ガールズ&パンツァー ――The silliest story――   作:滝村亜華音

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It's been one thing after another(一難去ってまた一難)

 戦車道サークルは私を受け入れる技量など何処にも持ち合わせていなかった。無理も無い。そもそも私のような愚劣極まる人間を何の疑念も持たずに受け入れろという方が無理難題だ。さらにそもそもの話、戦車道サークルにて渡り歩ける程度の技量を私が身に付けておくべきであった。後悔先に立たずとはまさにこのことだ。

 

 ――その日も私は、ヴィットーリオと共に練習試合への参加のために更衣室にて戦車道専用のユニフォームに着替えていた。その最中、ヴィットーリオの豊満な胸部がプルンと曝け出されたのを見て、私は言い知れぬ怨恨の感情が沸き立った。

 

「戦車に乗るのは結構疲れるんですがね……。あれこれ動き回らなければいけません」

 

「身軽に動き回れる方がいいということか?」

 

「ええ。その点じゃ、まだあなたの方が羨ましいですよ」

 

「貴様…、後で覚えていろよ」

 

 更衣室を出ると、既に着替えを済ませたアレクサンドラとシャルルアンリが、我々を待っているようだった。シャルルアンリは至ってお嬢様ですが何か、と言わんばかりに絵に描いたようなお淑やかさを演じている。アレクサンドラは至ってその冷静さを崩さない。下手をすれば何処か怒っているのではないかと錯覚する程のものだろう。私の小学校時代、理由は分からないが何故かいつも怒っている先生が一人いた。アレと相違ない。

 

――

 

 ――戦車ガレージはその名の通り、戦車を貯蔵する空間なだけあってその図体は砂漠にそびえ立つピラミッドの如く巨大なものである。私の身長は168cm程度だが、そんな私がいくら見上げたとしても空を仰ぐことは出来ぬとされた。

 

 元々は智恵古・須呂脇大学時代の倉庫を再利用しているそうなのだが、聞いた話によると、終戦直後の混乱期に焼失し、再建されて以降ずっとそのままであるという。中に戦車とそれを取り巻く人間達の声が無ければ廃墟同然。サークルの紹介で訪れた際、腐った鉄と蒸発した油が混じったような臭いがしたが、今ではもう慣れたものである。お陰で私の嗅覚はかつてない方向へひん曲がってしまった。

 

 そんな恨んでも恨み切れない程に私を陥れた戦車と言う存在であるが、懲りずに私はそんな戦車に乗っかりに、今日も赴いたのである。今回私達はここに貯蔵されている戦車の中でも、比較的操作に慣れやすい戦車での練習試合を試みることになっていた。我が母校――プラウダ高校にも居を置いていた、ソ連製の戦車である。

 

「いつ見ても、変な形のモノばかりですわねー」

 

「ソ連製の戦車は、元々奇妙な形のものが多いのだ。文句を言うな」

 

 まさに深窓の令嬢の如く、シャルルアンリは欠伸をしながら我々が搭乗する予定の戦車達にケチをつけていた。私は彼女の臀部に渾身の力を込めた蹴りをお見舞いしたい衝動に駆られたが、淑女らしく耐えた。流石に、何でもすぐに暴力に訴えてしまうのは考えモノである。そんな奴こそ、尻に渾身の蹴りをお見舞いされて然るべきであろう。

 「お嬢様」であろうがなかろうが、言って良いことと悪いことが存在するのだ。これを機に私が彼女の教育係として、世間知らずの彼女が恥をかかぬよう努めてもいいことだろう。まだ、アレクサンドラよりかは優しく教えられるという自負はある。

 

「まあでも、そこら辺は人の好みよね。見た目よりかは性能とか、乗る人の技術の方が大事だと思うけど…」

 

 一言多いぞ、我が元後輩兼現同輩よ。しかし私はアレクサンドラに物を言える程の技術も才能も持ち合わせが無いため、そのような言葉も口にするのは控えることにした。

 

 ――私の体の隅々まで行き届いた劣等遺伝子は、彼女達のような優等生には何一つ太刀打ち出来ないし太刀打ち出来る訳が無いし太刀打ち出来る権利も資格も無い。根底にある事実として、私、ヴィットーリオ、シャルルアンリの三人と、姉、アレクサンドラ、愛里寿嬢の三人では住んでいる世界が違うのだ。だからこそ、太刀打ちしてはならない。

 

「見た目は大事ですよ? それで言うと私は…、ドイツとかアメリカの戦車の方が好きですけどねぇー」

 

 チッ。圧力の犬が。まさに第二次世界大戦中期のこと、力を持ち出したドイツに対し真っ先に尻尾を振り出したイタリアそのものではないか。

 

 私のような誠実で真っ当な人生を歩んでいる人間ばかり苦汁を舐め、逆に彼女のようなのらりくらりと強者に従うプライドの無い人間ばかりが甘い汁を啜っている。何故こんな奴ばかり皆は信用しようとするのだ。むしろ、あれやこれやと意見を変えるような人間こそ信用ならないではないか。どいつもこいつもバカばかりか。

 

 世の中不公平だ。私の生み出したエネルギーは一体何処に消えて行ってしまったと言うのだ。全てヴィットーリオへと吸収されてしまったのか。計算が合わない。物事の重さのバランスがとれていない。これは近代物理学に対する冒涜ではないか。

 

「ヴィットーリオ。お前、須呂脇大学の学生としての誇りは無いのか?」

 

「いちいちそんなモノに拘ってたら…、いずれ息苦しく感じてしまいますよ? もっと柔軟に生きましょうよ。のらりくらりと、隠れて生きるくらいが丁度良いんですよ」

 

「巻き込むな。そこまで己の芯を曲げたくない」

 

「強情ですねぇ。もっと楽しんで戦車に乗りましょうよ。そんなんだから上達しないんですよ」

 

 お前に何が分かるのだ。と、無意識に右手に力が込められたが、暫し待て。ここでまた感情に身を任せるな。それで過去にどんな失敗をしたか、お前は分かっているのか。落ち着け。一度深呼吸をしろ。それだけでもまだ平静を保てる。

 

「私には使命があるのだ。姉さんに追随する戦車乗りになる、という使命がな……」

 

「一体何の使命なんですか? 一体誰に与えられた使命なんですか? 一体何のための、誰のための使命なんですか?」

 

 愚問である。使命を与えた人物は、過去の自分だ。そうしなければならない、と過去にそう誓ったのだ。それが私の果たすべき使命なのだ。己で己を律している。自律しているのだ。

 

「黙れ。どうせお前には理解できない」

 

「不機嫌な顔はやめましょうよ。一度、考え方を変えてみるのも悪くは無いですから」

 

「うるさい! お前のせいで、何もかも台無しだ!」

 

「善意で言ってあげてるのになー。流石に悲しいですよ…」

 

 悲しいなどと言う感情がヴィットーリオに備わっている筈が無い。常に人を馬鹿にしているような目をしていて、口を開けば罵倒か侮辱しか出ては来ず、耳にはありとあらゆる人間の機密情報が出入りしているという噂だ。こんな特性を抱えて、更には持ち前の勘の鋭さと機転を利かせる能力で、有ること無いこと吹聴して修羅場の炎でも作っているのだろう。こんな奴に悲しみなど存在する訳が無い。そんなこと、万に一つも有り得てたまるか。

 

「もう、何日連続で言い争いしてんのよ…」

 

 アレクサンドラが呆れる。だって…、練習試合の度に絡んで来るヴィットーリオが悪いではないか――。

 

――

 

 ――今回の試合は、一年生の練度向上と、四年生の卒業試合のための練習を兼ねた練習試合であった。双方のチームの強さのバランスを取るために、一年生と四年生で構成された「一、四年チーム」と二年生と三年生で構成された「二、三年チーム」での戦いが通例となっている。

ちなみにチームの呼称は、それぞれの学年数を合わせた数をチーム名に決めているモノだ。

 

 大学に備え付けとなっている試合会場は大学の建物が占める面積より断然広く、度々戦車道サークルや極稀にサバゲーサークルが活動のために、ほぼ占拠に近い形で使用しているのだという。大学の底面積の何十倍、何百倍ともとれる広大な敷地を有しており、一度迷い込めば最後。二度と生きて帰ることは許されぬとされた。

 一部では、迷い込んだ末に息絶えた人間達の細胞の突然変異によって生まれた未知の未確認生命体が、様々な場所に点々と居住地を建設してそこに住み着いており、知らずに近付いた戦車を襲い、中に居る人間を引きずり出して容赦なく喰い散らかしているという都市伝説も囁かれていたりいなかったりするらしいが、真偽の程は定かでない。しかし、その広さには目を見張る。中央広場で相手チームと落ち合うのも一苦労である。

 

 私達がヘトヘトになりながら広場へ着くと、もう既に練習試合の相手のチームは到着しているようだった。そして、その先頭に立つ人物。それは私が幼少期から記憶に残している人物であった。最早説明の必要はあるまい。他でもない、姉その人である。

 

「お、来たかマイシスター。待ってたよ」

 

 これから試合だというのにも関わらず、姉はこれから一緒に映画でも見に行く友人のように気さくに話しかけてきた。

 

「おお、これぞ姉妹の因縁の対決という訳ですか? なんだかゾクゾクしますねえ」

 

「まさか、あの御方と一戦交えることが出来るなんて…。光栄ですわ」

 

「アメリカンテイストだけは健在なのね…。毎度のことながら、面倒臭いわ」

 

 アレクサンドラだけ反応が違った。無理も無い。

 

 ――試合会場に赴く前に立ち入った会議室はとても殺伐としていたため、早い段階で試合会場に出てその解放感に身を包まれながら清涼な空気を肺いっぱいに吸い込んで心身ともに癒されようなどと画策していたが、あまりその企みも叶うことはなかったとこの時になってようやく理解した。

 

 そもそもの話、戦車が四方八方へ走り回り、火を噴く。そんな広場で心穏やかになる人間の方が穏やかな気質ではないことは容易に伺えるが、私もいつの間にかそんな変人たちへの仲間入りを果たしてしまっていたことは、今更言及の必要は無いであろう。

 

――

 

 向こうは隊長である姉と副隊長であるとある二回生、こちらは隊長であるとある四回生と副隊長であるアレクサンドラがそれぞれ前へ出る。

 

「まあ…、そんな怖がり成さんな。師弟、いや師妹の因縁の対決と洒落込もうじゃないのよ」

 

「…因縁と言える程の関係でも無いですがね……」

 

「そんなネガティブになるなって。ドンとぶつかってこい! アタシが出来る限り受け止めてやる!」

 

 ドンと胸を叩きながら、姉は自信たっぷりな笑顔をこちらに見せた。その後ろに並ぶ姉のチームメイト達は、姉の笑顔とは対照的に、軽蔑と侮辱を込めた笑顔を浮かべているように見えた。私はそんな人間達の顔を極力目に入れないように努めた。

 

 私の横に並ぶチームメイトたちは、例の三人を除いて、ほぼ全員が絶望的な表情を浮かべていたような気もするが、果たしてこれは姉にぶつけてもいい話題なのであろうか。否、そんな筈が無い。今まで面白いように姉に迷惑を掛けてきた身だ。これ以上、姉に何かを負担させる訳にはいかない。姉に追随する戦車乗りになるためにも、簡単に他人に頼るようでは戦車乗りそのものの風上にすら置けないではないか。

 

 私は戦車乗りであるための美学をしかと履修しているのだ。他者の視線や思索ごときで、その美学を乱されてはならぬ。淑やかで慎ましく凛々しい婦女子であれ。それがお前の今生の目標であった筈だ。今一度思い出せ。

 

「私だって成長しているんだ……。子ども扱いはやめて欲しい」

 

「そうかー? なら今から、その成長した証を見せてくれ!」

 

 姉のゆっくり突き出した拳が、コツンと私の胸に当たる。目元だけが変化したのだ。姉は本気だ。本気で私を試しに来る。気を抜いてはならぬ。さもなくば、狩られる。

 

――

 

 ――試合会場となっている廃墟の市街地は、戦車が一両走るだけでも異色な雰囲気を醸し出す舞台となっていた。そもそもの話、廃墟で構成された市街地そのものが異色であることは言うまでもない。まるで産業革命時のロンドンかのような荒廃ぶりであったが、戦車道の試合という都合上、生身の人間が誰一人立ち入ることが無かったというのが、せめてもの幸いであろう。

 

 試合の度に、そのような考えに駆られてやまない。

 

 因みに試合形式はフラッグ戦である。

 

 ――私達のチームはソ連製の戦車で構成されており、私、ヴィットーリオ、シャルルアンリ、アレクサンドラの4人はそれぞれ別々の戦車に乗り込んでいる。

 

 こちらのチームの編成は10両である――T-44が2両。T-40が5両。KSP-76が1両。ISU-122が2両――かなり陳腐な編成であるが、くじ引きと言う天に自分達の運命の全てを委ねる判別方法を取った結果だ。これが天の采配と言うことだ。文句は付けられない。それは天に反旗を翻すと言う神に勝負を挑んだサタンの蛮行の如き凶行である。我々のような一般市民には到底実現は叶えられないのだ。

 

 私が搭乗する戦車はKSP-76である。1943年という第二次世界大戦真っ只中の時期に開発がすすめられた装輪式自走砲だ。装輪車両にZiS-3 76mm野砲というカノン砲を装備させたものとなっている。ドイツの88㎜高射砲と同様に対戦車砲としての知名度は高いため、カノン砲の名前だけは知っているという方も多いのではないだろうか。偵察や空挺部隊への支援を意図した設計であったらしく、その身の軽さもセールスポイントの一つの様だった。しかしながら、車体が軽量であったために主砲の連続射撃には耐えられず、試作車両の存在に終わった影の薄い戦車である。

 

 ヴィットーリオとシャルルアンリが搭乗しているのはそれぞれ別車両のT-40である。とある一つの特徴を交えて説明するのであれば、水陸両用戦車だ。その昔、満州国にて勃発した日ソ国境紛争における最大規模の軍事衝突であるノモンハン事件にて大きな教訓を得たソ連は、装甲強化を施した戦車が必要だと考えていた。特に偵察のための軽戦車ならば尚更である。以前、ソ連製の戦車の装甲は8㎜程度しかなく日本軍の使用した7.7㎜機銃で容易に撃ち抜かれてしまったためだ。そんな課題を抱えた中で生まれたのが当車という訳だ。

 

 アレクサンドラが搭乗しているのはT-44である。第二次世界大戦末期に開発され、主に冷戦期に運用された中戦車の一つとなっている。元々はかの独ソ戦にて猛威を振るったT-34の改良型であるT-43が冷戦期に運用される予定であったが、車体の陳腐が進んでいたためにさらに手を加えることを余儀なくされた。そんな紆余曲折を経て当車が誕生したのである。意思を受け継ぐ派生型としてSU-122-44やSU-100M2やSU-101、SU-102と幅広い種類の戦車が存在する。まさに副隊長を務める彼女に相応しい戦車である。

 

 ――決定的な事を言えば、車長兼砲手を勤めている私は、砲手兼装填手を務めるとある一回生(以後、Aとする)にも操縦手を務めるとある一回生(以後、Bとする)にも一向に目を合わせてもらえなかった。砲手と装填手と操縦手言う比較的他の乗員と口を交わすことの少ない役職同士を兼任していると言う都合上、口数が減るのは必然と言えよう。しかし、目も合わせようとしないのは些か不自然ではなかろうか。

 

 いくらあまり口を交わすことの無い役職と言えど、アイコンタクト程度ならする筈だ。それは車長の指示から砲弾の装填や砲撃にタイムラグが生じるのは、例え1秒でも命取りになりかねないからだ。いかに仲間内での動き回りの早さが物を言うか、それはAもBも中高生時代からしかと理解している筈である。なのに、何故そこまでして私と何かしらの形で接点を作ることを嫌うのであろうか。その原因は大方私の方に非があるのではないかと言う推論に至ったことは、そう難しいことでは無い。

 

 今の今まで私がどれ程戦車道の神様に嫌われる人生を送ってきたのかは今更言及の必要は無いと思う。二人の人間が私に対し、可能な限りの無視という形での抵抗の意思を示していることが何よりの証拠である。

 

 こういった光景はプラウダ高校に居た時代からその身にしかと刻まれてきた歴史であるが、心身が一向に慣れてくれない。苦痛を乗り越えなければ成長することは出来ない、と私がいくら渇を入れても私の身体も私の精神も断固として世に迎合しようとはせぬ。私自身は変わろうと四苦八苦している。しかし、それ以外の要素がそれを強く拒むのだ。誤解が無いように言っておこう。私が悪いのではない。私の心身が悪いのだ。

 

――

 

 私の車両は偵察の役割が主であったが、出来るだけ敵の戦車とは出くわしたくはないと言うのが本音であった。だって姉と出くわしてしまえば蛇に睨まれた蛙になるだけではないか。

 

 私は姉から洗い流された残りカスを集めて作られた人間であると自覚しているが、死人に鞭打つような真似には賛成できない。『お前など鞭うたれて当然の死人だろう』と言う異論があちらこちらで沸き立つだろう。読者の皆様だってそう思っている筈だ。しかし待て。ほんの少しくらいは私の話を聞いてくれたっていいではないか。

 

 ――私達を乗せたKSP-76が歩を進める中、辺りを戦車のキャタピラ音だけが飛び交っていた。時々ハッチから顔を覗かせては見るものの、幸か不幸か、相手チームの戦車にはお目に掛かれない。敵側の人間からも嫌われていることについては私もそれなりに予想していたことであるが、いざそれが現実のものとして目の前に現れると、何処か心を抉り取るモノがある。

 

 そんな風に私が理想と現実とのギャップに四苦八苦している最中、別の車両から通信が入った。

 

「Ciaoー。突然ですが良いニュースと悪いニュースがあります、どちらから聞きたいですか?」

 

 声と口調から察するに、通信機の向こう側に居るのはヴィットーリオだ。こいつが提示してくる選択肢とは、果たして選択肢などと呼べる程度の代物であった試しがあったかどうかさえ疑わしい警戒すべき異物である。最早口から出る兵器と訳した方が早いであろう。モノによっては理不尽極まりない。

 

 私は日頃の鬱憤を晴らさんばかりに心中を吐露する。

 

「どちらも悪いニュースのような気がしてならないのだが……」

 

 通信機越しに聞こえるその声は、心成しか機嫌が良くなったように思えた。

 

「よく分かりましたねぇ」

 

 分かりやすく何かを企んでいる声だ。ヴィットーリオはいつだってそんな喋り方であったが、初めて試合でその声を耳にした時には死神に肩を叩かれたように感じた。この体験を聖書の一節として書き留めてみるのも悪くは無いであろうと思ったのも、今は昔である。

 

「じゃあ、良いニュースは何なんだ?」

 

「私の居る河原の方面なんですが、三両ほど見えました。まだ気づかれてはいないようです。そちらはどうですか?」

 

「住宅街を回っているが、影も見当たらない」

 

「おや、敵からも仲間外れですか? 普段とあまり変わりませんねぇ」

 

「やかましい」

 

 口から最低限の抵抗を示した。しかし、同じチームの隊員に対して抵抗ばかり示していては、数少ない会話をしてくれる者にまで見限られかねない。折角の数少ない意思疎通の叶う相手なのだ。ここでみすみす逃したくはない。

 

「それで、悪いニュースの方は?」

 

 ヴィットーリオの口からそれなりに良いニュースが飛び出したという事象に対する驚愕の余韻が残る中、私は残りの選択肢の方へと手を伸ばした。ヴィットーリオの事だ。きっとまた素っ頓狂なことを言い出すに違いない。そう思いながら待ち受けていた私の耳に入ってきたのは、自身の耳と脳を疑いたくなるような奇異極まりない情報であった。

 

「その中の一両が…、フラッグ車なんですわ」

 

「……は?」

 

 自分でも驚くくらいには気の抜けた声が出て来た。練習試合でも、姉の大胆不敵さには抜かりは無かったようだ。

 

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