弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
「たまとはらみーがふ、2人きりで帰っちゃった……」
「それを気にするならみみみもあっちに行けばよかっただろ」
ボソッと呟いたみみみの言葉に俺はそう返した。
「べ、別に気にしてないよ!?たまが襲われないか心配なだけだし!」
「気にしまくってるじゃねーか」
今度は水沢にツッコまれるみみみ。
その取ってつけたような理由が動揺を裏付けているんだけどなぁ。
みみみってこんなに分かりやすいやつだったっけ?
「い、いやぁそれより優鈴達だよね!あれもう駅の方向じゃないよね、どこに行くのかなぁ〜!」
「こらみみみ、出過ぎ出過ぎ」
誤魔化すようにみみみはグッと身を乗り出したところで、苦笑しながらの日南に引っ張られていた。
「こりゃみみみを連れてきたのは失敗だったか?」
「おおっと、いうねぇー?細かいところ気にしてたらモテないぞぉー?」
「ははは、十分間に合ってるから大丈夫」
「ほんと〜?なんだかんだで彼女いないじゃん、タカヒロ〜」
とは言え少しずつ調子は取り戻したようで、受け答えはいつも通りに戻っているように感じる。
「中途半端に作んねーだけだっての。てか、お前こそどうなんだ?彼氏とか」
「えっ、いや……。つ、作ろうと思えば作れるし!というか、そう!私にはたまがいるから!ねぇ友崎!?」
「いや、俺に振るなよ」
いつも通りに戻ったかと思ったけど、やっぱりそんなことはなかったわ。
みみみは誤魔化すように話題を振るなり、水沢にカウンターを食らってあえなくポンコツと化していた。
作ろうと思えば作れる、と言うならさっさとくっついちゃえよと思うのは俺だけではないはず。
「ふーん。ま、手遅れになっても俺には関係ねーけど」
水沢のそんな含みのある言い回しは、たぶん俺と似たようなことを考えているんだろう。
「あっみんな!修二達公園に入っていった!これきたっしょ!!」
「ちょっと竹井!声、声!」
俺等が後ろでごちゃごちゃ言っている間に、竹井の言う通り中村たちは公園入っていった。
それに対して竹井がはしゃぐが、想像より大きい声に日南が慌てて注意する。
中村たちはそのまま公園のベンチに2人並んで座っており、何やら話をして盛り上がっているようだが俺達のいる入り口近くまでは声が聞こえない。
「こっち向いてるし、これ以上は無理か」
「まって。あっちにも入り口があるからそっちを使えばもう少し近づけると思う」
「お、マジか」
「流石あおいー!」
と言う日南の誘導のもとベンチの裏側、用具小屋の影まで移動した。
距離もそこそこ近く、耳を凝らせば何とか声も聞き取れる距離だ。
この場の全員が2人の会話を聞き取るために息を潜める。
聞こえてくるのは最近あったこと、日が近づいてきた球技大会のこと、この前のサボりから色々勉強していたこと、そんなたわいない会話。
それでも2人は楽しそうに話をしていた。
「お前、最近なんか変わったよな」
「え、そう?」
「そう。前まで俺がちょっとサボったくらいであそこまで大騒ぎしなかっただろ。それに、球技大会のキャプテンも後から変わったろ?」
「えへへ、うん!平林さんが押し付けられたみたいでかわいそうだったし……私がやればエリカ達も少しはやる気を出してくれるかなって!せっかくならみんなで楽しみたいもん!」
「そういうとこだよ。ま、あんま無理すんなよ?」
「あ、ありがと……修二」
おぉ。
あの中村が人の心配をしている。
それについて同じような感想を持ったのか竹井以外の全員が若干ニヤニヤとしていた。
「ね、ねぇ、修二……!」
「なぁ優鈴。俺達、付き合うか?」
「え、ええ!?」
「うわ、うっさ」
「だ、だって修二が急に!」
「はいはい。それで、どーなの?」
「えっと、じゃあ。うん、よろしくお願いします。私も、修二のことが好きだから」
「……おう、よろしく」
照れを隠すような若干小さい声だったが、その声は俺たちのところまでもよく聞こえてきていた。
「ほら、行くぞ」
「うん!」
その後はすぐ、照れを隠すためか中村たちはベンチから立ち上がり公園の外へと出ていったようだ。
足音が遠ざかっていく。
しばらくしてなんとなく2人の気配はなくなったな思ったところで全員が息を吐き出す。
「はー!もう、行ったよね!」
「修二ぃ〜、めでたいなぁ〜!」
「そーだな、それにしもこれまで長かった」
「うん、ほんっとーに長かった!」
用具小屋の影から出て誰もいないのを確認したみみみがそう言い、続くように出てから全員が口を開く。
たしかに、水沢と日南の2人はずっと前から2人をくっつけようと色々やっていたもんな。
俺は合宿からそういうところにも協力したが、もっと以前から続いていたんだろう。
「いやぁー、青春を見た!いいなぁー、私も負けてられないね!」
みみみはそんな事を言いながら俺の背中をバシバシ叩く。
というか、いいなぁってなにと競おうとしているんだ。
叩かれた痛みからの不満も踏まえて、若干お前が言うなよ、と内心で思った。
「あぁー青春と言えば。そういえば、みみみも男子に告白されたって聞いたぞ?彼氏は作ろうと思えば作れるんだっけ?保留にしてるってわけ?キープとはやるねぇ〜」
中村を尾行しているときも思ったが、水沢はみみみと相原の事もさっさとくっつけようとしているのかもしれない。
正直、端からみたらこっちもこっちでなんで付き合ってないんだと思う時があるからな。
……その実、みみみは内心で相原に対して複雑な感情を持っていたりするからこんな状況になっているんだが、相原は周りに告白して振られたことは口にするのに、そこだけは話さないから水沢も知らないのだろう。
「ななななんでそれを!?それに、キープとかそんなんじゃなくて、ちゃんと断ってるから!」
「おー、振ったわけか。余裕だねぇ全然知らない人からとかだったわけ?」
「それは……も、黙秘権を行使します!」
「えぇー、私も気になるーみみみー?」
「ちょ、ちょっと!?あおいまで!?」
みみみは日南の言葉に対して「葵は知っているよね!?」、「裏切ったな!?」みたいな顔をしていた。
「はは……。でもこれで中村たちのほうは一件落着か」
「そ、そーだね!優鈴もなかむーも幸せそうでよかったね!」
俺のそのつぶやきに便乗してみみみが同意する。
「ま、そうだな。末永く幸せにしてほしいもんだ」
そういう水沢は、なんとなくだがこの中で一番うれしそうにしているように見えた。
***
そして翌日の朝。
泉本人から中村と付き合うことになったという報告を受けた。
周囲にはまだ伏せておきたいという泉の意向で、表立ってバレるまでは少しの間この前の中村のサボりを解決しようと動いたメンバー以外には隠しておくのだそうだ。
しかし、この前の水沢はこういうのは隠しておくものではない、と言っていた記憶があるが……。
俺はこの時は「時と場合によるのだろう。リア充たちにしかわからないルールがあるのかもしれない」くらいにしか思っていなかった。
「よ、文也。なんかまた考え事か?」
「水沢。いや、そんなんじゃないけど。とりあえずあの2人、良かったなぁって」
自席から中村と泉が話しているのを見ていたら、水沢から話しかけられた。
「そーだな。まだその事を表立っては言わないらしいけど。まぁたしかにエリカと優鈴でグループ内がおかしな事になりかねないからな、折を見て言うと思うから俺等は黙っておく事にするかって」
水沢は俺の考えていた事を読んだように俺の知りたかった内容を補足するように答えた。
水沢の事態を把握する力、強力すぎないか?
心読まれているのかってくらいに正確で時たまびっくりさせられる。
けどこれはちょうどいいと思い、少し前から感じていたことを聞いてみる。
「それってやっぱり紺野は中村のこと……」
「ま、そういう事。一度告白して振られているんだけどまだ引きずってるみたいでな」
「なるほど」
これは、使えるかもしれないな。
予定外のことも色々あったが、今もまだ小さい目標に向けて色々継続中だ。
その小さい目標、紺野を球技大会をやる気にさせるための情報、アイテムの一つを手に入れた気がした。
「俺としては、今度はそっちより一度告白して振られたもう一人の奴のほうが気になるんだけどな」
そう言うと水沢は中村たちから目を離し別の方向を見る。
視線の先を辿ると先頭の座席で馬鹿な話をしているみみみとたまちゃん、それに混じっている相原が目に入った。
なんか、昨日たまちゃんと相原が2人で帰ったことにみみみが今さらあれこれと騒いでるようだ。
それを見て俺も思わず「あぁー」とつぶやいた。
「あっちの頭いいけどバカな2人もまるっきり進展してねぇし。俺の周りにはバカが多すぎるな」
水沢は呆れたような口調でそう言いながらもどこか楽しそうにしている。
それにしても「頭いいけどバカ」か。
俺も同じような評価をされたっけ。
けど……。
「その言い方、同じタイプなら相性は良さそうだな」
「そのはずなのに、なんで振られるとかキープとかよくわからんことになってんだかねぇ」
水沢は肩をすくめてそう言う。
まぁそこは色々あったんだよなぁ。
これに関しては俺から言う事ではないから黙るしか無いけど。
「お?文也、お前のその顔。そういえば、あいつの告白の現場にもいたんだっけ?さては俺の知らないことも色々知ってるだろ?」
その言葉に俺はビクッと反応する。
いやだから、心読んでるだろコイツ……。
「う、そんなことは……」
「ははは、隠し事下手すぎか。ま、無理には聞かないけど。けどさ、修二達がようやくくっついたんだ。あとはアイツラだろ?」
水沢と相原の付き合いはいつからなのかはしらないが、それでも今の繋がりを大事にしていることがその言葉からは感じ取れた。
「水沢ってさ」
「ん?」
「結構世話焼きだよな」
「はっはっは!たしかに、俺もそう思った。ったく、どいつもこいつも不器用すぎてほっといたらなんもできねぇからな」
そう言って笑う水沢はやはり本心から楽しそうにしているように見えた。
少し前に言っていた通り、自分自身がなんでもこなせてしまうからこそ、なにかに夢中になれる人間が羨ましいんだろう。
そういう意味では中村も相原も、やる事を決めたらひたむきに進んでいくバカなところに惹かれているのかもしれない。
努力している人間を応援したくなる気持ちというのは、俺も少し分かるな。