リーマンおっさん、童貞を極めて大魔法少女へと至る   作:霧夢龍人

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おっさん、対決を挑まれる

魔法少女とは、『権能(セレスティアル)』と呼ばれる謎の力を身に宿す特異体質の少女のことである。

 

魔法少女ぱわーと呼ばれるエネルギーを燃料として権能を扱うことができ、能力の幅は多種多様。誰一人として能力が被ることはなく、大まかに三つの能力群から権能が発現するのだ。

 

一つ目は基本的な“励起身体系(トローニ)”。身体能力を上げたり、体の一部を大きくしたり、自身や相手の体に作用する能力が位置する。

二つ目は強力な“自然造化系(ケルビー)”。何も無いところから炎や氷などの自然現象を発生させることが出来る能力。

三つ目は最強格である“特殊概念系(セラフィム)”。概念を逆転させたり、時を止めたりすることが出来る能力のことだ。

 

以上“基本的にこの三つ”の能力によって、魔法少女達は怪人の脅威から私たちは守られている・・・ねぇ。

 

「出鱈目だなぁ魔法少女って。概念を逆転させるってそんなのありかよ・・・いや待て、この説明文から察するに黒白(サヴェンダー)のことか」

 

見慣れすぎててアイツが凄い魔法少女であることを忘れていた。

確か魔法少女の中でもトップ10に入る強さだよ!って言ってたな。

 

普通に考えて、逆転なんていう概念系の中でも強力な権能でさえトップ3に入れないんだから大分頭がおかしいな。

トップに至っては、自分が逆立ちしても勝てないと笑っていた。

 

そんな黒白は今、後輩と一緒にご飯を食べているらしい。

 

『魔法少女の権能解説書【初級】』と書かれた表紙の本をパンフレットホルダーに直し、学食に置かれたベンチでぼっち飯を嗜む。

 

周りにいる少女達は皆年齢が上下でバラバラだが、年齢差なんて気にしていないみたいに笑顔で話していた。

 

「若いっていいなぁ・・・」

 

身体は幼いが、精神的にはもうだいぶおっさんの気分だ。部下の鏑木ですら高校生からおっさんに見られるらしいので、なんなら俺はもうおじいちゃんかもしれない。

 

そういえばあいつ、俺がプールに誘ったときは毎回断るのに妙に懐いてくるんだよなぁ。未だに心配のメールも送ってくるし。

 

まぁ、これも俺の人徳が成す信頼関係というか?

あーあ、部下に慕われるというのも困りものだなぁ〜〜〜!

 

「あの用務員さん、なんでドヤ顔してるんだろ」

「さぁ?でもすっごく可愛い顔してるから、魔法少女なのかな・・・用務員の格好してるけど、もしかしたら迷子の可能性もあるね」

「確かに!ずっとキョロキョロしてるもんね・・・にしても可愛いなぁ」

 

・・・恥ずかしくなってきた、やめよう。

物珍しいから周りを眺めていたつもりだったが、そこそこ注目を浴びてしまったようだ。

 

若人の青春を邪魔する趣味はない。さっさと食べて立ち去ろう。

 

そう思って持参してきた弁当箱に橋を付けた瞬間、騒がしかった食堂が一気に静まり返った。

 

「なんだ?」

 

雑然とした人の波が割れ、その中心をコツコツ足音をたてながら歩く一人の少女。

 

金色の髪が歩く度に上下に揺れ、太陽の光を反射して輝いている。髪も瞳も雰囲気も、全てが眩い金色に包まれているように見えた。

ただその薄められた鋭い眼光だけが、底冷えするような冷たさを感じさせる。

 

だから思ってしまったんだ。

なんて勿体ないんだろうって。

 

未来ある子供なんだから、穏和な笑みを浮かべて笑っているべきだ。

悩みも葛藤も悲しみも多い時期だからこそ、ネガティブなものを吹き飛ばすくらいの気持ちで楽しむべきだ。

 

まだまだ若造の俺だが、割れた人波を歩く少女の顔が怒りと悲しみに苛まれているように見えてやまない。

 

思春期特有のイライラ?それとも機嫌が悪いだけ?

いいや違う。それなら怒りか悲しみのどちらかのみの表情をしている。俺が感じたのは、もっとドロっとした感情・・・憎しみだ。

 

なんでだろう、そんな気がする。

 

「あれ、なんかこっちに来てないか?」

 

海を割ったモーセの伝説があるが、その割れ目の矛先が俺に向いている気がする。

 

まさかそんな訳ない、てかそうであってくれ。

という俺の切実な願いは無情にも、「ねぇ」という冷ややかな声色で語りかけてくる少女の声にかき消された。

 

「・・・おっさんの俺に何か用か?」

「えぇ、話し掛けてるんだから当たり前じゃない・・・今おっさんて言った?」

「聞き間違いだろ。そもそも俺の方には、君みたいな美少女に話しかけて貰えるような覚えないんだが」

 

そう言った瞬間、豪ッッッ!!!と後ろの壁が爆散した。

 

「次は当てるわよ」

「わかった、分かることならなんでも話そう」

 

背中を冷たい汗が伝う。

どうやら憎しみの感情を抱いている要因は俺らしい。

 

街中でいれば目立つような美少女とは完全に初対面だし、忘れたとも考えられない。いつの間にこれほど恨みを買ったんだろうか?美人が起こると怖いというのは昔から言われているが、情けないながら俺も怖くてチビりそうだ。

 

「私が聞きたいのは一つだけ、お姉様のことよ」

「・・・お姉さま?」

「ッ、明夏お姉さまのことよ!!!」

 

明夏?・・・あぁ、黒白のことか。

しかもお姉さま呼びされているあたり、かなり慕われているらしい。

 

でもなんで俺に黒白のことを聞いてくるんだこの少女は。

 

「アイツがどうかしたのか」

「明夏お姉さま」

「・・・明夏お姉さまが何だよ」

「倒れていたところをベッドに運ばれて、服も変えられて、起きたら頭を叩かれたって言ってたわ」

「他には?」

「貴方がそのっ、か、可愛いとか!凄くたよ・・・り、になるとか・・・挙句の果てには救世主さま、なんて言ってたわ」

 

顔を歪めて悔しそうに話す美少女ちゃん。

表情から憎しみと嫉妬心が溢れていて、自分の“お姉様”が俺に取られたんじゃないかと気が気じゃないんだろう。

 

あらやだ可愛い。父性が湧き上がってきそうだ。

 

「ははーん?それで気に食わないから俺のところに来た、と」

「ち、違うわ!どっちが明夏お姉さまの後輩たりえるか、見物しに来ただけよ!」

 

どうしようこの子、とっても可愛いんだけど。

ここまで来ると一周まわって素直に見えてくる。そりゃあ黒白も可愛がるわけだ。黒白自身もとっつきやすい性格をしているため、後輩に懐かれやすいのだろう。

 

だとすると・・・黒白は高校一年生だと言っていたから後輩なら中学3年生くらいか。随分と大人っぽい見た目に惑わされるが、まだまだ子供らしいな。

 

モーセのように割れていた人混みが心配そうに俺たちを見つめている。この美少女ちゃんを見つめる目のいくつかに情熱的な視線が宿っている点から、この美少女ちゃんも好かれているようだ。

 

「んで、俺はお眼鏡に叶ったのか?」

 

「ふんっ!まさか。圧倒的に私に及ばないわ・・・何よその生温かい眼差し───良いわよ、気が変わった。あなた、私と戦いなさい?」

 

「・・・拒否権は?」

 

「ないわ。今から五分後に魔法修練場へ来なさい。そこで私が貴女を完膚なきまでに叩きのめして、明夏お姉さまに貴女の弱さを知らしめてやるわ」

 

まずい、どうやら墓穴を掘ったようだ。

いくら黒白が言うように俺がとんでもなく強い魔法少女だとしても、相手は確実に俺より経験が豊富な先輩魔法少女。

 

力の使い方すら曖昧な俺では、変身する前にコテンパンに殺られる可能性が高い・・・あれ、俺死んだ?

 

「覚悟しておきなさい」

 

そう言い放ち踵を返して魔法修練場がある方向へと歩みを進める美少女ちゃん。

 

「あの子大丈夫かな?」

「全く魔法少女ぱわー感じないけど、一瞬で倒されちゃうんじゃない?」

「さすがに可哀想かも・・・」

「困り顔もかわいい!!!」

 

俺たちの様子を遠目で眺めていた少女達もヒソヒソと話し込んでいた。

 

完全に調子に乗り過ぎたな。

これだから俺という奴は、部長から任された仕事を安請け合いしたせいで他の仕事が疎かになり、鏑木と陽音たちも含めた部下たちに手伝わせてしまった時があった。

 

あの時から全く反省出来ていないじゃないか───くっ、だがしかし。

ここで土下座で許しを請おうものならもし元の姿に戻った時に、俺って二回りも年下の少女に土下座したんだ・・・ってなっちゃう!それだけは避けたい。

 

だから何とかして対抗するしかないが、魔法少女とはいえ少女に手を上げるのも何だか気が引ける。

 

「せめて怪人なら───」

 

今更どうしようもないタラレバを考えながら、俺はベンチで頭を抱えていた。そんな時、ドタドタと騒がしい足音たてながら黒白が俺目掛けて駆け寄ってきているのに気付く。

 

「おーい!救世主さまぁー!・・・って、なんで落ち込んでるの?悲しいことがあったならお話でも聞くよ?」

「じ、実はな・・・」

 

俺を見つけて嬉しそうに駆け寄り心配そうな表情を浮かべてくれる黒白に、いったいどんな顔をして君の後輩と戦うことになりました、と説明すればいいのか。

 

内心で冷や汗をかきながら俺は事情を説明した。




本格的な百合はもう少し先でございまする
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