弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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はじめてみた時は、なんだろう……。

普通の人、だと思った。

ううん、ちょっと違うかも。

どちらかと言うと何も思わなかった、が正しいのかも?

 

それでも強いてあげるなら「私とちょっと名前が似てるかなぁ」とかそれくらいの印象だったと思う。

特徴という特徴は特になく、悪く言うとぱっとしない人、という認識だった。

 

1年生のはじめの授業でクラス全員が自己紹介をしたときも、「あ」からはじまる苗字により誰よりも早く挨拶をして、その後の人達の自己紹介に埋もれて影を潜めていった。

 

その時を振り返れば『相原 みなと』という人間はそんな感じの印象だったと思う。

 

そしてクラスは同じだったものの、あちらは物静かだったり性別の違いによるコミュニティの違いだったり、そういういろんな物の関係で特に話すこともなく数カ月が経つ事になる。

 

 

その数ヶ月が経った頃、ちょうど私には1つ悩んでいることがあった。

それは自分自身のこととかではなく、私の周りのこと。

近くの席の子がクラスに馴染めていないことがずっと気になっていたのだ。

 

相手の名前は『夏林 花火』。

今では『たま』と親しみを込めてあだ名で呼んでいる私の親友。

当時はクラスの席があいうえお順だったため、私こと『七海みなみ』の前の席に座っていた女の子。

 

そんなたまは、この頃は歯に衣着せぬ言い方と主張を曲げない強さが″空気を読めない人間″という認識を周りに与えてしまっていた。

そうして次第にできていったクラスメイトとの溝が数ヶ月でどんどんと広がっていき、気が付けばたまはクラスで浮く存在になってしまっていた。

 

そのことを葵に相談したらはじめは「輪に入りたくないだけかもしれないよ?」と言われた。

でも近くでたまを見ていた私は、違うという直感があった。

あの子はただ純粋でまっすぐで、不器用なだけなんだって。

 

そしてたまのそんなところが、いつも周りに合わせては反れて曲がって、すぐに折れてしまう私とは違って眩しく輝いて見えて、守りたくなったんだと思う。

 

そんなことを言った私に、葵は「だったら、毎日少しでも話しかけてみたら?」と別のアドバイスをくれた。

 

 

でも、私はそのアドバイスを実践するのにためらう気持ちもあった。

それは葵の提案に不満があったとかそういうわけではなくて、ただ単純に失敗をしたらどうしようとか、逆に困らせてしまったりしないかとか、そういう不安が拭いきれなかったから……。

 

私のことはみんながよく「何も考えてない」とか「向こう見ずだ」とかそういう風に言うし、私自身もそのことは割と正しいと思うことはあるけど、それでもやっぱりためらうこともあるんだよね。

 

私だってみんなとおんなじ人間だし、人並みかそれ以上に悩むことだってあるのです。

普段は見せない努力をしているだけで、ね。

 

それに結局そういう振る舞いをしているのは、そっちのほうが周りの空気を壊さないしうまくやれるからとか、そんな経験則から得た少し狡賢い計算があったりとかもしているのです。

 

だから、こうやって新しいことを試すときには私だって失敗したらどうしよう、とか、うまくいくかな?とか不安を持ってしまうわけで。

もしも嫌われたり拒否されたら?なんて、そういう想像が頭から消えなくて、実践することができていなかった。

 

……今振り返ればそれは大したことがない悩みだったとは思うけど、とにかくその時の私にとっては大きな問題だった。

やっぱり、なにか一歩踏み出すことっていうのはそれくらい難しいことなんだろうなぁって思う。

 

 

そして、その一歩を踏み出せずにもやもやとしていたときのこと。

私はそんな悩みを持ちつつも部活へと向かう途中、まるで負の感情が目に見えそうなくらいに暗い顔をして歩くはらみーを目にした。

 

私は当時のはらみーには『同じクラスメイト』以上の興味を持っていなくて、話したこともほとんどなかった。

クラスにいてもいなくてもわからないくらいには影が薄く、今思えば日に日にそのわずかな存在感もどんどん薄れていっていたように思う。

 

それに、放課後の部活前だというのにあの負のオーラみたいなもの、たぶん部活内でもあんまりいい人間関係が築けてはいなかったのだと思う。

 

そんなはらみーを見た時に、私は思ったのだ。

『あぁ、失敗するのが怖いなら、失敗してもいい人物で試せばいいんだ』と。

たまに話しかけて失敗するのは嫌だから、その前に練習する人物がいればいいな、とかそんな感じで。

 

その考えは、今考えれば人をサンドバッグか何かくらいにしか考えていないような最低な思考をしていたと思う。

 

……ううん、本当は思い付いたその時から最低なことだって思っていた。

そして、そう思いながらも実践をした。

 

「お、はらみーもこれから部活?私もこれから陸上部に向かうよ、じゃ、頑張るんだぞぉ〜」

「え、あ、うん……。というか、はらみ?」

 

暗い顔をしてはいても、声をかけられたのに気づいてコチラに反応したはらみー。

返答がなければ逃げるように去ろうとも考えていたがそれも杞憂だった。

思えば、『はらみー』と呼んだのはこの時が初めてだったかも。

 

「そう、私はみなみ!そして君はみなと!名前が似てると呼ぶ時にちょっと違和感とかない?というか、私ある!だから君は今日からはらみーだ!うんうん、我ながらいいセンスだね」

「は、は……あだ名を付けられたのは初めてかも。俺も……そう、これから部活。うん、頑張るよ、ありがと。じゃ、えっと七海さんも頑張って」

 

……。

私の名前、ちゃんと覚えていたんだ。

名乗ったみなみ、ではなく七海さんと苗字で読んだことに少し驚いた。

 

「あはは、みみみでいいよ、みんなそう呼ぶ!」

「え、そっか。うん、みみみ、さん?」

「そうそう、おっけー!じゃ、またねー」

 

そう言って私は陸上部の部室へと向かった。

ちらっとだけ振り返った時、はらみーは気持ちさっきよりも軽くなった足取りで歩いていった様に思う。

 

正直なところ、私は結構やけっぱち気味で明るく振る舞って話しかけたと思う。

失敗をしてもいいやと考えていたので、無視されるような覚悟もしていたし。

内心では『別にどうでもいい人物だし……』と自分に言い聞かせて。

 

でも返ってきたのは、暗い雰囲気を少し和らげた上に思った以上にまともな返答で、軽くだけど笑みをもって返してきて。

ちょっとだけ、心にチクッと刺すような罪悪感を抱いた。

 

それからは、たびたびはらみーの様子が気になってこっそりと注目することが増えていった気がする。

 

男子三日会わざれば刮目して見よ、とは言うけど、はらみーはたったあれだけのことがきっかけ……なのかまではわからないけど、たった数日のうちにどんどんと雰囲気が変わっていった。

 

それでも急にすべてうまくこなせるようになった、とかではなく、なんというんだろう?

一言で言うと、泥臭い、かなぁ?

あ、これはすごくいい意味で!

 

部活で陸上部とサッカー部の使うグラウンドは同じだからちょっと遠目にだけど目に見える位置にいるわけで、たまに見てみると周りとしゃべろうとする姿を目にするようになったし、練習中の声が聞こえてくることが増えた気がする。

『ヘイッ!』とか、『こっちこっち!』とか、ただの掛け声のようなものだけど、それでも周りからの注目が行くようになったと思う。

少なくても、同じグラウンドにいる私たちにまで声が聞こえてくるようにはなった。

 

さらに、そこから数日の間にサッカー部でできた仲間からの伝染なのか、クラスの中でもすぐに浸透していって、でもその時のはらみーはそういう場の空気には慣れていないのかよくわからないことを言ってはちょくちょく滑っていて……それでも失敗を恐れない、失敗したらその分取り返せばいいという気概が観察していた私には見て取れた。

 

気がつけば1年生の1学期が終わる頃には、『最近気づいたけど、アイツって結構面白いやつだよな』という認識が広がっていった。

つまりのところみんなに頑張ってることは伝わるもので、頑張っている人間は応援したくなるものなのだ。

少なくても私はそうだから。

 

 

そんなはらみーをみて、何かを変えるのは簡単なことだったんだと、失敗を恐れる必要はないんだと理解して、私も二学期に入ってからは葵のアドバイス通りにたまに毎日話しかけた。

なんなら、ほっぺたをツンツンして反応を楽しむくらいにはアプローチをかけた。

 

最初の方はたまから露骨に嫌がられて怒られたり無視されたりということもあったけど、私はそんな時にはクラスで盛大に空気を凍らせたりしていたはらみーを思い出し、『これくらいは失敗のうちには入らないな!』なんてポジティブな思考を保つことができた。

 

そうして、いつの間にかたまとは親友とも呼べるくらいに仲良くなっていった。

そんな事もあって私はアドバイスをくれた葵、それにその身で直向きにチャレンジする事を教えてくれたはらみーに感謝をしていた。

 

……でも、はらみーのことをどうでもいい人物として利用しようとしたことの罪悪感だけは、心の何処かに残り続けて消えることはなかった。

それは二年生でも同じクラスとなり、話す機会が増えた今となってもずっと私の胸の中に抱え続けている。

 

 

 

……そして。

 

「それは、全部!勝った人の言葉だよ!」

 

喧嘩をしてしまった。

 

「もちろん、相原が努力してることは知ってるよ。それでも!相原は努力した分だけ前に進んで、いつの間にかサッカー部の中心にいて……追い抜いていく側の人間じゃん!相原は努力しても努力しても結果を残せず、追い抜かれていく人の気持ちが、本当にわかるの!?」

 

ううん、喧嘩じゃない。

あれは、ただの私の嫉妬だったと思う。

はらみーはなにも悪くなくて、私が八つ当たりをしただけ。

だから喧嘩ですらない。

 

あの時に声をかけてからほぼ1年。

はらみーはどんどんと前に進んでいって、今もまだまだ躍進中。

そしてこの間はサッカー部なのに陸上の短距離を専門にやっている葵に100m走で勝って見せた。

……私は、勉強でも部活でも私なりの努力をしているのにどちらでも葵には勝てないままなのに。

 

正直言うと、私が葵に勝てないのはしょうが無い、というわけではないが、勝てないことに納得ができるというか、少なくても理由は理解できていた。

だって、葵は単純に私以上に努力をしているんだから。

私は限界を迎えて雨を理由に休んだ日ですら、葵は一人グラウンドに向かって練習をしていたくらいだ。

 

もしも私が努力の量で勝ったうえで負けていたのなら「理不尽だ!」なんて弱音を吐くことはできたのかもしれない。

でも、私がフラフラになるくらいまで努力しても、葵はそんな私よりももっとずっと努力をしていて。

それで私は弱音を吐くことすらできなかった。

 

だからこそ、なんだろうね。

はらみーが葵に勝てたことが羨ましくて、ズルいと思って、私が努力しても勝つビジョンすら掴めなかったのに私が足掻いている横を一足飛びに越えていくのが悔しくて、更には悔しいと思う自分が惨めで、情けなくて。

……だからこそ、はらみーに私が心に閉まっていた闇をぶつけてしまった。

 

そして、言ったあとに後悔をした。

はらみーは私の言葉を聞いて怒ると思った。

だって私のはただの八つ当たりで、いつも努力をしているはらみーは間違いなく言い返す権利があって。

 

私はかれこれはらみーが本気で怒ったことをみたことはなかったけど、それを今日初めて拝むんじゃないかって。

 

でも思っていた反応とは違って、はらみーはすごく悲しそうな顔をしていた。

……そして、そんなはらみーの顔を見て私は涙を流して泣いてしまった。

 

もしも想像のとおりにはらみーが怒って、怒鳴り返されたりすれば、私はたぶんその反応に内心で悪態をつき怒鳴ったのは自分だけではない、みたいな気持ちで自分を正当化して落ち着いたかもしれない。

 

でも、私はただはらみーを傷つけただけで、はらみーは私なんかと違ってずっと強い人間で、それが私の弱さを一層際立てて見えて。

 

いくら努力をしても葵に勝てない悔しさ、もともと持っていたはらみーを利用したことへの罪悪感、そして今のはらみーの悲しそうな表情と、そこに反射される自分の弱さ。

それらすべてが私の胸の中で混ざり合ってはぶつかって、耐えられなくなったように涙が零れ落ちた。

 

私は逃げるようにタイミング良くやってきた電車にのり、はらみーにはついてくるな、という念押しまでして一人で帰った。

 

 

翌日、私はそのことで後悔に悶々としながら家で過ごしていた。

時間は11時前。

今この時間も葵は自主練をしているんだろうな、なんてことを思いながら。

 

そんな後ろめたさなどを感じながらも過ごしていた時に、不意にスマホが鳴って体がビクッと跳ねる。

通話だ。

かけてきたのは、はらみー。

 

出るべきか悩んでスマホの画面を凝視する。

スマホの着信音を聞きながら、出るべきか悩む。

数秒の後、私は意を決して応答ボタンを押した。

 

電話に出てみたら、はらみーは昨日のことを謝りたいって。

間違いなく私が悪いはずなのに、私の気に障ることを言ったはずだからごめん、って。

本来謝るべきは私なのに。

 

改めて思う。

はらみーは、いい奴だ。

それにいつも真っ直ぐで、こうやって何かあってもすぐに改善に向けて行動を開始する。

 

でも、だからこそ、そんなはらみーに嫉妬する自分がみっともなくて苦しくなった。

 

……うん。

そうだよね、いつも反れては折れるのは私だ。

今回も今までどおりの私で行こう。

 

はらみーに、それに葵だって、いい人だから。

そんないい人たちにもう嫉妬とかしたくないから。

 

こんな気持ちを持ち続けるくらいなら。

もう、部活はやめよう。




あと数話、毎日投稿しようと思います。
明るいふいんき(←なぜか変換できる)になるまで……
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