ああ。あと、俺も。中村へのプレゼントを買うことになった?」
「ん?」
「え?」
そう言うと、水沢も相原も首を傾げた。
そりゃそうなるよな。
「いや、この間のことでいろいろ有ったけどさ。あいつもアタファミ結構マジでやってたし……なんというか、仲直りしたいっていうの?まぁ、そんな感じで」
俺がそう言うと、二人は見合わせたように笑い始めた。
「はっはっは、いいね友崎!やっぱお前面白ーわ!」
「ははは!いや、そうはならんだろ!」
「わ、笑うなよ!」
水沢と相原は笑いながら、じゃあしっかりプレゼント選ばねーとな!なんて言っていた。
「しかし友崎、おまえさー」
ふと、水沢はニヤニヤしながら俺に呼びかける。
「最近なーんかやってるよな?」
「え?」
なんか、ってなんだ。
心当たりあるようなないような、でも思い浮かぶ内容は大体コイツも知っているものなわけで、これというものは特定できない。
「いや、おかしいと思ってたんだよ。髪型もさ、美容院に変えただろ?セットしてないのがもったいないもんな、それ」
「わ、わかるのか?」
「おーいいぞいいぞ。もっと言ってやれ水沢。この前はワックスにも興味示してたしな、友崎は」
相原も話に乗ってくる。
そういえば髪型については少し前に相原にも似たようにもったいないと言われていた気がする。
セットをしてみたくはあるんだが、やり方がわからず次に美容院に行くまではと後回しにしていたのだ。
「ほらな?おれ、美容師目指してるからそういうの結構わかるのよ。ワックスってことは髪をセットしたいのか?今度教えてやろうか?」
「お、いいじゃん。じゃあその中村のプレゼント選びに行くときにでも一緒にワックスでも見るか」
リア充同士の間で話がどんどんと進んでいく。
やばい、このスピードについていけていない。
「まぁそれはそれとして、今までド陰キャだった友崎が急に美容院に行きだす。かと思えば葵やみみみや優鈴とも仲良く話してるし、なんとなく喋り方も明るくなっている。極めつけには、自分から優鈴を誘う?こんなもん偶然なわけねーだろ」
「うっ」
言っている事は全て図星で言葉に詰まる。
しかし、喋り方が明るくなっているという所に嬉しさを感じてしまう自分もいた。
「つまり陰キャ脱出大作戦ってわけだろ。けどなんつーか、行動的すぎるっていうの?そういう意味でなんかやってるだろ、お前」
「べ、別に……」
次々と図星を指してくる水沢。
こいつ、クラスでは目立たないはずの俺の状況までこんなに把握してるのか。
内心焦る。
ヤバい、まさか日南との関係までバレて……!?
「つまり話をまとめるとだ。時期などからも踏まえて考えると……」
水沢はニヤッと笑ってこちらを指さしながら言う。
「相原から脱オタの本でも借りて読んだな?」
「……いや?」
「……貸してねーよ?」
相原、もしかして脱オタの本を持っているのか?
今度貸してくれよ、ちょっと内容が気になる。
その後は相原がそろそろ部活に行くというのでそれぞれ解散して、俺は第二被服室で今日の出来事を日南へと報告した。
しかし日南のやつ、プレゼントの話をきっかけに誘ったらただご飯を食べる会から歩きながら買い物することになって難易度が上がるってわかってて説明しなかったな?
でも発案自体は俺だし、その後の幹事は受け持ってくれたから何も言えなかった……。
その日の晩、いろいろあったがすべてこなせた達成感と、このあとは日南が幹事をしてくれるという安心感から気を抜いてゆっくりと夕食を食べていた。
そんな時、携帯がブルブル震えるので取り出して確認をしてみる。
画面には緑色のウィンドウで『グループに招待されています』と言う文字。
とりあえずスマホの画面ロックを解除してタップしてみると、『誕プレ♡さくせんかいぎ』という名前のグループに招待されていた。
グルーブに招待されたのはこれで2回目、か?
まえに泉にアタファミを教えるって時に相原がグループを作成して招待してきたんだったか。
あの時は目の前にいたから流れでそのまま参加ボタンを押したんだったな。
画面を見ると、招待された者の名前がかいてある。
『相原みなと』はまんまで、『ゆずさん』というのが泉だったな。
『タカヒロ』が水沢で、『ななみみなみ』がみみみだな。
意外と名前の表記1つで性格が出るものだ。
って、どんどん招待中から参加中に変わっていく!
みんな気づいて即入ったのだろう。
俺も参加ボタンを押そうと思ったところで、なんか、俺が本当にここにいてもいいんだろうかという謎の不安というか、居心地の悪さみたいなのを感じて躊躇ってしまう。
「ねぇ、スマホうざいんだけど。今ご飯中」
隣でメシを食べていた妹は不機嫌そうにそう言いながらこっちを見る。
「ってなにそれ、LINEの招待?お兄ちゃんが?」
「あぁ、そうだけど」
「ふぅん。もしかして、気まずいグループにでも招待された?あ、もしかしてこの前家に遊びに来てた人?」
相原が家に来たこと、覚えていたのか。
まぁ、そりゃそうか。
俺が誰かを家に呼ぶことなんて前までの俺からしたら大事件だ。
LINEグループに招待されているのも、事件レベルなんだけどな。
「あぁ、そんなとこ。気まずいってわけじゃないけど、俺以外みんなイケてる奴らで、なんか入りにくいっていうか」
「ああ、あるよねそういうの」
「え?」
これ、あるあるだったのか?
「だから、新しい人間関係とかでとりあえずグループ作ろうみたいなの」
「あぁ……まぁそんな感じ。結局、入らなきゃいけないんだけどな」
「わかる。面倒くさいよね、人間関係って。でも前家に来た人ならイケメンだったし気配りできそうだったしいいんじゃない。そもそもお兄ちゃんは今よりマイナスになることなんてないじゃん」
どういう意味だ!
というか、そういう人間たちばかりだから入りにくいんだろうって。
むしろなんだ、その相原に対しての評価の高さは。
「まぁアイツはいいやつだよ、たしかに。けど、そうだよな」
そう言いながら参加ボタンを押す。
とりあえずやることはやったなと思い、ご飯中だったのでスマホをポケットに戻す。
そしたら直後ポケットでスマホがブルブル震えたが、一旦しまったのに取り出すのも嫌だったのでご飯を食べたらあとでゆっくり見ることにする。
自室に戻ってから確認したらもう話はほとんど決まっていて、今週の土曜日にしようということだった。
俺も了承の返信を送る。
しかし今週の土曜日とは、意外と近いな。
でもこれでやることは全部終わったか。
***
そこから二日後。
木曜日の放課後、第二被服室で日南から新しい課題を用意されることとなった。
経緯はこうだ。
たまたまなんだが、今日の朝に相原とたまちゃんが話をしている内容を耳にしたのだ。
あ、たまだけに。
じゃなくて……たまにみみみが言うけどなんか耳に残るフレーズだよな。たまだけに。
まぁそのみみみのことで、水曜日に担任の川村先生が周知していた生徒会選挙にみみみが立候補するらしい。
それで、日南も知っているのかと思って話してみたらどうやら知らなかったようで驚いていた。
驚くとともに、だったら状況が変わったわ、と課題を出してきたわけだ。
その課題の内容というのが、『相原をみみみの推薦人にすること』または、『俺が推薦人になること』という事だ。
「なぁ、なんで急にこんな課題をだしたんだ?相原が推薦人ならともかく俺が推薦人……?」
「いいわ、順番に説明してあげる」
そう言って日南は人差し指を上に向けつつ説明をしてくれた。
「まず、さっき私は状況が変わったって言ったわね?」
「あぁ、言ったな。それでさっきの課題を出したわけだよな」
「そうよ。状況が変わらなかったらあなたを私の推薦人にしようと思っていたわ。紙に名前を書いて提出するだけだから、出したあとに事後報告するつもりでね」
いやなんのドッキリだよ……。
「どうせ私以外立候補者はいないと思っていたから、プレッシャーもないしあなたの特訓にちょうどいいと思っていたのよ。でもみみみも立候補するなら話は別ね」
あぁ、みみみに負けないためにも俺ではない誰かを推薦人にする。
それはわかる。
だけど相原はともかくなんで俺をみみみの推薦人候補にした?
そこがわからない。
「それがなんでさっきの課題になるんだ?いや、相原を推薦人にさせる、はまだなんとなくだけどわかる。たぶんだけど、相手を動かすための練習なんだよな?この前も、提案って話をしていたしその延長、ってところか?」
日南はビシッと腕を伸ばして俺を指差す。
「おにただ!」
ほっ、合ってた。
でもわからないのはその先だ。
「けど俺が推薦人っていうのがよくわからない。みみみに俺を押し付けてデバフにでもしようってことか?」
もしそうなら、日南も案外せこいやつだな。
「そんな訳ないでしょう。あなたは未だに自分を低く見積もる癖が治らないようね。あなたは最近トーンの練習もこなしていて順調に良くなっているわ。それに元々自分の考えを喋ることは得意でしょ?最低限、推薦人をやり遂げるだけの能力はあるわ」
「それは……、ごめん」
たしかに、また自分を低く見積もっていたようだ。
でも、少しだけ日南の言葉が俺の頑張りを認めてくれていたようで嬉しかった。
「まぁいいわ、理由は私よりみみみの推薦人になったほうがいい特訓になるからよ。みみみは喋るのが特に得意でしょ?そんなみみみと一緒にいればいい特訓になるわ」
「いや、でも相手はお前だろ?だったら相棒が俺だと心許なくないか?これは自分を低く見積もったわけじゃなく、俺が自分のできる範囲でやったうえでももっと上手くやれるやつはいるはずだっていう分析でな」
日南もふーん、と言いながら顎に手を当ててニヤッとした。
たぶん言っていることは間違っていないのだろうが、俺が何かを見落としている事があって、それをどう説明しようか考えているのだろう。
コイツのことも少しずつ分かってきた気がする。
「じゃあこう言ったほうがいいかしら。たとえ誰が推薦人になろうと、私は負けないわ。もちろん、みみみのことは大好きだし尊敬している部分もたくさんあるし、大切な存在よ。だけど、私には勝てない」
絶句した。
どれほど自分に自信があるのだろう。
いや、ちがうな。
どれだけの努力を重ねればこれほどの自信をつけられるのだろう。
そして、その言葉には他者を納得させる重みがあった。
「それに逆に私の推薦人になって、あり得ないけどもしも私が落選、他の立候補者が当選した場合どうなると思う?」
「え、それは……」
何でも完璧にこなす日南がもしも負けたら。
その原因を探す……はず……。
「わかったようね。そう、推薦人のせいで落ちたって言われるわよ。間違いなくね」
「な、なるほど……たしかにそれは困る。でも逆にみみみはいいのかよ。みみみでもお前には勝てないんだろ?」
「だから、さっきいったとおりよ。誰が推薦人であろうと変わらないわ。やっぱり日南葵が当選した!それで終わりよ。まぁ、あなたに悪意のある極一部の人間はチクチク言ってくるかも可能性はあるかもしれないけど、大したものにはならないはずよ」
日南の言葉に紺野の顔が思い浮かぶ。
いや、今でもアイツラは結構グサグサと俺の心を効率的に突き刺してきているんですが。
「それと、推薦人は1人だけど協力者は複数人いても問題ないことになってるわ。相原がみみみの推薦人ならあなたも協力者になることは容易なはずよ。あなたが推薦人になることがベストではあるけれど、今のあなたではみみみに断られると思うから、周りを動かす特訓と思って相原をやる気にさせてみなさい」
こうして、新たな課題が決まったのだった。