弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
「あ、はらみー!あれやろあれ!」
みみみの指さす方を見ると、金魚すくいの水槽が屋台の光に照らされ、水面が揺れるたびにキラキラ光ってた。
「金魚すくい、か。まぁやるなら見てるよ」
「あれ?はらみーはやらないの?」
みみみは屋台に向けて俺よりも数歩先に進んだところで俺の言葉に足を止めて、振り返る。
そうしてキョトンとしながら俺の顔をのぞき込んでくる。
「んー、なんだろな。金魚をすくったら持って帰らないとじゃん?俺、ちゃんと育てる自信がなくって」
「えー。でもすくってもお店に返すことだってできるでしょ?」
「いやまぁ、そうかもだけど。網に突つかれた金魚は当然弱るだろ?なんか、遊び感覚でやるのは無責任かなぁって」
そう答えたら、みみみはキョトンとした顔から一転、あははと笑い始めた。
「なーんか、はらみーらしい答え。優しいっていうか、責任感があるっていうか。普通そこまで気にしないよねっとことまで気にしてる感じがさー」
「別に責任感があるってわけじゃ……」
「じゃあ、私もやめておこうかな」
「そっか」
言い淀む俺を見つめながらそう言ったみみみ。
そしてまた俺の隣に戻って横に並びながら歩き始める。
少し歩いたところで、思うことがあったので口を開く。
「さっきの話さ。責任を持ちたくないだけなんだよね、本当は」
「さっきって、金魚すくいのこと?」
「そ。みみみは責任感があるとか言ったけど、でも本当に責任感あるならちゃんと金魚の世話をすればいいだけだろ?けど、なんていうか。俺が原因で死なせちゃうのが怖いっていうか、何かを傷つけるのが怖いだけで。責任を負いたくないから逃げてるだけなんだよね、たぶん」
そう、結局のところはいつも責任から逃げているだけだ。
金魚すくい以外でもそう。
俺が特定グループに居座らず、一人でふらふらすることが多いのも責任を持たないため。
複数人で集まるときに、俺主体で動くことが少ないのも責任を持たないため。
いつもそんな感じで、1人でできることばかりしてきた気がする。
「ふ、ぷくくっ……」
「っておい、何笑ってんだよ!」
「な、なんか急にセンチになったからおかしくって!」
そう言いながら笑い始めるみみみ。
まぁ、たしかに話が急だったかも。
けど笑うことはないだろ。
「いや、さっきはちゃんと考えを言わないまま話を流しちゃったから。思った事ははっきり言っておこうと思って」
「ふふ、やっぱり。さっきの答えも、そういうところも、どっちも含めてはらみーらしいね」
「それって褒めてる?貶してる?」
「どっちでもないよ。ただそう思っただけ」
だからなんなんだよ、俺らしいって。
そう思っていると、釈然としない俺の表情を読んだのかみみみは言葉を付け足す。
「はらみーは逃げてるんじゃないよ。いつでも誰も傷つけない最善を探してるじゃん。私が悩んでた時もさ……。でも傷つけないって中には自分を含めないから、周りを気遣って自分ばかり傷をつけちゃう」
「……誰だよ、その聖人様は」
「誰って、はらみーだよ!あ、さては照れてるなぁー?」
まぁ……もしかしたら?部分的に当てはまる所もなくはないかもしれないけど、俺はそんなに崇高な人間じゃない。
つかただの金魚すくいの話から脱線しすぎたな。
気恥ずかしさに頭をポリポリとかく。
「そういえば、知ってる?金魚ってもともとは黒かったんだって」
「そうなのか?そういえば出目金とか黒いのもいるよな」
「うん。もともとは黒かったんだけどね、時々生まれる赤い魚をキレイって思った人達が、赤い魚だけを残して。次の世代もまたキレイな子だけを残して。それを続けて出来た魚が、みんながキレイって思う今の金魚なんだって」
「へぇ……。じゃあ黒い魚はどうなったんだ?」
「捨てられて、淘汰されていったらしいよ」
「金魚の世界も実力主義で大変なんだな」
「過去のお話だとおもうけどね」
輝け無いとダメ、か。
なんか、前のみみみの悩みみたいだな。
「なんか、金魚って私みたいじゃない?」
みみみは俺と同じ事を思ったのかそう言った。
「なんだよ、もしかしてまーだこだわってたのか?吹っ切れたかと思ってたのに」
「うん、私は今でも1番が欲しいよ。たしかに、私はたまにとっての1番だってことに救われたけど、やっぱり輝きたいって思ってる」
「ふーん。ま、いいんじゃないか?俺だって何かするときはいつでも1位狙い、なんなら密かに全勝狙いだ」
勝てないことも、失敗することも多いけどな。
とはいえ負けも失敗も、糧にはなっているし無駄ではない。
「それで、赤い金魚が私だとすると、はらみーは黒い金魚って感じ」
「捨てられるだけの運命ってか?哀しいねぇ」
「あ!違う違う!」
そんな冗談で返し、慌てるみみみをみて俺も笑う。
「もー!言いたかったのは、みんながキレイな赤になろうとしてる中でさ、黒のままでも存在を示してたりしてて。それに、赤がキレイに見えるのって隣に黒がいるから相対的にキレイに見えるでしょ?そうやって、自分の黒を利用してまで周りを輝かせているところとかが、なんかはらみーぽいって思った、かなって」
「やめろよ、買い被りすぎだろ。さすがに、なんだ。照れる」
「あ、はらみーも赤くなった!黒なのに、あはは!」
そう言って茶化してくるみみみ。
それがどうしようもなく様になっていて、かなわないなぁと思った。
「笑うな。あーもう!みみみ、まだ花火までは時間あるよな?やっぱ今のとこ戻るぞ」
「え?」
「金魚すくい、やるぞ!まずは責任を持つ第一歩だ。すくった金魚は絶対に天寿全うするまで育てあげる!」
「おお、はらみー!」
そう言って俺はみみみの様子を確認しながらも反転して来た道を戻りだす。
みみみは何がそんなに嬉しいのか、俺の方をバシンバシン叩きながら並んで歩く。
そして金魚すくいの屋台の前までやってきた。
「あ、私は取るなら黒い子がいいな」
「金魚すくいなんて何年ぶりだろ。とりあえずやってみるか。あ、金魚すくい2人分やらせてください」
「あれ、わたしも?」
「当然だろ、俺だけやったらまるで俺が1人ではしゃいでるみたいじゃねーか」
……
………
…………
「ふふ、金魚取れてよかったね」
「まぁ、3回もチャレンジしてようやく二匹だけどな」
俺とみみみの手元にはそれぞれ一匹ずつ金魚の入った袋が吊り下げられている。
俺の方は、水槽の中で一番元気そうに見えた赤い金魚。
みみみの方は、太々しくのんびり泳いでいた黒い出目金。
みみみは想像以上にド下手くそでまるで金魚をすくえなかった。
「細かい作業は私には合わん!」なんて言い出す始末。
やろうって言ったのみみみじゃなかったか?
俺も1回目は何もできずに失敗。
2回目にはお店のおじさんにコツを聞きながらもさらに失敗。
3回目にてようやくコツをつかみ、今俺とみみみの手元にいる金魚たちをゲットした。
しかも、3回目はおじさんが値段もまけてくれた。
「わたし、祭りで金魚とったの生まれて初めてかも」
「……あの腕前じゃあそうだろうな」
そういいながら金魚の袋を前にだし、街灯の光を透かすようにしながら金魚を眺めるみみみ。
それがなんというか、すごく絵になるというか、祭りの雰囲気によく合っていて映えて見えた。
「金魚、大切にしろよ。俺も大切に育てるから」
「うん。そうだね!」
そう言って再び金魚の袋に視線を落とすみみみ。
その姿につられて俺も自分の金魚に目をやる。
まずは水槽買わなきゃな
育て方も調べなきゃ。
「さて、花火もそろそろ始まるか?見れるところの場所取らなきゃ」
「おっけー、じぁあ行こっか」
そうして、事前にリサーチをしておいた、ほどほどに花火がよく見えて人は少ないという神社の境内へと歩き出した。
ん……?
その通り道にて視界の端に知っている人影を捉えた。
あそこの屋台でリンゴ飴買っているの、友崎じゃないか?
しかも隣に女の子がいるし!
見間違いじゃなければ、たぶん同じクラスの菊池さんだったような。
確認したい衝動に駆られたが、それで水を指すのも悪いかと思ってそのまま素通りする。
みみみも騒がないということは、おそらく気付かなかったんだろう。
しかし気にはなるな、後日友崎に直接聞いてみるか?
そんな事を考えているとみみみから話しかけられたので、一旦この事は忘れることにした。
「ところで、金魚の寿命はどれくらいか知ってる?」
「いや知らないな。1年とか2年くらい?」
「長生きする子は10年くらい生きるらしいよ」
「え、そんなに?その時俺27歳じゃん。とっくに社会人になってるのかぁ。うーん、俺が働いてる想像はできないわ」
「あはは、私も自分が働いてるところは想像できない!」
みみみはどこでもやっていける気がするけどな。
……そういえば俺も進路調査の面談で先生に同じ事言われてたわ。
『君はなんだかんだでどこに行ってもやっていけそうだ。やりたいことを自由に選ぶといい』って感じに。
どういう評価なんスかね、それ。
褒められたのか、匙を投げられているのか。
そうこうしているうちに、境内へと到着。
人はそこそこいるが、境内は広さに対してはそれほど人が多くもなかった。
その中でもさらに比較的人か少なそうな位置についたところでちょうど空が光り、続いてドォン!という音が響いた。
「始まったね」
「だな」
花火大会、か。
こうやって誰かとじっくり花火を観るのは初めてだ。
すっかり暗くなった夜空に赤、青、黄色とさまざまな色の光ご咲き乱れる。
「キレイ……」
その華やかさに魅せられたかのように空を見上げるみみみ。
俺はその横顔を盗み見る。
花火の光に照らされたその横顔は、どこか艶っぽく映えていた。
「ん、どうかした?もしかして見とれてたぁ?」
その視線に気づいたのか、こちらを振り向いてそんな事を聞いてくる。
「いや」
「いや!?」
「ただ、花火大会に来てよかったなぁって」
「あはは、そうだね!でもまだ花火は打ち上がったばっかりだよ!」
そう言って再び空を見るみみみ。
それにつられて俺も空を見上げる。
昨日の俺調べによると今年は花火を1万発以上も打ち上げる予定らしい。
数字だけ見てもピンとこなかったが、この光景を目にすればなるほど、確かにすごいものだと思えた。
……
…………
花火は時間が経つとともにどんどんと派手な演出へと変わっていく。
既に最初の花火から30分ほどが経っているが、おそらく今が1番のピークなのなのではないかというくらい、大きな花火とそれを彩る多彩な花火が連続して打ち上げられている。
一際おおきい花火が上がったときには周りからも「おぉ!」という感嘆の声も上がっていた。
この時のピークと思った感覚は正しかったようで、それからは少し規模も落ち着いたような花火が続く。
もう少しで終わりだろうか、という思いがよぎって、まばらに上がる花火が祭りの終わりを告げているように感じられた。
「あのさ。みみみ」
「ん、なに?」
そんな祭りの空気に当てられたのか、俺はみみみに声をかける。
「こないだ、自分を許せるまで俺とは付き合えないって言ってたけどさ。みみみが自分を許せるときは来そう?」
「うーんと、ね」
つい、そんな事を聞いてしまった。
みみみは少し気まずそうな表情をしながら考えるような仕草をしながらつぶやく。
「正直よくわかんなくなってきちゃった。はらみーは気にするなって言ってくれたし、もう忘れてもいいのかなって思おうとしたんだけど」
「うん」
花火に照らされるみみみの横顔は、真剣ながらも少し暗い表情をしている。
「もしそんな簡単自分を許しちゃったら、私って本当に反省したことになるのかな?そう考えたら、やっぱりまだ駄目なんじゃないかって」
「いやいや、真面目すぎるだろ。どうしたよ、いつはヘラヘラして何か間違っても、『ごっめーん!』で済ませるのに、どうしてそこまで引きずっているのか」
1年とかそれくらい前のことだろ、もうさっさと水に流してしまえよ。
俺がそう言うと、みみみが口を開く。
「……だって簡単に自分を許したら、はらみーの事が大切じゃないみたいじゃん」
しかし、みみみの声が控えめだったのとタイミング悪く大型の花火の音と重なり聞き取ることが出来なかった。
「すまん、花火の音で聞き取れなかった。なんだって?」
「ん、気にしないで。とりあえず、今はまだ無理!この話はこれでおしまい!というかはらみーが私に、こ、告白してから、まだ1週間ちょっとしか経ってないからね?」
「そういえばそっか。なんか濃密な夏休みでもっと経った気がしてたわ。でもほら、男子3日会わずんば刮目してみよっていうしさ?」
「私は女の子ですー!」
「ははは。そうだった」
「なにそれ!?」
それから、何気ない会話をしながらも花火大会の終わりまでを見届けた。
……
「終わっちゃったね」
「あぁ。なんというか、圧巻だったな」
「ふふ、そうだね」
「少し寂しいけど、帰ろうか」
「うん」
そうして、駅の方へと向かって歩き出した。
縁日の屋台などはまだやっており、その真ん中を人の波に沿って駅へと歩いていく。
「帰り道はすごい人混みだな。はぐれないように手でも繋いでおくか?」
「あはは、でた。はらみーがどうしてもって言うなら繋いであげてもいいよ?」
「そっか。よかった、俺は今はどうしても繋ぎたい気分なんだ。ん」
そう言って俺は少しみみみの方に寄り、俺は右手を近付ける。
すると困惑したようにみみみが聞き返す。
「え……?どうしても?」
「そう、どうしても」
「えっと、んー……仕方ない、はい!」
そしてみみみは俺の手を握った。
みみみの暖かく柔らかい手の感触が伝わる。
……やばい、俺今手汗かいてないかな?
いや絶対手汗やばい、つか顔もやばい汗かいてる気がする。
俺はこの動揺をごまかすように軽口を叩く。
「仕方ないとか言うくらい繋ぎたくはなかったのか……ショックだ」
「あ、いや!そういう意味じゃなくて!」
「はは、冗談だよ」
「あー!はらみーのバカ!バーカ!」
「おっと、今さら気付いたのか?俺は昔からずっとバカだよ」
「……ふふ。うん、たしかに」
そうして、混雑により距離以上に時間のかかった駅までの道を、手をつなぎながら歩いた。