弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
朝のHRで川村先生から改めて選挙活動の連絡があり、日南とみみみが立候補の届け出を提出しているのをみていた。
内申点の奪い合い、か。
そんな感じで軽く言ってクラスに笑いをまくみみみの会話スキルは見習っていかないとなぁ、などと考えていた。
けどこれで選挙活動が開始される。
なんか今までは自分には全く関係のない催しだとか思っていたから不思議な感じだな。
そういえば、昼休みにも昼食を取ったら公約のプリントを印刷するとか言ってたっけ。
忘れないようにしないと。
***
そして四時間目の前の休み時間。
いつものように図書室へと移動した。
「こんにちは」
「こんにちは」
先に来ていた菊池さんの挨拶に応えつついつも通りに近くの棚から本を取り出して、菊池さん対面の席へと座る。
椅子に座った俺は持っていた本を開きパラリとめくる。
しかしこれは正直なところ形だけで、俺は頭の中では全く別のことを考えていた。
明日から生徒会選挙の選挙活動が開始される。
そのため票を集める方法を頭の中で巡らせていたのだ。
買い物の反省会で日南から聞いた話。
集団での戦い方。
生徒会選挙はこの話が当てはまると感じていた。
要はこれは学校の全生徒という集団に対してオーディエンスを行い票を奪い合うゲームなのだ。
そしてそこに必要なもの……。
シンプルなルール、発言力の強い人間、利害の一致。
それらを用いての″空気″の操作。
そんな事を考えている時に菊池さんから声をかけられた。
「なんだか大変そうですよね」
「ん?あ、大変って、何が?」
「ほら、生徒会選挙……七海さん立候補したじゃないですか。なんでなのかなって」
なんか、意外な話題。
でも俺の頭の中では今1番ホットな話題でもある。
「本人はふざけて内申点って言ってたけど……」
「うん、そう言っていましたけど、私それは違うと思うんです」
みみみが言っていたことを口にすると、菊池さんは小さく首を横に振りながらそう答えた。
菊池さん、そういうところをよく見ているんだな。
「そうだよね。実は俺、みみみの選挙の協力者になったんだけど本人から直接聞いたよ。……日南に勝ちたいんだって」
そう言うと小さく驚いたような表情をする菊池さん。
そんなに意外だったのだろうか。
「友崎くん、七海さんの選挙の協力者になったんですか?」
あ、そっち?
あぁでもたしかにそれは意外なことで間違いないかも。
俺だって日南に背中を押されるように課題を出されていなかったらやっていなかったと思う。
「なんていうか、成り行きで……」
「ということは推薦人は、たぶん相原くんですよね?」
え。
そうだけど……
「うん、よくわかったね。推薦人は相原がやることになってるよ。その、なんでわかったの?」
みみみはクラスでの人気者だ。
推薦人を頼めそうな人間は何人もいるだろう。
いや、実際に何人かに誘ったと言ってたっけ。
結果的には断られたらしいけど。
「友崎くんのお話を聞いて想像したんです。最近友崎くんは相原くんと仲がいいじゃないですか。だから、友崎くんが七海さんの協力者をすることになったってことはそうなのかなって……」
「そこから……?すごい」
相原やみみみを焚き付けたのは俺ではあるけど、流石にそこは情報がないからだろうし除いて、だいたい菊池さんの想像通りだ。
それに俺と相原がそこそこ仲がいいことも知っていたのか。
菊池さんが俺のことも見ていたということに、少しだけ恥ずかしさが込み上げてきた。
「七海さんが立候補したのも納得しました。日南さんに勝ちたい。それってつまり、なにか変わりたいってことの表れなんだと思います。私もそうだから……なんだかわかる気がします」
変わりたいかぁ。
そうなのかな。
ん、でも菊池さんも変わりたいってこと……?
その事を聞こうとしたら、先に菊池さんから質問を受けた。
「と、友崎くんは、どうして協力者をすることにしたんですか?」
「どうして、かぁ」
なんていうべきなんだろう。
みみみと相原には俺も日南に勝ちたいからって言ったけど、菊池さんの話を聞いて、俺も変わりたいって思いがあったのかも知れないと思った。
とはいえ、どうしてか……。
ええい、悩んだらそのまま言うのが俺の武器だ。
実際これには何度も助けられているし。
「似たようなことをみみみにも聞かれたよ。それでさ、その時の素直な気持ちとして俺も日南に勝ちたいって言ったんだ」
「日南さんに……」
また少し驚いたように呟く菊池さん。
「うん。なんていうか、俺も最近自分自身を変えたいって思っててさ。今はとある人に色々なことを教わって、喋り方の練習してみたり、姿勢や表情を矯正してみたりとかね。本当に色々やってるんだ。それで、なんとなくなんだけど一歩ずつ進めている気がしてさ」
「とある人?……だから友崎くんも、自分を変えるために協力者を引き受けたんですか?」
菊池さんは白く長い指を頬に置いて考えるような表情をしながら聞いてくる。
「まぁ、それもあるんだけど。今まではそのとある人に教えてもらった方法を試してきて、その中で成功しても失敗してもさ、達成感だったり成長の実感だったりみたいなものがあったんだ。そうやって成長して、少し世の中のルールってものを理解してきたら……今度は自分のやり方で結果を残せるんじゃないか、今の俺のやり方がどこまで通用するんだろうって、そういう考えが出てきたんだ。そしてそれを試す相手はさ、やっぱり強ければ強いほど、こう燃えると思うんだよね」
「友崎くんのやり方で。それで、とても強い日南さんに勝ちたい、ということなんですね」
「うん、まぁそんなところ。だからその、実はさっきも本を開きながら選挙の票集めに何かできることはないかって考えてた」
「ふふ、図書室で戦法を考えるのは得意ですもんね」
「う、それは……」
茶目っ気を混ぜてそう言い、菊池さんは天使のように優しく微笑んだ。
俺は前までここに来るたびにアタファミの戦法ばかり考えていたこともあり、気恥ずかしさで今俺の顔は赤くなっていることだろう。
この羞恥心に堪えられず、時計を確認するとそろそろ移動するにはいい時間だったので、「そ、そろそろいこうかな」といって本を下に戻してから家庭科室へと向かった。
***
その日の昼休みは相原とみみみから連絡があったので公約のプリント作成を行った。
コンピュータールームで改めてWordで公約を書き印刷をする。
ここでも俺が書くのかよ、という思いも少なからずあったが、横ですごーいなどと褒められているうちにまぁこれもありか、などと思ってしまった。
我ながらチョロいもんだ。
印刷後は教室に戻ってなんとなく流れでそのまま相原といっしょにたまちゃんと話をしていた。
話を聞いた限り、朝から相原と俺の話をしていたようだが……。
たまちゃんが言うには相原は俺のことを褒めていた、らしい。
そう話すたまちゃんと慌てる相原を見てなんだか新鮮に感じつつも、その言葉も本心だったように感じられて少しだけ嬉しくなった。
そして放課後。
相原は今日までは部活に参加すると言っていたが、俺とみみみは明日から始まる選挙活動の準備のために教室に残っていた。
広報活動はできなくても、明日に備えてやれることはいくつかある。
そのうちの一つとしてたすきの作成をしていた。
と言っても俺がやることは特になく、雑務をちょっと手伝うくらいで、今はもう用意されたたすきにみみみが文字を入れるのをみているくらいだ。
「ブレーン!書くのは名前だけでいいかな!?何か、こう、肩書きとかいるかな!?」
「いや名前だけでいいんじゃない?てか肩書きなんてなにもないだろ、生徒会長とでも入れるのか?」
「あっはは!いいね、それはそれであり!」
いやなしだろ。
俺から言ったことだが。
「じゃあ名前だけ入れちゃおう。いやあそれにしても、友崎にも準備に付き合ってもらっちゃって悪いね」
「いやいいよ。どうせ俺は帰宅部だしな」
「あっ!もしかして私と一緒にいたくて!!」
「ち、ちげーよ!」
みみみはカカカと楽しそうに笑う。
みみみと話すようになってから、ずっとこんな感じで振り回されてばかりの気がする。
書道室から借りたらしい筆を使い、たすきに字を書いていくみみみ。
意外と達筆だなぁなどとちょっと感心しながら見ている。
「よし、完成!どう?どう?キレイな字でしょ!」
「それ、自分で言わなければ褒めてたかも」
「えー!」
シンプルに「七海みなみ」と書かれたたすきが出来上がった。
あとは乾かすだけということで乾くまで雑談を始める。
こういうところで経験値をためていかないとな。
そう思い話題のネタを脳内で探していたところ、机の上に置かれたみみみのカバンについているストラップに目がいった。
「ん?なにそれ?」
なんかしましまの配色をしたネコとハニワが合体したようなでかいストラップがついている。
「おお!お目が高い!コレこの間一目惚れして買ったの!どう、かわいいでしょ!」
「え…?」
かわいいのかコレ?
驚き素っ頓狂な声を上げてしまった俺。
みみみの方を見ると、どうだと言わんばかりの顔をして感想を待っているようだった。
俺はなんとか回答を捻り出す。
なんとなく、頭をよぎったのは相原の受け答え。
アイツはところどころ自分の本心を言うような、でもそれでいて相手に嫌悪感を抱かせないようなトーンで喋っている。
それを真似するようなイメージをしながら答える。
「あー、えっと、ぶさかわってやつ?」
「……ぷっ!あははは!」
え、何がおかしかったんだ!?
俺の回答をきいて急に笑い出すみみみ。
その真意がわからず困惑する俺。
「あはは!その答え、はらみーと言ってることが全く一緒!仲良しか!」
「えぇ……」
どうやら相原が同じような回答をしていたらしい。
まぁだって普通の感性ならそう思うだろ。
「あはは、でも違うよ。普通にかわいいでしょ、この子!」
今度は水沢のいじりを思い出しながら真似して試してみる。
「うーん……いや、やっぱりすごく変」
「あはは!そこははらみーとは違うんだね。はらみーはたしかにかわいいかも!っていったのにー」
「いやそれ面倒くさくなっただけだろ」
「いやいや!はらみーを信じよう!」
「信じていいものか……」
なんか、意外とみみみとの会話もテンポよく話ができているんじゃないか?
そんな風に若干の実感を得ているところに、みみみが真面目なトーンで話を切り出してきた。
「ところでさ、友崎はなんで葵に勝ちたいの?はらみーじゃないけど、推薦人とか協力者って本当にメリットみたいなものは特にないでしょ?放課後とかまで時間使ってさ」
「なんでって……この前話したとおりだけど?」
この話は土曜日の買い物の後にもしたはずだ。
というか菊池さんにも似たようなことを聞かれたし、結構同じこと聞かれるな。
「ゲームが好きだからとか、相手が強ければ燃えるって?」
「あぁ、まぁそんなとこ」
「……それだけ?」
まぁ、それだけで納得はできないか。
本当に負けたくないのなら、今までに勉強とか部活とかそういうもので戦わなかったのかということにもなるわけで。
それだけでないこともたしかだし、正直にいうか。
隠すことでもないし。
「俺って、アタファミが強いんだけどさ」
「え、うん。なにいきなり?」
「いやほら、日南もつよいのよ、実は」
「あーそういえば葵、この前の電気屋で友崎とはらみーが対戦してるのすごい見てたよね。……なるほど、それでリベンジってことか!」
みみみは納得したかのように手をポンと叩く。
リベンジ……?
たぶん思っていることとはちょっと違うと思うぞ。
「いや。たしかに日南と対戦はしたんだが、アタファミでは勝った」
「え!?そうなんだ!?」
たとえゲームとは言えまるで日南がどの分野でも負けることが想像ができていないって感じの驚き方だ。
「けど、日南は今まで戦った誰よりも強くて、コイツにはいつか負けるかも知れないって初めて思ったプレイヤーだったんだよ」
「ほ、ほぉ……ちなみにはらみーはそうでもないんだ?この間は楽しそうに対戦してたけど」
「アイツは、たしかにどんどん上手くなっていってるけどまだまだ負ける気はしないかな。センスはあるしかなりの対戦数を重ねてるのもわかるけどね」
「へぇ~」
まぁ、そろそろ1試合くらいとれそうなくらいまで上手くなっているとは思うが、それでも俺がミスとか読み間違いを連発したうえで1割あるかないかくらいだろう。
「っと、日南に勝ちたい話だったよな。それでアタファミでは勝ったけどさ。俺って……『人生』では日南にボロ負けだろ?でも俺が唯一認めた日南葵っていうアタファミプレイヤーの本当の主戦場はアタファミではなく『人生』だったっていうわけで」
「あはは、まるで人生をゲームみたいに」
カラカラと笑いながらいうみみみ。
でも実際俺や日南にとって『人生』はゲームみたいなもんなんだよ。
「まぁな。けどなんていうか『人生』がゲームなら、そんな日南の主戦場である『人生』でも戦ってみたいって、思ったんだよ。ゲーマーだから。まぁ、それでも今のままだと勝てないのもわかってて……」
「…あ、それで」
「まぁうん。みみみと、それに相原とも協力すれば勝てるかもって思ったっていうか……そんな感じ」
「なるほどねぇ、それなら納得かも」
それを聞いてみみみは腕を組みながら、「青春だねぇ!うんうん!」なんて言いながら首をコクコクと振っている。
それにしても、なんかすごく話させられた感じがする。
これがみみみの会話術ということか……。
「あ、そろそろたすきの文字も乾いたかな。片付けよっか」
「……あぁ、そうだな」
今度は俺が逆にみみみがそこまで勝ちたがるわけが気になったが、片付けを始めたので手伝うことにして会話は中断となった。
「友崎、放課後なのに手伝いありがとう。おかげで思ったよりも早く終わったよ」
片付けが終わったタイミングで時計を見ると、時間はまだ放課後になってから30分ほどしかたっていないようだった。
「あぁ、早く終わってよかったよ。今日中にやっておくことってまだなにかあったっけ?」
「んー、今日はもう無いかな。準備万端ってことだね!」
「そっか。それはよかった」
ついに明日から選挙活動の開始か。
挨拶とかは力になれないが、俺は俺のやり方でサポートをしよう。
票集めの方法を考えてみるか。
この後、みみみは思った以上に早く準備が終わったからということで遅れながらだが部活に参加しに行ったようだ。
俺はみみみにがんばれよーと適当な返事を返してから選挙活動のことを考えながら自宅へと帰宅をした。