弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
□生徒会選挙速報
日南 葵 :351票 【会長当選】
七海 みなみ:236票
掲示板に張り出された紙を確認して項垂れる俺。
やれるだけのことはやったつもりだったんだが票数には約1.5倍もの差がある。
ここまで差がつけられるとは思わなかった。
気落ちをしながらも、ここで立ち尽くしても邪魔になるかと思いとりあえず荷物を置きっぱなしにしている教室へと戻ることにした。
そして教室に戻るとなにやら教室前の廊下でソワソワとしている友崎がいた。
「友崎。放課後なのにそこで何してんの」
「え、あぁいや別に」
別にってなんだよ。
と思ったが、友崎のさっきまでの視線の先を見て察した。
そりゃああれだけ頑張っていたんだから気にもするよな。
廊下から教室の中をちらっと見ると、みみみはクラスの何人かと会話をしている。
話しかけるタイミングを伺っていたってところだろう。
「あー、なんだ。今選挙の結果見てきたわ。俺たちも頑張ったんだけどな」
「そっか。こればっかりは相手が強すぎた、かな?」
「そーかもな。でも俺、元はただ頼まれたから推薦人を引き受けただけではあるんだけどさ。なんかめっちゃ悔しい、かな」
「それは俺もだ」
俺の言葉に友崎が同意する。
友崎もこの結果にはいろいろ思うところがあったのかも知れない。
俺だってそうだ。
悔しいと言ったが、負けたのが悔しいというわけじゃない。
いや、それも当然悔しいんだけど……。
何ていうか、俺は自分がその気になればそれなりのことを何でもこなせるって、そんな風に思っていたらしい。
それがまぁ健闘するどころかそこそこ大差での負けときた。
そんで負けてから、それがただの自分の思い込みだったってことを自覚して。
まるで誰かに「いい夢見れたか?」なんて言われたみたいでそれが1番悔しかった、と思う。
「……じゃあまぁ、みみみにも一声かけてやるとしようぜ」
俺はそう言って、教室に入る。
友崎もやはり、話す機会を伺っていたようで俺のあとに続いて教室に入った。
教室に入れば、みみみはちょうどいいタイミングで会話を切り上げており、話していた他のメンバーも部活だったり帰宅だったりで解散するようだ。
「よ、みみみ。選挙の結果がそこの掲示板に張られてるぞ。もう見たか?」
「あ、はらみーに友崎!いやー残念だったね!見てはないんだけど、さっき友達からLINEが来てね」
「あぁ、そうなんだ」
「そそ!あ、でも不意打ちで知っちゃったから意外とダメージは少なくて助かったかも」
「あはは……不幸中の幸い、ってやつ?」
そんなふうに明るく言うみみみに、友崎が相槌を返す。
この反応、どう見ても空元気だと思うが……。
というか推薦人だった俺でさえそこそこショックを受けているんだ。
みみみだって気にしていないわけはない。
まぁだからって気を使われたくない、というのはあるんだろうな。
じゃあこっちもあれこれ言うのも余計かね。
「まぁ、あれだよな。日南とは部活も一緒だし、なんならテストとかだってこれから何度もある。ほかにも……いろいろあるだろ!次はそれで勝負すれば、な!」
なんて声をかけるかなと悩んでいたところ、先に友崎が口を開く。
なんかこう、言うようになってきたよな、友崎。
「うん、今回はだめだったけどまたいつか勝てばいい話だしね!」
「七転び八起きだな!」
「そうそう、さすがブレーン!いいこと言うね!」
本心かどうかはともかく、これで区切りがついているのならそれでいいや。
俺もなんか、全力でボールをぶっ飛ばしたい気分だし。
シュート練でもしてぇな。
早く部活に行くか。
「いつでも前向き、行く背に風向き!転んだら、その分早く走って追いつけばいいんですよ!」
「そっか、じゃあ次はなんかで勝たないとな。さて、んじゃ俺も部活に行こうかな。久々に身体動かさないと」
「お、やる気たっぷりだね。改めてありがとね、二人共。はらみーは、部活まで休んでもらってさ」
「おう、部活程度気にすんなよ。むしろサボるのにいい口実が出来たってもんだ。そして休んだ分、今日はボールを早く蹴りたくなってきてな。そんなわけで、おさきー」
そう言って、俺は自分の机の上に乗っているスクールバッグを手に取り、2人に軽く別れの挨拶をしてから部室へと向かった。
みみみも空元気っぽかったし、俺も見習おう。
自慢の技、空元気!
っしゃ、気合い入れていくか。
***
ぉぉぉぉおおおおお!
相手のゴールに、シューーーッ!!
超!エキサイティング!!
俺の蹴ったボールは少し弧を描くように左へと曲がりながら25メートル程先のゴールへと吸い込まれる。
部活の練習、自由メニューのシュート練習だ。
ちなみにこの距離、俺が精度を保ってシュートを撃てるギリギリの距離だ。
これ以上だと飛ばせるは飛ばせるが、精度がゴミになって枠にはなかなか入らない。
少しずつ、距離を伸ばすためにこうやって練習するわけだ。
しかし、シュート練習は好きなように蹴れるから楽しくて仕方ない。
まぁ、長めの距離で撃つと外しやすいしボール拾うのが大変という問題もあるが……。
サッカー部の練習自体は顧問がいない限りは割とメニューは好きに決めてよくなっている。
基礎練や全員参加のメニューをしてから、各自好きな練習を決めて、最後にミニゲームとかそんな感じだ。
言ってしまえば最初の基礎練と最後のミニゲームに参加してれば何でもいいっていうゆるい練習だ。
そんなわけで俺は絶賛シュート練習中。
幸いにもキーパーも付き合ってくれてるから枠外に外さない限りはボールを返してくれる。(なお外したら罰ゲーム、ダッシュで球拾いの刑となる)
「相原、気合は入ってるーッ!なにかあった?」
「なにもないが!」
「えぇ〜!じゃあその気合入ったシュートはなんなの!?」
「いつでも気合入っているが!」
楽しくシュート練習をしていたところに、竹井が話しかけてきた。
邪魔すんじゃねぇぞ!
という気分ではあるが、さすがにそれは対応が悪すぎるのでまぁ適当に返答する。
「選挙で推薦人を引き受けたのにボロボロに負けてたからな、機嫌でも悪いんじゃねーの」
「あ、なるほど!いやいや、でも惜しかったってー」
そしてそこにイジる対象を見つけたとばかりに中村もやってくる。
てか竹井のフォローのような言葉が俺に突き刺さる。
1.5倍差だぞ、惜しくなんかねぇよ。
「俺は勝つつもりでやったのにあの結果なんだよ。なんつーの、納得行かない、はちょっとちげーな。シンプルに、悔しい!」
「そういえば、公約とか部内でも配ったもんな、それでボロ負けとか恥ずかしーわ」
そう言いながら、中村は俺より少しゴールに近いくらいの位置、おそらく20メートル無いくらいに転がしてからシュートを撃つ。
枠内、なかなかのシュートだ。
たぶんペナの外くらいからのミドルシュート
それを見て、俺は元の位置から更に1,2メートルほど下がってボールを置く。
「……あぁそうだよ。なんかできる気になってたのに何にもできずにボロ負けして恥ずかしいやらなにやら、ってねッ!」
置いたボールを踏みつけてから前に少し転がし、それに走って追いつくと同時に全力で蹴り出す。
しかしそれは、力みすぎのためか左へと逸れていき枠を外れて奥へと転がっていく。
「うおおおおぉーーー!クソッタレーーー!!」
「はっ、何やってんだか」
俺は蹴った瞬間に外れるな、と直感したので踏み込んだ勢いのままダッシュ。
ゴール裏までボールを拾いに走る。
キックアンドダッシュ。
……いつか決めるぜイナズマシュート。
うおおおぉぉぉーー!!
走りながら気づいたわ、この感情はアレに近い。
勝っても負けても進むようなイベント戦でボロ負けた気分だ。
ラスボス級の敵が顔見せイベントみたいなので出てきて、勝つと貴重なアイテムがもらえるけどその時点では圧倒的な力で勝つのが困難で、予めの事前知識と対策をみっちりしていないといけないやつ。
大抵それまでのゆとり仕様でシステムを理解した気になったところに、上には上がいるんだよってことをわからせてくる強敵。
盛大にわからされちまった感じがする。
お前はこんなもんだって。
まぁ向こうはそんな思ってすらいないだろうけどな。
俺は今日1日そんなモヤモヤを感じながら、それを振り払うように部活を続けた。
***
土曜日。
午前は部活のため朝からグラウンドに行っていたがそれも先程終わり、予定していた選挙の打ち上げにと校内で待ち合わせて合流する。
まぁ俺とかみみみは部活でもともと学校にいたからとっくにいるわけだ。
友崎も先ほど来て合流した。
さて、あとは……。
「よし、それじゃあ行こーか!」
「いや、ちょっと待って。もう1人呼んである。あ、ちょうど来た」
みみみに待ったをかけた俺の視線の先から、一人の女子がやってくる。
うむ、俺と友崎でコソコソとサプライズをしていたのだー。
「え、たま!?」
「ごめん、今部活終わって来たところ」
「たまちゃん、おつかれ」
「よ、おつかれ。まだ時間前だし、セーフセーフ」
驚くみみみを他所に俺と友崎は挨拶を返す。
「みみみを驚かせようと思ってたまちゃんも呼んでおきました!ちなみに知らせなかったのはみみみだけ」
「なんで私だけのけものっ!?でもはらみーナイスッ!たまぁーっ!」
「ちょっとみんみ!?今部活終わったばかりで汗臭いから!」
「ん〜、たまのいい香りがする〜」
そう言いながら、たまちゃんに抱きつくみみみ。
おぉ眼福眼福。
写真に撮りたいくらいだ。
……さすがに怒られるかな。
「相原、いつまで見てるの!」
「いやぁ、仲睦まじきはよきかなよきかな。写真撮っていい?待ち受けにする」
「だめに決まってる!」
「きれいに撮ってね、ピースピース!」
ジッと見ていたらちゃんに怒られてしまった。
みみみはこうは言ってるが、断られたのに撮るのはな。
ってかなんでたまちゃん名指しで俺だけ?
友崎は見てていいの?
いや、ジッと見てたのは俺だけだったのかな。
「あ、はらみー見物料1000円ね!」
金とんのかよ!?
クソッタレ!
「友崎だしといて」
「いや、出さないから!」
そんな会話をしながら近場で安さが売りのチェーン店のファミレスへと入って行った。
まぁ洒落た店とかは憧れとかあっても、普段遣いならこういうところよね。
「それじゃあ改めまして、お疲れ様でしたー」
「「「お疲れー!」」」
俺の音頭と共に持ってるグラスで乾杯をする。
無論、ドリンクバーだ。
俺のコップの中身は烏龍茶。
「お疲れっていうか、今更だけど私ここにいて良かったの?選挙の打ち上げって、私は何もしてないんだけど」
「んも〜、たまは何いってんの!」
おやまぁ、たしかに急に呼んじまったからなぁ。
俺のほうがちょっと申し訳ないわ、なんか言っとこ。
「そーそー。バレー部に交渉するときとか話つないでもらったし、なーんか友崎の方にもいろいろ協力してくれてたじゃん。なぁ?」
「あぁ。たまちゃんに手伝ってもらって助かったよ」
そう言って友崎に話を振る。
演説の仕込みの確認、体育館で携帯のアラームを響かせるにはどこに設置するのがいいのか悩んでいた友崎はたまちゃんにヘルプを頼んだわけだ。
俺はその時、必死に台本かいてたっけな……。
「あ、そうだ!みんみあれ全部ヤラセだったんでしょ!友崎から裏取り済み、反則!」
「あ、あらら。たまさんにバレてしまいましたか……。というかブレーン、私を売ったな!考えたのはブレーンじゃん!」
「い、いや俺は質問に答えただけで売ったというわけじゃ……」
「ははは、発案者と実行者のどっちに責があるのかね。って、あぁどっちも実行者か。読む方と流す方で」
そう言ってみんな口元は楽しそうに緩めていた。
負けた悔しさは、こうやってみんなで1回笑って流すのがいいのかもな。
「みんみの演説も面白かったけど、私は相原の演説も良かったと思うよ」
「あ、アレね!」
ってヤバ、今度は俺が標的になる番のようだ。
演説の話は正直思い出すと若干恥ずかしくなるからやめてくれ。
「相原が演説で言ってた内容って本当なのか?」
「えーっと、今の自分がイケてるって思ってるってところか?」
「いや違うって。みみみに元気付けられたってやつ」
話逸らせるかなと思ってすっとぼけてみたが直接来たよ。
本人の前で聞くかねそれ?
いや本人の前で演説したんだから今更か……。
「…ぁー、まぁ本当だよ。みみみは覚えてないかも知れないし、ほんとちょっと掛けられたくらいでたいした内容ではなかったけどね」
「え、あ、うん!覚えてるよ、もちろん!」
いや本当かよ、なんだその『え』って。
まぁ別に今更そんな事はいいか。
「でもはらみー、あの時から比べるとたしかに変わったよね。あ、もちろんいい意味で!」
「おう、おかげさまでな。男前になったろ?」
「あっはっは!」
「なにわろとんねん」
しばいたろか。
まぁいいや、俺も気になったこと聞いてみよう。
「そういえば、たまちゃんとみみみが仲良くなったのもその後くらい……去年の2学期のはじめくらいからじゃなかったか?」
「そうだっけ?」
「うん、そうだよ。そのあたりからみんみが意味もなく絡んでくるようになったかな。無言で頬を突っついてきたり」
「あはは、なんていうか……みみみらしいな」
うん、たしかにみみみらしい。
元気なさそうにしてたら俺なんかにも声をかけたりするやつだ。
とても″らしい″とおもうな。
「なんか、もっと長い付き合いなのかと思ってた」
「いやいや、友情に時間なんて関係ありません!ね、たまぁ〜」
「ぉー、いいこと言うなぁ」
俺もそうであったらいいなと思う。
まぁたまちゃんはウザそうにしているけど。
とはいえ嫌がっているわけでもなさそうだが。
「それはそれで、なんで急に2学期くらいからたまちゃんにうざ絡みしだしたんだ?」
「う、うざ絡みっ!?……むしろ、去年の2学期までたまのことを見逃していた私を恥じたい!こんなに可愛いたまを!」
そう言ってソソソ……とたまちゃんの方にじり寄るみみみ。
本当にたまのこと大好きだよなぁ。
たまちゃんはジト目でみみみをみているが。
みみみの言ってることはたぶん全部本当なんだけど、1番の理由はクラスに馴染めていなかったたまちゃんをなんとかしたかったんだろうな。
1年も見てれば俺でもわかる。
「まぁ今2人は仲良しってのはよくわかったよ。やっぱ今日はたまちゃんにも来てもらってよかったね。みみみはたまちゃんと揃ってこそだなって」
そう言ってたまちゃんの方を見ると、本人もまんざらでは無さそうな顔をしている。
「あは、ありがと!それにしても、選挙は負けちゃったけど結構楽しかったよね。結構惜しかったというか、葵相手にも距離を詰められたっていうか」
「そうだな、終わってみれば1週間楽しかった」
惜しかった、かなぁ?
1.5倍差だぞ。
とは思ったがまぁそこはわざわざ口にするのも野暮だ。
「もしかして、今度は日南と部活で勝負するつもりなのか?」
「うーん、部活1つってことはないけど部活でも負けたくないって思ってるかな。勉強も手を抜くつもりはないから!」
「そうなんだ、すごいな」
たしかにすごいよなぁ、テストでも2位とか3位って言ってたっけ。
おれなんかは平均よりそこそこ上のところで十分頑張ったと自分に言い聞かせてるから、とても真似できそうにない。
「みんみ、頑張るのはいいけど無理はしないでね」
「大丈夫大丈夫!今すっごいやる気になってるところだから!」
そんな感じで俺達はゆっくり昼食を選挙の話から段々と話はかわり最近あったことの話なんかをして、そろそろお開きというところになった。
「それじゃあそろそろいこっか」
そういって会計の取りまとめをするみみみ。
「この後どうする?」
そこに友崎が話を振ってくる。
この後かぁ、暇は暇なんだが……。
「部活終わりだしこのままうろつくのもちょっとな。午後は暇なんだけど、とりあえず帰ってシャワー浴びたいわ」
「あ、わかる。というかまだ7月だけど気温ヤバイよね」
「この時期体育館も蒸してるから部活中に汗は止まらないね」
まぁ部活組はそうだよな。
ということでこの場は解散になった。
けど、聞いてきたってことは友崎も暇なんかね。
その後、駅まで一緒に帰ってから駅方面の違いでたまちゃんとわかれ俺と友崎とみみみ3人で電車に乗る。
「友崎はこの後暇なのか?」
「あぁ、まぁやることはないから帰ったらアタファミしようかなって思ってる」
相変わらずだな。
「なるほど。んじゃ、暇ならカラオケでも行かないか?いったん帰るけど、シャワー浴びて一息ついたら出直して。北与野近くに安いカラオケあったし1時間とか2時間くらいでさ」
「えっと、あぁ、分かった。けどカラオケは行ったことないんだよね。というかいくらくらいかかる?」
おお、そういえばそう言ってたな。
「おーけーおーけー、任せとけ。たしか1時間無料券あったはずだから……2時間なら飲み放題ついて1人400円ちょいくらいだな」
「え、そんなもんなんだ」
「そんなもんなのだ。そして無料券あっても1人だと使えなくてな」
みみみにも来るかは聞いてみたが、今日はそのまま家でゆっくりするということで午後は友崎とカラオケに行った。
まぁここで一緒にってなったら、それはそれでたまちゃんハブったみたいになるしそう思うと断ってくれたのもちょっとだけよかったって気がする。
あれだな、仁義って奴だな。
みみみのそういう気配りができるところはリスペクトしたいなぁと思う。