弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
駅構内を探していたらみみみは駅ホームで改札内からそこそこ遠いところの椅子に座っていた。
距離もある為か、ここまで駅の奥だとほとんど人はいない。
「はぁ、はぁ、みみみ……見つけたぞ、と……」
「はらみー?息を切らせて、どうしたの?というかおいかけてきたの?」
「はぁはぁ……。ふぅ、よし、落ち着いた。まぁ、なんだろな。とりあえず、走って追いかけてきた、わけよ」
「……うん、何しに来たの?」
なにしにきたんだろね、俺。
ってか、若干言い方冷たくない?
ちょっと傷つくぞ。
でも聞いてきたみみみはいつものような笑顔ではあった。
途中で帰ったやつの顔じゃないけどね。
「なんか元気なさそうだったから。それに、ぶっちゃけ用事ってのは嘘だったろ?」
「あちゃー、バレちゃってたか。でも、元気はあるよ!みての通り!」
「お、おう。そっか」
そんな虚勢のようなことを『言って私は元気です』みたいに振る舞うみみみ。
どう切り込んだらいいのか浮かばない俺は、曖昧な相槌だけうつ。
「まぁ元気ならよかった、か。てか今は髪の毛を解いてるんだな。なんか新鮮な感じ」
何か会話の切り口をとおもった結果、普段はポニーテールにしている髪を下ろしていることに気付いてその話を振る。
「おお、気づいた!?似合ってる?」
「そりゃ気付くわ。髪を下ろしてるのも、なんだ。に、似合ってると思うぞ」
「あっはは!褒めるのが慣れてないのがバレバレ!顔赤くなってるよ、はらみー!」
う、うるせぇな!
そういう事は分かっててもつつくなよ!
「く、くぅ、言わなきゃよかった。恥ずかしい……」
「あはは!でもありがと、それは素直にうれしいかも」
「ああそうかい!」
アアソウカイ。おっと、今のは植物の名前だぜ。
じゃなくて……。
いい感じに空気が和らいだし、切り出してみるか。
「なぁ、みみみが最近頑張ってるっぽいのは見てれば分かるんだけどさ。どうしてそんなに、なんだ……。日南に勝ちたがるんだ?どう見たってさ、最近は無理をしてるだろ?」
「どうして、かぁ。というか、それってはらみーが聞いちゃう?」
「え?どういうこと?」
おれが聞いちゃいけないことだったの?
いまいち言葉の意味がわからない。
「まぁいいか。う〜ん、選挙活動してた時の帰りに私が学力テストでもスポーツテストでも2位だっていう話したよね」
「あぁ、聞いたな」
2位は覚えられない、って話だったっけ?
といってもたまとか日南とかだって、きっと見ているやつは見ているはずだろ。
でも、そういうことではなかったらしい。
「それでね、なんていうか結局わたしってキラキラしてないからさ」
「キラキラ?」
「うん。あ、そういえば由美ちゃんからいろいろ話を聞いたんだって!?」
由美ちゃんというと、この前友崎と聞きに行った時のことか。
……本人から伝わっちゃったのかな。
余計なこと言ってなきゃいいけど。
「あぁまぁうん。中学の時に日南とバスケの試合で対決して負けたんだっけ。それもお互いがワンマンチームみたいでエース対決の末に」
「あ、やっぱりその話ししてたんだ!何の話をしたのかまでは教えてくれなくて」
おい、誘導尋問かよ!
まぁ別に隠してたわけでもないからいいけど。
「そのときのはなしね。試合に負けた時にさ、チームメイト達が、私たちも頑張った、負けたけど仕方ない、ってそんな風に言ってて。その言葉に私は反発しちゃったんだけど、最後に私も『そうだよね、私たち頑張ったよね』みたいなこと言って。悔しいのは自分だけなんだなって思って周りに合わせちゃったの」
「……おう」
この話は由美ちゃんからも聞いたな。
「その後、試合が気になって一人で全国大会も見に行ったんだよね。せめて、私に勝ったあの子に優勝してもらいたいとか思いながら。まぁ、結果は2位だったんだけどね」
「日南のワンマンチームだったんだろ?それでも十分すごいと思うけど」
俺だってサッカーの試合の時とか1人で出来ることの限界を感じることはある。
11対11、その中に1人すごいやつがいてもそれだけで勝てるものじゃない。
そもそもパス回しも3人でトライアングル作るのが基本だしな。
11人の中に200%の能力を持っている人間が1人いたとしても、他が90%の能力の10人だったらトントンなわけで。
ワンマンチームだったら立ちいかない事は多いはずだ。
「そだね。でも、葵たちがその大会で準優勝として表彰された時に他のメンバーは喜んでいたのに葵だけは悔しそうにして司会の人を睨んでいてさ」
「負けず嫌いここに極まりだな。そこまで行くと純粋にすごいよ」
「うん、でももっとすごいのはその後だったよ」
「え、そのあと?」
さらに続きがあるのかよ。
みみみは俺の反応を見てから話を続ける。
「その後に優勝の表彰がされたんだけど、その時に葵がポロポロと泣き出したんだ」
「は?なんで?」
「準優勝で呼ばれた時は悔しそうな顔して、他の学校が優勝って言われたら泣き出して、どれだけ優勝しか見てないのって、それがすご過ぎて……」
「マジか」
俺は試合に負けてもそこまで悔しがることはできるだろうか?
たぶん無理だろうな。
「それをみて、負けた時悔しがってもいいんだ、私は間違ってなかった、って思えて」
「あぁ」
「けど、それと同時にあの時に自分を貫けなかった私は、きっと特別にはなれないんだろうなって思えたの。だからこそ、かなぁ。葵みたいになりたくて。私にとって葵は、1番感謝してて1番憧れてて、だから1番負けたくない存在。それでね、わたしがキラキラする為には1番になるしかないんだって」
そうか……。
何を言うのが正解だろうか。
いや、出たとこ勝負しか俺にはないな。
思ったことを言うだけだ。
「それ、どうしても1番じゃなきゃだめなのか?」
「え?」
「1位を目指して努力するのってスゲー大事だと思うけどさ、体壊すくらいの無茶をする必要は違うんじゃないかって。それに俺からしたらみみみだって十分、なんだ……戦って、チャレンジしててさ。俺って勝つだけの人間よりも、そうやってチャレンジしていく人に憧れてるんだよ。頑張った結果自体は自分の記録が伸びることで見えたりはするだろ?1位じゃなくても、そういうのじゃだめなのか?」
100メートルが速くなったとか、高跳びの数値が伸びたとか、日頃から努力の結果はいろいろ出ているはずだ。
数値で見える成長ってやつも、嬉しいし直接モチベーションの継続につながるものだと俺は思っている。
しかし、みみみは少しムッとした顔をして口を開く。
「やっぱり、それをはらみーが言うのおかしくない?」
「え?なんで?」
思ったことを言ったものの、みみみは俺の言葉に不服そうな顔をしてそう答える。
さっきも似たようなこと言われたが、正直言いたいことがいまいちわからない。
みみみは俺のその心底わからないという回答に、さらに機嫌が悪くなったようだ。
「口ではそう言ってるけど、結局ははらみーだって1位にこだわってるでしょ。この前だって、葵に勝負を挑んでたじゃん。普段だったらそんなことしないよね。選挙では2位だったから代わりの何かで1位になりたかった。でしょ?」
「それは……」
俺の中でようやく話が少し繋がった。
たしかに俺はこの前、日南に100mで勝負をした。
でもそれはただ負けてむしゃくしゃしていたところに、たまたま挑んで勝ちの目が少しありそうなものを見つけたから勝負をふっかけただけだ。
その偶然がなければ、時間とともに気持ちも落ち着かせていただろう。
「ほら。はらみーだってやっぱり1位にこだわってるよ。そのうえで、あの葵にも勝っちゃってさ。その時にまた思ったの。はらみーもたった1年でなんでもこなして、サッカー部でも今では頭角を現してメンバーの中心でしょ。私なんかとは違ってもっとずっとキラキラできる人間だったんだって!」
「いやまてよ!日南に勝ったといっても日南は練習終わりだからベストコンディションじゃなかったわけだし、そもそも男の方が筋肉量が多いわけで。それにたった1回のことだろ。もう1回やったら日南が……「それはさ!」」
「それは、全部!勝った人の言葉だよ!」
みみみが俺の言葉を遮る。
その勢いに俺の言葉は止まってしまう。
「私さ。陸上やってるのって入学式のあとに葵に誘われたからなんだよね。はらみーと違って同じスポーツ一筋だったり、本当にやりたいことがあるわけじゃないの。陸上部には葵にさそわれたから入っただけ」
トーンを落としてみみみは話を続ける。
みみみのバスケから陸上への変更にはそんな経緯があった、らしい。
「葵とは入学式が初対面ではあったけど、バスケで試合をしたことをお互い覚えてて。入学式の後に葵に言われたの。『試合して分かったけどめちゃくちゃ練習してたでしょ。私、七海さんと同じチームでやりたかったな』って。それですごい救われた気がして」
「あ、あぁ」
みみみの真剣な声に、俺は相槌だけを返すのでいっぱいいっぱいだった。
「それから葵とは仲良くなって、私も元々運動できる方だし一緒に、まぁ結構頑張ってたんだよ?けど去年の二学期くらいから、葵は短距離専門なのに私のやってる高跳びでも部内1位になって」
専門部門でもない他人に負ける、か。
それはたしかにクルものがありそうだ。
「薄々そうなる予感はしてたけど、私だって人よりは運動できるし頑張ってるつもり、ううん。つもりなんかじゃなく頑張っていたから、ショックだったんだよ。私はやっぱりキラキラなんてできないんだって。だから1位になることでしかキラキラすることはできないんだって思って、そしてやっぱり駄目だった」
「……そっか」
俺はそう一言返すのがやっとだった。
ただ、何か言えることはあるはずだと脳を動かそうとして、俺は俺の考えを口にする。
「でも、俺からしたらやっぱりみみみもキラキラしていると思うよ。結果とか記録とかは細かいことはわからないけどさ、俺はみみみが頑張ってて、楽しそうに走ってるのを見て正直憧れというか、尊敬してたんだよ」
だから俺だってそれを見て頑張ることができたんだから。
しかしみみみの表情から俺の言葉はなにも響いていないことだけはわかった。
「はらみーは追い抜かれていく人の気持ちはわかる?」
俺の言葉への回答とは違う言葉がみみみから発せられる。
追い抜かれる気持ち、か。
「わかるつもりだ。俺も「嘘だよ!」」
答えようとして、再度みみみに俺の声がかき消される。
「もちろん、相原が努力してることは知ってるよ。それでも!相原は努力した分だけ前に進んで、いつの間にかサッカー部の中心にいて……追い抜いていく側の人間じゃん!相原は努力しても努力しても結果を残せず、追い抜かれていく人の気持ちが、本当にわかるの!?」
「……ッ!」
相原、ね。
はらみー、じゃなくて、相原。
そう呼ばれるのっていつ振りだろ。
追い抜かれていく人の気持ち、か?
んなもん中学の時に嫌というほど味わっている。
最高学年なのにベンチに座っている事しかできない時を、俺は知っている。
俺の努力を知っている?
俺だって何度も失敗して、それを直す努力して……そうやって1つずつを積み重ねてやってきたつもりだ。
むしろ、みみみは俺のその積み重ねを見てくれていたんだと思っていたのに。
俺のこの感情は、怒り?
いやどちらかと言うと、悲しいんだろう、か。
「それなのに私がキラキラしているとか、思ってもいないこと言わないでよ!わたしの気持ちも、努力しても報われないわたしの気持ちもわからない癖に!」
「俺は……っ!?」
何か言い返そうと思ったが、みみみの目から一滴の雫が流れたのを見て俺は声が出せなかった。
そしてタイミングがいいのか悪いのか、みみみが待っていた電車がやってくる。
その電車のブレーキ音をききながら、俺とみみみはお互いに視線を少し逸らし電車が止まるまで言葉を発さなかった。
電車はホームに止まり、やがてプシューという音とともに扉を開く。
「はらみー、怒鳴ってごめん。それと、今日は一人で帰るね」
「……ああ。また来週な」
俺は何とかそう声をひねり出し、電車がもう一度プシューと音を立ててドアが閉まるのを見てから走っていくのを見送った。
正直俺だって泣きたいよ。
まぁでも、な。
そして、駅奥のベンチから立ちあがり、今座っていたベンチの後ろ側を確認に行く。
広告で仕切られた後ろのベンチを見ると、やっぱりいた。
「よぉ友崎。どっから話し聞いてた?」
「ご、ごめん!盗み聞きするつもりでは、いや。えっと、みみみが日南の中学と試合した話をしてたらへんから……」
「ほとんど最初からじゃねーか!」
俺とみみみの会話途中に視界の脇でいることを確認していた友崎へと話しかけた。
それにしても、はぁ。
来週からどうしようかなぁ。
みみみを、というか女の子泣かせちまったよ。
てかたまちゃんや日南に合わせる顔が。
「あーあ。なぁ友崎。見てたんだよな?どうすれば仲直りできるかな?土下座とかすればいい?」
「さぁ……。ごめん、俺じゃ答えは出せないと思う。土下座は違うと思うけど」
そりゃ残念だ、はぁ……どうすればいいのか。
なんとなく腕の時計を見る。
さっきの電車が27分発で、次の電車は何分後だろ。
まぁ10分以上はあるよな。
はぁ……。