弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
問題が解決したと思っていた俺は、月曜日はいつもより若干清々しい気分で登校をしていたと思う。
しかし、その日の昼休みに問題が何も解決していない事に気付くことになる。
「みんみ、本当に部活辞めちゃうの?」
たまの言葉が教室に響く。
さっきまでもっと騒がしかったはずだが、みみみの発言とそれを受けた俺とたまの空気を感じ取って、周囲は静まっていた。
「土日で色々と考えたんだけどね。これしかないかなって思って」
みみみが、陸上部をやめる……?
少なくても俺が土曜に電話をして話したときにはそんなこと一言も言っていなかったはずだ。
でも、これはつまり俺があの時何か部活を辞めるような事を言ったってことだろうか。
何が仲直りできた、だ。
何も解決なんてできてないじゃないか!
いや、それどころかもっとみみみを追い込んで……。
「なぁ、もしかして俺のせいで……」
「ううん、違うよ!はらみーは関係ない!関係なく、私が決めたことだから」
俺は関係ない?
じゃあどういうことなんだよ!
思い当たる節なんて金曜日か土曜日に話したこと意外思いつかない。
俺はパニックになっている頭を落ち着かせて話を聞こうとしたところで日南がやってきたため口を閉じる。
当然俺なんかよりも一緒に部活をしている日南のほうが関わり深いのだ。
日南からなぜ辞めるのかを聞かれたみみみの回答は、体力の限界だからとのこと。
だけど、俺はみみみとは既に1年も同じクラスで、正直なところ頻繁に目で追っていたのでわかる。
本当はそれだけではなくて、何かしらの原因があるだろうことが。
だってそうじゃなきゃ、そんな切なさを隠しきれてない顔で言うわけないんだから。
「なぁみみみ。それが最善ってこと、なんだよな?」
「はらみーまで。うん、私はこうするしかないって思ったの」
「そっか。じゃあ、まぁ、うん。時間たくさんできたな」
「そうだね、やりたいことはいっぱいあるから、何からやっていくか考えなきゃ!」
わざと明るい声を出すようにそういったみみみ。
結局俺は部外者だからこれ以上何か言うのも憚られ、席を立って教室をあとにした。
***
そして放課後。
友崎のアシストもあり俺とたまと友崎とみみみ、この4人で帰ることになった。
俺は中村にサボることの言付けを頼んだ結果ラーメンを奢れと言われたが……。
「それで浜ちゃんがさぁー!」
こうして4人で帰っている途中。
校門を出てからみみみは色んな話題を出す。
最近のテレビ番組の流行りとか、ドラマのこととか、お笑いビデオの話とか。
一緒に帰るといった時に腹を決めたのかと思ったが、そういうわけでもなかったらしい。
あれこれと話題が流れるところで切り込む隙がなかなかない、が。
さすがに、せっかく友崎が作ったこの時間を無駄にするわけにもいかない。
「なぁみみみ。お笑いの話は置いておいてさ」
「あれ、はらみーはもしかしてお笑いそんなに好きじゃない?そんなんじゃ面白い男にはなれないぞー?」
「それより。みみみの話を聞かせてくれよ」
俺は声を低くしつつもいつもより通るように大きめの声でみみみに告げた。
「……うん」
さすがにみみみも話を無かったことにはできなかったようで、気まずそうな顔で頷いた。
そして、俺はたまと顔を見合わせる。
何か聞くなら、順番は俺よりみみみの親友のたまが先になるべきだろう。
「なにか言いたそうだし、たまちゃんお先にどうぞ」
「うん、ありがと。……みんみはさ、葵のこと嫌いになったの?」
俺に促されたままにみみみに質問を投げかけるたま。
「そんなわけない!」
「ほんと?」
ズバッと切り込む一言。
みみみは反論しているが、反応を見るにその言葉は当たらずとも遠からずのものだったんだろうな。
「だって、葵は何でもできちゃうし!すごいいい子だし!尊敬できるし、頼りになるし、私の事もすごいわかってくれるし……」
笑顔を貼り付けたようなみみみの顔がはがれ落ちていく。
そして、声もだんだんと弱くなる。
「キラキラしてるし……特別、だし」
「それじゃあ、なんで陸上やめるの?」
「それは私が……」
「みんみが?」
そこまで言ってみみみの言葉が止まってしまう。
たまちゃんが相槌をうってから数秒後に顔を伏せたみみみがつぶやく。
「私って、性格悪いのかな?」
「え?」
「なんていうかさ、葵のこと嫌いになれるわけないじゃん。なれるわけないのに、私……」
「……うん」
みみみの言葉は続く。
「同じ学校になってから一緒に陸上はじめて、でもどうやっても勝てなくて……大好きなはずなのにさぁッ!いつの間にか葵のことを妬んじゃってて!なんかやだとか、ちょっと邪魔とか、そんな風に思っちゃう自分がいて!」
地面に一滴の雫が落ちる。
「一緒に練習してる時もなんでこの子やめないの?とか、私の事思うならさっさとやめてくれればいいのにとか……」
溢れる涙は一滴では済まなくなり、どんどんと地面へと落ちる。
「空気、……空気読めとか思っちゃったの!私は!」
「そっか」
みみみはついに手で目を覆い顔を隠す。
そんなみみみにたまちゃんは優しく相槌を打つ。
「それだけじゃないの。他にもさ、はらみーにも同じように嫉妬して……」
え、俺……?
「私は自分なりに努力をしていたつもりなのに全然葵にも勝てなくて……。それなのにはらみーは葵にも勝って。それを、ズルいとか感じちゃって、その事がきっかけで心配してくれてたはらみーを怒鳴って、酷いことを言った!」
……。
「しかもさ、それも全部、本当は私よりも葵やはらみーが頑張っているだけで……。私のほうが努力をしているとかなら嫉妬してもいいのかもしれないけど、結局嫉妬する権利すらないっていうか。こんな気持ちになるならもう部活を辞めるしか……ひゃあっ!」
最後まで言い切る前にたまちゃんはみみみに抱きついた。
「た、たま!そこは!」
「このまえの、指先の魔法の仕返し」
困惑する俺と友崎。
……俺はこれを見ててもいいの?
「みんみは、どうしても一番になりたいの?」
「だって私、葵みたいにキラキラしてなくて……。はらみーみたいに失敗しても挫けないで進んでいく強いメンタルなんてないし、友崎みたいに誰にも負けない特技もないし、たまみたいに自分も持ってなくて……。私には何もなくて、空っぽで……」
「みんみはね!」
弱音を吐き続けるみみみの言葉をたまちゃんが遮り、優しく抱きしめる。
「みんみは私のヒーローなんだよ?」
「え?」
「いつも無理して、笑って、がんばって、でもつらいことは隠して。いつも私を助けてくれる。……私は葵のことも、みんなのことも好きだよ。でも、ヒーローなのはみんみだけなんだよ」
「でも……」
「もしそれでも一番になりたいっていうんだったら!」
抱きついていたのも離れて、たまちゃんは何時ものようにビシッとみみみの方を指さしていった。
「みんみ私にとって世界で一番のバカ!それで我慢する!」
「たま……えいっ!」
そして、みみみは涙目のままたまに抱きつき、耳にしゃぶりついた。
「ちょっと!なにするの!」
「……えへへ、だってさぁー」
「バカ、重い!さっさと離す!」
「バカってこういうことでしょ?」
「……みんみ」
「たーま!」
たまから世界一のバカ判定をもらってから、いつものように……。
いや、いつも以上に濃密なスキンシップが眼前で繰り広げられる。
たまの中での1番、というのがそれだけみみみにとっての特別になったようだ。
……あー、これさ。
俺いらなかったじゃんね。
「そういえば、相原もみんみに聞きたいことあったんだっけ?」
「いやもう解決したじゃん。俺いらないじゃん」
「えー!気になる!一体なんて言って私を慰めてくれるつもりだったのー?はらみーって私のこと大好きだもんね!ほらほらー、はーやーくー?」
もはや開き直りの上にテンションは最高潮らしい。
さっきまで泣いていたとは思えない。
「みみみって、けっこう面倒くさいやつだったんだな……」
「あはは!しらなかったの、はらみー!わたしは面倒くさいやつなんだよ!」
開き直りすぎだろ。
まぁいいや。
つかもうどうでもいいや。
俺も開き直ることにしよう。
思ったことは口にしないとダメなんだ、ここ1,2ヶ月でそういう事も学んだ。
「……じゃあ真面目な話するぞ。金曜日、俺とみみみで喧嘩みたいになっただろ?」
「あ、うん。そうだね。たまと友崎は知らないかもだけど」
ちょっとだけ真面目な口調で言うと、みみみもテンションがバカ高いながらも真面目に聞いてくれるようだった。
ちなみに、2人も知ってるんだよなぁ、これが。
まぁそこはいい。
「それで土曜日に電話をしたけどさ。それも含めて土日にいろいろ考えて、やっぱりみみみとはもっと仲良くしていきたいって思った」
「あはは、さすがにちょっと照れるかも……」
何を今更。
「でもさ、今日部活やめるって聞いて。その時に俺はみみみにはみみみらしくなくなって欲しくないとも思った」
「あはは、みみみらしくってなに?」
さぁ、なんだろね。
「……とにかく俺はみみみにはいつも通りにいてほしいって思ったの。他人と比較してウジウジしてたりなんて、俺の中の『みみみ』らしくないんだよ。それどころかこれからの放課後のグラウンドにみみみがいないなんて、俺は嫌だぞ!」
「はらみーもさぁ」
俺の話を真面目な顔で聞いていたみみみが口を開き、一拍置く。
……なんだよ。
「はらみーも実は結構面倒くさいやつ?」
「はは……。知らなかったのか、みみみ。俺って結構面倒くさいやつなんだぞ」
「あはは!じゃあ一緒だね!」
あぁ、俺等は面倒くさい奴らだわな。
そしてだいたいたまちゃんが被害を被っている。
かわいそうに。
みみみのテンションに当てられてか、俺もなんかもう勢いで色々言っちゃえという気分になってきた。
「あぁ、俺は面倒くさいやつだからな。もう言いたいこと全部言うぞ!」
そう言って、俺も一泊置き息を吸い込む。
多分、もう止まらん。知らん。
「俺に嫉妬する自分がいやだって?そんなもん気にすんな。金曜日の件は俺が悪かったんだ。みみみを心配してるみたいな態度しつつ半端に遠慮しちゃってさ。せっかくみみみは思いの丈をそのまま俺に伝えてくれたのに、俺はそれから逃げたんだ。文句があってそれを俺にぶちまけてくれたのに、俺は心にもないそれっぽい言葉を並べるだけでちゃんと答えなかった!1位を目指す奴と諦める奴、そんなん1位を目指すやつのほうがカッコよくて輝いてるに決まってるじゃん!その中で勝てない相手を憎む自分の性格が悪い?普通だよ!それは真剣だから、本気だから悔しいんだろ?俺なんて負けた時にその場で悪ぶれもなく口にまで出すぞ。『次はぶっ潰してやる、覚えてろ』ってな」
「は、はらみー!?」
ヒートアップしすぎている俺。
そうだ、思えば俺は今まで遠慮しすぎていた。
少なくても今日この時くらい、何も遠慮せず口に出してもいいはずだ。
「ちょっとくらい憎んでもいいんだよ!ライバルっていうのはそういうものだろ?日南にも思いの丈ぶつけてみろよ。アイツならその程度正面から受け止めて、不思議と嫌味を感じさせない様に『でも私は負けないから』とこ『掛かってこい』くらい言うだろ。でも、そうだな。じゃあ手始めに日南に勝った俺に掛かってこいよ!俺ももう、逃げない!そんで、もしもみみみがズルいって言ったら俺も遠慮なく言い返してやる、『俺の努力の結果だ、出直して来な』ってな!俺の方が断然性格が悪いって思い知らせてやるよ!」
勢いは止まらなくて、もう途中から俺も何言ってるかよくわかんなくなってきた。
けどなんかもう半端に止まったら恥ずかしくなりそうと言うか、冷静になりたくないという気持ちで口を開く。
「今までどおりにいつもちょっとアホな振りをして、わざとバカなこと言って、でも誰よりも頑張ってる、俺の好きなみみみでいてくれ!俺はそんなみみみに救われたんだよ。それからずっと気になってて……。でも、そんなみみみが輝くことをあきらめて、みみみらしくなくなるのなんて、俺は耐えられない!だから……!」
ここまで言い切って、勢いで口にした言葉が自分の口から出て耳に入りそして脳が理解をして、急に顔に熱が行く感覚ががが。
唖然としていた3人だったが、1番早く復活したみみみがニヤニヤしながら口を開く。
「ねぇ、だから……なに?」
「だか、ら……み、みみ、みみみみに……」
「あっはは、『み』、多ッ!友崎みたい!」
「おい!」
そして完全に固まった俺。
それを見かねてか友崎が口を開く。
「……そういえば相原はおれとアタファミのローカル対戦して負けた時、俺が横にいても平気で『次は潰す』とか言うよな。たしかに熱中してると口悪いわ」
「あはは、想像つくかも。部活中もたまにケンカ?みたいな言い合いしてるよね……」
友崎ぃ!その話いる!?
そして、部活のはケンカじゃないです。
ポジションや役割の違いからちょくちょく言い合いになるけど、ケンカじゃないですー!
そもそもオフェンスが枠を外したシュートは『ナイスシュート』って褒められるのに、こっちが点を決められた時はディフェンスだけ責められるのっておかしいじゃん!
どっちもミスじゃん!
「そういえば一昨日、相原は葵の事ちょっと苦手って言ってたっけ?みんみも相原にならたまに毒吐いてもいいんじゃない?」
「はらみーが葵のこと……?というか、一昨日!?土曜日だよね、なんではらみーとたまがいっしょに!?ナイショの会談!?」
たまちゃんまで!
余計なことを言うんじゃない!
俺の体はまだフリーズしたままだ。
なにか、なにか言わなければ。
そして再びたまちゃんが口を開く。
「相原、もう全部言っちゃえば?」
……そだね。
ちょっと落ち着いた。
ありがと、たまちゃん。
「……うん。だから、みみみには今までどおりにいてほしい。たまちゃんにとってみみみがヒーローだったように、俺にとってもみみみはヒーローだったんだよ。だから、今までどおりの俺の好きなみみみでいてくれ」
「……それって告白?」
少し顔を赤くしていく確かめるように聞いてくるみみみ。
確かに何とでも取れる言葉だ。
今更この気持ちもはっきりさせないのは男らしくない、か。
「あぁ、すまん。言い直す!この場ではっきりともさせてくれ。お、俺はみみみが好きだ、付き合ってくれ!これは、この場の勢いだけじゃない、本当の気持ちだ!と思う!」
結局、最後は言い切れなかったところが俺の失敗の多さの原因だろうかね。
みみみは俺の言葉を聞いて、さっきよりももっと顔が赤くなったように思う。
俺の方は多分、既に完熟したトマトみたいに真っ赤だろうが。
「回答を、もらってもいいか?」
「……うん。でもごめんね、はらみー。いまは付き合えない、かな」
「みんみ!?」
あぁ、どうやら俺の失敗はまだまだ続くようだ。