弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
『1週間私とともに行動して、複数の男子や女子と喋ること』
月曜日の放課後にこの課題をこう言い渡され、翌日の火曜日。
課題の進め方について話を聞くために、俺は朝から第二被服室に来ていた。
少しすると日南もやってきて、作戦会議が開始される。
「じゃあ課題について詳しく説明するわ」
「おう」
黒板に書かれた文字を指さしながら説明を開始する日南。
「とは言えそこに書いた通りね。今回はそこまで難しくないわ。1日のうち何回か、私とともに行動してもらい、私と仲のいいクラスメイトと喋るだけよ」
正直『複数の男子や女子と喋る』と聞いたときはハードルが高いと思ったが、よく考えればその場には日南がいるのだ。
つまりウッドパルナ周辺でマチルダさんがついて来てくれている状態だ。
パパスのほうが有名だろうか?
あっちは片乳出してるおっさんだけど。
「まぁ、お前がいる分昨日よりは簡単か」
「そうね。それでこれを1週間。残り4日間行う。それが課題よ」
なるほど、まぁなるようになるだろう。
「これで会話のスキルを上げていく、ってことか」
「そんなところね。経験値稼ぎのようなものよ」
「なんか、RPGみたいだな」
「大体合ってるわ。貴方は昨日、単体の敵との戦闘を経験した。今日から行うのはグループの敵との戦闘よ。今の貴方ではすぐにやられてしまうところだけど、今回は私がいる。つまり、既にレベルの高いキャラを使ってのパワーレベリングね」
ゲームにたとえて話をするときのコイツは楽しそうだ。
たしかに、強力なNPCによる手助けっていうのはRPGあるあるだし、なんかやる気がぐっと出るイベントだよな。
こんな強いやつがいたら負ける気がしないぜ!みたいな感じがさ。
「やることは大体わかった。それで昨日言っていた情報を集めるってことにつながるんだな」
「おにただ!」
ホントに好きだな、そのセリフ。
「でも情報集めだけじゃ意味がないわ。情報を集めて、分析までしなさい」
「分析?」
「ええ。武器は装備しないと意味ないの。武器に限らず、集めたアイテムの効果を覚えないと正しく使えないじゃない。会話の運び方、距離の詰め方。そういうものを把握しないとアイテムを使えないまま抱え落ちするわ」
「なるほど……それで分析か」
アイテムの効果がわからなきゃ使うに使えない。
体力満タンなのに薬草を使ったって意味なんてないんだから。
「それじゃあ今日は放課後に声を掛けるから、それまでは自習としましょう」
「放課後?何をするんだ?」
「みみみと花火、それに男子数人を集めて駅まで帰るんだけど、そこにあなたも加えるのよ」
「ええ!?」
マジかよ本当に昨日より簡単なのか…?
そして、朝の会議としてはマスクの下の筋トレはOKを貰ったためマスクを外し、今度は背筋を伸ばす練習が追加された。
日南の言う三要素『表情』『姿勢』『体格』のうち『表情』で及第点が出たので次は『姿勢』ということだ。
姿勢を良くするのってお尻の筋肉がいるんだな、結構キツイ……。
***
放課後、朝に説明を受けていた通り日南から声をかけられ、みみみとたまちゃん、それにまだろくに話したこともない男子の松本大地、橋口恭也と帰路についた。
放課後黒板に絵を書いていたのは橋口だっただの、松本は筋トレにハマっているだの、そんな感じに会話のネタが飛び交う。
時折日南が俺にもバトンを渡すように話を振ってくれるので、そのバトンを落とさないように気をつけるように無難な回答をひねり出してなんとか駅まで乗り切った。
正確にいうと失敗はしているのだが、日南のフォローによってなんとかなったというところだ。
日南さん本当にありがとうございます!
駅についてこれでゴールかと思ったところで問題が発生した。
日南と俺は電車が逆方面なため、一緒に下校した6人のうち3人ずつに分かれることになる。
ただまぁ、ここまでは予想通り。
電車の十数分くらいの間なら間を持たすこともなんとかなる。
幸いにもこっち方面はみみみと大地であり、みみみのコミュ力は家庭科室の1件で身を持って知っていたわけだし、大地の方も俺とは比べ物にならないコミュ力を持っていたため心配することは何もなかった。
誤算だったのはみみみの最寄り駅が俺と同じ北与野駅だったということだ。
「こうやって2人で話すのって初めてだよね。ってちゃんと話したのも最近か〜」
「そ、そうだね。ってか昨日が初めてかも?」
「あっはっは、昨日の家庭科室の事だよね?あのときの友崎すごく面白かった!まさか、あんなネタを隠し持ってたとは!」
みみみはそう言いながら俺の背中をバシンと叩いた。
想像以上に思い切り叩かれ、痛みが背中を襲う。
「いった!げ、元気だねみみみは」
「そーお?ま、私は元気と笑顔だけで生きて行くつもりだからね!」
「それは、すこいと言うか大変そうと言うか……」
「大変そう?」
みみみはこちらを振り向き聞き返してくる。
「だってほら、笑顔にも元気にもなれない時もあると思うから」
「何いってんの、辛いときこそ笑顔!そうしないともっと辛くなるでしょ?」
そういえば日南も同じような事を言っていた気がする。
心と体はリンクするとか。
「たしかに、表情とか姿勢とか。それで心っていうか、気持ちも変わってくるよな」
「そーいうことです。それに、私が元気をだして頑張ってると、周りにもそれが移るみたいにみんなが元気になるのがうれしくてさ。それで、私ももっと頑張れるかなってなるの」
そう言いながらみみみははにかんだ笑顔を浮かべた。
みみみの笑顔の秘訣ってやつが少しだけわかった気がした。
俺としては、そうは言っても楽しくないときだってあるとは思うし、いつでも楽しむ必要もないんじゃないかという考えはある。
ただ、みみみの笑顔を見たらその考えもそれはそれでいいんじゃないかと思えた。
なんとなくマスクを使って練習をした『表情』を思い出す。
いつでも笑顔でいる必要はないが、笑顔でいられるならそれに越したこともないかもな。
「そっか」
「あ、友崎。今私のことバカにした?」
いろいろ考えていたせいで気の利いた言葉は見つからずそのまま相槌をうつだけの返事をしてしまった。
「え!いや、してないよ!?」
「うそ、今笑ってたよ!」
「え、いや、あーほら、ただの笑顔!」
そう言ってにぃっと笑う。
「……ぷっ!あっはっは!ひどい顔!」
「おい!」
「あっははは!冗談冗談!、うん、笑顔笑顔!でも友崎ってやっぱりたまに面白いよね」
「たまに、は余計だろ!?」
なんか初めは緊張してたけどもうそれもなくなってしまった。
ひどい顔で悪かったな!
「友崎もそうやって楽しそうにしてればいいのに。教室では暗いよね」
「余計なお世話だ。楽しめる時に楽しめればいいんだよ」
「へぇー。あ、そういえば友崎って最近ははらみーと仲いいの?なんか最近楽しそうに話してるよね。昨日とかはお昼も一緒みたいだったし」
はらみー、というのは相原だろう。
そういえば家庭科室でもそんな呼び方をしていた気がする。
「はらみーって、相原のことだよな?」
「そうそう、はらみーははらみーなのです」
しかし、教室での俺を認知していたり、昨日昼に相原といっしょにいたのを知っていたり、よく見ているんだな。
これが情報を集めるってことか。
リア充っていうのはこういうことを無意識にやっているんだろうか。
「あいつとは最近アタファミの話をする、かな。おれもアタファミ好きだからさ。まぁ他のゲームとかも好きなんだけど」
「あー!なんかめちゃくちゃ強いらしいね!なかむーもはらみーもリベンジしてやるって言ってたっけ」
今度はなかむー?
みみみはあだ名をつけるのが好きなのか?
もしかしてみみみというのも自分で付けたのが発端だったりして。
それともあだ名で呼ばれるからこそ、他人にあだ名をつけるのだろうか?
「ああうん。それで相原とは対戦してから話すようになった、って感じかなぁ」
「戦って友情が芽生える!おお、青春って感じだね!」
「まぁそうは言ってもゲームなんだけどな」
少し自嘲しながら答える。
「でも、相原は結構本気でアタファミやってて、俺に勝つためとかネット対戦で勝つためにって色々努力もしててさ、そういうの嫌いじゃないっていうか……」
途中からうまく説明ができず、何いってんだろ。と思ったところでみみみが同意する。
「あ、それはちょっとわかるかも。はらみーはそういう所あるよね。目標決めたらそこに向けて努力をしてて、なんかね、頑張ってるから応援したくなるっていうかさ」
たしかに、そうだ。
俺は本気で取り組んでるやつには結果がつくべきだと思っている。
そうじゃないと、なんか、理不尽だからだ。
「はらみーってサッカー部だけどさ、1年生のときサッカーはあんまりうまくなかったらしいよ」
「え、そうなのか?」
ちょっと意外だった。
上手いとか下手とか、そういう話しは特に聞いたことがなかったがよく中村といっしょにいるのを見て運動もできるやつだとなんとなく思っていた。
「らしいよ。でも今はなかむーも認めるくらいには上手くなったって。私も陸上部だからさ、グラウンドも近いしサッカー部が見えたりするんだけどね、はらみーは声出して頑張ってるの見えるよ」
「へぇ。あいつサッカーも頑張ってんだな」
「うん、だからさ、私も応援したくなっちゃうのかなー。それにそういうの見ると私もやる気出てくるから!」
みみみはそう言って笑った。
「あはは、なんか言ってて恥ずかしくなっちゃったじゃん!」
「自分で言っておいてなにを……」
「あ、ついでにさっきの聞いていい?楽しい時に楽しめればいいってさ。それって、普段は楽しくなくてもいいってこと?」
みみみは恥ずかしさを誤魔化したいのか話題を変えてきた。
「ああ、いやそうじゃなくて。なんだろう、楽しいことだけが正解とは限らないだろ?たぶん」
「ん……よくわからん!詳しく!ケーダブリューエスケー!」
けーだぶりゅー?
あーっと……kwsk、ね。
これを声に出して言うのは初めて聞いた気がする。
「俺はさっき言った通りアタファミが好きなんだけどさ。好きだからやってるわけで、楽しいからってわけじゃないっていうか」
「うーん、それって好きだから楽しいんじゃない?」
それは、そうかもしれないんだけどそうじゃなくて……。
うまく伝えられない自分がもどかしい。
「いや、うん、そうなんだけど。好きだからやってて、その結果として楽しさがついてきていると言うか。いやごめん、うまく伝えられなくて」
「んーん。でもそれ、ちょっとわかるかも」
「え?」
うまく伝わったのだろうか。
「なんか、友崎ってそういう所はちょっとたまに似てるよね」
「え、たまちゃんに?」
てか、それ似たことを相原にも言われた気がする。
俺としては理由を聞いて納得はしつつも、あまりピンとは来ていないのだが。
「んー、なんていうんだろう、あの子も自分を曲げないっていうか、曲げられないっていうか。そこがたまのいいところなんだけどね、そういうところがあって」
「まぁ、そうだな」
「でも、あのこのそういうところがすごいなー、私にはないところだなーって、思うわけなのですよ。だって私は折れまくり、折れて折れてなんとか楽しくしてやるーってボッキボキなの!」
……俺はみみみが話をうまく回すのは才能から自然と身に着けたものだと思っていた。
でも実際には周りを見て、空気を読んで、気を使って、そういった積み重ねでうまく回していたんだ。
「そう、だったんだ。」
「そ〜だよ〜、実は悩み多き乙女なのです。でも、みんなもそんな感じだし、たまに比べたら私の悩みなんて小さい小さい」
「たしかに、あの子は大変そうだよな」
相原から聞いた話を思い出す。
本当に、折れるということができないのだろう。
だから、時として中村のような我の強い人間達と衝突するわけだ。
「あ、わかる?でも、だから折れまくれる私があの子を守らないと、みたいなそんな感じなわけ!」
「支え合いってわけか」
「そーそー、支え合い!友崎いいこと言うね!まぁ私がたまのこと支えてるって感じだけどね!」
そう言いながらみみみはたはー、と笑う。
「あ、私こっちだから!またね、友崎!」
「あ、うん、また」
そう言いながら、軽く手を振ってみみみと別れた。
みみみは嵐のように去っていくのだった。