リーマンおっさん、童貞を極めて大魔法少女へと至る   作:霧夢龍人

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おっさん、大魔法少女として覚醒する

今から50年以上前、突如として世界を汚染する怪人という存在が現れた。人々を殺し、犯し、文化を奪い去っていく怪人達に、当時の人間達は手も足も出ずにただ駆逐されていった。

 

そんな中、悪逆の限りを尽くす怪人と対になるように、極小数の十代の“女の子”から人智を凌駕する特別な能力を備わった者達が現れる。これを境にして、人々は魔法少女と共に戦って怪人の数を減らしていった、というのが今の日本で習う歴史の基本だ。

 

さて、話を戻そう。

怪人が出現してから魔法少女が現れるまで、人類はただの家畜に過ぎなかったらしい。いかなる銃火器も通用せず、核による攻撃も奇怪な技術によって徒労と化したレベルだ。

 

つまり、ただの人間が怪人に勝てるわけが無いのである。

 

なのに───。

 

「ギャァァァアアアッ!?」

「ははは!楽しいねぇ〜救世主様っ!」

 

───なんで俺は戦う羽目になってるんだ!?

 

「お、降ろせ!頼むから降ろしてくれ!」

「えー?でも空から探した方が早いよ?」

「怪人より先に俺が死ぬことになるぞッ!?」

 

現在、雲が間近に見える高さに俺達はいる。

『逆転』の魔法少女サヴェンダーが言うには、普通人は空を飛べないという事実を逆転させて空を飛んでいるらしいのだが、本人にしか効果を得られないため、一緒に掴んで運んでもらわないといけないのである。

 

さっきまで家に居たはずなのに、いつの間にか見ず知らずの場所に居るのもこれが理由だ。怪人がいる所が遠い事実を反転させて、近くまでテレポート。その後は上空へ飛び立って怪人を捜索中だ。

 

身長的には俺の方が小さいため、サヴェンダーに後ろから抱き締められて運ばれている訳だが・・・如何せん怖すぎて笑えない。

 

「ていうか待て、俺は怪人を倒すのに同意した覚えはないぞ?そもそも魔法少女とやらになる方法も分からんのに、いきなり倒しに行くのは自殺行為だ」

 

実際問題、俺はこの子に無理矢理連れられて来ている。純粋な魔法少女が強いと言っても、童貞が純粋かどうか問われれば間違いなく否だろう。純潔を好むユニコーンも、全力フルスイングで膝蹴りかましてくるレベルだ。

 

だがそんな俺の指摘に、ニコニコとサヴェンダーは笑う。

 

「うーんとね。こう見えても私強い魔法少女だから、もし救世主様が怪人に殺されそうになったら助けられるよ!ここの怪人達は強くて面倒だけど、都市部から離れてるおかげで害はないし、全力で魔法を使っても大丈夫なの」

「・・・そうか?」

「うん、心配しないで!でもね、救世主様が怪人“如き”に出遅れるはずない、そういう“運命”なの。だから杞憂だと思うよ」

 

怪人如きって・・・その怪人と戦ってぶっ倒れてた奴の言うセリフでは無いが、謎にめちゃくちゃ信頼されてるんだが。その自信と信頼はどこから来るものなんだよ。

 

だがまぁ、ある程度安全は保証してくれるみたいだし、魔法少女として戦うつもりなんてサラサラないが一応やってみないと帰してくれなさそうだ。

 

そしてサヴェンダーにハグされながら空中を遊泳すること約数分、眼下に何か異様なものがいるのに気付く。

 

人間のような形をしているが、姿は全くの別物。黒と紫が混じった鱗のような皮膚に、何本あるか分からない触手がうねうねと動いていた。花弁のように広がる頭が、さらに気持ち悪さの拍車をかけている。

魚と人が混じったようなフォルムをしているが、人魚とかそういう可愛らしいものじゃない。もっと別の、姿が似ているだけのナニカだ。そして“ソレ”は、空中で見ている俺たちに気付いているかのように凝視してくる。

 

怪人の足元には赤黒い血溜まりと、緑色の人形のような肉片が落ちていた。

 

───アレが怪人か。SAN値チェックが入りそうな見た目してるなぁ、おい。

 

ってか、俺ってこんなに目良かったっけ?東京スカイツリーなんかよりも圧倒的に高い場所にいるのに、鮮明に怪人の姿が見えるんだが。

でもまぁ、今においては見えすぎるのも問題だ。

 

「あの血溜まりといい、人形みたいな肉片といい・・・人が食われたってことだよな?」

「そう、だね。だいぶ時間が経ってるみたいだから変色してるけど」

 

確認。というより否定して欲しい気持ちを込めてサヴェンダーを見上げれば、彼女は困ったように言葉を濁した。

俺はといえば、絶賛吐き気が催して口を抑えていた。

 

大人として情けないかもしれないが、サヴェンダーは顔を顰めるだけで吐き気を催すようなことは無いようだ・・・いや、この場合は“魔法少女達”はの方が正しいか。

 

きっと彼女だけじゃなく、他の魔法少女も人の死体を見ることに慣れている。慣れないといけない環境だったんだろう。

俺のように良い歳したおっさん(大人)が、小さく未熟(子供)な女の子護られてるなんて皮肉な話だ。普通は大人が子供を守るべきだろうに。

 

まっ、こんなこと言ってる俺も無力な大人には違いないんだがな。

 

「んで、俺はアイツを倒せばいいのか?ふっ、三秒で充分だな」

「おぉ流石救世主様!自信満々だね?」

「当たり前だ、あまり大人を舐めない方がいいぞ。三秒きっちりで死んでみせる」

「───えぇ、台無しだよぉ」

「しょうがないだろ?変身する方法知らないんだから」

「そうなの?私は変身したい!って思ったら勝手に魔法少女になってるからなぁ〜」

 

そう言われて実際に願ってみるが、見た目は子供中身はおっさんな俺が魔法少女になる!という意味不明な状況で無意識にストップをかけているのか、今来てる部屋着が勝手に魔法少女コスになる訳でもなく、ただ気恥ずかしくなるだけだった。

 

どないせぇっちゅうねんこれ。

 

「だめそう?」

「おっさんにはキツイみたいだな・・・」

「でも今は可愛い女の子なのにぃ!」

 

なんて騒いでいると、眼下の怪人がゆったりと俺たちに向けて歩いてきた。気持ちの悪い頭がユラユラ揺らいで、触手が更に動きを増す。

そして唐突にグググッと膝を曲げて、花弁のように広がる頭に付いた目がギョロギョロと動き始めた。

 

───来るッ!

 

「避けろ!」

「きゃっ!?」

 

直感的にそう感じた俺は、サヴェンダーの体を右に傾ける。瞬間、真横を怪人が通り過ぎていた。あと数秒でも回避が遅れれば、あっという間にミンチになっていそうな攻撃。

 

それを自覚した瞬間バクバクと鼓動する心臓の音が大きく聞こえ、自分の呼吸が荒くなるのを感じた。

 

「ありがとう救世主様、ちょっと油断した。流石にあれは今の救世主様じゃ無理だよね・・・よし、いっちょカッコイイ所見せてあげる!」

 

対してサヴェンダーは軽く笑みを浮かべて、やる気に満ち溢れていた。

 

なんで、この子はこんなにも元気なんだ。命が危ないんだぞ?いくら『権能』を持っていようが、年端もいかない少女でしかないんだぞ?なのになんで怪人の目の前で笑顔でいられるんだ?

 

理解の及ばない思考。その答えを見つけられぬまま、サヴェンダーは俺を地上まで運び、隠れられそうな場所に俺を置いていった。

そして「よし!それじゃあ行ってくるね!」なんてとびきりの笑顔と共に言い放つと、空へ飛び上がった怪人の元へと向かった。

 

「ふっふっふ、こんにちは怪人さん。早速で悪いけど、このサヴェンダーちゃんに倒されて貰うよぉー!」

 

『ま、魔法少女?あぁ、えさっ、えさっ、えさだぁ・・・ッ!』

 

隠れ場所から様子を伺う。

自信満々に言い放つサヴェンダーと相対する、花弁のような頭の怪人。餌となる魔法少女を見付けられて嬉しいのか、歓喜に身体を震わせていた。

 

怪人は人だけじゃなく、魔法少女も喰らうらしい。中には怪人との闘いに負け、そのまま孕み袋にされた子もいたとか。発見された時には廃人になっていたらしいが、その魔法少女の両親の心境は考えるべくもない。

 

「せぇいっ!」

 

サヴェンダーが何処からかハンマーのような鈍器を取り出すと、歓喜に震える怪人目掛けて思い切り叩き付けた。瞬間、響き渡る轟音。

地面と物凄い勢いで激突した怪人は地面にクレーターを作るが、その後何も無かったように立ち上がる。

シューシューと音を立てて回復している身体を見れば、先程の攻撃が大した痛手になっていないのは明らかだった。

 

『いたいいたいいたい!だが痛いだけだ!その程度で私は倒せん!見る限り、魔法少女の中でもそこそこの強さを誇っているようだが・・・易々と倒せると思うなァーーーー!!!』

 

「うわっ!?」

 

痛かったとほざいた怪人が怒りを顕にした。その怒りに呼応するように触手が生えた体がどんどん肥大化し、ワラワラ動く触手が植物のツタのように伸びていく。

暴れ出した影響で俺の隠れ場所がパラパラ崩れ、思わず悲鳴をあげた。

 

『んん?おい待て、そこに誰かいるな?』

 

まずいっ、聞かれた!

反射的に口を抑えるが、時すでに遅し。

正確に俺の位置を把握しているような歩きで近付いてくる足音が、死のタイマーのようにコツコツと音を立てて、心臓の鼓動を早める。

 

そして。

 

『みつけたぁ』

 

見つかった。

 

「ッ!?逃げ───」

 

『逃がすわけが無いだろう?』

 

花弁のような頭から覗く黒い目が愉悦に歪み、駆け出した俺目掛けて触手を飛ばす。

 

『少々餌としては少ないが、腹の足しにはなる』

 

その呟きが、絶望という重しとなって俺に降りかかった。

怪人は俺を食べる気だ。しかも肉片のひとつ残さず、愉悦に歪んだあの眼差しで捕獲するつもりだ。

 

緊張感が走る身体を無理矢理走らせ、触手の攻撃を避けて進む。緩慢な動きとは裏腹に、地面を大きく抉るような一撃は当たったら即お陀仏だろう。

食われる自分を想像して頭を振り、さらにスピードを上げた。

 

だが───。

 

「行き、止まり?」

 

俺が逃げた場所はどうやら悪手だったようだ。越えられそうにもない壁が立ち塞がり、逃げる俺にさらなる絶望を突き付ける。

 

後ろを振り返れば、すぐ側にまで怪人は来ていた。

 

『逃げられんなぁ?理解したなら食わせろ。楽に逝かせてやるから』

 

捕食者染みた顔を携えながら、下半身を覆う触手を用いて近寄ってくる怪人。そのうちの一本がうねうねと動き出すと、凄まじいスピードで俺の眼前まで迫った。

 

「っ、くる!?」

 

避けられない。反射的に目を閉じて、襲い来る痛みに構えていると・・・ザシュッと何かを貫くような音を耳が拾った。

目を開けてみれば、触手の進路を断つようにサヴェンダーが立ち塞がっていたのだ。触手は彼女の腹を貫いてなお、うねうねと動き出している。

 

そんな馬鹿な!?なんで俺を庇ったんだ!

 

「な、なんで君がッ!?」

「・・・へへっ、ごめんなさい。私が勝手に連れ出して、危険な目に遭わせて、格好つけようと思ったのに上手くいかなくて怪我させかけて。偶然とはいえ、普通に働いてるおじさんを巻き込んでるしダメダメでした。救世主様、怪我はない?」

「だからってここまでする必要はないだろう!?何が君をそこまでさせるんだ!」

 

血反吐を吐いてなお、笑顔で俺の心配をするサヴェンダー。

 

前々から思っていた。

魔法少女がどうのこうのと人々は言うが、年齢も見た目も普通の少女と変わりないような子達が何故、見ず知らずの人間を守るのか。

 

この時期は特に、特別な力に憧れるものは多い。かくいう俺だってそうだった。しかし果たして本当に、未来ある子達が命を懸けてまで人助けをする理由があるのかと。

 

その答えを、目の前の“少女”は持ち合わせていた。

 

「私が───魔法少女だからだよ?」

 

自分が魔法少女だから。

 

確かに俺はそこら辺にいるただのおっさんでしかない。

アラフォー間近で未だに童貞も卒業できないような非モテだし、かといって立派に歳を重ねているかと言われればそうじゃない。だから魔法少女の気持ちなんて分からない。分かるはずもない。

 

だけど、俺は立派な大人(おっさん)だ。

 

「ハハッ、当たり前すぎて忘れてたなぁおい。責任がないものの面倒は、責任のある大人が取るべきだ。それを子供に預けて、大人は応援するか傍観するだけ?おかしいだろそんなの」

「救世主、さま・・・?」

 

あぁ分かってるよ。

 

この糞みたいな正義感なんざ、ただの理想の押しつけに過ぎないってことは。自分自身でも信じられない。こんな夢みたいなこと、この歳になって妄想するなんて。

 

「子供が命かける世界なんてクソ喰らえだ」

 

魔法少女に変身する。そんなの出来るはずがないと思っていた。

だが何故だろう。

 

今なら変身できる気がする───ッ!

 

「───“変身”」

 

 

 

 

 

 

世界が、明滅する。

まるで星の誕生を祝うように辺りは輝き、七色の光が空を覆った。終わりなくキラキラ輝く天井、名付けるなら『虹の天蓋』。

 

空を余すところなく広がった七色の光は、次に繭のような形状を取った。一つの生命を生み出す象徴である繭は金と銀の眩いオーラに包まれると、徐々に少女の姿を形作った。

 

白銀の髪と金色の瞳が光を放ち、真っ白なドレスをはためかせて宙に浮き立つ少女。

 

人々は言う。

今日が彼。否、彼女が本当に“産まれた”日であると。

 

『なんだぁ?貴様も魔法少女なのかぁ?』

 

黒髪魔法少女の腹を突き刺した触手を手繰り寄せ、怪訝な表情を浮かべる怪人。だが現れた魔法少女?はその質問には答えず、目にも止まらぬ速度で腹に大きな穴の空いた黒髪魔法少女を抱き締めた。

 

彼女は穴が覗く腹に優しくてを添えると、じわじわ傷がふさがっていく。数秒もすれば、完全に傷が塞がった。だが痛みで意識を失っているようで、優しく横たわらせている。

 

「さて、俺が魔法少女かどうかって話だっけか?残念だが、答えはNoだ」

 

『ほう?だがどうでもいい。どうせ貴様も私が犯し、そして餌にした魔法少女のようにしてくれるのだから・・・さぁ、その余裕ぶった顔を歪ませてみろ』

 

お互いに余裕そうに笑みを深める。

だが怪人の方はその笑顔に冷や汗を浮かべていた。

 

怪人は魔法少女を感知できる。そのはずなのに、一切反応がない。倒れ伏した黒髪の魔法少女は感知出来ているから故障では無い。

なら、目の前の存在は一体なんだ?

 

理解不能の存在である少女に、徐々に恐れの感情を抱き始める怪人。

 

「ははっ、やってみろよ。俺は魔法少女じゃないし、お前に犯されるつもりもないからな。まぁ、強いて言うなら魔法少女じゃなくて───“大”人な魔法少女で、大魔法少女って言ったところか」

 

圧倒的なオーラを放ち、近くにいるだけで命の危機を感じさせる。咄嗟に後退りしてしまった怪人はプライドを刺激され、足を踏み出した。

 

それが自分の最期だとも知らずに。

 

『ウグォォォォ!!!!』

 

「それじゃ、さよならだ」

 

眩い光を放つ少女が、怪人の頭目掛けて拳を振り上げる。

 

『ヴッ!?』

 

思い切り振り抜いた彼女の拳は───怪人を一撃で消し飛ばした。




能力詳細

『逆転』
・“事実”を逆転させることが出来る(物、概念、生命体を問わない)

強力な権能(セレスティアル)だが、それ故に使い勝手が難しい。効果を及ぼせるのは対象一人だけだが、空間や時間に作用させる場合はその限りでは無い。
また一度発動するのに膨大な魔法少女ぱわーが必要なため、連発することは出来ないが使い方によれば、切り札(ジョーカー)たりえる力を誇っている。
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