弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
食堂で無事に2人分の空席を確保して座る。
俺はマスクを外して食事を始めようとすると、相原が話しかけてきた。
「友崎は風邪か?今日はずっとマスクしてるし」
「あー、まぁそんなとこ……かな?」
「なんなんだ、その曖昧な返事は」
実際にはマスクの下で笑顔のための筋トレをしているわけだが、そのまま言っても「なんだコイツ」としか思われないのであいまいな答えになってしまう。
「たまたま見てたけど、朝は菊池さんからティッシュもらってたな。鼻かむ時は顔そらさなきゃ失礼だろー」
「な、見てたのかよ!」
鼻かむ時に顔をそらさなきゃ失礼、というのはたしかにそうだな……。
「その後もなんかめっちゃニヤけてたし、菊池さんと話せたのがそんなに嬉しかったのか?」
「ちが、あー、う、うるせーよ!」
相原は笑いながら俺をイジってくる。
ただ、不思議とそれも悪い気分ではなかった。
「そういえば、日南とは仲がいいのか?」
「え?なんで?」
一瞬びくっと体が反応してしまう。
今日、日南と話したのは朝の第二被服室か、家庭科室での授業前後だけだ。
朝は見られていないと思うし、家庭科室のほうも日南と話した、というよりはみみみと話してたところに日南が来て結果的に話したくらいのはずだが。
「4限前に中村が友崎にアタファミで負けたこと知ってたじゃん。対戦の結果を知ってるのは俺等と中村だけのはずだけど、俺は話してなかったからさ」
言われて納得する。
確かに中村本人がわざわざ負けたことを言うことはないだろうし、消去法で俺から聞いたことになる。
「あ、いや別に特別仲いいってわけでは。アタファミの件も先週日南と中村が一緒にいるときに廊下で聞かれただけだし」
「なるほど」
「ああ。てか、なんなら逆に日南と仲悪い人とかいるのか?」
「んー、まぁそういわれると、そうか……」
微妙に歯切れの悪い回答だった。
思えば日南が中村をいじった時に相原は笑っていなかった気がする。
「むしろ相原が日南と仲悪かったりするのか?」
「え、それ普通思ったとしても直接本人に聞くの?別に悪くはねーけど」
本人以外に聞ける相手なんていないんだから別にいいだろ。
仲は悪くないのか、じゃあ俺が感じたこの違和感はなんだったんだろう。
そう思っていたら続けて相原が口を開く。
「けどなんていうの?アタファミの件いじるのはまだわかるけどさ、振られた件をいじるのはライン越えだろ。いや、当人が笑ってるならそれでいいのかもしれないけど、ちょっとそのノリはわからん」
そういうことか。
ラインってものがどこにあるのかは俺にはさっぱりわからないが。
「あー、それだけ?」
「言い方ひどいな、それだけだよ」
「そうなのか。なんかあの時はお前とたまちゃんは神妙な顔してたからもっとなんかあるのかと思った」
「あー、たまか……そっちはいろいろあるかもな」
どうやら、たまちゃんの方はいろいろあるらしい。
家庭科室を出る前にも、『また空気を壊しちゃうところだったかも』って言ってたっけ。
相原は周りをチラチラと見渡してから話し始めた。
「中村たちが来てからたまの様子は急によそよそしくなっただろ?それまではみみみにつつかれて鬱陶しそうにしたり、ひどい絡みにはうるさい!とかズバズバ言っていたのに」
たしかに、みみみから適当なことを言われるたびにズバッと言っていた気がする。
「たまってそういう真っ直ぐすぎる人間だからさぁ、なんか中村と揉めたらしい。中村はほら、アレじゃん?反論でもされようものなら絶対に組み伏せようとするタイプじゃん?」
なんとなく想像できてしまった。
「俺もその時は近くにいなかったからよく知らんけど、たぶん想像の通りの言い争いみたいになったらしくてな。中村たちには苦手意識があるらしい。あ、俺はセーフな!」
「なるほど……」
相原がセーフかどうかは、別にどうでもいいが。
たまちゃんの言う空気を壊したというのはその時のことで、今もそれに縛られているってことか。
「まぁでもお前の方は大事にならずに済んでよかったな。リベンジに呼び出されるくらいで済みそうじゃん」
「え、また呼び出されるの……?」
「リベンジするっつってたんだから当然そうなるだろ。その時は俺も行くようにするから安心……いや、首を洗って待っておくんだな」
「えぇ……」
その後、アタファミの話をしながら昼終わりまで一緒に昼食をとった。
午前に課題を無事こなせたことからの自信か、前より踏み込んだ話もできた気がして、少しだが自分の成長を感じることができた気がした。
そんな中でそういえばと、朝に日南に言われたことを思い出す。
俺がnanashiであることは言いふらさないようにと言っておかないとだった。
「あ、そうだ相原」
「ん?どした?」
「俺がアタファミで全国1位のことは秘密にしといてくれないか?」
「ん、あー、了解。たしかにあの人口が多いゲームの1位となりゃ拡散されるのも怖いもんな。ぉー、情報社会こえぇー」
「お、おう、サンキュー」
思いのほかすんなり了承をもらえた。
俺としては特別隠すことでもないと思っていたが、確かに今の時代何が原因で住所特定とか乗り込みとかされるか分かったものじゃないもんな。
日南もこの辺のことを考えて釘を刺してくれたのか?
「じゃ、黙っていてやるかわりに俺とはちょくちょく対戦しろよ?絶対ギャフンといわせてやるからな?」
「あぁ、それはもちろん。でももっとうまくなってくれないと勝負にならないけどな」
「ほざいたな?絶対潰す……」
口わりぃなおい。
しかし冗談で言っているというのが伝わる口調なので不快感もなかった。
言いたいことも伝え、そろそろ戻るかということになったので俺と相原は教室へと戻った。
***
俺にとってはいつも以上に長く感じた一日が終わり、放課後は第二被服室へと向かう。
そこで待っているとほどなくして日南がやってくる。
そして今日の反省会が始まった。
「まずは、ミッション完遂おめでとう」
「お、おう、サンキュー」
開幕ねぎらわれた。
「実際は話しかけたわけではなく、話しかけられた、だったのかもしれないけど、4人の女子とも話せたわけだし、そこは問題なしとするわ」
「ああ、よかった。それは気にしてたんだよ。あ、あとサブのほうも一応こなしたぞ。」
「そうね、昼食を一緒に取ったのよね?練習としては上々だったんじゃないかしら」
何で知ってんだよ……。
「それで、課題をこなしてみてどうだった?」
「どう、とは……?」
「なにかあるでしょ。感じたこと、印象に残ったこと。なんでもいいわ。メインのほうからね」
そういわれ、今日のことを振り返る。
朝に泉さん、菊池さんと話したこと。
家庭科室でみみみ、たまちゃんと話したこと。
「いろいろありすぎた気がするけど。気になったのは家庭科室で日南が中村にアタファミの件でいじったことかな。」
「あぁ、あれね」
「ほぼクラスの全員がいる中であの話をしたのに驚いた、かな。あの話はほとんどの人が腫れもの扱いするような話題だったのにそこに触れて、しかも笑いにしてた」
先週までの空気を思い出す。
どことなく中村はイライラしており、周りもそれを察してかこの件には触れるに触れられないような状態になっていたように感じる。
「そうね。でもあれは必要なことだったのよ」
「必要なこと?」
「ええ。中村はあなたに負けたことを気にしていたわ。それも、結構根に持っているように見えた。……そういえば、朝に啖呵を切ったとか言っていたわよね?」
朝に啖呵を切った、というところでびくっとなる。
というか中村が根に持つのも当然だろう。
あの時のことは、正直思い出したくもない。
「そのことはもういいけど、とにかく中村が根に持っているうえに、周りから見ても触れられないくらいイライラしていたのがまずかったの。そのせいで行き場のない感情が発散できず、さらにうっぷんがたまっていく悪循環になっていた」
「なるほど」
「あのまま放置すると、あなたへの当たりも強くなっていったでしょうね。中村はクラスの中心人物だから、その中村があなたに辛らつだとあなたの立場も不安定なものになる。だから、一度爆発させる必要があった」
「爆発……」
「だからその前にみんなの前で笑いにして、中村にも納得をさせつつ周りにもこれは触れてもいい話題なんだって思わせる。これで中村のあなたへの態度も少しマシなると思うわ」
そこまで考えての行動だったのか。
「それで、印象に残ったことだけど、今のは私のしたことの話よ。あなたがしたことで何かないの?」
俺がしたことで、か。
俺が感じたこと、それは会話での機転の利かなさだな。
会話を広げることができなかったこと。
俺の言葉を聞いた日南が言うには、俺はそもそも会話について勘違いしている、ということらしい。
日南が言うには会話というものは機転をきかせて共感すればいい、というわけではない。
自分の考えたことを伝えること、それこそが会話だという。
そして、俺はそれができていて、だからこそ今日の家庭科室でみみみたちとの会話が盛り上がったのだと。
「というところで今日の課題に付いての総評だけど、初めてにしては大成功よ」
大成功か。改めて言われるとうれしくなるな。
「あとは、サブのほうも聞きましょうか。相原くんを昼食に誘ったのよね?同じことを聞くけれど、何か印象に残ったことはあるかしら?」
「そうだな……」
そして昼食でのことを思い出す。
「意外と相原は周りを見ているんだなって思った、かな。たぶん、俺が相原に対して割と話しやすいと感じているのはそういう所に秘訣でもあるんじゃないか」
「周りを見ている、そして話しやすい、ね。もうちょっと詳しくお願い」
日南は考えるような顔をしながら詳細を聞いてくる。
「俺が話しかける時には、アタファミの話をきっかけにして昼に誘った。けど、食堂で話してみたらそれ以外の話も結構していたな」
昼の会話を思い出す。
たしかにアタファミの話はした。
だがそれ以外にも、俺が朝に泉さんや菊池さんと話していたことを知っており、その話をしてきた。
家庭科室の話しについても自然と振ってきていた。
「けどそれは、俺からじゃなくて相原から話を振ってきていた、かな。朝の俺と菊池さんとのやり取りも見ていたらしくてそのことや、家庭科室の話もしてきたな。そういうところというか、周りで起きたことを広く認識していて、俺でも乗りやすい話を振ってきていたんじゃないかって思ったかな」
「なるほどね。さすがはnanashi、分析は得意なようで結構よ」
ここまで聞いた日南から軽い賛辞の言葉を受ける。
「どうやらサブクエストでも得るものはあったみたいね」
「得るもの?」
「そうよ、つまり相原くんがやったことはあなたレベルの人間でも話しやすいようにしていたってことでしょう?」
俺レベル、とはひどい言い方だ。
悲しいことにあまり反論はできないんだが。
「っていうことはつまり、相原の真似をすることで会話がうまくなる、ということか」
「その通り。で、何を真似ればいいのかまでわかった?」
何を真似るのか、か。
さっきのメインの振り返りに当てはめて考えよう。
日南が言うには会話というのは「自分の考えたことを伝えること」だ。
ということは俺が相原と話しやすいと思っていたのは、相原は俺がイメージしやすかったり答えることが容易な話題を提供していたからだろう。
そしてそれは周囲の観察などから得た情報で、俺が当事者の話や興味あることを知っている内容だ。
「つまり……相手の情報を集めることと、会話ではその情報をきっかけに話すこと、か」
俺の回答に日南は満足そうに言う。
「おにただ!」
でた、日南のおにただ。
口癖らしいが、鬼のように正しい、鬼ただらしい。
『ゆけ!うちまくりブイン』というちょっと古いゲームのセリフだ。
「要は会話をするには初めに話題が必要なのよ。だから話題を集めることがそのまま持ち札となり、相手に対しての特効カードとなるわ。まぁ誰にでも使える汎用的なカードだってあるけれど、より効果的な方法として相手の情報を知ることは大事ね」
「なるほど」
「これで明日からの方針は決まったわ」
「え?」
日南は立ち上がり黒板に文字を書き始める。
「貴方の明日からの課題は『会話』ね。これをやってもらうわ」
そう言って指を指す黒板にはこう書かれていた。
『1週間私とともに行動して、複数の男子や女子と喋ること』
俺はこれを乗り切れるのか……?