弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
「じゃあ俺は塩サバ定食かな」
「あら奇遇ね、私もそれ」
俺は今、定食屋で日南と昼食をとっていた。
結果だけを端的に言ってしまえば、俺は日南に『本当にやりたい事』を目標にして前と同様『人生攻略』を進めていくという事で納得させることにできた。
『本当にやりたい事』なんて存在しない、と思っている日南とバチバチのレスバトルをすることになったが、「俺は『本当にやりたい事』を燃料にアタファミをしているからアタファミで全国1位になっている。その存在を否定するならアタファミで俺に勝ってから言え」というとんでもない暴論で押し通した。
反論をすべて正面から叩き潰すコイツのスタイル故に屁理屈のような話にも乗っかってきた感じがあるが、そういう性格も考慮して考えてきた内容なのだから今回は作戦勝ちということにしたい。
「それじゃあ、あなたが無駄にした約2週間、その遅れは直ぐに取り返していかないとね」
運ばれてきた料理、魚から器用にトゲを取り分けつつそんな事を言う日南。
あの言い争った花火大会の日が8月6日で、今日が16日だから10日間ほど、たしかに約2週間近く空いてしまっているわけだ。
「……お手柔らかに頼むよ」
「あなたの言っていた『本当にやりたい事』を証明してくれるんでしょう?妥協は許さないから」
相変わらず、というか前よりもスパルタになっているかもしれないな。
けど俺も、前より意気込みが違うというところを見せていきたいところだ。
「それで、次の課題なんだけどさ、一つ提案があって」
「あら、なにかしら?」
相原と話してわかったこと。
結局何をやるのかを決めるのは俺なんだ。
全部日南に決めてもらうだけでは俺のためにはならない。
だから、俺が進むために自分の考えを提案する。
「花火大会以降、菊池さんとは連絡を取っていなかったんだけどさ。昨日LINEで、都合のいい日にどこか遊びに行きませんかって誘った。この内容に沿った課題を決めたいんだけど、どうかな?」
「……ふーん。昨日まで何もしていなかったというところには一旦目をつぶるとして。そうね、そうしましょうか。あなたの『本当にやりたいこと』がそこにあるっていうのなら、わざわざやる気を削ぐ必要もないわけだしね。けどまぁ」
「な、なんだよ」
ジト目でこちらを見てくる日南。
こいつのことだから作られただろう表情のはずだが様になっているのが流石だと思える。
「課題で人付き合いは違う、とか散々言っておいて課題の内容は菊池さんとのデートなのかと思って」
「で、デート、はそうかもだけど……。あの時は課題で告白することは違うと確かに思った。だから、まずは俺が菊池さんのことを本当に好きなのか。好きになるのはどういうことなのか、そこを見つけたいと思ったんだよ」
「何定食屋で恥ずかしいことを言っているの」
「って、おい!お前が質問したからだろ!」
日南の急にトーンを下げて吐いた言葉に対して、俺はこれまで培ってきたスキルを用いてトーンや抑揚を意識しながらツッコミを入れる。
「……ふふ、前に比べたら少しは進歩しているようね。レベルがようやく二桁も見えてきたってところかしら?」
「俺のレベルはまだ一桁だったのかよ」
「確実に成長しているのならいいんじゃない?」
そうだな、そう捉えるようにするか。
レベル二桁手前ならついにアリアハン大陸を抜けるところだ。
世界の広さに感動して1番やる気が出てくる時かもしれないな。
「でも、どういう心境の変化なわけ?午前の『本当にやりたいこと』の話もそうだけど、前以上にやる気を出しているじゃない。花火大会の時の『嫌だから何もしなかった』から大きな変化ね」
たしかにそう見えるよな。
日南の質問に考えながら言葉を探す。
「あの時は、お前の出した課題と俺の考えが合わないところで考えを止めてしまっていて。あぁ、あのあとさ。1週間くらい何もしないで時間を無駄にしちゃったんだけど……」
ゆっくり話す俺の言葉を聞きながら、日南は真っ直ぐな瞳でこちらを見つめて続きを促してくる。
「その後に相原に言われてさ。やりたいことは自分で決めるものだって。それで、たしかに言われたことをただこなすだけじゃ『本当にやりたいこと』が見えるわけないよなって思えて。そこからいろいろ考えさせられたって感じかな」
「なるほど。あなたのその気持ちが一時の感情の高ぶりで流されているだけでないことを祈るわ」
「あぁ、それはこれからの行動で証明するさ」
日南からは若干の冷めた目を向けられているが、まだ何もできていなので今は仕方ないだろう。
残りの夏休み、ひいては二学期から挽回していけばいい。
「ところで、相原に言われてっていうのは、彼とは夏休み中も頻繁に連絡を取っているの?」
「いや、元々相原とは部活の試合を観に行くって約束をしていたんだけど、スマホを放置しちゃったせいで約束を破っちゃって……。そしたら家まで直接文句言いに来た」
「何をやっているのよ、あなた」
あの時は気持ちに余裕がなくて、は言い訳にならないよなぁ。
でも相原は謝ったら許してくれた感じだったから一旦は良し、ということにしたい。
「あ、そういえばすまん。その時に流れで相原にこの『人生攻略』のこと少し話しちゃってて。そのうえ少しボロがでて相談役がアタファミ2位のNO NAMEってことまでバレて……。一応NO NAME=日南ってことはバレていないんと思うけど」
そう言ったところで、日南は深い溜息をつく。
「もうほとんどバレてるようなものじゃない。けどまぁあなたのことだからいつかボロが出るとは思っていたし、それはいいわ。予想より早かったけど」
「すみませんでした……」
「でもまだNO NAMEが私ってことがバレていないならなんとでも誤魔化せるわ。ただ、相原にはその話を広めないようにそれとなく釘はさして置いて」
「はい、ほんとにすみません……」
俺が謝ったところで日南は、そうだ!とでもいうように手をポンと叩く。
「相原もアタファミをそこそこやってるんでしょう?せっかくなら私も対戦がしたい!」
若干目を輝かせたようにそんな事を言い始める日南。
なんというか、アタファミのことになると本当にいい笑顔をするよな、相変わらず。
「いや、せっかくならって」
「中村との一件や、優鈴の誕生日プレゼントの買い物の時にあなたは相原と対戦していたけど、私は身バレするわけにはいかなかったから見ていることしかできなかった。けど、あなたとNO NAMEの繋がりが知られているならネット対戦ができるじゃない」
「えっと、まぁそうかもな」
「というわけでよろしくね?」
「……はい」
「けどおまえと相原の対戦カードか。結構面白そうだな」
「あら。それは私が負ける可能性がある、ということかしら?日本で2位の私が?」
その言い方、むしろお前は絶対に負けないという自信があるのかよ。
……まぁあるんだろうな、コイツなら。
「お前こそ、誰が相原の相手をしていたと思ってる?」
俺は不敵に笑ってそう答える。
日本で1位の、ファウンド使いに何度も何度も挑み続けていたんだぞ。
「ふぅん?俄然楽しみになってきたわ」
そりゃまだまだ素の実力は圧倒的にNO NAMEが上だろうが、ただやられるだけではないのがあいつだ。
舐めてかかったら、何か起きるかもな。
「それはそれとして、ちゃんとした課題の方も考えていきましょう。話がそれちゃったけど、あなたが『本当にやりたいこと』を見つけるために菊池さんと関係を進める。そのためにやるべきことを整理していきましょう」
こうして日南との『人生攻略』は再スタートが切られた。
***
そして日南との約束を守り、都合がいい日で相原を家に呼んだわけだが……。
「こいつッ……!ぶっ潰ぶす!」
相変わらずの口の悪さ。
こんな調子で相原は日南に容赦なくボコボコにされていた。
しかし改めてNO NAMEの試合を見ているとなかなかえげつないな。
リスク・リターンが徹底されていて淡々と相原を追い詰めていく。
合理性の塊みたいな攻め方がとても日南らしい。
けど、俺の見立てでは相原も上手くかみ合えば日南相手でも一矢報いる可能性はあると思っている。
俺の心情ではNO NAMEをライバルとするなら相原は弟子みたいなもの、今この場では内心相原を応援していたりする。
そして数戦後。
「おぉい!友崎、みたか!ついに1勝挙げたぞ!」
「おおっ!やるな相原!」
相原は本当にNO NAME相手に一本取ってしまった。
試合の内容は相原の作戦勝ちと言っていいものだ。
NO NAMEは動きが驚くほどに合理的で、やられたことに対しての修正が恐ろしく早い。
相原は試合中にそれを察したのか、何試合もしている中で実力差を受け止め、有利になる試合まで爪を隠し続け、ついに訪れた好機に初見殺しの策を全て解き放った。
修正が恐ろしく早いNO NAMEに対して同じ策は2度も効かない。
それを想定して何種類もの一発技のビックリ芸を連発。
2回目には対応されてしまうのなら、対応されない初回をどこかの試合に集約して決めればいい。
そんな試合内容だった。
前々から思っていたが、相原は流れを見極めるのがうまいというか、勝負どころの勘がいいんだよな。
アタファミ以外でも言えることだが、トータルでは負けていようと必ず何かを仕掛けてくる。
この抜け目のなさがあるからこそ、どの場でも相原から存在感が出ているのかもしれない。
その後の相原のNO NAMEに対しての対応に冷や汗を流したものだが、まぁ収まるところで落ち着いでよかった。
いや、本当に。
その後もバカをやる相原を横目に思う。
……今回俺は色々とあったけど、問題が解決できたのは間違いなく相原のおかげだ。
相原には度々助けて貰っているし、時たま俺のことを親友だなんだと言ってくれているが、俺はその言葉に対して誠実でいられただろうか?
コイツに、何かを返せていただろうか?
今までは課題などの思惑があったが、これからは少しはコイツのいう親友……に近づけるようになりたい。
と漠然だがそう思った。
次話から原作の4、5巻の話に入っていきたいと思います。
ただ最近ちょっと忙しいので更新は遅いかもです。