弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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買い物を終えてから2日後の月曜日。

朝早くから第二被服室でいつもの会議を開催していた。

 

「課題に関してだけど、連絡をもらっていた通り滑り込みセーフってことでいいのかしら?」

「あ、あぁ!1回目は電気屋だろ。それで2回目は相原とみみみに生徒会選挙の認識合わせをしないかって提案したから、これで2回通したはずだ」

 

ギリギリではあったけど、たしかに課題は達成したはず。

日南には電車で別れたあとにLINEでその連絡も入れておいたし。

 

「そう。それじゃあ一応課題はクリアね。でも、あなたは夏休みの宿題を最終日にまで貯めるタイプの人間だったのね。それも、今回はあなたを除いて5人いる中3人がいなくなってからようやく動くなんて」

「う……それは……」

「この課題はゆくゆくはもっと多い人数の中から提案を通すことを目標にしての足掛かり的なものなの。それがまさか、より少ない人数でこっそり提案を通すことしかしなかった、と」

「すみませんでした……」

 

日南はいつも通り痛いところを的確についてくる。

 

「クリアはクリアだとしても赤点ギリギリだわ。どうしてそうなったか、自分なりに考えてきているでしょうね?」

「えぇっと、電気屋がすんなり通ったから油断したといいますか……」

 

こうして日南の尋問めいた質問が行われる。

とりあえず思いつく言い訳を口にする俺。

 

「その前からよ」

「え?」

「電気屋の提案なんて買い物の最後だったと思うんだけど?」

「それは、たしかに」

 

目を逸らす俺。

 

「水沢や相原がサクサク提案をとおすから……」

「予想できなかった?」

「予想?」

「水沢や相原、それにみみみに優鈴も。このメンバーがいるならそうなるって、あなたなら考えられなかった?」

「え、いや……」

 

考えなかったわけではなかったけど、それ以外にやることや考えることが多すぎて頭が回らなかったんだよ……!

 

「まぁ、もういいわ。敵と戦っているときに控えにいるだけでは経験値を得られないということはあなたもわかっているだろうし。一応はクリアもしているわけだしね」

「は、はい。ごめんなさい……」

 

素直に謝まることしかできなかった。

 

「それじゃあ、今回の買い物で感じたことや気になったことはあるかしら?大事なのはこっちよ」

 

感じたこと、か。

1つは見た目の向上を感じたことだろう。

その事を説明する。

この話をしたら日南からは目に見える変化はモチベーションにつながるからいい傾向だと褒められた。

 

あとコイツはなんだかんだゲームが好きだよな。

説明する時の例えに、目に見える変化をダメージが2桁から3桁になった時とか新しいスキルを覚えた時とかって例えて説明されたが、相変わらずゲームに関連して話す時はいい顔で語るよな。

 

「コホン。見た目については重要なことだけど、課題についても何かないかしら。思ったこととか」

「課題についてか、そうだな……」

 

ロクに提案ができなかったから何が悪かったのか色々考えて入るんだが、少しピンとは来ていないんだよなぁ。

思ったこととしては……

 

「水沢や相原の提案には周りを納得をさせる中身のあるものだったことかなぁ?」

「中身?」

「ビームスに行った時はたしかにオシャレな店だなと思ったしプレゼントに選べそうな物があっただろ?あと、昼食を食べた所も下調べをしてたみたいだし、実際に居心地も良くてご飯は美味かったかな」

「……ねぇ友崎くん、今日調子でも悪い?ううん、この間の買い物からかしら?言っていることが客観性に欠けているわ、もうちょっと考えて」

「え?」

 

客観性に欠ける?

もうちょっと考える……?

 

「たしかにご飯を食べるために入ったお店に関しては下調べもしているようだったし、結果的には中身があるもののように感じたかもしれないけれど、ほかについてはむしろ逆よ」

「逆?どういう意味だよ」

 

はぁ、とため息をつきつつヒントを出す日南。

 

「例えば初めのビームス。あそこ、実際の所どうだった?」

「え、いい店だったと思うけど。結果的にはプレゼントは決まらなかった訳だけど」

「そこよ。あのお店にあるのは小物類でいいものばかりだけど、プレゼントするには中村の好みとは合っていなかった」

「そ、そうなのか?」

 

とはいえ俺は中村の事をそこまで知らないし俺のセンスでは測れない部分だな。

 

「まぁそこがわからないのはしょうがないけど、結局プレゼントは決められなかったのが結果として現れているでしょ?それに、その後の相原の提案も覚えている?」

「相原の……カフェで落ち着いてプレゼントの方向性を決めようって話だったよな」

 

何か選ぶにしろ中村のことを考えてプレゼントを決めるしかない、と言う考えが俺に似ていると思った事を覚えている。

 

「ええ。で、あそこの位置から一番近いカフェはどこで、入った店はどこだった?」

「一番近いのはスタバで、入ったのは相原が提案したのは駅の外のドトールだったな」

 

みみみがそんな事を言っていた気がする。

日南が言いたいことを少し察する。

わざわざ遠いところを選ぶことに中身があるかということ、か?

 

「その通りよ。提案の″中身″という意味では近くのスタバに入るのが1番合理的で中身があるものだったと思わない?それに結果的にとはいえ、ドトールに向かって東口を出たのに、次の買い物で西口側に行くことになったわ。もしも駅にあるスタバだったら移動ももっとスマートだったはずよ」

「いや、それは結果論だろ」

「そうね、今のは結果論よ。でも方向性を決めてから買い物に行くなら移動することですれ違いが起きることも想像できるでしょ?」

 

移動によるすれ違い。

それは、まぁそうかも知れないが……。

 

「そういう意味では″中身″がある提案が通るという理屈なら、わざわざ距離のある方に行く提案が通ることはおかしくないかしら?」 

「え、いや、でもたしかあの時は……スタバのメニューを頼むのが苦手だからって理由でドトールにしたんだよな?」

「ええ。でもそれって中身がある提案かしら?ただのわがままじゃない?」

 

これは中身ではなくわがまま、なのか。

相原しか得をしない内容だと言われたらそうかも知れないが。

 

「つまり、中身は関係ない?良くない提案の方が通りやすいってことか?」

「少し違うわ」

「少し違う、というと?」

「提案の通りやすさと内容の正しさは必ずしも一致しないということよ。結局のところ、なんで相原の提案が通ったのかしら?」

 

通りやすさと正しさが一致をしない。

そして相原の提案が通った理由。

なんとなくわかってきた。

ということは、

 

「相手を納得させることが重要ってことか」

「おにただ!」

 

はい、おにただ頂きました。

 

「これってつまり、極論、正しくなくても聞こえのいい言葉で騙せば提案は通る、と?」

「水沢はプレゼント選びに中村の趣味じゃない店を提案したし、相原は無駄に歩くカフェを提案したけど、どちらもすんなり通ったでしょ?」

 

日南は内容に皮肉っぽいものを混ぜつつも、なんでもないように言ってのけた。

 

……ってちょっと待てよ!

こんなのクソゲーじゃねぇか!

間違っていても騙せばいい?

そんなの、正しいのかよ!

 

そう思って日南に抗議したが、あえなく言葉で組み伏せられてしまった。

これもシンプルなルールが集まってできた、よくできたゲームだと。

 

つまるところ正しさ云々ではなく、提案を通すことはオーディエンスを納得させる交渉ゲームなのだ。

そのために相手を納得させる話術を鍛えたり、情報を揃えたり、時には影響力の強いキャラを味方に引き込む。

そんな、よくできたゲームだと。

 

正しいことであっても、ただ喚き散らしているだけでは誰もついてこない。

さっきの日南の言ったシンプルなルールに間違っているものがあるというのなら、正しいことを通すためにその間違ったルールすら利用してやらないといけない、ということらしい。

 

「納得してもらえたみたいね」

「あぁ……そうだな。たしかに集団って戦いの場ではそれが最善、っていうかそれしかないって気がするな」

「それは何より。わかってもらえたみたいね。じゃあ、買い物の反省会はここまでにしましょう。それで、最後に電車で別れたあとのことを説明してもらおうかしら」

「わかった。でも生徒会選挙の話題だから内容は少しぼかすぞ」

「わかったわ。話せる所だけ、というよりおおまかにでいいわ」

 

そうして、日南に昨日の電車で別れたあとの事を報告した。

 

 

***

 

 

「ってところだな」

「自分の家に人を招くなんて、結果としてはいい経験を積めたじゃない」

「だよな、俺も自分でそう思ってる」

 

前までの俺だったらこんなことはとても想像できないだろう。

それが、人を家に呼ぶのもこれで2回目だ。

 

「素直な感想だけど、あまり調子に乗らないように。買い物では反省点だらけだったことをもう忘れたのかしら?」

「すみません……」

 

正論が強すぎる。

それを言われるともう何も言い返せない。

 

「でも、これで明日からの生徒会選挙のほうも問題なくみみみを手伝えると思う」

「それはよかったわ。コミュニケーションに関してはみみみ以上のお手本はいないからよく学ぶことね。それに、学んだら試す相手(あいはら)もちょうどよく付いてきているわけだものね」

 

相変わらず練習台なんだな、相原は。

まぁたしかに都合がいいといえばその通りなんだけど。

今の俺にとって、失敗しても問題ない相手という意味では一番最適なのが相原だと思うし。

 

「それじゃあ、ここでの会議は一時中止にしましょう。あなたはみみみのお手伝いがあると思うし、私も生徒会選挙の準備を行いたいから」

「あぁ、わかった。たしかに会議をやってる場合じゃないもんな」

「ええ、せいぜい精進しなさい。あなたはまだレベルが2から3になったばかりのひよっこみたいなものなんだから」

 

俺のレベルってまだそんなに低かったのかよ!?

色々頑張ってたしもうちょっとくらいはあると思ってた……。

アリアハンを抜けてロマリアに向かえるくらいはあってほしかった。

 

「それじゃあ今度こそ最後の話だけど、2人を自分の家に呼んだことに関しては、何か感じたことはあったかしら?」

 

家に呼んだ事に関してか。

 

「そういえば、知り合いの女子が自分の家に上がったのは初めてのことだったかも……」

「へぇ?まぁそうでしょうね。てもいい経験になったじゃない?今回は相原もいたけど、この先ゆくゆくはお付き合いさせてもらう女の子を1人家に上げる、なんてことも起きるでしょうからね」

「は、はぁ!?」

 

日南の言葉につい声を上げてしまう。

自分でも思った以上の声が出てしまったと思う。

 

「そういう童貞くさい所はなんの進歩もないのね。その声の大きさがトーンの練習の成果なのかしら?なら少し抑えて」

「う、うるせぇ、実際に童貞なんだよ!」

 

……日南の言いたいことも、なんとなくわかる。

彼女を作ることだって目標の一つにはなっている。

ならそういうイベントだって今後は起こすことにはなるだろう。

とはいえだ、まだ俺自身がそういうイメージが全然つかないんだからしかたないだろ。

 

「それで、結局何か感じたことはないのかしら?買い物の疲れと女の子が家に来たことで何も考えられなくなっちゃったの?」

 

いや、なんかすこし手厳しくないですかね。

まぁいいか。

そして、ふと買い物中にずっと思っていたことを聞いてみることにした。

 

「感じたことって言うかさ……相原とみみみって両思いなのか?」

「一応、そうおもった理由を聞いておこうかしら」

「いや理由っていうかさ、買い物からあの様子を見てたらだれでもそう思うだろ。並んで歩いてることも多かったし、推薦人の件だってそうだ。みみみも相原のことを頼りにしていそうだったし、相原の方も頼られたらなんか張り切ってたしさ」

 

あと、いつだったかに相原自身がみみみのことを好きかはわからないが気になっていると言っていたな。

今この場で言うことでもないので、言葉には出さないが。

 

「概ねその通りだけどね。でも、人の気持ちっていうのはそんなに単純ではないの。あの2人は間違いなく良い友人としての関係は築いているわ。でもみみみも思うところがあるみたいだし……」

「思うところ?」

 

なんか含みのある言い方が気になる。

 

「まぁ、お互いそれなりに思うところはあるようだけど、今の関係を変えたくないんじゃないかしら?」

「なるほど……言ってることはなんとなくわかった」

 

わかったけど、なんとなく腑に落ちない感じもする。

俺の経験値が足りていないからか?

 

「そもそもあなたは人の関係を気にしている場合なの?小さい目標についてはあなたの意を汲んで設定している所もあるのよ。私に早く結果で示して頂戴」

「それは……あぁ、わかったよ。でもまずはやれることをやっていくよ」

「ええ、期待しているわ。……報告は半端だったかもしれないけど、もう時間ね。今日はこれで終わりにしましょう。さっき言った通り、次は金曜日の放課後までこの会議をなしにするわ。それまでにあなたのやる気を見せてもらおうかしら」

 

こうしてこの日の会議は終わりとなった。

生徒会選挙の活動で金曜日まで集まりもなし、か。

いいさ、今の俺に出来ることをみせてやろうじゃないか。

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