弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
選挙の結果を確認したあとに俺は日南に連絡を入れた。
『ごめん、放課後の会議は遅れる。ていうか欠席になるかも』
メッセージはすぐに既読となり返信も返ってきた。
『了解。今日は中止にしましょう。ただし、その分は成果を残すこと』
おぉう、なんでも御見通しって事か。
でも話が早くて助かる。
『了解』
短く返事を返し、俺は俺のやるべきことをやる。
そう決めて教室の前で待つことにする。
開かれてるドアから教室の中を見ればみみみはクラスメイトと話をしている。
さすがにあそこには入れないから、俺にはこうやって待つしかない。
「友崎。放課後なのにそこで何してんの」
そうして待機していたら、廊下を歩いてきた相原に話しかけられた。
「え、あぁいや別に」
俺は咄嗟の言葉は特に中身のある回答はできなかった。
こういうところは直していかないとなんだが……。
相原は俺の様子からなんとなく察したのか選挙の話を振ってきた。
ちょうど今掲示板を確認してきたらしい。
相原も相原で日南に負けていたことをそこそこ気にしている様子だ。
「じゃあまぁ、みみみにも一声かけてやるとしようぜ」
そう言って教室に入っていく相原。
みみみは会話中に見えるが……このしたたかさはどっから来るんだろう、見習いたいね。
とは言えタイミングよくみみみ達の話も終わったようだ。
「よ、みみみ。選挙の結果がそこの掲示板に張られてるぞ。もう見たか?」
相原がそう言って話しかけていく。
俺も2人の会話のスピードについて行こうと話に入る。
みみみは掲示板自体は見ていないがLINEで知ってしまったとのこと。
空元気なのかもしれないが、あまり落ち込んでいると言うわけでもなかった。
相原もそれを察したのか、話をささっと切り上げる。
「今日はボールを早く蹴りたくなってきてな。そんなわけで、おさきー」
そういうなり相原は自分の机においているスクールバッグを担いで「じゃなー」と言いながらササッと教室の外へとでていった。
は、早い……。
「あはは、すごい勢いだったね。やっぱり部活まで休んでもらってたの悪かったかなぁ?」
「いや、たぶんそんなことないと思うぞ。相原って本当は結構負けず嫌いだから、選挙で負けてたことにむしゃくしゃしてるんだと思う」
「ふ〜ん……」
みみみは曖昧な返事をしながら、俺の方をジッとみてくる。
「え、な、なに?」
「いやぁ、やっぱり仲いいなぁと思って。もしかして、怪しい関係?」
体をクネクネとしながらそんなことを聞いてくるみみみ。
「いや、なんだよ怪しい関係って。あいつ、アタファミやると負けても負けても再戦!って挑んでくるんだよ。昨日だって30分だけ〜とか言いながら1時間くらい挑んできたぞ……」
「あっはは!なんか想像つく!でも、やっぱり友崎もなんか楽しそうじゃん?アタファミの話だから?それとも友人の話だから?」
「それは…」
楽しそう?
と思いながら、たしかに俺も無意識に口角が上がっていることに気づく。
……まぁ、アタファミをあれだけ本気でプレイしている奴を俺が嫌いになれるわけないし。
俺だって日々アタファミをやって今も上達を続けていると思っているが、相原は伸びしろだけで言えば俺よりも伸びているだろう。
「相原は本気で勝つつもりで挑んでくるから、たしかにそういう意味では楽しいのかも。どんどん上達してるし。まぁ俺も負けるつもりはないけど」
「なるほど!」
言いたいことは伝わったようで納得するみみみ。
「あ、私もそろそろ部活に行くね。選挙の分取り戻さなきゃ!葵にもはらみーにも負けてらんないからね!」
「あぁ、わかった」
「あ、明日の件はわすれるなよ〜?それじゃ!」
そう言うとみみみはカバンを肩にかけ直しピュ〜っと教室の外へとでていった。
そういうところがやっぱり相原とそっくりだな、なんて思いながら見送る。
明日の件、は相原からLINEグループで連絡が来た打ち上げの話か。
なんか個別にみみみに内緒でたまちゃんも呼んだってきたけど、隠す意味あるのか?
『成果、というほどではないけど、明日は相原とみみみとたまちゃんで打ち上げとしてお昼を取ることになった。』
とりあえず日南に成果報告を上げる。
さて、放課後どうするか。
会議は中止だし直帰、でもいいかな。
***
悩んだ末に、図書室に寄ってから帰ることにした。
菊池さんとの接点、マイケル・アンディの作品を手に取る。
このまま図書室で読むのも悪くないかなと思ったが、今日はすぐに図書館を閉じるとのことだったので手に取った一冊を借りて持ち帰ることにする。
そうして借りた本を手に持ち教室に戻る。
さすがにクラスの全員が帰るか部活に行って誰もいないよなぁと思うと、1人窓から外を見ている人物がいる。
たまちゃんだ。
後ろ姿でも小さいからわかる。
これは声には出せないけど。
さてどうする……なんて考えるまでもないな。
経験値稼ぎ、いくぞ。
「たまちゃん、部活行かないの?」
「……友崎?」
俺の声に反応してクルッと上半身と首で振り返る。
俺を確認したらスッと一歩横にズレて俺の場所?を空ける。
そこに来い、と?
小さい体してやるな、たまちゃん……。
「何見てたの?」
窓から外を見ると、グラウンドの様子がよく見える。
手前は陸上部か。
奥にはサッカー部に、角度的には見えにくいが野球部も見える。
そうか、ここって結構グラウンドが見渡せる位置なんだな。
「見てるとわかるんだけど、葵とみんみだけずば抜けて頑張ってる」
「へぇ」
そう言われて陸上部に視線を向けると、たしかにその2人だけ特に熱意があるように感じる。
休みの間隔も短く、走るペースも速い。
「けどみんみはいつもはこうじゃない。普段は自分のペースを守ってる」
「そうなんだ。いつも見ているの?」
「たまに、部活をサボりたいときとか」
そして、一拍置いてからこっちを睨みながら続ける。
「たまだけに、じゃないからね!」
「お、おう、わかってるって」
そう言ってからまたグラウンドへと視線を戻す。
「本人、選挙の分を取り戻さなきゃって言ってたからそのせいじゃないかな。あと、何かで日南に勝ちたいとも言ってたし」
「みんみと話したんだ。うん、それで葵に張り合ってるんだと思う。というか、絶対にそう!」
「はは、そうかも」
私は怒っています、なんて雰囲気を出して言うたまちゃん。
たまちゃんも本当にみみみのことが好きなんだな、こんなに心配をして。
「選挙は残念だったね」
「あぁ、まあね」
「あのナビのやつってやっぱり、全部仕組んでいたってことだよね?」
わざわざ体育館のどこだと音が響くのか手伝ってもらったんだから、そりゃ気づくよな。
「そうだね。全部ヤラセ」
「反則!」
たまちゃんはビシッと俺の方を指差しながらそう言う。
けど口調の割には表情は楽しそうにしている。
「あれだけやっても勝てなかったんだけどな」
「まぁね。葵だし」
「はは……やっぱりたまちゃんもそうおもう?」
「うん、葵はすごいから勝てないよ。けどみんみもね。勝てなくても負けないの。だから、葵とだけは戦ってほしくなかった」
勝てないけど負けない、か。
言葉の意味はいまいち理解できなかったが、なんとなく言いたいことはわかった気がする。
「そっか」
「うん。だからみんみが選挙のための推薦人を探してるときに、相原なら無茶する前に止めるかなと思って背中を押したつもりだったんだけど」
そう言ってたまちゃんは窓からグラウンドの方を見ながら、さっきよりも視線を少し上げる。
その視線の先は、サッカー部……。
相原が練習をしている。
ボールを蹴ったかと思ったらそのままダッシュでボールを追いかけている、ってかここからでもわかるくらい足早いなあいつ!
「なんか、めちゃくちゃ頑張ってないか?」
「止めるどころか焚き付けちゃってるでしょ、あれ」
「は、はは。まぁ頑張る分にはいいんじゃないかな」
「うん。でもやっぱりそれに触発されてみんみが頑張りすぎないか、怖い、っていうか……」
あぁ、なるほど。
たまちゃんがいいたかったことをようやく少し理解できた気がする。
みみみが頑張りすぎて、日南に勝つために無茶をしなか、ってことなのかな。
「あ、ごめん!私ばっかり一方的に!」
「ううん、全然全然」
それについては、むしろこの空気で振れるだけの話題の暗記はできていなかったから助かった。
「わたしそろそろ部活行くね!じゃーね友崎!」
「あぁうん、またね」
たまちゃんは鞄を取ると手を振ってから教室を出ていく。
俺は1人残った教室で窓の外を眺める。
陸上部の方を見ると日南とみみみは互いに走り、柔軟を挟んでからフォームを確認したり、とにかく真剣なのがわかる。
サッカー部の方もちらほら休んでいる人が見える中、相原はシュート練習を続けているようだ。
近くには中村などの姿も見え、競いながら蹴っているように見える。
どこも他人と切磋琢磨して汗を流し、それを毎日続けていて……。
みんな結構『人生』ってやつを真剣に取り組んでるんだな。
***
たまちゃんが部活に向かってから教室に残された俺も、そろそろ帰ろうかと思い帰り支度を済ませて校舎を出る。
日も暮れかけており、まだ明るくはあるがあと数十分もすれば空は急に暗くなるだろう。
なんとなくグラウンドの方を見ながら校舎をでて校門に向かって歩いていると、近くまでボールを拾いに来たらしい相原に声をかけられた。
「おー友崎、さっき振り。今帰りか?なんか遅いじゃん」
「あぁ。ちょっと図書館によってて」
「へぇー、図書館?高校では使ったことはないなぁ。中学の時には暇な時に置いてあった漫画読んでたけど。キャプ翼とか」
古っ。
さすがに俺は名前しか知らないぞ。
「まぁ最近読むものがあって……」
「ふぅーん?」
「それより部活中にこんな端っこでゆっくりしてていいのか?」
なんか深く聞かれて探られるのを防ぐために思いついた話題を振る。
まぁ別に何かを隠していることがあるわけでもないが。
「大丈夫大丈夫。このあとミニゲームやって終わりだし、今は休憩タイム。抜ける時に抜いておかないとな」
教室の窓から見た時は練習に力を入れているようだったが、休む時は休んでいるようだ。
相原は抜け目ないと言うかなんというか、そういうのはうまいんだよなぁ。
「あそうだ、友崎に俺の必殺技を見せてやるよ。ちょっと中入ってそこに立てよ。あ、なになにすぐ終わる」
「必殺技?まぁいいけど……」
「あ、お前サッカーは球を蹴るだけの地味なスポーツとか思ってるな?あるんだよ、くらった側からするとぽかーんとするような漫画みたいな必殺技が!」
いや別にそんな事は思ってないけど。
まぁ必殺技なんて大層な表現をされてもたぶん、『おー』くらいにしか思わないだろうな、とは思ったけど。
そうして俺は通路からグラウンドに移り、相原が指を差した位置に立つ。
それを見て相原が説明をする。
「よし、俺がボールを持ってそっちに抜けるぞ。まぁディフェンスの気持ちになりながらただ立っていてくれ。……たぶん6割くらいは成功する」
「微妙に確率低いなおい」
「まだまだ練習中だからな」
相原は俺の左側を指差しながらそういった。
ドリブルでこっちに抜ける、って話なのかな。
相原は言い終わると、歩くよりちょっと早いくらいのスピードで俺の方へボールを転がしながら近づいてくる。
左に抜けると言いつつも、若干右寄りに向かっているが。
そして距離が5歩分くらいの位置から急加速すると俺の左側へと走り抜ける。
それと同時に、相原の足元からボールが消えたかと思ったら突然フワッとした軌道で俺の右側をボールが舞っていた。
「は、はぁ!?」
そのまま相原は俺の左側を走り抜け、ボールは意表を突くように俺の右側を通り過ぎていく。
俺は驚き、一瞬唖然としたあとに振り返ると走り抜けていった相原が回り込むような軌道でボールに追いつき拾っていた。
「おう、見たか!サッカーにも必殺技があるだろ?」
「や、ヤバっ、なに今の!すげぇ……」
ビックリしすぎてヤバいやすげぇしか言葉がでてこなかった。
ボールが消えたと思ったら俺の右側を飛んでて、それに気を取られた隙に相原は左側を通り抜けてボールを回収する。
たしかに相原が言った通り、こんなの必殺技だわ。
「ヒールリフトってのと裏街道ってのの合わせ技だな。まぁ、難易度が高い割に棒立ちか歩きからしか使えないから実用性なんて皆無だけど、滾るだろ?」
「え、実用性皆無って。じゃあ今のは試合じゃ使えないのか?」
さっき練習中と言っていたが、それじゃ練習する意味もないような。
「状況にハマれば使えるかもな。けどもっとお手軽簡単で有効的なテクニックがあるので……。そもそもさっきのボール浮かせるやつはヒールリフトっていうんだけど、ほぼ煽り技だから使うと相手がブチギレる可能性もある」
「いやだめじゃん」
相原は「こんな感じの技なー」と言いながらボールを両足で挟み、交互に足を上げたと思ったらボールは相原の背を通して高く上がっていた。
速すぎて全然見えなかった、何が起きたの……?
というか、すげぇ!とか思ったのにそれ煽り技なのかよ。
「まぁー、ただの魅せ技だわな。ほら、友崎だってアタファミで実用性は薄くてもかっこいい魅せコンとか即死コンの練習するだろ?一緒一緒。あ、てかお前も中村に魅せコン決めてたじゃねーか。あれ煽ってたよなぁ」
「え、あ。それは、せっかくだから練習にっていうか……」
というか覚えてるのかよ、そんな事。
たしかにやったわ、撃墜は簡単だからその中でも難易度が高いの選ぼうって魅せコンを決めた試合があった。
「ははは!本人は本気だったのにお前は練習台でーす、歯牙にもかけてませーん、ってなプレイしたらブチギレるに決まってんだろ」
「そ、それはもう反省したから!」
そういえば、あの時は中村よりも相原の方がキレていたような気がする。
なのに煽り技は練習するのか……。
「おいその顔。一応言っておくけどヒールリフトはれっきとした技だからな。煽りと捉える人が一定数いるだけで決まればプロの試合でも歓声が沸くくらいのトリッキーな魅せプレイだぞ」
「そ、そうなんだ」
どうやら顔に出ていたらしい。
熱弁する相原だが、その後ろの方でサッカー部が集まりだしているような。
「相原、向こう集まってないか?」
「あ、やべ本当だ。そろそろミニゲーム始まりそうだから俺戻るわ。気晴らしになったぜ、サンキューな。おぉそうだ、明日は12時。わすれんなよ〜!」
そういうと軽く手を振ってからピューっとグラウンドの方に戻っていった。
あれ?なんか似たような言葉を少し前も聞いたような……と思ったらみみみの別れ際と言い残したことがそっくりだったな。
なんつーか行動パターンっていうのかね、それがよく似ているんだよほんと。
去る相原に聞こえたのかはわからないが「おー、じゃあなー」と声をかけてから通路の方に戻り、帰宅することにした。
時間はまだあるし帰ったら明日に備えて話題の暗記とか出来ることをしておくか、などと考えながら歩き出した。