Blue Vast Archive 01   作:ススムシ

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お待たせしました、プロローグ完結編です。


P-02

連邦生徒会長、行方不明────。

 

「行方不明……?」

滅のキヴォトスの治安に対する信頼度が底なしになった頃に伝えられた連邦生徒会の状況。

七神リンによって伝えられた情報は、予想もしていなかった物だった。

──聞いていないぞ。

そう、聞いていない、寝耳に水だ。

真っ先に説明しなければならない事を、説明されていない。

そんな視線をリンに送る。

 

「……この方も知らなかったようですが。」

 

「……申し訳ありません。」

後で本当にゆっくり説明する予定だったんです。

詰めかけた少女達に視線を送ったまま謝罪する。

恐らくリンにも言わずに消えたのだろう、先程迄のやりとりを思い出し、此方も謝罪する。

「……いや、寝ていた俺も悪い。」

 

 

「思わず寝ちゃう程待たせたんですね……。」

「それ程忙しかったのでしょうが……。」

「行方不明なら行方不明って先に言っときなさいよ。」

「……」

 

容赦の無い三連射でリンが完全に沈黙。

庇おうとしたつもりがこれでは援護射撃だ。

「……説明を続けてくれ。」

「……はい。」

……後でしっかりと謝罪しなければ。

 

「……結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者が居なくなった為、

今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。」

 

行政制御権……今までの発言を整理すると、連邦生徒会はキヴォトスの中心であり核。

国を運営するに等しい権利……権力を持っていることになる。

そしてその(アクセス権)を握る連邦生徒会長は行方不明。

側近だろうリンや生徒会の誰にも告げずに姿を眩ませるとは厄介にも程がある。

()()()()()()()()()()()()()でも有ったのだろうが、鍵の手掛かりすら残して居ないようだ。

トップに据えられる程の人物なら、託すなり隠すなり出来た筈────

 

「認証を迂回する方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした。」

 

「それでは、今は方法があるということですか、主席行政官?」

「はい。」

……蛇に睨まれ、巻き付かれる様な冷たい感覚が側から伝わってくる。

『 どうしても、先生にやっていただくてはいけない事があります。』

 

『学園都市の命運を懸けた大事なこと……という事にしておきましょう。』

──リンに言われた事を思い出す、点と点が繋がった。

それと同時にリンと目が合う、彼女は笑顔のまま少女達に向き直り──

 

「この先生こそが、フィクサーになってくれる筈です」

 

 

──唯一の解決法を伝える。

 

少女達の内の一人が俺とリンを交互に見ながら捲し立てた。

「ちょっと待って。そういえばこの先生は一体どなた?どうして此所に居るの?」

「……リン、俺の代わりに説明してくれ。」

大人としては随分と気の効かない、ぶっきらぼうな指示。

そんな俺にリンは承知しましたとだけ返す。

…まだ怒っているのだろうか。

 

「……こちらの創成滅先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」

「行方不明になった連邦生徒会長が指名?ますますこんがらがってきたじゃないの……。」

──『私も先生が此所に来た経緯を良く知らないからです』

そうリンは言っていた。

恐らく生徒会長とやらは行方不明になる直前に指名したのだろう。

名前以外よく知らない大人を頼らざるを得ない程の混乱。

それなのに彼女(七神リンという少女)は俺を信用してくれた。

……『先生』という地位ありきでも。

その地位がどれ程信用に値するものなのかは分からない。

何時までもリンばかりに頼ってはいられない。

何か力になればと自己紹介をする。

 

「創成滅だ、呼び捨てでも構わない。」

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……」

「い、いや、挨拶なんて今はどうでもよくて……!」

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」

「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」

「……よろしく頼む」

 

……逆に手を煩わせてしまった様だ。

リンが容赦なく話を続けようとした所で、逆にスーツの少女──

──ユウカが強引に割り込んで自己紹介してきた。

その後ろでユウカに似たような服装の少女達が『ウチの生徒会がスミマセン』

……と書かれたボードを揚げている。

……俺ではなくリンに対してのモノだろうか、彼女らの表情は固そうに見えた。

 

 

ガラスに阻まれて聞き取りずらいが、発砲音が断続的に聴こえてくる。

……此処に来るのも時間の問題か。

リンにも聴こえて居たのだろう、一度窓の外に目をやった後すぐに本題に入った。

「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」

「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。」

「連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることも可能で各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です。」

 

 

 

……連邦組織の名の元に全ての学園の生徒を制限なしに加入させ、学園内で戦闘も可能。

AIMSですら法で雁字搦めにされ自由に動けない事が多かった。

だが『シャーレ』はそれを意図的に無視出来き、解決出来る。

キヴォトスだからこそ成立可能な組織。

随分と物騒な組織だと、滅は思う。自治区の長達は放って置かないだろう。

 

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……。」

「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。」

「先生を、そこにお連れしなければなりません。」

 

そう言ってリンは何処かに連絡を入れ始めた。

数十秒置いて、漸く相手が出る。……随分と悠長なものだ。

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……。」

どうやら移動手段を調達するためだったらしい。

リンが前もって出来ていないという事はそれだけ仕事に追われて居たという事。

申し訳ない事をしたと、俺を起こしに来た時と先程の失言を思い返す。

……後で何か菓子折りでも用意しよう。

そう考えていると通話相手のモモカと呼ばれた少女は、気の抜けた様子で報告する。

 

 

 

 

 

「シャーレの部室?...ああ、外郭地区の?そこ、今大騒きだけど?」

「大騒ぎ……?」

「矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ。」

「……うん?」

「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?」

「それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?」

「……」

「まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な。……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!」

 

額に青筋が浮かぶ程震えるリンに声をかける。

「……今此処で吐き出しても俺は気にせん。」

「……だ、大丈夫です……少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」

 

……菓子折りでは甘いな、なるべくゆっくり出来る良い店を選ぶとしよう。

 

 

 

 

 

じぃ、とリンが少女達を見る。

「……?」

大柄な体格の少女を初め、スーツの少女以外は冷静に情報を整理している。

恐らくこれからリンがやろうとしている事も理解しているだろう。

先程少女達が言っていた内容通りなら外は銃火器を持った者達で一杯。

ヘリが使えないとなると……徒歩で向かう事になる。

大小様々な銃器──ロケットランチャー含め戦車まで投入されている戦場を。

矯正局を脱出したという生徒の事も気になる。

連邦生徒会を恨む生徒──リンが居れば怪我では済まない。

リンは一度安全な場所で待機させるとして、次は此方の戦力だ。

散り散りになっていた不良達が戦闘の音を聞きつけて集まり、

シャーレに向かう俺達を見て、総攻撃をかける筈。

……そう考えて彼女ら4人の武器を見る。

── ユウカは随分と押しが強い、武器は……SMG。性格も加味して突撃向きか。

 

──大柄な少女はスナイパーライフル、後方で分析しつつ狙撃。

 

──銀髪の少女はアサルトライフル、中距離でスーツの少女の援護だな。

 

──眼鏡の少女はハンドガン、携えているカバンに注射器、衛生兵……というよりは救護担当か。

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです。」

「……えっ?」

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう。」

そう言ってリンは玄関前へと足を進める。

「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──砲弾の飛来する音と爆発音。煤けた風が広がる最中に俺達は居た。

「な、なに、これ!?」

不良達が容赦なく発砲する様子が見える、混乱に乗じた憂さ晴らしらしい。

思っていたより数は少ない、リン曰く生徒会の戦力である程度分散しているそうだ。

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!」

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……。」

「それは聞いたけど……!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけどなんで私が……!」

そうぼやくユウカに隙だらけと言わんばかりに不良達が集中砲火を浴びせる。

……が血を流して倒れる処か煙の中から傷一つ無い姿で現れ、逆に不良達に銃弾の雨を浴びせている。

どういう素材で出来ているのか、服が破れて……そもそも汚れてすら居ない。

「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません。」

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

……年頃の少女らしい言葉だな、と浮かんだ疑問(傷一つで済むのか)を握り潰す。

────キヴォトスで通常の常識(俺の知っている事)は通用しない───

一時間と経たない内に俺はキヴォトスに染まっていた。

 

 

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。」

「先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です。」

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……。」

「私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点こ注意を!」

「分かってるわ。先生、先生は戦場に出ないでください!私たちが戦ってる間は、この安全な場所にいてくださいね!」

 

名前以外よく知らない大人を、制御権奪還の為とは言え守る少女達。

生徒会長が俺を指名した理由は分からない、だが──

──今すべき事は理解した。

リンから念の為受け取っておいたインカムと端末を出し、ドローンを展開。

 

「今から俺の指示に従ってくれ。」

少女達に通信を繋ぎ、最初の指示を出す。

 

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ……先生ですし……。」

「分かりました。これより先生の指揮に従います。」

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします。」

「よし、じゃあ行ってみましょうか !」

端末を起動すると指示の出し易さを優先したのか、

少女達や不良がデフォルメされた状態でドローンの俯瞰映像が写し出される。

……先生なら、と言うのが引っ掛かるが……始めるとしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中危惧していた戦車に何度か遭遇したものの、全て撃破。

戦車に肉薄するユウカに肝を冷やしたりしたが残すはシャーレ付近の不良達を残すのみとなった。

「もうシャーレの部室は目の前よ!」

ユウカが味方を鼓舞(戦車を破壊しながら)すると同時にリンから通信が入る。

 

「今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。」

「ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。」

「似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください。」

「……だそうだ」

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 

 

───シャーレ地下にて

「……あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まあ構いません。」

「あの建物に何があるかは存しませんが、連邦生徒会が大事にしてる物と聞いてしまうと……壊

さないと気が済みませんね……。」

「ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです、ウフフフ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いた!!」

「はい。」

シャーレ付近の不良を一掃し、ユウカ達と合流する。

……全員怪我一つ無い事を確認し、安堵する。

「……砲弾を食らった時は肝を冷やしたが、無事で良かった。」

「心配し過ぎですよ先生、でも……ありがとうございます。」

「ええ、先生の指示のお蔭です。」

「うん、いつもよりやりやすかった気がする。」

「お疲れ様でした、先生。」

気を遣わせてしまった様で、逆に感謝されてしまった。

……感謝するのは俺の方だというのに。

戦闘の終了を確認し終わると丁度リンから通信が入る。

 

「『シャーレ』部室の奪還完了。私も、もうすく到着予定です。建物の地下で会いましょう。」

「分かった、先に入っておく。」

護衛の心配をされたが、もう安全だからと断った。

護送車の到着まで警備に当たる様指示を出し、地下までの階段を降りる。

……妙な胸騒ぎがするが、気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少しで地下といった所で一度足を止める。

──誰か居る。

気取られない様、一歩、また一歩と降りていく。

 

「う一ん……これが一体何なのか、まったく分かりませんね。」

地下室に置かれたデスク、その側に件の少女、ワカモらしき少女がいた。

手に持っている何かに気を取られている様で、此方に気付く気配はない。

……もう少し近づいてみるか。

 

「これでは壊そうにも…………あら?」

少女まであと1メートルと言うところで気付かれてしまった。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 

「あら、あららら……。」

「………………………………。」

 

 

 

 

 

「し、し……失礼いたしました一!!」

「………………………………………………………………………。」

 

見つめ合う事約一分、ワカモは飛び出る様に逃げていった。

すれ違う際頬の辺りが紅くなっていた様に見えたが……どうしてだろうか。

 

 

 

「お待たせしました。……何かありましたか?」

「……いや、大した事じゃない。」

それから数分、慌てた様にリンが地下室に降りて来た。

それとなくワカモの事を聞いてみたが、会う事はなかった様だ。

 

 

「……そうですか。ここに、連邦生徒会長の残したものが保管されています。」

「幸い、どちらも傷一つなく無事ですね。受け取ってください。」

 

リンが差し出したタブレット端末、これが生徒会長が残した物……。

「……この端末がそうなのか?」

「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物の一つ。」

「『シッテムの箱』です。」

『シッテムの箱』とやらを受け取り見てみるが、どうみても普通のタブレットにしか見えない。

 

「普通のタブレット端末にしか見えんが、これがどうした。」

「……実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明。」

「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはすだと言っていました。」

 

普通のタブレット端末……に見えるものが制御権回復の鍵か。

用意した人間(行方不明の連邦生徒会長)がそう言っていたのなら恐らく事実なのだろうが。

裏返すと会長が書いたのか『先生専用!』と書かれた付箋が貼ってあった。

……本人と連絡が取れるなら厳重に管理しろと言いたいものだ。

 

 

「……そしてもう一つ」

そう言ってリンはデスクの上の物を手に取り持って来た。

台車の付いた小さめの机に置かれたアタッシュケース。

中の物を見せる為、簡単なロックを解除し、開く。

────見覚えの有るものに、俺は言葉を失った。

 

 

『お前を止められるのはただ一人、俺だ!』

 

何度も目にした。

 

何度も俺の前に立ちはだかった。

時には肩を並べた事もあった。

 

無理矢理奪い、自分の力に変えた事もあった。

 

『それでも俺達は──仮面ライダーだろ……?』

悪意あるコピーが使われた事もあった。

 

 

『さぁ、世界を賭けた──戦いを始めよう』

 

『正義』の為に選んだ事もあった。

 

 

『METSUBOUJINRAI will be extinct.』

 

 

そして────

 

 

『お前らの覚悟は俺が受け止めてやるよ』

 

俺達を止めるために使われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『いくら生徒が力になるとは言え、生身の先生を戦場に出すわけにはいかない。』」

「そうして用意されたのが─────」

「この『ゼロワンドライバー』です。」

 

 

有る筈の無いものが。

そこにあった。

 

「私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれらを起動させられるのでしょうか、それとも……。」

 

絶句する俺を見て何を察したのか。

 

「……では、私はここまでです。」

「ここから先は、全て先生にかかってます。邪魔にならないよう、離れていますね。」

 

 

 

そう言って立ち去るリンを見送って。

 

 

 

 

 

 

 

「……お前が何を知っているのか分からんが──」

渡された端末に向き直り、起動する。

「──聞かせて貰うぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

Connecting to the Crate of Shittim……

 

システム接続パスワードをご入力ください。

 

 

 

パスワード……見に覚えの無い単語だ。

 

とりあえず──

 

────脳裏に浮かんだ単語を、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

……。

接続パスワード承認。

現在の接続者情報は創成滅、確認できました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シッテムの箱」 へようこそ、創成滅先生。

生体認証及び認証書生成のため、メインオぺレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

 

 

その音声を最後に。

──暗い地下室から、見知らぬ教室へと。

世界は塗り替えられた。

 

 

ログイン処理の後にこの空間へと移動した為、ゼアやアークの物と同じ電脳空間の様だが……

外に面する壁と天井の殆どが何かに抉られたように削れ、そこから青空と水平線が見えている。

鞄の掛けられた机が二つ、積み上げられた机の近くに並ぶ。

床一面に薄く水が溜まって鏡となり、空を反射し青く染まった教室。

俺と謎の少女以外もいない場所に俺は居た。

 

 

 

 

「くうううう……Zzzz」

 

先に教室に居たであろう少女は俺を気にする素振りすら見せず。

「むにゃ、カステラにはぁ。いちごミルクより。バナナミルクのほうが……。」

「えへっ。まだたくさんありますよお……。」

……………………………………楽しそうに眠っている。

 

 

初めて合う筈なのに。

俺はこの少女が今のように眠りこけて、寝言を言う様を。

 

『────あはは……。』

 

見たような気がした。

「すう……………すう……………。」

此所は景色も良い…………少し、待ってみるか。

少女のとなりに座り、景色を眺める。

どこまでも続く青い空と水平線が、心地よく思えた。

 

「…………………。」

待つこと十分少々、一向に起きる気配が無い。

頬をつついたり、時につねったり。黒板に爪を立てても微動だにしない。

俺は早急に片付けなければならんことがある、そう少し強めに揺さぶると漸く少女が目を開けた。

「……うへ……ひへ!?」

「ありゃ、ありゃりや……?え?あれ?あれれ?せ、先生!?」

「この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさか創成滅先生……?」

「……そうだ。お前はA.R.O.N.A……で良いのか?」

 

『シッテムの箱』を起動した際の『メインオペレートシステムA.R.O.N.A』というOS名。

……恐らくこれがこの少女の名前なのだろう、と勘で言ってしまったが……

「はい!私はアロナ!この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり!」

「メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

合っていたらしい。寝ていた時と同じ様に楽しそうに自己紹介をした。

……ゼアのAIみたいなものだと勝手に想像していたが、この少女、OSにしては随分と人間臭い。

 

「やっと会うことができました! 私はここで先生をずっと、 ずーっと待っていました!」

「……居眠りする位には待った様だからな」

「あ、あうう……も、もちろんたまに居眠りしたりしたこともあるけど……。」

「とりあえず……宜しく頼む。」

「はい!よろしくお願いします!」

……まぁ、アークのようなAIでないならそれで良い。

この世界に来て何度考えるのを止めたのか、俺はもう数えるのを止めた。

 

 

 

 

 

俺が本人である確認を終えた後、アロナに俺が知っている限りの情報を話す。

連邦生徒会長が行方不明になった事、そのせいでサンクトゥムタワーの制御が出来なくなった事。

────ゼロワンドライバーの起動が出来ないかという事も。

「なるほど……先生の事情は大体わかりました……ですがゼロワンの方は時間がかかりそうで……。」

「ああ、とりあえず今はサンクトゥムタワーの制御権を解決してくれれば良い。」

「ええと……。サンクトゥムタワーの問題は……まぁ解決できそうです。」

……まぁ、か。不安要素が残る返答だが、今はアロナに頼るしかない。

先にサンクトゥムタワーの制御権を回復し、ゼロワンはその後だ。

「……ならば頼む、最優先事項だ。」

「はい! 分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!少々お待ちください!」

「────サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……。」

「───先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。」

 

リンから受け取っていた指揮用の端末にメッセージが入る。

差出人は……連邦生徒会、タワーの復旧を知らせる物だった。

時間にして数秒、たったそれだけでアロナはタワーの制御権を回復して見せた。

まるで最初から、そう決まっていたかのようにいとも簡単に。

……思っているよりも優れたAIなのかもしれない。

 

「でも。大丈夫ですか?連邦生徒会に制御権を渡しても……。」

「承認する。元より俺には必要が無い。」

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい。 分かりました。」

「……サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。」

 

 

リンの声が聴こえると同時に元の世界──シャーレの地下室に戻る。

壁の時計を確認すると一分と経っていない。

明るくなった部屋を見回すともう一つ、デスクの上にアタッシュケースが置かれている。

ケースを開け中身を確認するとゼロワンの変身に用いられるプログライズキー。

ドライバー同様無い筈の物が、シャイニングホッパーまで揃っていた。

 

「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。」

お疲れ様でしたと、心底安堵した様子でリンは俺に礼を言う。

リン曰くこれで生徒会長が居た頃と同じ様に仕事が進められるらしい。

シャーレを襲撃した問題児や不良達についても生徒会の方で可能な限り追跡して討伐するそうだ。

タワーの制御権さえあれば仕事くらいは何とかなるのか、と感心する。

……これ以上力になれないのが少し悔しいが。

少しでも力になれたなら良かったと何時もの顔(仏頂面)で返す。

……笑顔くらいは覚えねば。

「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったようですね。」

 

待ってくれ、とリンを呼び止める。

「……これは俺が持ったままで良いのか。」

『シッテムの箱』とゼロワンドライバーを持ち、問い掛ける。

『箱』はまだしもドライバー……仮面ライダーはかなりの戦力になる。

それを知られれば権力者達の間で奪い合い、生徒達を巻き込んだ戦争すら起こりかねない。

ワカモのような生徒がいる以上、生徒会も手元に置いておきたい筈。

だがリンは──少しの間を挟んで、断った。

 

「……会長が先生の為に用意したものですので。」

やんわりと断られてしまったが、それ以上は言わなくとも理解出来る。

────それは貴方の物です。

頭の中でリンと『少女』の声が重なって聞こえた気がした。

 

 

「……分かった、その様にしよう。」

「……承知しました。では着いてきてください。連邦捜査部「シャーレ」をこ紹介いたします。」

リンに連れられ、シャーレのビル──部室と地下室以外何もないビルを歩き、エレベーターで部室に向かう。

「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぼでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね。」

「…………。」

 

『空室 近々始業予定』とシッテムの箱やアタッシュケースに貼られたメモと同じ字体。

連邦生徒会長が書いたであろう注意書きが貼られている。

リンが鍵を開ける間、辺りを良く見てみる。

微かに埃の積もった床に足跡。形からして不良達の物であろう足跡がロビー前まで続いていた。

不良達の持っていた武器に爆弾らしい物は無かった為、入ろうとはしたが諦めたらしい。

此処に来るまでに見た荒らされた部屋を思い出し、ため息をつく。

 

 

 

 

 

鍵と格闘すること数分、漸く扉の鍵が開けられる。

「……ここがシャーレの部室です。ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう。」

新しい紙の匂いと溜まった埃の匂いが鼻を掠める。

物を運び込んでそのままの状態で放置されていた部屋を見回す。

 

「俺はこれから何をすればいいんだ?」

壁に掛けられた銃器に、ホワイトボードに貼られた地図。

マグネットで留められた写真を見るにキヴォトスの大まかな位置関係を表したものらしい。

同じく留められたアルファベット表と、硝子扉の付いた棚に詰められた書籍。

先生、と呼ばれるのだから教諭の仕事も行うのだろう。

……連邦捜査局シャーレの所属でなければ。

 

「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない……という強制力は存在しません。」

「どんな学園のどんな生徒も、制限なく部員として加入可能。」

「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。」

「つまり、何でも先生がやりたいことをやって良い。ということですね。」

「……。」

やりたいこと、か。

一度消える筈だった俺にそんなモノはない。

……一つだけ有るが、それはシャーレの活動とは関係の無い事だ。

せめて最初の依頼くらいは決めておいて欲しかったと思う。

「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらす行方不明のまま。」

「私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません。」

「今も連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情……支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど。」

「……もしかしたら、時間が有り余っている「シャーレ」なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね。」

「その辺りに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。」

「すべては、先生の自由ですので。」

落ち着いたらまた連絡すると言って、リンは自分の仕事へと戻って行った。

机の上に数十枚の書類と一通の手紙を残して。

「……………………。」

一度目の前の書類の束を処理しようかと考えて。

少女達を待たせていることに気付き、アロナに届いている苦情などを処理する様に伝え、外へと向かう。

 

 

 

 

 

「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ。」

「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど。すく捕まるでしょう。私たちはここまで。あとは、担当者に任せます。」

少女達と合流し現在の状況を確認する。

ミレニアム、トリニティ、ゲヘナ。キヴォトスの主な学園について。

学園の機能は全て復活したらしい。

少女達の顔は初めて会った時より随分と明るくなっていた。

 

 

「お疲れ様でした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね ?」

「残った問題の数々は置いておくとして……良くやってくれた、弾薬費等は後で用意する。」

「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生。」

「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」

少女達と連絡先を交換し、シャーレ部室へと帰路に着く。

途中視線を感じたが、敵意は無いと判断。

扉を開けて部室に入り─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………まずは整理か。」

──────────掃除を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

「……ああ、これは困りましたね……。フフ……フフフ。」

「……ウフフフフフフ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掃除を終え、箱を起動しアロナの待つ教室に入る。

アークともゼアとも───滅亡迅雷のアジトとも違う空間。

まだ二度目にも拘らず、滅はこの場所を気に入っていた。

「あはは……なんだか慌ただしい感じてしたが……ある程度、落ち着いたみたいですね。お疲れ様でした。」

「……ドライバーもお前のお蔭で使えるようになった。感謝する。」

帰ってすぐ、俺を見つけたアロナは嬉しそうに俺に報告してきた。

『ゼロワンドライバーとそのシステムを起動できた』──と。

……ゼアの代わりにアロナを主なサポートAIとしたシステムという少し不安感のある運用であるが。

 

 

 

「…… ゼロワンについてはまだ良く分かってませんが……でも、本当に大変なのは、これからですよ?」

「……そうだな。」

ゼロワンドライバーを調べている時にアロナが見つけた、というテキストを見ながら返答する。

 

 

 

 

 

 

 

 

『託す形になりますが、まだ認められた訳ではありません。』

 

 

『あらゆる学園の生徒達と交流し認め合い、力を合わせて選択していく必要があります。』

 

 

『ですが……私が信じられる大人である、貴方なら……』

 

 

『ゼロワンの力を使いこなし、導いていけると信じています』

 

 

『愛しい生徒達をお願いします。』

 

 

『私のたった一人の仮面ライダー、滅先生。』

 

 

『連邦生徒会長より』

 

 

 

「これから先生と一緒に、キヴォトスの生徒たちが直面している問題を解決していくのです……!」

テキストを閉じ、アロナへと向き直る。

解決して行かなければならない問題、か。

この世界の事を俺は何も知らない。

だが……ほんの少しだけ心が騒ぐ。

無論、良い意味で。

 

「単純に見えても決して簡単ではないとっても重要なことです。」

「それではキヴォトスを、シャーレをよろしくお願いします、先生。」

「……ああ。」

そう返答して手を差し出す、平手、つまり握手だ。

差し出された手に一瞬驚いて、アロナは小さな右手で俺の手を取る。

先生とただのAIではなく、相棒として握手の形で誓う。

 

 

 

 

 

「それではこれより、連邦捜査部「シャーレ」として、最初の公式任務を始めましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒達を教え、時に道を外れそうになる生徒の手を取り導く先生として。

……一歩ずつ歩いて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーとして飛び立つのは、まだ先になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 




アビドス編は何とかなりそうですが……
パヴァーヌ編は……まだ分からん(戦闘の流れ)
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