弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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46+

夏休みに入ってから怒涛のような日々だった。

中村と泉のくっつけ作戦の会議。

菊池さんとの映画デート。

キャンプ場での合宿。

 

俺はこれらを通して……いや、もっと前からのことも踏まえて思った事がある。

みんな、俺が思っているよりもずっと『人生』を頑張っていたんだなって。

 

そして、同時に俺の始めた頑張りというものは本当に正しい形なのか、という疑問を持つようになった。

 

きっかけは菊池さんとデートした時の会話の中で生まれた疑惑からだったが、今思えばそれよりも前から時折引っかかりを覚えていたのかもしれない。

他人を課題として見ていたことに。

 

 

この間の、日南から合宿に誘われた時もそうだ。

合宿に俺を参加できるように計らってくれたのは感謝している。

あのメンバーの中に俺を押し入れるのは、たぶんそれなりに面倒なことだったのではないかと思う。

 

けど、参加の目的の方には引っかかるものを感じていた。

男女問わず友情を深める。

そこだけなら聞こえはいいが、そこには更に今後の『人生』攻略にメリットのある人物と仲良くなっておくといい、などの打算だらけの思惑があった。

 

その時は相変わらず日南らしいな、と思っていたが、その裏で打算だらけの友達付き合いという部分に後ろめたさみたいなものを感じていたんだと思う。

 

極めつけには、合宿の時に水沢と日南が話しているのを聞いて感化されたのかもしれないな。

合宿の夜、意図せず水沢の日南への告白を聞いてしまった。

水沢は結果として日南に振られていたが、本人は「久々に本気でやりたいことに向き合ってスッキリした」といっていた。

 

その時に思い出した。

俺はアタファミでも、自分が本当にやりたいことを優先して進めていっていたはずだ。

相手の気持ちを利用するようなやり方が俺の本当にやりたいことなんだろうか?

 

その疑問を持ちながらも俺は菊池さんとの花火大会へと向かうことになった。

 

 

 

***

 

 

俺は菊池さんとの花火大会は、思うままに行動をした。

もともとの課題では日南から告白をすることを課せられていたが、俺は初めて自分の意志で、明確に日南の指示を反故にした。

そして、花火大会の帰りにその事を日南へと報告した。

 

「それで、報告というのは何?」

「あぁ。……告白はしなかった」

「はぁ?」

 

日南も花火大会を見には行っていたようなので、その道中の駅で降りて落ち合った。

現在は駅のホームのベンチに座っている。

 

「たしかに今までの課題と比べると難易度は高かったけど……」

「できなかったんじゃなくてさ、しなかったんだ」

 

日南の目をまっすぐと見ながらそう告げた。

日南も、俺の視線を受けながらも目をそらすことをなくこちらを見つめている。

そして少しの沈黙のあと、日南が口を開く。

 

「どうして?」

 

短く、しかし鋭い一言。

それを放った日南からは感情を読み取ることができないのは、未だに俺のレベルが低いからなのだろうか。

日南の視線を真っ向から受け止め、慎重に言葉を探す。

 

「今日さ。話題の暗記をしないで行ったんだよ。そしたらさ。会話はたどたどしくなるし、沈黙の間も結構あって、うまくいかなかったって思った」

「でしょうね」

「けど」

 

そこで一度言葉を切って、呼吸を整える。

 

「最後に聞いてみたんだよ。『今日はしゃべりづらかった?』って。ほら、前に時々しゃべりにくくなるって言われたって報告しただろ。だから。それで、なんて言われたと思う?」

 

日南に問いかけるも、ただこちらを見据えているだけで反応はなかった。

 

「『今日はずっとしゃべりやすかった』って、そう言われたんだ。今までスキルを使って話していたときはしゃべりにくくって、素の時のほうが話しやすかったって。つまりさ、感覚的に見抜かれてたってことだろ?今まで話す時に作っていた『仮面』みたいなものをさ」

「そう。でもそれならそれで対策のたてようがあるでしょ。菊池さんに話題を暗記するより本音で……」

「なぁ日南。もうそういうことはやめないか?」

 

俺は日南の言葉に被せて遮る。

 

「そういうこと、って?」

「そうやって……『対策』とか『攻略法』から始めるのってどうなんだよ?まずはさ、自分がやりたいことはなんなのかをはっきりさせるべきなんじゃないのか?告白することを目的にするんじゃなくて、本当に菊池さんのことが好きなのか。初めはそこからなんじゃないか?」

「……水沢にでも当てられた?」

 

俺の素直な気持ちを吐いた言葉に、日南は冷静に……と言うには冷たすぎる視線を持って回答した。

 

「まぁ……」

「それとも、相原の方?」

「たぶん、どっちもだと思う」

「そう」

 

俺の言葉を聞くと、短い言葉と共に口を閉じた日南。

そして会話は終わり、とでも言うように視線を逸らした。

 

「まてよ、なんか言いたいことがあるんじゃないのかよ」

「別に。そうやって『本当にやりたいこと』に惑わされて前に進めなくなるのは弱い人間の典型的な行動だから驚きもしない」

「どういう意味だよ?」

 

俺の質問に日南はため息をはいてから再度こちらに向き直り、呆れとともつまらなそうに話し始める。

 

「あなたは今日、本当にやりたいことのために告白をしなかったのよね?」

「あぁ、そうなるな」

「それで得られたものは何?課題をあえてやらなかったことで、進んだことはある?」

「それは……」

 

口ごもる俺を見ながら日南は続ける。

 

「何もないでしょ?あなたは『本当にやりたいこと』と言う幻想に囚われて何もしなかった。何もしなかったことの言い訳に『本当にやりたいこと』って言葉を使っているだけ」

「そんなつもりは、ない」

「感情論を言っているわけじゃないこと、わかっているでしょ?百歩譲って『本当にやりたいこと』の為に告白をしなかったとして、あなたの『本当にやりたいこと』はなに?それは、いつ見つかるの?菊池さんが好きかどうかわからないのが問題と言うなら、他の誰なら納得できるの?」

 

日南は淡々と言葉を吐く。

ただし、それを聞きながら俺も理解してしまう。

これらの言葉は俺の本音を聞き出すための言葉ではない。

ただ話を進めるために、ただ目的をこなすために、障害を取り除く方法と妥協点を探しているだけだと。

 

「そういう、問題じゃないんだよ」

「じゃあどういう問題?」

 

ここまでのやりとりでもうわかってしまった。

たぶんこの答えは、俺と日南はわかり合えない。

けど、俺は自分の思ったことを口にする。

 

「誰に告白するのか、誰と仲良くするのか。そういう人とのつながりを『課題』や『目標』で判断するのがそもそもおかしいんじゃないのか?」

「そ。わかった」

 

そう言って、日南は今度こそ話は終わりと言うように正面へと向き直る。

 

「わかったって、なんだよ」

「目標のために努力をするのが私とあなたのやり方だった。なのにそうやって人生の目標を放棄するのであれば、もう成長するのを放棄したのと同じ」

「いや、それは……」

「それは、なに?」

 

日南は最後のチャンス、とでも言うようにこちらに視線を向ける。

しかし、俺は返すべき言葉を見つけられずに答えられなかった。

それを察して、日南の視線は俺から外れてしまう。

 

「最後に、あなたの間違いを2つ指摘しておくわ」

 

日南は俺を見ないで正面をみたまま再び話し出す。

 

「1つ。水沢も相原も『本当にやりたいこと』に従って進んでいたとしても、何かしら行動はしていた。告白をしなかったあなたと違って、二人とも『告白』はしている」

 

その言葉は責める意思なんてものは感じられず、俺の間違いを冷静に分析した結果から指摘しているだけに聞こえた。

 

「2つ。その『本当にやりたいこと』ってやつに従って行動していた水沢と相原はどうだった?相原は1年経ってようやく告白した結果、振られている。水沢も淡々とこなしていた時には何回も彼女を作っていて、本人曰く久々に『本当にやりたいこと』をした結果、振られている。まぁ、水沢の方は振ったのが私だから私が自分で言うのはフェアではないかもしれないけど」

 

日南の言うことはただただ事実だった。

 

「……けど、それでもあの2人はやりたい事のために行動を起こしていた。あなたは『本当にやりたいこと』を言い訳にして何もしなかった。私はそこが1番許せない。まぁ、もうどうでもいいことだけど」

 

俺はそれを聞いて何もいえずに俯いたまま黙っていることしかできなかった。

日南はベンチから立ちあがる。

 

「それじゃあ、また学校でね」

 

今日はまだ8月の上旬。

日南のその言葉で、今まで積み上げてきたと思っていたつながりが一瞬でバラバラになったように感じた。

 

俺は、いつまでたっても弱キャラのままだった。

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