弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
あれからおそらく数日。
俺は時間の感覚も曖昧になるくらいまで部屋に引きこもっては自室でアタファミをやっていた。
花火大会の夜以降、日南からの連絡は一切来なくなった。
新しい課題が作られなければ、当然進捗の報告もない。
俺も自分で何かを行う気には全くなれないまま、ただアタファミを繰り返しプレイしている。
起きたらアタファミを起動して、眠くなるまでひたすら対戦画面を見ながら画面に映るキャラに集中する。
こうしていれば、別のことを考えなくても済むから。
そうして今日も同じようにそんな時間を送っている時に、いつもとは違う事が起こった。
俺の部屋のドアが強いノック2回とともにいきなり開かれる。
「よぅ友崎、元気にしてっか」
「は?え!あ、相原!?」
「おう、LINEメッセージを無視され続けてる相原さんですよ?」
突然のノックと同時に相原が俺の部屋へと入ってくる。
相原は俺を確認するや、一言二言いうなり俺のスマホを投げわたしてきた。
それを受け取ってからスマホの中身を確認する。
約一週間ほど放置していたスマホにはそれなりの数のLINEメッセージが来ていたようで、俺はそれを全て無視したことになる。
「……その、すまん。スマホ放置してた」
「みたいだな。まぁ過ぎたもんは仕方ないさ。つか、なんかあった?」
「え?」
俺は相原の言葉にビクッと反応する。
「いや、どう考えてもなんかあったんだろ。スマホは放置するし、妹ちゃんは部屋に引きこもって昔に戻ったみたいとか言ってたぞ」
「あいつ……。別に、なんにも」
相原がうちに来たのは妹がなにかしたということだろうか?
しかし、なんかあったかと言われても答えるのをためらってしまう。
もともと日南との関係も隠していたようなものだ。
あれっきり、関係は壊れたようなものではあったが口にするのは違うと思った。
それと、微妙に弱みを他人に見せたくない、なんて感情もあったかもしれない。
「はぁー、試合観に来てくれるって約束していたのに、まさか来ないばかりか無視されるなんてなぁー?その間にしていたことは、部屋でアタファミですか。あぁ、俺は友達だと思っていたのに……」
俺の回答を聞いた相原は、演技がかった仕草やトーンでそんな事を口にした。
ただ、口調などとは裏腹にこいつの表情からは俺を気遣っているように感じられた。
……友達、か。
相原はたまにこういうことを言うよな。
改めてだが、相原はいいやつだと思う。
それこそ1学期の人生攻略を開始する前の、うだつの上がらないまさに陰キャというような俺と声をかけ、俺の失礼な発言すら軽く流しては、時に親友だなんて軽く言ってのけたりしていた。
そこに、打算なんてあっただろうか?
さっき相原が言った通り、俺は相原からのメッセージを一方的にスルーしており試合を見に行くという約束すらすっぽかしている。
そんな俺をわざわざ心配しているんだ。
「……はぁ」
思わずため息が出てしまった。
人付き合いを打算だらけで、さらには課題として話しかけていた俺自身を改めて嫌なやつだと感じてしまう。
俺のため息を見て若干焦ったような表情をした相原に慌てて謝る。
自分の不甲斐なさに出てしまったため息が、まるで相原を厄介者としてみているように見えてしまったかもしれない。
「いや、すまん。今のは相原に対してじゃない」
「あぁ。で、結局なんかあったのか?花火大会の日に菊池さんにフラれたか?」
「は!?な、いや、何で菊池さんのことを知って、いやそれにフラれたわけじゃないし!」
その後、相原に押し切られる形で何があったのかを説明することになった。
ただ、その前にお手洗い、ということで相原には悪いが少し待っててもらうことにした。
部屋から出て用を足したあと、洗面所で手を洗いながら鏡に映った自分を見る。
そこに映る俺は、ボサボサの髪に曲がった背筋、更にはつまらなそうな表情をしており、数ヶ月前の俺に戻っているようだった。
しかし、なぜか……この姿の俺がとても気持ち悪く感じた。
どこから見てもこの気持ち悪いゲームオタクみたいな自分に嫌悪感を感じてしまう。
ボサボサで寝癖もまともに直していない髪にシワだらけの服は不衛生にしか見えなかった。
スキルで作った仮面を剥いで出てきた自分が、本当の自分なのか分からなくなった。
俺は、何がしたかったんだろう。
日南に言われた『本当にやりたいことって何?』という言葉が頭をよぎる。
鏡に映った自分と対面して気づく。
『本当にやりたいこと』を無視した日南のやり方、言うなら『プレイヤー目線の目標』をこなしていた時でも、俺はたしかに成長と達成感を感じていた。
じゃあ日南の言う通り『本当にやりたいこと』なんて存在しないのだろうか?
だが日南の出す課題から時折違和感を覚えて、俺の考えとのズレは感じていたのはたしかだ。
……考えても答えは出ないまま、これ以上相原をまたせるのも悪いと思いいたり、部屋へと戻った。
それから俺は相原にほとんどのことを話した。
人生の攻略を始めたこと。
それに伴って人を課題としてみていたこと。
ただこなすことに疑問をいだいたこと。
そして、導いてくれたゲーマーと喧嘩をしたこと。
そのゲーマーが日南であることを除いて、ほとんど話したと言ってもいいだろう。
それが、俺を友達だと言ってくれたコイツに対しての誠実さだと思ったから。
そして、話しながら気づくこともあった。
「結局お前はどうしたいんだよ?」
相原から言われた言葉。
そうだな、俺は結局どうしたかったんだろうな。
「人に言われなきゃ大事なことも決められないのか?」
相原の言う通りだ。
言われたことをこなすだけ、それはたしかに楽だ。
けど、大事なことを他人に決めてもらっているだけで本当に成長するのか?
やりたいこと、やるべきこと。
それらが一致しないでただこなすだけでは、得られる経験も変わってくるだろう。
たまに課題に違和感を覚えていたのはここにあったようにおもう。
『本当にやりたいこと』、それがあるからこそ得られる経験だって絶対にあるはずだ。
俺の中でようやく考えがまとまり始めてくる。
「……わかった、俺ももう一度話をしてみるよ」
「そうだな。けど、それには先に決める事がありそうだな」
「ああ。俺が何をしたいのか、自分で考えて自分で決める。大事なことは、たしかに人に言われて決めるものじゃないよな」
「飲み込みがはやいな、さすがゲーマー」
「最高の褒め言葉だな」
そうして話がまとまったところで、相原がアタファミで勝負をしろと言ってきた。
「そろそろ勝てると思ってたのにおまえはもう5日も連絡を未読スルーしてるからな。今日はわざわざ直接乗り込みに来てやったんだ」
「それは悪かったけど。もしかして、そのために来たのか?」
「たりめーだ。シカト決めたことに文句言うのと、アタファミ勝負するために来たんだよ。お前の悩みなんぞ知るか。さっさと勝負せい」
こうはいうが、たぶん相原なりの気遣いなんだろう。
俺の話を聞き出すときに言ったこともそうだ。
わざと俺に非があることを口にして、俺に行動を促す。
これは逆に、妥協点を作ってそれでチャラにしてやる、という風にも受け取れる。
そういうところも含めて、コイツはやっぱり俺なんかには勿体ないくらいにはいいやつなんだろうな。
言われるままに俺は2つ目のコントローラを準備して早速アタファミて対戦を始める。
相変わらず相原は『グラスバイオ』を選択。
俺ももちろん『ファウンド』で迎え撃つ。
そして、驚く。
相原は間違いなく前よりも断然強くなっていた。
そろそろ勝てる、と言う発言には『まだ早い』と返すが、それでも間違いなく上達している。
リスクとリターンの管理、コンボ精度、操作精度、択の多さ。
前に戦ったのは夏休み開始直後くらいだったが、その時に比べて色んなところが明らかに強くなっている。
勝負自体は対戦全てで俺の勝ちに終わったが、相原がここまでの強くなっていることにびっくりした。
こいつもアタファミを好きで、どんどん成長していくことが嬉しくもあり楽しみでもあるように感じる。
ふと、気になったことを相原に質問をする。
「なぁ相原。かなり上達してるように感じたけど、どういう練習をしたんだ?」
「あ゛?これだけボコボコにしといてイヤミか?」
「い、いや、本音で聞いてるんだけど。怒るなよ」
……そういえばコイツはこういうとこあったな。
でも俺はアタファミで加減なんてすることはできない。
それでもヒヤッとするところや実際にバーストまで持っていかれることもあったのだから、相原も相当な強さになっている。
「まぁ冗談はさておき、やっぱ知識は増えても操作が癖になるくらいまで動かさないとものにならないからな。1番はトレモで操作を手になじませて、なんとなくコツをつかんだら実戦で試して……を繰り返してるな」
「何度も同じことの繰り返して練習するのって、なんだろ。嫌になったりしないのか?」
「嫌になるとか以前にやらないと勝てないだろ?俺は勝つ為にやってるんだよ、最近はな。で、なんでそんな質問?」
そういえば、相原もそこそこ負けず嫌いだったか。
「なんでというか。さっき勝つためにって言ったけど、そのために練習するのって大変なわけだろ?どうやってモチベーションを保ってるのかなって思って」
「んん?無駄な努力をお疲れ様って言ってる?」
「だ、だから違うって!そういう意味じゃ……」
「ははは、ギャグの基本は繰り返しってな。つかモチベつっても別になぁ。まぁいうなら、『本当にやりたいことのためにやりたくないこともやる』。俺の座右の銘の1つだ」
「なんだそりゃ」
本当にやりたいことのためにやりたくないこともやる、か。
ただ、なんとなく相原らしい回答だなと思った。
***
アタファミの対戦に満足したのか、十数戦ほどボコボコにしたあと、相原は帰っていった。
帰るときには「次こそ勝つ。だからお前の問題もさっさと片付けて予定空けとけ」なんて言っていたが。
「……ふーん。ちょっとはマシな顔に戻ったじゃん」
相原を見送ったあと、水分補給をするためにリビングに入ったところで妹から声をかけられる。
そうだ、一応聞いておくか。
「お前が相原を呼んだのか?」
「ううん。相原先輩から連絡が来て、お兄ちゃんがうちにいるって言ったら飛んできちゃった。私もびっくりした」
「そっか」
てっきり妹から連絡したのかと思ったらそうでもなかったらしい。
心配してくれたのか、本当に怒って乗り込んできたのか、判断が難しいところだ。
けどまぁ……うん。
「相原先輩、お兄ちゃんなんかの友達には勿体無いんじゃない?本当に走って駆けつけてくれる人なんてそうそういないよ?」
「ほっとけ」
そうかもな、さっき俺もそう思ったよ。
けど、自分で思ったりはしても人から言われると腹が立つものだ。
「まぁ色々あるのかもしれないけどさ。せいぜい頑張りなよ」
「……おう。なんだ、サンキューな」
相原はこいつが呼んだわけではないにしても、連絡を繋いだ事には代わりないわけで。
今だけは素直に感謝することにした。