弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん   作:mosumosu

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球技大会の優勝。

クラス全員で勝ち取った勝利の余韻は、ここ数日は教室の空気を温め続けていた。

 

ように思えていたのだが……。

 

「ぁー、今日もか」

 

昼休み。

昼食の後に友崎の席の近くで駄弁っていた俺は、声を潜めてそう零した。

俺の視線の先には、教室の前側で固まっている女子グループ——紺野エリカたちと、その少し離れた場所で自席に座りたそうにしているのに座れていない平林さんがいた。

座れていない理由は、平林さんの机に紺野エリカがドンッと座っているからだ。

一応、その隣の席が紺野の友人の神前なのでまぁ不自然ではないと言えばない、な。

 

「なぁ、本当に見ているだけでいいのかな」

「そうは言うけどなぁ」

 

この状況をなんとかしたい、というふうにつぶやいた友崎。

でもこの前言った通り、俺たちにできることは少ない。

下手にさわれば、余計にひどくなる可能性だってある。

まぁ、確かにこれはやらないための言い訳かもしれないけど。

 

「平林ー、これゴミ捨てといてくんない?」

「あ、ついでに私の分もー」

「えっと、でも……はい……」

「ありがとー、ミユキちゃん優しー。じゃ、お願いねー」

 

紺野達の声が、教室の喧騒に混じって聞こえてくる。

言葉だけ聞けば、友達同士の頼み事にも聞こえるかもしれない。

だが、そこに含まれるニュアンスは、明らかに「嘲笑」だった。

 

平林さんは、困ったように眉を下げながらも、断りきれずにゴミを受け取っている。

紺野たちはそれを見て、クスクスと笑いながら会話を続ける。

 

「……これは聞いた話なんだが、裏ではもっとエスカレートしているらしい。シャー芯がほとんど折られていたり、ボールペンのインクが出なくなっていたりとか」

「はぁ?どこ情報だよ。でもそれが本当なら……物を壊すのはやりすぎだわな」

 

友崎の言うことが本当なら裏で行われている事は既に偶然とかそういう話ではない。

 

しかし、表面上だけで言うならいじめと呼ぶにはまだ曖昧だ。

俺等みたいな男子が介入するには、理由が弱い。

下手に動けば、「男子に告げ口した」とか言われて、余計に平林さんの立場を悪くする可能性だってある。

……だけどこの状況。

 

『様子見が最善』とは言ったが、俺にも何かできることはないだろうか。

そう思い改めてこの問題について頭の中で整理しようとした時に……

 

「紺野!いつまでやってんの!」

 

教室内にまっすぐな声が響いた。

そうして教室内がシン、となる。

 

俺も突然のことに唖然としてそちらを見つめる。

声の先を見るとそこにはたまちゃんが立っており、紺野に向かってビシッと指をさしていた。

 

「そういうくだらないことは、やめる!」

 

それを聞いた紺野は強い視線をたまちゃんへと向け、不機嫌そうな表情をしたまま睨見つける。

 

「はぁ?何の話?」

「そういうのいらない!中村を取られたからって八つ当たりとか、あり得ない!」

「ふぅん?」

 

たまちゃんの言葉は、俺の想像をはるかに超えるほどに正しくストレートで……無配慮だった。

たとえこれが紺野でなくても、一悶着は避けられない一言だろう。

 

人を怒らせるには正論をぶつければいい、なんて聞いたことがある。

今のたまちゃんのひとことは、まさに紺野を怒らせるとびっきりの正論だった。

 

紺野は座っていた平林さんの机から降りる。

そして、たまちゃんを睨みながらゆっくりと歩いていく。

たまちゃんの前まで行き、威圧するように睨みながら顔を覗き込む。

 

「花火、どうしたの?震えてるじゃん」

 

そう言ってたまちゃんの肩に手を置く。

 

「う、うるさい!」

 

そして、反射的だったのだろう。

たまちゃんは紺野の手をパシッと叩いた。

 

「いったぁー。暴力はんたーい」

「あ、ごめ……。でもそんなに強くは……」

「先に手を出したのはそっちだから」

 

そう言うと、紺野は一緒にいた神前と秋山を連れて自席へと戻っていった。

 

俺の横で一部始終見ていた友崎がポツリと声を漏らす。

 

「これって、もしかして」

「……さぁ、どうだろうな」

 

友崎が言いたいことを察したが、互いに明確に言葉にすることはなかった。

嫌な予感はガンガンに働いているが、口にしたらそれが確定してしまうような気がしたのだ。

……ただの杞憂であればいいが。

 

 

***

 

 

そして、やはりと言うべきか。

翌朝に俺の隣の机、つまりはたまの席からガシャーンという大きな音が響く。

 

「あ、ごめーん」

 

そちらを見れば、わざとらしい声で形だけの謝罪をしている紺野の姿。

紺野は今日はたまの机を蹴り、机に乗っていた筆箱が地面へと転がったのだ。

筆箱の中身が床の上に飛び散る。

 

昨日たまちゃんが紺野に噛みついた事で、紺野はターゲットを平林さんからたまへと変えたということだ。

紺野はそのまま、よくつるんている神前の席へと何事もなかったように移動した。

 

……とりあえず、俺はたまの席が隣だ。

散らばった筆箱とその中身を拾う手伝い位はしよう。

そう思い自席から立った時。

 

「紺野!今のわざとでしょ!」

 

そんな、威勢のいい声がたまから発せられた。

一切の迷いのない、まっすぐな声だった。

 

「はぁ?証拠は?決めつけないでくれる?」

「決めつけじゃない!」

「てかさ、筆箱を落としたくらいでそこまで言うのやめてくんない?謝ったじゃん」

「謝ったとかそういう問題じゃない!」

「じゃあ何?また暴力?暴力はんたーい」

「な、ちがっ!あれは暴力じゃ……」

 

そんな喧騒が続く中、とりあえず俺は散らばったたまの筆箱の中身を目につく限り拾い集めてたまの机の上に置く。

 

「まぁまぁ落ち着けってたまちゃん。はい、中身はこれで全部か?見えるもの全部拾ったけどなんか足りないものないか確認しろよ」

「え、あ……うん、ありがと」

 

たまちゃんは紺野の態度が許せないという感じは出しているものの、落ちたものを拾った俺を無視もできないためか一旦視線を俺に向けお礼を言った。

 

「紺野も、たまは前に謝ったんだからその話はもういいだろ?ほら、お互い様ってことで」

 

とりあえずなんとかこの場は収められないかとそう声を出してみたが……。

 

「はぁ?相原、何急にでてきて割って入ってるわけ?というかあんたはソイツをかばうんだ?花火の味方ってわけ?」

「いや、かばうとかどっちの味方とかじゃなくてだな」

「つーかさぁ。これは私と花火の問題なんだけど。関係ないやつは出しゃばらないでくれる?」

 

ひえぇ…、とりつく島もねぇな。

関係ない、と言われたらまぁたしかに直接は関係はないかもしれん。

 

「……そ。じゃあお好きにどうぞ」

 

なんとも言葉に詰まってしまったのでそう言葉を残して自席へ座り直す。

べ、別に、怖かったから逃げたわけではないけどね……?

 

「はぁ、なんか冷めたわ」

 

そう言って紺野は仲の良いグループへと戻って言った。

なので、俺の行動は無駄ではなかったってことにしておこう。

 

たまもしばらくは紺野のことを睨んではいたが、それ以上は無駄と思ったのか視線を外して俺の拾い集めた筆箱の中身を確認し始めた。

 

そして一部始終を見ていたみみみと日南と友崎がたまを心配してかたまと席へと集まる。

 

「たまは、悪くないよ」

「……うん」

 

いの一番に口を開いたみみみ。

たまもそれに笑顔で返しはしたが、あまり元気がないのは目に見えてわかった。

 

「えっと。たまちゃん、大丈夫?」

「うん、平気だよ」

 

友崎もそう思ってかたまに言葉を投げかけていた。

 

「花火、大丈夫だから」

「葵……。うん、ありがと。あ、相原もさっきはありがとね」

「ま、何もできなかったけどな」

「そんなことないよ。これ、拾ってくれて助かったから」

「あぁ、なぁに、人として当然のことをしたまでよ。ほら、お前らも俺のこと褒めてくれてもいいんだぞ?」

 

しっかり礼を言ってくるあたり、たまちゃんのそういうところが人としてまっすぐしててさすがだよなぁ、なんて思いながらおどけて返した。

 

「褒めてもって、自分で当然のことをしただけって言ってるじゃねーか」

「俺はね、当然のことを当然のようにできた人間は褒められるべきだと思うのよ!というか、褒められたい!」

「それが本音かよ!」

 

うるさいぞ友崎。

この世の中、人として当たり前のことをするのだって難しいんだ。

それに俺は褒められて伸びるタイプなんだよ。

 

「はいはい。よーしよし、よくできましたぁ。偉い偉い!」

「バカにしてんのか?」

「あ、バレた?」

 

それに乗ってきた日南にツッコミを入れるとテヘッなんて言いながら舌を出してそう返した。

 

「あはは!でも私ははらみーのそういうところ、かっこいいと思うよ?」

「くぅ〜……やっぱりみみみとたまだけだ!わかってくれたり、お礼を言ったりしてくれるのは!」

「うーん、でも助けてもらったらお礼を言うのも当たり前のことだから」

「ほら!これこれ!たまちゃんのこういうところホント好き!」

「そ、そこまでいわれるとさすがにちょっと照れる……」

「あっ!だめだよ、私のたまには手を出させないから!?」

「いつも言ってるけどみんみのじゃないからね?」

 

こんないつもみたいなバカな会話をしているうちに、たまちゃんのさっきまでの暗い空気は少しは和らいだように感じた。

少なくても、この時は。

 

その後、チャイムがなりみみみたちは自席に戻っていく。

俺も自席に着くが、隣にいるたまちゃんに話しかける。

 

「あ、たまちゃん。最後に」

「ん、何?」

 

これだけははっきりさせておこうと思ったから、口にしておくことにした。

 

「さっきは紺野に言われて引っ込んだけどさ、決めた。どっちの味方?って言われたら俺はたまちゃんの味方だと言い切る。今回は絶対向こうが悪い。俺って実は、曲がった物が嫌いなんだよ」

「あはは、それは知ってる。だけど、ありがとね」

「おう。まだ何もしてないけどな」

「ううん、相原が味方になるって言ってくれて、やっぱり自分が正しいんだって思えた気がしたから。それに、気持ちだけでも嬉しかったから」

「お、おう。面と向かって言われると、それは、照れる」

「うん知ってる。さっきのお返し」

「むぅ、やるな」

「私も成長しているんだよ、残念でした」

 

笑いながら、そんな会話を先生が来る少しの間に話していた。

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