弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
日南から『相原をみみみの推薦人にすること』または『俺が推薦人になること』の課題が出たのが木曜日の放課後。
立候補者の用紙提出が来週の月曜日ということは、金曜日の今日か、土曜日の買い物のときにしかチャンスは無いわけだ。
一応月曜日にみみみが用紙を提出するまでの間になら時間はあるのかもしれないが、そこは計算に入れちゃダメだろう。
なので、金曜日中にはコンタクトをとって話をつけたいところだ。
昨日の夜に日南から借りているICレコーダーでも質問をする時の練習を何度も繰り返した。
大丈夫、目的が明確ならこうやって下準備をすることができるんだから。
そうして朝からみみみが一人のときのタイミングを図っているのだが、気が付けば昼休みになってしまっていた。
まさか声を掛けるだけでこんなに難しいなんてな……。
だがようやくみみみが一人のタイミングができた。
よし、行くぞ俺。
「な、なぁみみみ、ちょっといいか?」
「お、友崎!どーした?」
みみみに声を掛けると快活な声が帰ってきた。
ぐぅ、リア充のオーラが眩しいぜ。
「あぁ、みみみが生徒会選挙に立候補するって噂は本当?」
「おおっと!?その話はまだそんなに知っている人もいないはずなのに、誰から聞いたんだい!?」
あ、たしかにそこは気になるよなぁ。
そして俺はたまたま話しているのを盗み聞きしてしまったようなものだ。
でもここは正直に言うしかない、だろう。
「えぇーと、昨日の相原がそんなこと言っているのを聞いたかな」
「おのれはらみーめ、口が軽いのは許せんな!」
軽い口調で笑いながらそんなことをみみみ。
「ってことは、やっぱり立候補するってことなのか」
「うん、そうだよ」
「へぇー、推薦人ももう決まってる?」
「あー、推薦人ねぇ。実はまだなんだよね、頼めそうな人からは断られちゃった」
ホッ、よかった。
いやまぁみみみからしたらよくはないだろうけど。
もしも決まっていたら課題の難易度が跳ね上がる。
というか不可能になるところだった。
ん?
いやまてよ、頼めそうな人からは断られたってもしかして相原からか?
いや、まずは俺の話から行こう。
「じゃ、じゃあさ、俺が推薦人になりたいんだけど。意外とそういうの苦手じゃないっていうかさ」
「んー、なるほど!」
そういうとみみみはニカッと笑いながら続けた。
「気持ちは嬉しいんだけど、ちょーっと頼りない!」
そりゃそうだ!
まぁ日南もこれは断られるだろうと言っていたしな。
とはいえここまでも作戦のうちだ。
課題にあった相原か俺のうち、先に俺がなりたいと言ったのには理由がある。
人間は妥協点ってものを作るもんだ。
まず、いったん相原と俺で推薦人としてどちらが向いているかを比べてみよう。
方や、クラスでようやく話せる人間が何人か作ることができた俺。
方や、クラスの中心人物達と仲が良く、運動部でそこそこ頑張っているらしい相原。
これは客観的に、どうみても見ても圧倒的に相原である。
そんな中で仮に、相原は推薦人にどうなんだと聞いて断られてみたとする。
その後に、相原がダメなら俺はどうだ!なんて言えるか……?
言えるわけがないんだ。
なに言ってだこいつと思われてしまうだろう。
しかし逆なら?
俺が推薦人になりたいと言って断られる。
けどその後、『俺じゃダメかぁ。じゃあ相原ならどうだ?』って感じに言えば?
そもそも相原なら本人の能力的に見ても俺より向いているだろうし、おそらく平均以上の活躍は見込めるはずだ。
そこに、一度俺を断っている負い目のようなものも感じれば無下にもしにくくなる、はず。
まぁここに相原本人がいないから今は提案することしかできないけど。
「はは、まぁそうだよな、仕方ないか。でも用紙の提出って来週の月曜日だよな?この時期に決まってないのって結構ヤバくないか?」
「あはは、それはそうなんだよね。一応中学から一緒だった後輩の子には声をかけてて、もし誰も見つからなかった時は引き受けてくれるとは言ってくれているんだけどね」
なるほど、最低限の保険はかけているってわけか。
さすがにそこは周到だな。
「相原とかは声かけたのか?アイツなら引き受けてくれそうだし、仕事もしっかりこなせると思うんだけど」
「あー、うん、はらみーね。ちょっと考えたけど声はかけてないんだよね。というか、一昨日葵が立候補しそうだねって話をしてる時に推薦人はどう思うって聞いたら、面倒だしメリットがないからやらないって言ってたから声かけにくくて……」
それで声かけそびれたってことか。
じゃあ相原が断ったわけではないなら、まだ結構望みはありそうだな。
ってかむしろ声かけられればあいつは喜んで引き受けるんじゃないか?
幸い土曜日の買い物に相原もみみみも来るわけだし、そこで2人が揃っている時にうまいこと生徒会選挙の話を出して推薦人の話に持っていけば可能性はある。
それに選挙の話題を出すのにも最適な日南がいる。
日南が立候補することはクラスで大半、というかほぼ全員が知っているわけなので、俺がそれをネタに話題を出しても極自然だ。
そこからなんとかみみみに誘導すればいい。
「そっか。なぁ、推薦人がまだ検討中ならやっぱり相原にも声をかけてみた方がいいんじゃないか?アイツたぶんみみみに頼まれたら引き受けてくれると思うぞ」
「え、そうかな?」
「そうだよ。それに、普段はなんていうか、おちゃらけてるとこあるけどさ、そういうふうにみえて結構やることは丁寧だし、向いてると思うんだよね」
「うん、知ってるよ。そうだね、はらみーってあんなだけど真面目だからね。友崎ありがと、ちょっと考えてみる」
これ以上は俺からみみみに対してできることはないな、と判断して俺はおう、選挙頑張れよーと残して去ることにした。
***
翌日、土曜日。
ついに予定していた買い物の日となった。
集合時間は10時ではあったのだが、日南から言われて少し早めに来ていた。
「うぅ、ついに始まるわけか……」
「なに今更泣き言を言っているの?いい加減覚悟を決めなさい」
「つってもさ、6人での買い物だろ?しかもその中で俺以外の全員がリア充ときている。そんな状況で緊張するなって方が無理だって……」
「もともとご飯の予定だったのに自分から難易度を上げたのは誰?」
「う……」
おれです……。
日南に正論で黙らされてしまった。
しかも今日は今日で日南から課題を出されているのだ。
その内容というのは、今日の買い物中に『自分から提案を2回通す』ことだ。
会話の話題を出すことの延長戦といったところだろうか?
日南が言うには、集団を操る練習ということらしい。
ゆくゆくはもっと多い人数を納得させたりすることを目標に、まずはこの小さなグループで練習をしていくということだ。
しかし、みみみの生徒会選挙の件もまだ未完結なので、そちらも進展させることも考えなければいけない。
ただでさえ緊張するメンバーに囲まれている中で買い物をして、2種類の課題を達成する。
難易度が高すぎる……。
「おっす、友崎と日南。5分以上前なのに早いな」
そんな事を考えていたらついに他のメンバーがやってくる。
初めは相原が到着した。
「おはよう、相原。遅かったね」
「いや、遅くはないだろ!さっき言った通り5分以上前じゃねーか。正確には、んー7分前」
日南は切り替えが早すぎる。
茶目っ気を含んだような返しを一瞬で行うのはさすがという感じだ。
やってきた相原の服装を見ると、ジーパンに白いTシャツを着てその上には袖の長さがなんというか、長袖と言うにはちょっと短い黒いシャツを着ている。
袖が短い分、手首につけている時計がいいアクセントになっているように思える。
全体的にシンプルに纏まっていて爽やかな印象を出しつつ、薄着になってきたからか服の上からでも鍛えられているのが分かる。
ちょっと今はいろいろ勝てそうにない、と思った。
それから相原はみみみはまだなのか?と聞いてきたが……お前の後ろにいるぞ。
なんて見ていたら相原はみみみに驚かされていた。
仲いいよな、お前ら。
それともこれが普通の友好関係の距離感なんだろうか。
そうこうしているうちに集合時間の前には全員が集合して、買い物に行くことになった。
行き先は決めていなかったが、水沢の提案から駅からすぐのビームスに入って色々見ることに。
そうしていろいろ置いてある商品を見ていたのだが、泉が俺の方を見ていたのに気づいた。
あれ、俺なんかしたか?
「うーん、わかんない……」
深刻な顔をしていた泉からでた言葉がこれだった。
つまりなにが言いたいんだ?
「なんだそれ?」
「どんなのがいいと思う?」
「あー、えぇと……」
あ、そういうことね。
俺にも平等に意見を聞く泉から優しさを感じながらも、ここで求められている回答をパッと用意できないのが俺である。
そこまで中村のことを知っているわけでもないし、思ったことをそのまま言うしかないよな。
端的に言うと、なにを買えばいいのかのデータが足りないんだ。
「何買えばいいかわからないなら、適当に見て回っても答えは出ないかなぁ、俺は。だから、中村の事を知るというか、考えてから方針を決めて、それから見て回るのが良いんじゃないかな」
「たしかに!ありがとう、そうしてみる!」
泉はそういうとキョロキョロし始めた。
中村の事に詳しそうな水沢か相原を探しているのかもしれない。
泉はどちらかを見つけた様子で「あ!」なんてつぶやき、俺の肩を叩きながら小声で声をかけてきた。
「ほらあそこ、みて」
ちょっと待って近い近い、いい匂い!
なんでもないように冷静さを保ちながら泉が指を差した方を見る。
その先にはなにやら楽しそうに話している日南と水沢がいた。
「これ、内緒なんだけどね。あの二人、付き合ってるらしいよ」
「はぁ!?」
「ちょっ!声大きいって!」
驚きのあまりついでかい声を出してしまった俺。
トーンの練習の成果が出たな……。
日南と水沢は俺の声を聞いたのかこっちを振り向く。
何も無いことを精一杯に身振り手振りでアピールする泉。
そしてどうやら二人一緒にいたらしい相原とみみみも声で気づいてこっちの方に歩いてくる。
「こ、この話はまた後で!」
そう言って泉は近づいてくる相原とみみみのもとへ行った。
俺も近くの商品を見ることに戻ったが、さっきの言葉が頭から離れない。
『あの二人、付き合ってるらしいよ』
いや、それは、そうだよな。
あんなパーフェクトヒロイン、彼氏がいないほうがおかしいだろうし、なんにも不思議なことはない。
けど、なんだろう、こうモヤモヤする感じで落ち着かない。
たぶんアレだ、結局のところ噂話というはっきりしない状態のところが引っかかっているんだ。
というか、泉も日南や水沢と仲がいいんだからはっきりと答えを聞いて……っていやそうじゃないよな。
なんというかこのもやもやは、内容がふわふわの噂話だから考えても答えは出ないし、直接聞くのも俺に関係あるものでもないからできず、それでこう……はっきりしない所に腹が立つ感じがしている、と思う。
「友崎くーん、いくよー?」
「お、おう!」
悩んでいるうちに日南に声をかけられる。
しまったな、考え事をしすぎていた。
日南は俺の異変に気づいたのか、俺にだけ聞こえる声で聞いてきた。
「さっきから様子が変だけど、優鈴と何か話した?」
「いいい、いや、べ別に!」
めちゃめちゃ動揺していた、バレバレである。
ただ日南は俺が言いたくないことを察してくれたようである。
「そう、ならいいけど。それと、与えられた課題をやる気配がないんだけどそっちは忘れていないでしょうね?」
「お、おう」
「そ。ならいいわ」
日南はそれだけ言うとまた水沢の所に戻っていった。
楽しそうに談笑をしている。
そして気づけばそこに2人で一緒に回っていた相原とみみみと合流、それを見た泉も自然な動作で輪に入る。
あれ、俺だけあぶれたのか?と思ったところで相原からこっち来いというように俺に向けて手をクイクイしていたのでそこに向かう。
俺が近づくと入りやすいようにすこしズレてスペースまで用意する。
相原の呼んでから輪に入れるまでの流れが自然すぎて感心してしまう。
「泉も友崎もさ、いろいろ見てたと思うんだけどたぶんまだ決まってないよな?いったんカフェにでも入って方向性を決めないか?闇雲に見るより、これだっていうあたりをつけてから絞ったほうがいい気がするんだよね」
「うーん、たしかにそうかも。ちょっと落ち着いて修二が好きそうなものとか改めて考えたいな」
たしかにそうだよな。
相原の言ってることはさっき俺か泉に言ったことに近い気がする。
って、しまった、提案を相原に先に越されてしまった。
しかしなるほど、提案っていうのはこういう風に通すのね……。
「というわけで、東口出てすぐのドトール行こうぜ」
「ドトール?スタバのほうが近くない?」
相原の言葉にみみみが疑問を返す。
たしかにスタバならすぐそこにあるな、というかルミネの地下一階になかったかな。
ドトールは、たしか外にあったか?
まぁどっちにしろ近いとは思うが。
「俺はスタバの呪文みたいなメニューを頼むのが苦手だから、メニューをそのまま読んでも商品が出てくるドトールがイイノデス……だめ?ほ、ほら、駅は人が多いけどあっちの方がちょっとだけ歩く分、席も空いてると思うしさ!たぶん……!」
「いやぁ、わたしはいいけどね。はらみーってスタバでメニューも頼めないのぉ〜?」
「ったくしょうがねーなぁ。俺もそれでいいよ」
「うんうん、ドトールのほうがコスパはいいって聞くしねー」
そんな感じで各々が相原をイジり倒す。
泉なんかはフォローを入れているところが流石だなと思う。
しかし、相原への言葉が俺にもグサグサと刺さってくる。
スタバではメニューの際に呪文詠唱が必要だときくが、俺も行ったことないから正直あそこは不安が……。
い、いや、俺も注文はしたことないが、きっと手順通りにやればいいだけなはずだからできるはず。
でもありがとう、相原。
そしていったんカフェで休憩しつつプレゼント選びの方針を決めることとなった。