弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
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夏休み明け初日の登校。
30日以上の長い休みのあとに学校となるとなんとも気怠さが拭えない。
まぁ、学校自体にはちょくちょく部活で来ていたんだけどもね。
そんな事を思いながらも意外と早く教室についてしまった。
……実は久々の登校で前は何時の電車を使っていたか忘れていて、今日は1本速いので来てしまった気がする。
教室に入り自席にカバンを置く。
初日のため体育館で始業式があるが、それでもまだ早いな。
いつもは俺より早くに来ている隣の席のたまも、さすがにまだ来ていないようだ。
ただ、逆側のとなりの席の神前……神前真央は席に付いて暇そうにしていたのでなんとなく声を掛ける。
「おー、おはよう神前。朝早いな」
「おはよー。相原も早いじゃん、なんか珍しい」
「んー、久々すぎて電車の時間を間違えちゃったわ。もっとゆっくりしてくればよかった」
「あはは、それふつー間違える?ってかさ、カバンのその、えーと、変なやつなに?」
そう言って俺のカバンに付いている猫の埴輪のようなストラップを指さす神前。
「選んで出た言葉が″変なやつ″かい。まぁ、なんだろね。友情の証?らしいよ。みみみからもらった」
「へぇー、みみみから?あ、そういえばそういえば!夏休み前から気になってたんだけど、なんか前よりみみみと仲いいよね!なにかあったの!?」
急にテンション上げて質問をしてくる神前。
いやまぁ言いたいことはわかる。
泉といい女子は本当に好きだよな、そういう話。
「色々あったけど、あんまり言いたくない。あとこのストラップは他にも日南とかたまとかも持ってるから」
「ふぅーん、そうなんだ。でも言いたくない、かぁ。あはは、もしかして告白して振られでもした?」
「ぐ、それは……」
「え……?その反応、マジ?なになにほんと!?」
何でもないことのように核心を突いてきて、反射的に反応してしまった。
しかも、なんかめっちゃ楽しそうにしてるし。
ってかコラ、相手が振られたっぽい事を理解したなら楽しそうにせずに配慮したらどうなんだ。
「べつに、マジっていうか……。まぁ、いいか。隠してるわけじゃなかったし。そーそー、1学期終わりくらいに告って、振られたわけ。ってことでもういいでしょ、この話」
「いやいや、よくないよくない!超気になるんだけど!ってことは相原から告白したわけ!?しかも振られたの!?それで……」
と、神前から質問の嵐がつづく。
それとなくぼかすところはぼかして答えられる事だけ答えるが、質問はどんどんヒートアップしていく。
幸いなのはテンションはめっちゃ上がってるのに何気に周りに配慮して微妙に小声なことか。
「おーっす!なんか盛り上がってるね!こそこそと、エロい話かぁ!?」
そんなところでちょうど教室に入ってきたみみみが神前のテンションに釣られたらしく、その元気な声とともに話に入ってきた。
助かったわ、ナイスみみみ。
あとは任せるぞ。
「おはようみみみ、お前の話をしてたとこ」
「あはは、ご本人登場じゃん!」
「え!?つまり、私はエロいってこと!?」
え?
まぁ、そうだな。
「んやね。さっきちょっと失言して、一学期終わりの話をあれこれと……。もう疲れたからあとはみみみに聞いて」
「みみみさ、相原から告白されて、それを振ったって本当?」
「え!?ちょ、ちょっとはらみー!それ拡散しちゃだめでしょ!?」
俺だって別に拡散するつもりはなかったんだが。
つーか1学期終わりのあのバタバタも、友崎が目立ったせいでクラス内ではなかなかインパクトあったからなぁ。
「この反応、本当なんだ!?」
「え、ちがくてね!?」
「ま、こんな感じだからさ。俺は口滑らせちゃったけど、あんまり言いふらさないでくれると助かる」
「んふふ〜、考えとくね」
めっちゃニヤニヤしながらそういう神前。
だめだこりゃ。
それから少しして神前は紺野が来るとそちらのグループの方に向かい、みみみもカバンを机を置くとともに他のグループへと混ざっていった。
俺は、そろそろ時間的にはちょっと早いけど別にいいか、と思いながら始業式のために体育館へと移動した。
***
そしてつつがなく始業式は終わり、再び教室へ。
「あ、きたきた!はらみー!」
「お?おぉ。なになに?」
教室に入るなり日南やたまと話をしていたみみみに呼ばれ、そちらに向かう。
まぁ、俺の席の場所だが。
そこには、俺の隣のたまの席にスクールバッグが3つ。
そして、どのカバンにもジッパーの部分に、あのストラップがついている。
「ほら見て。全員カバンにつけてきた」
「息ぴったりだね」
「おぉー、俺も俺も」
そう言って、自席に置きっぱなしだったカバンの向きを変えてみみみ達にストラップを見せる。
「おぉ、さすがー!」
「あとは、友崎だね!」
なんだかんだこれを貰ったのは結構嬉しかったしな。
俺のスクールバッグも何も付けてなかったからちょうどいいやって感じにそのまま付けたんだ。
大事なものはしまっておく人もいるだろうが、俺は物は使ってこそ意味があると思うんだよ。
「あ、ブレーン!こっちこっち!ひっさしぶり~!」
「お、おう」
急に呼ばれてビックリしながらも、自席からこっちにやってきた友崎。
「みてみて、友情の証!みんなカバンにつけてきたよ。友崎は?今ならカバンにつければおそろいになれるね!」
「えーと……いや、俺はいいよ」
「ガーン!断られた……。たまぁ〜慰めて」
「ちょっ!急に抱きつかない!」
みみみとたまは相変わらず仲が良さそうだ。
それを楽しそうに見ている日南と友崎。
まるで保護者だな。
「友崎よっす。つか、あんま久しぶりって感じしねぇな」
「まぁ確かに。夏休み中も相原の家にはゲームしに行ってたしな」
それもそうだ。
週に2くらいのペースで遊んでたような気がするわ。
「2人ってそんなに仲良かったんだぁー!」
「んー、実は家も近いしゲーマー同士だからかな。アタファミとか、俺の秘蔵のレトロゲーコレクションを色々やったな」
「この前はえらいクソゲーをやらされたな……。車の免許を取ろう、みたいなやつ」
「あれ面白かったな!車を動かすたびにクラッチを切れ!って怒られまくったし、車や壁に何回ぶつかったことか」
「どんなゲームなのよ……」
稀にゲーマーなところを覗かせる日南だが、俺と友崎からろくでもない単語しか出ないせいでえらいクソゲーだと察したらしく、軽く苦笑いだ。
それからしばらく話すと教室のチャイムが鳴る。
ほぼ同時に担任の川村先生が入ってきたので、全員が自席へと戻った。
今日は二学期の初日なので1限はロングホームルームで丸々使うことになる。
川村先生は快活な声で説明をしながらプリントを配っていく。
「というわけで、お前たちも2年だがそろそろ進路について本格的に受験対策などの授業が増えてくる。今日は最終進路調査と選択授業についての説明をする」
配られた紙に目を落としながら話を聞く。
進路、そろそろ決めないとなのか。
配られたプリントはほとんど進学を前提に組み込まれている。
俺も行き先は決めていないが、進学とは思っている。
最初は専門学校に行きたって言ったら母さんから大反対されたからなぁ。
素直に行ける範囲の大学に決めるのが一番か。
あとは、選択授業ね。
こっちは俺の得意分野が理数系だから悩む余地はあまりないな。
……ただ、来年のクラス分けにも繋がってくるのでみみみ達が何を選ぶのかは気になるところだ。
いや他人どうこうで変えるつもりはないけども。
そんな事を考えながら、川村先生からの説明も一通り終わる。
授業終わりまで10分ほど残っているな。
「よーし残りの時間は、3週間後にある球技大会の話をしようか。まずは、キャプテンを決めようと思う」
「待ってました!」
竹井がそれを聞いて声を上げた。
球技大会かぁ。
キャプテンはクラスから男女それぞれ1人ずつ選ぶ必要があるそうで、主に他クラスと話し合いで競技の決定や当日の準備、後はクラスでのチームの割り振りなどをする必要があるとのこと。
「おれ、やるっす!」
竹井がそんな面倒くさい仕事を真っ先に引き受けてくれたのは正直ありがたい。
「それじゃあ、男子は竹井で決定だな」
「っし!絶対サッカー取ってくるわ!」
「お前、去年もサッカーのキャプテンやっていきなり負けてただろ?」
「いっ!よく覚えてるなぁ修二……」
そんな中村のイジリと竹井の反応でクラスで笑いが起きる。
ちなみに、竹井のクラスに勝ったのは俺のクラスだった訳だ。
「で、でも今年は大丈夫だって!俺に修二に、相原もいるし!負ける気がしないっしょ」
「ま、そうだな」
そう言う竹井と中村。
まぁそれはたぶんその通り。
つーか、なんなら俺1人でもサッカー部以外の連中が何人いようが全員抜いてシュート決める自信あるぞ。
去年ですら俺自身がそこまで上手くなかったはずなのにいくらでもやりようはあったからなぁ。
……とはいえ、今年はサッカーになったらディフェンスに専念しようと思う。
なんというかこう、経験上はしゃぎすぎると痛い目見るからな。
チームプレイに徹したい。
逆にサッカー以外だとたぶん足引っ張るから介護して欲しいところだ。
「後は女子だな。誰かやりたい人はいないか?」
川村先生はそういうが、女子からの希望者は現れない。
そりゃそうだよな、面倒でしかないもん。
しかも頼みの綱の日南も生徒会長の仕事があり、掛け持ちはNGらしい。
「どんまい竹井、みんなお前とはいやだってさ」
「えぇ!?これってそういうことなの!?」
この重い空気を察したのか今度は水沢がそんなふうに竹井をいじる。
それにクラスないは笑いが起きるが……。
一部の女子たちは誰がキャプテンをやるかの問題が解決していないのもありなんとも言えない苦笑いみたいになっている。
「てかさー、優鈴がやれば?」
「え?」
誰もやりたがらずに気まずい空気の中、紺野の声が響いた。
泉も急に降られたのにびっくりしていた。
「だって去年キャプテンだったっしょ?今年もやれば?」
「えっと、いや〜……今年はやりたくないっていうか……」
「ふぅーん。じゃあいいけど」
おお、ここで断れるのは強いな。
NOと言えない日本人が多いから、やれば?と言われたらつい頷いてしまうのもよくあることなのに。
泉は特に察しがいい分、空気を読んで求められた役割をこなす事が多いからなんかびっくりだ。
とはいえ、また振り出しか。
というかてっきりみみみあたりがやるもんかと思っていたけど、今回はそういう気分でもないみたいだな。
男子キャプテンが俺だったら引き受けてくれたりしたんだろうか?
……いやいや、変な事考えたな。
「じゃあさ。平林がやれば?」
「……ぇ?」
紺野は今度は平林さんを指名する。
そこって接点あったのか、全然知らなかった。
「やんなよー。準備とか得意っしょ?」
「あはは、準備が得意って何ー?」
「でも、やってくれると助かるよねー」
わぁお、凄まじい同調圧力。
あれ、同調圧力とはちょっと違うか?
いやそこはどうでもいいがこの空気、あまり気分のいいものではないな。
とは言え女子の決め事なので部外者みたいな俺はただ成り行きを見守っていた。
「どうすんの平林ー。やってくれると助かるんだけどねー」
「そーそー」
紺野グループの秋山や隣の席の神前からも紺野に同調するような声が上がる。
まぁ2人は紺野には逆らえないからそれもわかるんだけどさ。
ちょっとだけムッとしてしまった。
「じゃあ、やります……」
「平林。これは無理やりやらされるものでもないんだぞ?」
「えっと……大丈夫です。はい……」
どう見てもやりたいという雰囲気ではないが、とりあえず女子のキャプテンは平林さんがやることになった。
……俺は部外者気取りなだけで、もしもこれが男子内で似たようなことになった時、俺はなんか行動できたのかね。
やらない理由を探しているだけの自分に少し嫌気が差した。
「というわけで、男子のキャプテンは竹井。女子のキャプテンは平林。ということで決定だな」
「オッケーっす!ミユキちゃんよろしくぅー!」
「は、はい。えーと、よろしく」
それに比べてこうやってフレンドリーに接する竹井がすげぇかっこよく見える。
行動を起こすやつの強さだな。
ちょっとだけ、キャプテンがただ面倒くさいだけの仕事だと思ったことを反省した。