弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
夏休み明け初日。
約ひと月ぶりとなる第二被服室での会議を日南と行っていた。
「まず、これからのことを決めていく前にいくつか状況の確認をさせてもらおうかしら」
「おう」
夏休み中にも色々な課題が出されていたので、それらの確認と言ったところだろうか。
「バイトについては研修が終わったのよね?その後の経過はどう?」
「あー、それか。研修は無事に終わって今月からシフトに入ることになってるよ。水沢とはたまにすれ違うこともあったけど、研修中ではなかなか会話する機会はなかったな」
夏休みに入ってすぐ、日南からの課題で俺はアルバイトを始めた。
それも水沢がバイトをしているカラオケ屋のバイト先というサプライズをつけられてだ。
とは言え、正直もうお金が心許なかったところだから、斡旋してくれたことには少し感謝している。
「そっちは特に変化はなしということね。じゃあもう一つ。風花ちゃんとはそれからどう?」
「ど、どう……とは?」
俺は若干言葉を濁しながら日南に質問の真意を聞く。
夏休みの後半、菊池さんとは……。
「どうとはも何も。貴方から告白してOKはもらったんでしょう?その後何か無かったのかってことよ。何照れているのよ、気持ち悪い」
ま、まぁそういう意味だよな。
夏休みの最終週。
俺は菊池さんに告白をした。
そこから、一応はお付き合いをさせていただくことにはなったのだが……。
「そうはいうが、菊池さんからも今の自分の気持ちが好意……あ、愛みたいなものかは分からないからそれをたしかめていきたい、と言う理由でOKだったからなぁ。それに、その話もたった数日前の話だから今はまだ何も」
菊池さんには、前から約束をしていた本の買い物を一緒に言った時に、今までの事……課題みたいな感じで話をしていたことなどを正直に話した。
花火大会のときのこと。
そこから色々考えて何が正しいのかわからなくなったこと。
相原と話をして前に進めたこと。
色々師事をしてくれた人と喧嘩をしたこと。
それらも含めてほとんどすべてを。
菊池さんはそれに対して、ここ数ヶ月の俺の変化に合点がいった、と。
さらにはどんどん変わっていく俺を見て、逆にいろんな気づきをもらうことができた、なんて言ってくれた。
そこからなんだろうな。
俺が前以上に菊池さんのことに惹かれている事を認識したのは。
「はぁ、数日あったらいろいろやれることはあるでしょ。まぁ過ぎたことを言っても仕方ないかしら。これからの事を考えていきましょう」
「はい……お願いします」
と言うことで夏休みの振り返りも終わり、今学期からの課題がスタートした。
「それじゃあ、中くらいの目標は一応達成ということね」
日南はそう言いながら黒板に書いていた目標、「3年に進級するまでに彼女を作る」に丸をつけた。
「かなりいいペースで来ているわ。この結果は数ヶ月前までのあなたでは考えられなかったものじゃないかしら?」
「まぁそうだな。というか俺自身がまだ何かの間違いなんじゃと思っているというか」
「けど、着実に進んでいる。マイナスからのスタートにもかかわらずこのペースで課題が進んだのは誇っていいことよ。改めておめでとう」
「あ、あぁ。ありがとう」
マイナスからのスタートかよ、とツッコミを入れるか悩んだが、だいたい事実ではあるし賞賛の言葉も本音に思えたので素直に受け取ることにした。
この結果自体はいろんな人の助けとか運が良かったこととかそういうのを数えたらきりがないほどあったけど、結果がついてきていることについて素直に嬉しいと思えた。
「ということで、新たな中くらいの目標を作りましょう。というか既に考えてきているんだけどね。次にあなたが目指すべきところはコレよ」
そう言いながら新たに黒板に書きながら説明する日南。
その内容は。
「『4人以上のグループで中心人物になること』よ」
「中心人物?」
えーと、ニュアンス的には伝わってきたと思う。
つまりは……。
「友崎グループ、みたいなものを作れってことか?例えるなら、中村グループとか紺野グループ的な」
「おにただ!」
夏休み明け初めてのおにただもらいました。
「これについてやり方は任せるわ。クラス内でもいいし、別に校内で完結させる必要もないわ。なんなら今あるグループを乗っ取ってもいいわよ。あなたのいう中村グループとかを友崎グループに変えちゃってもね」
「いや無理だろそれ!?」
あの中村と同じメンバーにいて、俺のほうが台頭するとか想像もできん。
というかそれはつまり潰しあいになるような……。
「期間は長めにとるつもりだし、世の中先のことはわからないわ。この目標は来年の夏くらいまで、約1年を目標とするからそのつもりでね?」
「うっす」
こうして俺の次の目標が定まった。
「そういえば、中くらいの目標は菊池さんとは関係ないんだな」
「そうね。どうせそっちは言われなくても勝手に進めるでしょ?やりたいことは自分で決める、だなんて豪語していたんだから」
「それはまぁ。そうかもだけど」
事実だけに言い淀んでしまう。
「それに最終目標はもともと私くらいのリア充になることでしょ?その方針に沿って内容を考えたつもりよ」
「あ、なるほど。たしかに」
「そ。リア充って定義は恋愛だけじゃないってことよ」
それでいえば日南も彼氏がいるというわけではなさそうだしな。
俺が知らないだけで誰かと付き合っているとかだったら知らんが。
「それじゃあ納得してもらえたみたいだから、次は小さい目標に行きましょうか」
「おう、わかった」
「それじゃあ、新しい小さな目標は」
日南は一拍の間をとって発表する。
「風花ちゃんとお互いの秘密を共有すること、よ」
「って結局こっちは恋愛関係なのかよ!」
そういう俺の反応を見て日南は相変わらずの嗜虐的な笑みを浮かべて笑っていた。
***
それから別々に分かれて教室に行き、クラスメイトに久々の挨拶やらをしてから始業式だの初日のロングホームルームなどが行われた。
ロングホームルームでは進路の話だったり、球技大会のリーダー決めで一悶着はあったが……今日は初日のため午前で学校は終わりということで直ぐに帰宅の時間となった。
そして
「うおー、ワンちゃんマジつえー!」
放課後、なんだかんだで中村達につれられて学校から最寄りのゲームセンターへと来ていた。
やっているのはそこそこ人気の対戦ゲームで、俺の座った向かい側の筐体には中村が座っており、たった今俺と中村が対戦をしてボコボコにしたところだ。
「ったく、お前つよすぎだろ」
「文也ってアタファミ以外でも強かったんだな」
「有名なゲームだし、一応そこそこ練習したからな」
中村とその後ろで眺めていた水沢が向こう側からこっちにやってきながらそう声をかけてくる。
「相原もたまにゲーマー自称してるよな、文也と対戦してみたらどうだ?」
「はっ、相手になんねぇよ」
「お、言ったな?」
水沢は相原を肘で突つきながられ提案をし、軽い口調で相原が答える。
しかし、今のはゲーマーとして聞き捨てならないな。
売られた喧嘩なら買ってやろうじゃないか。
……ゲームでならな!
「おう、アーケードはやらないので全くできん。つーわけで相手にならないので俺はやらん」
「って相手にならないってそっちの方かよ……」
「年がら年中金欠でな、アケゲーやる金なんてないっての」
たしかにワンプレイ100円取られると考えるとそこそこかかるもんな。
「そんなに金がないなら相原もバイトでもしたらどうだ?」
「あー、そういえば水沢のバイト先に友崎も入ったんだっけ?まぁ今は部活でなかなか時間取れないしなぁ」
「でた、常套句。部活やめれば?」
「考えとく」
「またでた、絶対やめない常套句」
相原と水沢はそんな軽いノリの会話をして笑い合っていた。
なるほど、こういうノリを会話の参考にしていこう。
……それから数時間ほどゲーセンにいたわけだが。
「修二、お前どんだけやるの?」
「なぁ修二〜、そろそろ帰らねぇ〜?」
苦笑しながら言う水沢に、それに便乗する竹井。
時計を見れば今が午後6時なので、かれこれ5時間くらいはここにいたことになるな。
ちなみに相原だけは「このあとは予定あるんだわー、悪い」みたいなことを言って午後3時くらいには分かれていた。
ああいう自分本意なところは強いよなぁ、あいつ。
「あー。そしたらお前ら先に帰っててくれ。俺はもうちょいここにいるわ」
あれ、これ俺も残るながれなのか?
俺も相原に便乗して帰ればよかっただろうか……。
いや、今水沢達に便乗すれば遅くないか。
「ええっと、俺も帰りたいんだけど」
「あぁそうか。じゃあな」
「お、おう」
提案はあっさりと承認され若干の肩透かし感があるが、帰れるのならまぁよし。
それから水沢の「じゃあ行くかー」という声に従って出口に向かって3人で歩き出した。
「にしても修二のやつ、こりゃあれだな」
「っぱそーだよね!喧嘩かなぁ、しばらくはこんな感じになるんかねぇ」
「喧嘩?」
「そういえば文也はよし子のこと知らないんだっけ」
「え、よし子?」
全然理解が追いつかない。
誰なんだよし子とは。
「あいつの母親。なんつーか、あいつの家面倒くさくてな。帰るのが遅かったり成績落ちたりするとそれはもう猛烈に怒るらしい」
いやよし子って中村の母親の名前かよ!
人の親を名前で呼ぶノリがよくわからん。
「あの様子じゃ絶賛喧嘩中だろ。あいつも面倒くさいからな。怒られると逆に反抗するやつだし、よる遅くに顔合わせない時間に帰るとか、知り合いの家に泊まるとかしてるんじゃねぇの」
「いや、子供か!?」
ついそんなツッコミを入れてしまった。
中村が聞いたら激怒しそうだが、まぁいないのだから問題ない。
「あっはっは!わかる、修二マジで子供だよなー!」
「それ竹井がいう?」
「えぇ、ワンちゃんひどくない!?」
「はっはっは!たしかに修二も竹井には言われたくないわな」
「タカヒロまで!?」
いつの間にか俺も自然とこんな返しができるようになってきていた。
さんざん相原の家でクソゲーやりながら更にアホをやらかす相原にツッコミを繰り返していたのは無駄ではなかったってことだな。
そんな感じで色々な話をしている中、水沢が一つ俺にこ質問をしてきた。
「……そういえばさぁ、文也。お前、菊池さんと付き合い始めたって話本当?」
「は、え、その話は……。い、いやまぁ。本当だけど」
「おぉー!相原の言ってたことマジだったのか!?ワンちゃんいいなぁーいいなぁー!!」
俺と菊池さんが付き合い始めた、ということは真っ先に相原に話をしていた。
それは元々アイツから"借り"として結末がどうなったかは話をすることを約束していたからだ。
それにまぁ……誰かに言いたかったとか、そういう思いもなかったわけではないけど。
それで、相原に話をしたら他の奴らにも教えていいのか?と言われたから、悩んだ末に別に問題ないと答えていた。
「お、相原の言う事なのに本当だったのか。ま、たしかにこういうものは隠しておくものでもないしな」
「そう、なのか?」
「むしろ、悪い事してるわけじゃないんだし隠すことでもねーだろ。どうせそのうちバレるんだから」
「はは……たしかにな」
過去の俺を振り返る。
水沢や日南相手には隠し事をしていても直ぐに何か察知されていたわけだし、感がいい人からしたらすぐに分かることなんだろう。
「だったら早めにポーンと言っておいたほうがいいんだよ。せめて、関わりが深い人間くらいにはな」
「そういうもんか?」
「そういうもんなんだよ。そういう意味では相原もよくやってくれたな。こんなおもし、じゃなくて大事な話をな」
「おい、本音が漏れてるぞ」
そんな賑やかに会話をしながらの帰宅だったが、なんとなく居心地は悪くないなと思えた。