弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
ストックのあるもう1話分を土曜日に更新したらちょっと空くかも……。
ついに今日から選挙活動が始まる。
それに合わせて俺もいつもより1時間近くも早くに登校している。
教室に行くとみみみは既に教室で準備をしていたようでタスキをつけていた。
「おー、みみみおはよー。早いな。そのタスキ似合うじゃん」
「あ、はらみー、おっはよー!いいでしょこれ!」
「あぁ、準備バッチリだな。俺もすぐ支度するから、そしたら玄関のほう行くか」
そうして配布用のプリントを準備し、みみみと校門前まで向かった。
この広報活動の方針は割と単純、俺がみみみのPR宣伝をしつつ、みみみが横で生徒と会話しながら公約配りだ。
しかし事前にあれこれ準備はしていたが、人前で広報活動というのはなかなかこう、精神的にクルものがあるな。
俺みたいな陰キャ上がりにはこういうのまだ辛かったかも……。
いやいや、腹をくくれ俺。
今までたって色々日和りながらもなんとかやってきたし。
えーっとあれだ、跳べないハードルも負けない気持ちでクリアするんだ……!
そうして自分を奮い立たせながら校門で広報活動を開始する。
まぁなんというか、始まってしまえば意外となんとかなるもんだ。
声を上げて公約の内容などを交えたPRを行いつつ、見知った知り合いなどがいたら個別に声をかけていく。
1年の時のクラスメイト、合同体育で一緒になる隣クラスの生徒、部活の仲間、運動部としての交友関係、その他諸々。
意外と知り合いは多く、実は顔と名前は覚える努力をしているから同じ学年ならほぼ全員の顔と名前は把握しているので、呼び止めるのも容易い。
学年の違う縦のつながりは、まぁほどほどにしかないけど……。
お、先輩めっけ。
やっぱり関わりが深かった人とかが1番声かけやすいよな。
「お!せんぱい、おはようございます。俺、選挙の推薦人になったんで応援してくださいよ!そっちが公約の紙ッス、七海みなみをよろしくです!」
部活の先輩へそんなふうに挨拶をしつつ、みみみに公約の用紙を渡してもらう。
「おー、相原が推薦人やってんのかよ。お前が推薦人とか大丈夫か?こっちの立候補者はお前の彼女とかじゃねーだろうな、だったらぜっていれねー!」
「違いますよ!俺以外には推薦人を断られたらしいですよ。なぁみみみ、推薦人は何人くらいに断られたんだっけ?」
横にいたみみみは話を振られて驚きつつも答える。
「え!うーんと、3人には断られたかな?」
「というわけで俺は4番手らしいです……ほら、対抗馬があれなもんでこうなっちゃったらしいっす。なので、こんな不憫な後輩に票を入れてくださいよ!」
「対抗馬?あぁなるほどね。まぁ覚えてたらな」
先輩はもう一組のPR活動をしているグループをみてからそう漏らした。
つーかその言い方、絶対に入れないやつじゃん。
よーし、ならこっちにも策がある。
俺は少し小声で話しかける。
「ちょいちょい、先輩。今回立候補者は2人だけみたいですけど、あっちのもう一組の方は付き合ってるなんて噂ありますよ。仲良く選挙活動中スねぇ。そんなん許していいんスか!」
「ほぉ?そりゃ許せんな……」
「ですよね!ということで七海みなみに清き一票をよろしくです!あ、引退しててもたまには部活にも顔出してくださいよ〜!」
そうして話はついて、去っていく先輩とそれに手を振る俺。
「はらみー、いいの?あんなこと言って」
あーあー、キコエナーイ。
「はいはい、七海みなみをよろしくお願いします!『な』と『み』だけで構成された覚えやすいこの名前を覚えていってください!元気が取り柄、学年随一のムードメーカー。誰よりも人に寄り添える七海みなみをよろしくお願いしまぁーす!」
「もー!」
そんな風に露骨にスルーをしてみみみのPRをする俺に仕方なくというようにみみみは下がる。
「お、今度は、友崎の妹ちゃんじゃないか!おはよう、この間ぶり!」
「あ、おはようございます!相原先輩、七海先輩!」
友崎の妹ちゃんも見かけたので声を掛ける。
隣には妹ちゃんの友達と思われる2名もいた。
「妹ちゃんおっはよー!これが我らが掲げる公約だよ、どうぞ~」
そう言いながら妹ちゃんとその友達2名に渡すみみみ。
さて……なんとなく顔に見覚えがあるな、名前はわからないが部活はわかるぞ。
「あ、そっちはたしか妹ちゃんと一緒でバド部だよね?俺達、バド部の泉とは同じクラスなんだけど話してるの見た事あると思う。そっちは、バレー部かな?俺はサッカー部なんだけど、たまに部活が室内になった時とかに、体育館で頑張ってるの見たことあるよ」
「え!すごい、覚えてるんですか!?というかちょっと怖い!」
逆に引かれちまった!
みみみ、フォローして……。
「ははは、素直な感想をありがとう。なぁみみみ、俺は怖くないよな?」
「ん〜、どちらかと言うとちょっとキモい?ねー?」
「えぇ……」
その言葉に俺はガクッと少し大げさに肩を落とす。
それをみて全員があははと笑い、若干やわらかい空気になった。
「まぁそれはともかく、そんな部活を頑張る3人は先程渡した公約を見て下さい、2番!我らの七海みなみが当選したら、ここに書いてあると通り髪型・服装に関する校則を緩和に動くことを約束しまーす!部活終わりなのに服装や髪型を規則で縛られ大変でしょ?こういう所も改善を目指していきます。例えばの案としては、帰宅にはネクタイ、リボンは強制でなく外すことを許容とする!とか、春から秋にかけての間なら指定のポロシャツでの帰宅も許容する、とかね!」
「「「おー!」」」
たぶん運動部全員の悩みだろう、これは。
というか、男子側ですら鬱陶しく思っているんだから女子側はもっと煩わしいんだろう。
「そしてーこちらの七海みなみが、持ち前の行動力と、公約からもわかる通りの目敏さでみんなの悩みを真摯に受け止め、考え、改善を目指していきます!」
周りにも聞こえるように少し大きめの声で話しており、みみみもすれ違う人に声をかけながら公約の紙を配っていることもあり、いつの間にか足を止めて聞いてくれている人も増えていた。
「今は公約に書いている一例を挙げましたが、無論ここにかいてあることは全て達成を目指していますし、書いてないことでも気になったことはすぐに対応ををしていくつもりです。と言うことでこちらの七海みなみに清き一票をおねがいします!」
ここまで言い切ると妹ちゃん達はパチパチと拍手をしてくれ、足を止めていた人たちにも軽くそれが伝播していった。
「おお、拍手ありがとー」
「私、七海先輩に投票しますからがんばってください!」
妹ちゃんはそう言ってくれ、俺とみみみでありがと〜なんて話をしてから校舎の方へと歩いていった。
後ろ姿を手を振りながら見送る。
「はらみー、もしかして1年生の女子の部活覚えてる、というかチェックしてるの?」
なんとも言えない様な微妙そう顔で聞いてくるみみみ。
いやなんだよその顔。
ちょっとキモいって言葉冗談じゃなくてマジだったんか?
「え、いやまぁ人の顔と名前は覚えるように努力はしているぞ。学年が違うとさすがに名前は覚えきれないけど」
心のなかでは視野を広げる練習、とか考えながらやってると結構飽きずに続けられるぞ。
サッカーに大事なのは声の大きさ、視野の広さなんだ、ボール持っての技術なんてものは二の次。
だからこう、漫画みたいに鍛えられないかなって意識でやっていたりする。
たぶん、無駄ではないはず。
「……ストーカーは犯罪だよ?」
「ナンデ!?」
どうしてその結論にたどり着いた!
ストーカーなんてしてないわ!
こんな感じでHRに遅れないくらいの時間までPR活動を続けた。
俺達のPRとしてはまぁ上々だったんじゃないかと思う。
俺、頑張った!
気になるとしたら、日南たちの方だな。
横目にチラチラと見ていたが、向こうは流石の人だかりが出来ていた。
水沢もこういう活動は得意のようだし、日南も一人一人の顔を把握してそれぞれの挨拶をして受け入れられていたようだ。
俺はそういう事してキモがられたというのに、何が違うというのだ。
見た目か?立場か?言い方か?
ぐぬぬ……。
でも想定外というほどでもないし、感触的には五分はなくとも明確なほどの格差なんてものもない気がする。
そういったところでやっぱり上々だな。
色々準備しておいて、よかったぁ。
あとは元々の予定通り、″演説以外″のところで票獲得に動くとしよう。
むしろ、こっちが俺達のメインだからな。
***
そして放課後、俺とみみみと友崎で食堂に集まり作戦会議をしていた。
「それで、何クラス回れた?」
「バッチリ、1年生の全クラス回れたよ!」
「おお、ナイス!回りきれないかと思ってた」
「…ぷ!な、何その動き!」
友崎のナイス!な動きに対して腹を抱えて笑うみみみ。
うーむ、相変わらず失礼なやつだ。
これを″素直″と呼べばプラスにも聞こえるか?
「ま、俺のサポートのおかげだな」
「はらみーは私の後ろにいただけじゃん」
「ちゃんと黒板に分かりやすく、お前の名前や話の概要とかをかいてたよね!?」
ちゃんと仕事してたのにひどい扱いだ。
「それにしても友崎はほんとうに悪いねぇ〜?入ってきたばかりの一年生を騙すなんて、このこの!」
「何を言っているんだ、騙してなんかいないぞ。当選した暁には全力で取りに行くんだから」
「あはは!まぁねー!その時には全力で取りに行くよ、″クーラー″!」
今日の締めのHR前に俺とみみみで1年生の各教室に赴き、アピールをしていたのだ。
みみみが当選したら、各教室に″クーラー″を設置する、という話をして回ってきた。
発案者の友崎によると、このクーラー取得のための演説は1年生だけに回るのが肝だ。
2、3年生はクーラーなんてそう簡単につかないことをとっくにご存知なんだ。
だからこそ無理にそんな事を言ってしまえば『非現実的なことを言っている』などと逆に信用を失うことすら考えられる。
だが、入学してまだ3ヶ月くらいの1年生に絞って演説をすれば、生徒会長が本気で動けば可能性はあるんじゃないかと思うだろう。
うーん、やっぱ友崎は悪いねぇ。
「でも今日は無事に1年生の全クラス回りきれたし、明日は3年生の方回れそうだな」
クーラーはたしかに1年生向けではある。
だが、それとは別に3年生向けにも案は考えている。
友崎がクーラーの案を話した際に俺が思いつき、話をまとめていった内容だ。
3年生向けには、三送会。
これらに力を入れることを目標に各教室で演説を行う予定だ。
三送会とは1、2年生が世話になった3年生に向けて催しなどで交流をする会だ。
3年生向けへはこれに力を入れることを考えている。
理由としても単純。
表の理由としてみみみは部活動なんかで顔も広いしそのまんま労いたい、というのは通用する。
後は、裏の理由に来年の自分たちもそれにあやかりたい、なんてことを残しておく。
人間、きれいなだけの言葉より本音も混ぜった裏の顔まで見たときにこそ納得をするものだ。
1年通してイベントごとはそこそこあるが、受験に就活に卒業にといろいろ忙しい3年生に関わり深いイベントは多くない。
その中から一つに絞って力を入れることをアプローチすれば必ず効果はあるはずだ。
今日は1年生全員にクーラーの演説て一定数の票を稼げただろう。
明日は3年生の方にこの三送会の話で行くつもりだ。
まぁ明日のことは明日にとって置いて、今は今日できることを考えよう。
「それで、放課後だけどこの前考えた通りで球技系の運動部を回って電動空気入れの話をしにいくってことでいいのか?」
「うん、オッケー!それじゃあ早速向かおっか、善は急げだよ」
「おー、りょーかい。目標があるならまずは行動、人生の基本ルールだな」
報告は済んだと、各部に向かうことにした。