弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
かれこれ1週間が経った。
先週のうちはあまり気にしていなかったが……ここのところみみみが調子を悪そうにしている。
先週末からみみみにしては珍しく授業中の居眠りをすることは多々あった。
というか先生にはもろバレしていて注意を受けていた。
去年からを含めてもそんな姿を見たのなんて、たぶん初めてのはず。
それもたまたまその日だけというわけでもなく、今週に入ってからほぼ毎日そんな感じである。
遅くまで部活の練習をしていることとかは実際に目にしたので知っていたが、まさかここまで自分を追い込んでいるとは思わなかった。
この前から友崎があれこれ動き回っていたのは、この予兆を感じていたからだろう。
友崎はたまちゃんともいろいろ話しをしたり、部活後の時間にみみみや日南の元にいっていたことも目にはしていたし。
そんな風にここ最近のことを振り返りながら、俺は放課後の教室でだべっている。
今、中村達も同じように教室にいて今日この後どうするか話をしている。
雨によりサッカー部は部活が中止になり手持ち無沙汰になっていたのだ。
そうして適当に談笑していたところで中村達は用ができたと何処かに行ったのを見送って、俺もそろそろ帰るかと荷物をまとめてるところに友崎がやってきた。
「相原、今日は部活行かないのか?」
「あぁ雨だからな」
友崎もまだ残っていたのか、なんて思いつつも適当に返す。
「運動部の場合、雨降ると部活ってどうなるんだ?」
「部によるだろなぁ。第2体育館を使う部とかもあるだろうけど、サッカー部は今日は中止。ちなみに陸上部も雨天時は任意で解散じゃないっけ」
質問の意図を察してそう答えた。
俺は窓のほうに近づいて外を見る。
大雨と言うほどでもないが、朝から降っているのでグラウンドは水浸しだ。
窓付近にはたまちゃんもいて、同じように外を見ていた。
たまちゃんは窓際にやってきた俺と友崎を一瞥する。
「そっか、よかった」
「……よかった、のかな」
そうつぶやく友崎と、それに反応するたまちゃん。
何が言いたいかはわかる。
十中八九みみみの話だ。
みみみは周りから見てわかるレベルでオーバーワーク気味だったし、これで休めるならよかったのかもしれない。
まぁそれはさておき、俺は帰って筋トレでもするかな。
本当はフットサルみたいな室内練習も好きなんだけど、今日は第2体育館は空いていないらしいから仕方ないね。
窓の外を見ながら頭の中で自宅でできる筋トレメニューの中から何をするか考えていると、グラウンドに向かう人影が目に入った。
「ん?なんかレインコート着てグラウンドに向かうやつがいるんだが……」
「……まじか」
「あれって……」
俺の言葉で2人がグラウンドの人影に目を向ける。
あれは、みみみか?
あー、日南って線もあり得るか。
目を凝らしてみる。
どうやら……
「日南みたいだな」
「そ、うか……」
「ほんとだ……」
安堵する2人。
ただ、そこにはそれ以外の感情も見て取れた。
それはそうだろう。
たぶんみみみはもう帰っている。
ただ、もしかしたら雨の中で練習に向かう日南の姿を見たかもしれない。
別に雨の中でも練習することが偉いわけではない。
偉いわけではないが、これでは努力の差を見せつけられたようなものだ。
努力でも日南に勝てない。
そう思ってしまうだろう。
それにしても日南は1人で練習か。
みみみが努力しているのはわかっているんだから一緒にやらないかと誘うとか、そういうこと無いのかね。
……いや、違うか。
日南はみみみがとっくに疲労の限界が来ていることを把握しているからこそ、そういうことを言わなかったのかも。
声をかけたら絶対に無理をして練習をしようとする。
そういう奴だって理解しているから何も言わなかったんだろうな。
「……俺は帰るわ。部活なくなったから今日は直帰。じゃな」
2人はまだグラウンドの日南を見ていたようだが、俺はそう言って教室を後にする。
もしかしたらみみみがこないか心配で見ていたのかもしれない。
あーあ、雨だからか俺も少し気分が陰鬱だ。
さっさと帰ろ。
そんで筋トレ増やそ。
落ち込んだとき、悩んだとき、そういう時には筋トレか寝るに限る。
マッチョ社長もそう言ってた。
***
そして、翌日の金曜日。
みみみは昨日の部活はなかったおかげか、今日は授業中にダウンするようなこともなくなっていた。
なくなってはいたが、明らかに以前よりも元気がない。
たまちゃんにふざけて抱きついたり普段から仲のいいメンバーと談笑していたりなどはするが、いつもよりキレがないと言うか、ふざける回数が少ないと言うか……ともかく違和感があった。
たまちゃんや友崎まで、それに気づいているようで浮かない表情をしていた。
しかし気にしていても時間は進むもので、気付けば放課後になる。
昨日は雨だったのでグラウンドは泥だらけではあるんだが、使える場所はあそこしか無いので今日は仕方なくぬかるんだグラウンドで練習になるだろう。
さて、部室にでも行くか……と思ったところで日南から声をかけられた。
「相原、部活行く前に!この間の件は今日お願いね」
「ん?この間の件?」
はて、なんだったろう?
……と、すっとぼけようとしたらそうはさせないというような目で日南が俺を見る。
「そう、この間の件。グラウンド整備♡」
「ぐぇ、やっぱり……。つか、あの時に今日じゃなくて今度、みたいなこと言ったのって雨のタイミング見計らってな!?」
「もちろん!ほらほら、まさか約束は違えたりしないよねぇ?」
こ、コイツ……ッ!
まぁ約束は約束だから仕方ないか。
てかグラウンド整備とかレーキがけしか想定してなかったけどスポンジで水吸わせるあれやるわけ?
窓の方に行きグラウンドを眺める。
……うーん。
「めっちゃグラウンドぐちゃぐちゃなんだけどさ。まさかあのトラックの水全部吸い上げるとか言わないよな……?」
「うん、そこまでは言わないよ。明日の午前、走るのに困らないくらいまでだから」
ニッコリとステキな笑顔を浮かべながらそういう日南。
要約すると……トラック上の水をほぼ全部だろそれ!
「これ、マジなやつ?」
「大マジよ。ほら、あの時みみみもバシバシ働かせようって言ってたからね。きっとあの時みみみは、相原くんは口だけの人間じゃないって信頼してたから、私が勝負を渋ったところにフォローをいれてくれてたんだよねー?」
あ、ハイ。
みみみを人質に取られた、ズルいぞそれは。
まぁしゃーない……。
つか、たぶん借りられるなら猫の手を借りようくらいにしか思っていないんだろうな。
俺がいなくても、明日練習するために1人でやる気だろ、コイツは。
「嘘つきにはなりたくねーなー。みみみを嘘つきにもしたくはねぇなぁ……。了解、約束は守るさ。でも今日はさすがに遅くまで練習はしないんだよな?」
「あはは、ありがとう!うん、今日は比較的乾いているグラウンド裏しか使えないし、遅くまではやれないから。そっちの部活が終わったら陸上部のスペースに来てくれればいいよ。部活開始前には道具を出しておくね」
陸上部はグラウンド自体は使わないのか。
じゃあこっちが早く終わっても待つ必要はなさそうだな。
「りょーかい。部活後に行くよ。やるなら絶対サクッと終わらせてやる」
「手は抜かないでね?」
「おぉっと、それは俺に対する侮辱だぜ?」
「あはは、ごめんごめん」
冗談とわかるような明るい口調でそんな軽口を言って、俺も日南もそれぞれの部活へと向かった。
その後、程なくして部活も終わり、俺は陸上部の使用するトラックまで移動する。
ぐちゃぐちゃのグラウンドで練習したため俺は全身が既に泥だらけでもう帰りたい気分になっているが、言った事はやらねばならない。
日南とみみみが既に取り掛かっており、スポンジのようなものでグラウンドの水を吸い上げてはバケツに移している。
というか、みみみもいたのか。
「すまん遅れた、俺の分の道具はある?無い?無いなら出来ねぇなぁ残念」
「相原、おつかれ。ほら、あそこ。無かったら手ですくってもらってたかも?あってよかったね」
日南が指を差した方向に俺が使う用のバケツとどでかいスポンジ置いてあった。
「ウッス、準備アリガトウゴザイマス。ハリキッテ取り掛かりマス」
「なんでカタコト?」
……やるしかなければ、やるだけだ。
ライトニングさんもそう言ってた。
そう考えながら自分を奮い立たせる。
さっさと取り掛かろう。
地面にスポンジを敷いて水を吸い上げ、バケツに移す。
地面にスポンジを敷いて水を吸い上げ、バケツに移す。
地面にスポンジを敷いて水を吸い上げ、バケツに移す。
お、もういっぱいか、捨てに行こ。
……ヤバい。
俺、こういう地味な作業が結構好きなの思い出してきた。
意外と楽しい。
なんていうか、プチプチくんを1つずつつぶしていくような感覚。
水たまり一つ一つを潰して俺の通ったあと、グラウンドがキレイな道になっていく様に少しのやりがいが出る。
道ってのは、俺の通ったあとに出来るものだぁ!
そんな感じで俺は作業に熱中してペタペタとやっていたが、さすがに途中で気付いた。
みみみが思っていた以上に元気がない。
そういえば、さっき俺が日南に道具の場所を聞くときも無言だったな。
いつもなら向こうから声をかけてきそうなものなのに。
日南と一緒にいたからまだやる気が続いているのかと思ったが、どうやらそうでもない様子。
手はほとんど止まっている状態だ。
よく見ると日南も気にしているのかちょくちょく声をかけている。
どうしたらいいんだろ。
気付いたからには俺もなんか声をかけるべきなんだろうか。
むぅ……。
「みみみ、体調悪いのか?」
「あ、はらみー。ううん、大丈夫だよ」
いや、大丈夫って顔じゃないんだよなぁ。
まぁ本人にそう言われるとそれ以上言えんし。
「そか、まぁ、疲れてたら無理するなよ」
「…うん」
そう言って、俺は次の水たまりへと向かう。
水を吸ってはバケツに移すの繰り返し。
ふん、ふん、ふん……。
……。
「相原、ちょっといい?」
「ん?日南、どうかした?」
また作業に没頭していたところ、日南に声をかけられ立ち上がる。
結構キレイになってきたな。
「みみみは帰ったことに気付いてる?」
「え?」
改めてグラウンドを見渡す。
……いつの間に?
その様子を見てため息を吐く日南。
いやねぇ、熱中してたんだもん。
「さっき家でやらなきゃいけないことがあるって言って帰ったよ」
「マジか、みみみも声かけてくれればいいのに……」
「思った以上に熱心に取りかかっていたから声かけにくかったんじゃない?」
それは、まぁ、そうかも。
「でも相原も想像以上に頑張ってくれていたから、もう結構キレイになっているし後は私1人で大丈夫だと思うの」
そう言いながら日南は俺の顔をじっと見る。
言いたいことはわかるよね、という雰囲気だ。
……えーっと、うん。
まぁ親友は心配だろうし、親友だからいえないこともあるんだろうな。
「そか、うん。じゃあ悪いんだけど俺は先に上がらせてもらおうかな。これどこに置けばいい?」
「一緒に片付けて置くから、預かるわ」
そう言われたのでバケツとスポンジを日南に渡す。
そして校舎の時計を見る。
19時を回る前、か。
「27分。次の電車の時間はそうじゃない?」
おおう、なんでわかんだよ。
考えていることとか、次の電車の時間とかいろいろ。
けど助かった。
「サンキュー、乗り遅れないように急がなきゃな!」
そう言って俺は荷物を置いている部室に向かって走り出した。