弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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夏休み明けの初週が終わり、金曜日の放課後の会議で日南から新しい課題が設けられた。

少し先の球技大会で、明らかにやる気のなかった紺野をやる気にさせる、というのが新しい課題だ。

 

そんな無茶な、とは思いつつも日南からヒントをもらい俺は動き始めた。

 

この課題はいわゆるRPGゲーム。

情報を集めてアイテムを集めて味方を集めて、そうして最終目標として紺野という大ボスを倒す。

それがこの課題というわけだ。

 

というわけで俺の隣の席で紺野と仲がいい泉や、土日には彼女である菊池さん、バイトで同じシフトになった水沢などから情報収集を始めた。

 

まぁ今わかったことは、「球技ならソフトが良さそう」とか「意外と仲間思い」とか「今も中村のことが好きっぽい」とか、それくらいだが。

 

とは言えそこから泉の協力のもと、今日の種目決めの中で女子の種目にソフトを押し込めたのだから小さいながらも前進はしているはず。

 

ホームルームも終わり放課後となったあと、俺は自席で悩みながら手帳を開いて今の課題をおさらいしていた。

たしかに前進はしているが、なんとなくだがまだキーアイテムを取得できていないような感覚だ。

 

日南はこの課題は1人ではなく周りの力を使うことこそ正攻法、みたいなことを言って…「よぉ友崎、何書いてんだ?」

「おわっ!」

 

考え事をしていたところに相原から話しかけられる。

 

「な、なんでもない!?」

 

驚きながらも慌てて手帳をカバンにしまった。

課題などについて気になったことをメモしている手帳だ。

アレを人に見られたら、『課題?紺野をやる気にさせる方法?え、なにこれキモ……』っとなること間違いなし。

故に見られるわけには行かない。

少なくても中村グループのメンバーには。

 

「なんだぁ慌てて。さてはエロいスラングでも覚えていたな?」

「そ、そんなわけないだろ!」

 

エロいスラングってなんだ!

けどそれ以上は深く聞かれなかったので相原なりにラインを見極めているのかもしれない。

 

そこから相原から話しかけられたことをきっかけに水沢や竹井、それに日南と泉があつまって中村の事を助けられないかという話になっていた。

 

 

…………

 

「うん、私もこの問題に無理やり立ち入るのはよくないと思う。それじゃ、こっちからの押し付けにしかならないもんね」

「そっかぁ……」

 

結論として他人の家族の問題に踏み切るのは辞めた方が良い、という話に落ち着きそうだが……。

俺が提案をするならここだろうな。

 

「けど、下準備をするのなら悪くないんじゃないか?」

「え、準備?」

 

若干うつむきかけた泉が俺の言葉を聞いて顔を上げる。

 

「そう。俺も、中村の問題には今不用意に踏み入るものじゃないと思う。けど、いつか中村が助けを求めた時に備えておくことはできるんじゃないか、と思う」

「……下準備」

 

日南が訝しむように目を細めてこちらを見る。

たしかに日南からしたら余計な手間を増やす提案かもしれないな。

 

「たしかに、直接中村を学校に引っ張り出そうとか親と仲直りさせようとか、そういう行動はだめだと思う。でも、状況を悪くしない範囲で現状を調べたり、助けるのに必要なものがあったらそれを用意しておくとか、そういう事はできると思うんだよ」

 

俺が今やりたいと思ったことがある。

それは中村を助けたいという泉を尊重することだ。

 

「そっか!先に準備しておいて、いつか役に立てばいいねってことだね!」

「そうそう!」

「うーん、そっ、かぁ……。そーだね」

 

先ほどから渋い顔をしていた日南ではあるが、泉があまりにも張り切りだしたのを感じてか正面から否定することはなかった。

……日南からしたら役に立つかどうかわからない行動というのは実に非合理な行いだろう。

けど、俺は今やりたいと思ったことを優先したいと思ったのでここは譲ってもらおう。

 

「ま、文也がそこまで言うならやってみるか?」

「ワンちゃんにさんせー!」

「ま、そうだな。やってみる価値はありますぜ」

「やったー!ありがとうみんな!」

 

水沢、竹井、それに相原もこの提案に乗ってくれた。

 

「うん、そうだね。友達のためだもん、やってみよう!」

 

そしてここまで状況が固まってしまえば日南もこの非合理に乗るしかなくなる。

 

「それじゃあ、出来ること考えよっか」

 

そして巻き込まれてからは日南の行動は早かった。

これ以上かき回されることを嫌ったのか、音頭を取り話の中心となって方針を決めていく。

 

「とりあえず状況が分からないと仕方ないよな」

「うん、そうだよね。修二から直接聞くか、状況を悪化させない範囲でお母さんから聞きだすってところ?」

「いや中村からはわかるけど、中村の母さんの方からは聞き出せるか?」

 

相原が若干驚いたように聞き返す。

それに対して日南は用意していたように答えた。

 

「ほら、修二の机の中にプリントが数日分たまってるでしょ?」

「ん、あぁ?……お!なるほど。これを届けに行くっていう口実で中村の家に行けば!」

「そういうこと!まー、聞き出すのは難しそうだけど、私ならできる!」

「たしかにそれなら可能か。じゃあ葵に任せていいか?」

「んじゃぁ善は急げか。俺は川村センセに許可もらってくるから話とかプリントとかまとめといて」

 

そう言って相原は教室を出ていった。

行動が早いな、口を挟む間もなかった。

 

こうしてサクッと話はまとまりそうになったが……。

 

「修二のお母さんと話す役、私がやってもいい?」

「えっと……」

 

「ううん、私がやりたい!」

 

この泉の反応は流石の日南も想定外だったのか反応に困っている。

日南の中では自分がやることが最も効率がいいと思っていたところだろう。

別に泉が信用できない、というわけではないのだろうが物事の中心になる部分は可能な限り自分で行おうとする奴だ。

 

「うーん……おっけ、任せた!」

 

結果、日南は折れることにしたようだ。

やりたいことを源動力にしてるやつは、時として力強いということを泉が証明してくれたな。

 

それから数分後。

中村の家に届けるプリントをまとめているうちに相原も戻ってきて方針だけ伝える。

 

「へー、泉が日南から代表者枠を奪ったんだ?日南に任せたほうが良かったんじゃないの〜?」

 

話を聞いた相原が泉をイジるように軽口を叩く。

 

「大丈夫!わたし、空気読んで話すのは得意だからね!」

「ははは、そりゃ頼りになるな」

 

泉はそう返してから相原を見て頷き、次に俺の方もチラリと見てからニヤリと笑った。

思い出すのは、相原の家で泉が周りの空気ばかり読む自分を変えたいと言っていた独白。

しかし、そんな自虐ネタみたいに言わんでも……。

相原もそれを察したのか笑っていた。

 

「荷物はオッケーだな。それじゃあ修二の家に向かうか」

「行くっしょー!」

 

こうして水沢の案内のもと、中村の家へと向かった。

 

 

***

 

 

それから約1時間程したところ。

 

「聞き出せた、というか。お母さんからずっと修二の愚痴を聞かされてた……」

 

中村の家に代表として乗り込んでいった泉が、おそらく20分以上も経ってからようやくでてきたが、言葉の通り愚痴を気からされていたようでグッタリしている。

 

「ほーら優鈴ちゃん、いいこいいこ」

「私は子供かっ!」

 

日南がからかうように泉の頭を撫で回す。

それに対して泉は抗議の声を上げるが、まぁ傍から見てもただのじゃれ合いというのがよくわかる光景だ。

 

「それで喧嘩の理由は?」

「そう!なんだったワケ!?」

「あ、それがさ!」

 

泉は一呼吸置いてから眉を下げながら言った。

 

「アタファミやりすぎてたから家でアタファミを禁止にしたら大喧嘩した、らしい……」

 

「…アハハハハッ!マジかよ!あ、アホすぎ、あはは!中村サイコー!」

「俺、竹井よりアホなやつ初めてみたかも……」

「それひどくない!?でも、修二ぃ……」

 

相原が腹を抱えて笑いだし、それを横に水沢と竹井は大きなため息吐いた。

この3人からはくだらない、という雰囲気が伝わって来る。

 

しかし、ちらりと日南の方を見る。

向こうも同じようにこちらを見ていた。

そして日南は俺と同じ考えだと把握した。

そう、俺と日南はこの3人と考えていることが違っている。

 

『アタファミ禁止なんて、いくらなんでもひどすぎる!!』

 

 

***

 

 

それからも中村の家の前から場所を移し、ファミレスに入って作戦会議は続行していた。

しかし、水沢や竹井は理由が理由だっただけにモチベーションはガタ落ちだ。

 

「はぁ。とは言え、だ。この時期にサボりすぎるとまずいわけだから、な」

「そ、そーだね!喧嘩は喧嘩なんだからなんとかしないと!」

「そ、そだなぁ〜」

「ははは、そ、そうだな。家でアタファミ出来るように、してやらない、と……くくッ!」

 

水沢はなんとか下がった士気を上げるように仕切り直す。

とはいえ、泉はまだやる気はあるようだが竹井は完全に意気消沈してしまっている。

相原は、もう駄目だコイツ。

 

「けど、これは何とかしないといけない問題って気がするな」

「そーだね!自分が好きなことを禁止されるのは、辛いことのはずだし!」

 

ただし、この中でも俺と日南だけは違った。

むしろさっきよりやる気が出ていると言っていい。

 

「なんだお前ら……?」

 

そんな俺と日南を見て訝しむ水沢。

その横で相原は俺がやる気になっている理由に察したのかこっちを見ながらニヤニヤしている。

 

そんな中で日南からは、飛び火を恐れたのか黙らせておけとでもいうような視線を一瞬俺に送ってから素早く話題をそらす。

 

「けど、やりようはありそうだよね!」

「ん?例えば……?」

 

その間に俺は相原に余計な事いうんじゃねぇぞ、という意味を込めて人睨みのアイコンタクトを入れるが、さっきから笑いをこらえているようでプルプルしていた。

すまん日南、だめだったかも。

 

「たぶん、アタファミをやると頭が悪くなると思っているんでしょ?なら……」

 

と、日南の説明が始まる。

 

簡単にまとめると、こういうことだ。

アタファミをやっていると頭が悪くなると思っているなら、その逆を提示すればいい。

 

つまり、アタファミをやっているメンバーでテストでいい点数を取り、それを中村のお母さんに説明することでアタファミはむしろ頭のいい運動になって頭が良くなる、と思わせるということだった。

 

そしてそのためにアタファミをよくやる俺と日南と相原、それに自ら立候補をした泉の4人で今週ある数学のミニテストを90点以上取って持ってくるいく事になった。

え、というか……。

 

「おれ、数学苦手なんだけど」

「うん。でも修二を助けるためだし、頑張ろう?」

「お、おう……」

 

これについては確実に俺が泉を焚き付けたことに対しての、日南からの報復だと思った。

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