たとえ紛い物のカリスマでも   作:朱と白

1 / 2
お久しぶりです。
色々な作品に触発されて性懲りもなく書いてしまった転生レミリアのお話です。
お見苦しい点など多々あると思いますが、どうかお楽しみいただければ幸いです。
それでは、どうぞ。


一.何もない状態から始まる二度目の生

 

 ”スカーレット”――かつて西洋諸国に名を轟かせた、ある吸血鬼の一族の名だ。

 

 例外なく我の強い『個』の同族を曲がりなりにも『群』として纏め上げた圧倒的なカリスマ。

 無数の敵を討ち滅ぼし、その血を啜った圧倒的実力。

 吸血鬼の存在が御伽噺じみた扱いを受けるようになった今なお語り継がれるその忌み名は、しかし本質的に『知っている』とは言い難い。

 

 実際問題、我々は実物を見たことがないのだ。

 人ならざる者が幅を利かせた時代ならばいざ知らず、近代化が進んだ現代に於いて眉唾物の伝承の存在を一切の迷いなく信じる者は非常に少ない。

 加えてそれが心霊の類ならば或いは信仰も集まったのかもしれないが、相手は夜の王を名乗る吸血鬼。

 繰り返しになるが、実物を前に機嫌を損ね命の危機に陥らない限り、無条件に平伏し首を垂れる道理もない。

 

 それでも、吸血鬼は確かに実在する。

 日を遮る森の奥の誰も寄りつかない紅い館。

 門番は妖怪、従者は人間、友人は魔女、使い魔は悪魔、当主とその妹は件の吸血鬼。

 

 実力だけで西洋の人外を纏め上げ、今なお一癖も二癖もある館に住む種族を”家族”として統べる者の名は、『レミリア・スカーレット』。

 『永遠に紅い幼き月』『紅い悪魔(スカーレットデビル)』と謳われた、齢十にも満たない幼女然とした容姿の名家に生まれし吸血鬼。

 史実から作られた御伽噺の『吸血鬼』の一端を担う、西洋諸国に”スカーレット”の一族の恐怖を刻み込んだ元凶である。

 

【 ある雑誌のコラム欄より抜粋 】

 

 

○○○○

 

 

 ああ、煩い。

 周囲の喧騒が耳を叩く、早く目を覚ませと身体が本能的に騒ぐ。

 

「今日はせっかくの休みだっていうのに、なによぉ……」

 

 近くで騒ぎになることでもあったのか、でも確認しに行くのも面倒だ。

 布団の中をのそのそと緩慢な動作で這い、寝返りをうち――。

 

「いたたたたた!?」

 

 顔いっぱいに広がるのは枕ではなく、チクチクとした刺々しい雑草。

 驚きに目を開けば、敷いていたはずの布団もなく、代わりに土が敷き詰められている。

 そりゃこんな状態で顔を動かせば痛いに決まってる、と妙な納得と同時、はたと違和感に気づく。

 

 起き上がってみれば、そこは布団の中でも勝手知ったる自室でもなく、草の生い茂る知らない場所。

 困惑に天を仰げば星と月がまたたく知らない天井――というか夜空。

 

「まだ夜だし……というか、ここどこ?」

 

 果てしなく広がる草原と夜空。

 どういうことかと記憶を探るもどうにも心当たりがない。

 普段と違う経緯をたどろうとも、間違いなく布団に潜って寝たはずだ。それは絶対だと言いきれる。だが、ならばマイホームと布団と枕は一体どこへ消えたのか。

 周りから情報を得ようと立つと、人影が見えた。

 重々しい雰囲気を纏ってはいるものの、何か知っているかもしれない。

 言葉は通じなくとも場所さえ把握できれば動きようもある。

 草を掻き分け近づいてみると、向こうもこちらに気がついたのか、仲間内で何か話し始めた。

 

「あの――」

 

 直後、聞こえてきたのは発砲音。

 おそるおそる足元を見ると銀色の銃弾が埋まっていて、それを追うように周囲が腰元に差した剣を抜いた。

 

「な……」

 

 「一体なんだ」と問う間もなく、問答無用と言わんばかりにその場にいた全員が襲いかかってくる。

 逃げなければいけないのだと漠然と思う思考に対し、身体は反射的に行動を起こしたらしい。

 来た道を遡るように、弾かれるように飛び出した。

 

「――!」

「――! ――!」

 

 背後から『スカーレット家の娘』『絶対に逃がすな』という怒号にも近い叫び声がこだまする。

 不思議と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もぼんやりと認識できたが、それを気にかけるだけの余裕はない。

 今はただ逃げるしかないのだと、混乱した頭と身体に鞭を打ち、飛び続けた。

 

 

○○○○

 

 

 あれからどれだけ逃げただろうか。

 山の中に逃げ込み地形を使って撹乱し、ひとまず追手を撒いたことを確認した後向かったのは、近くの洞穴だった。

 やっと一息つける――なんて思ったのもつかの間、やらなければいけないことがある。

 今の自分の状況の整理だ。

 

「あ、あー、うー」

 

 変化は明白だった。

 まずは声。知識の中よりも高く少女然としたものに変わっている。

 続いて容姿。幾分か低くなった目線と随分小さくなった手、頭からずり落ちた特徴的なナイトキャップと淡い色合いの桃色の服装も知っているが、あいにく袖を通した覚えがない。

 最後に背中から伸びるように生えた大きな蝙蝠の羽。人間にはこんなものは生えないし、事実これまで生えていたこともない。

 髪の色は確認できないがほぼ間違いなく銀色だ。

 つまり、ここから導き出される答えは。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()……? そうなると()、レミリアになってるの……?」

 

 レミリア・スカーレット。

 かの有名な弾幕シューティングゲームの最初の異変の原因にして、これまた有名な吸血鬼。

 もしもこの仮定が当たっていれば、誰よりも何よりも推しだった彼女になっているということになる。

 そういえば元は男だったのに口調が変わっているとか、夜目がきくとか、さっきからせわしなく動く背中の羽とか。

 

「……心当たりしかない、けど」

 

 困惑はある。あるのだが、頭は驚くほど冷静に現実を受け入れ始めていた。

 口調の変化も含め、心が肉体に引っ張られているのかもしれない。

 

「だったら」

 

 そうだ、()()()()やることは一つだ。

 抵抗もせず大人しく殺されてやるなど割に合わないし、勿論死ぬつもりなど毛頭ない。

 

「――少し、情報を整理しましょうか」

 

 そうと決まれば話は早い。

 食事の調達は後回しでも構わない。というかそれに固執し過ぎると詰む可能性がある。

 真っ先に用意しなければいけないのは現状打開の方法と、そこから先の行動指針だ。

 適当な岩の上に腰かけ、頭の中を探る。必要なのは人間()の記憶ではなく、この身体()の記憶。

 断片的だろうと事の経緯さえ分かればある程度の事情も把握できるし、対策を講じることも容易。

 

「――」

 

 そのつもり、だったのだが。

 経緯は浮かばないというのに事実だけははっきりと理解できた。

 これならば目が覚めた場所が草原だったことも、逃げる時に聞いたスカーレット家の娘云々という言葉にも、嫌というほど納得がいく。

 

「……こればかりは完全に予想外だったわね」

 

 まさか現状が”レミリア・スカーレットを除いたスカーレット一族の吸血鬼が軒並み全滅していた”、など一体誰が予想できるものか。

 ない物ねだりをしてもどうしようもないのは分かるが、ない物しかないばかりか、前提が根底から覆される結果に頭を抱えるしかない。

 妹と従者どころか親友もいない、というか住む場所もない文無し。

 いや、本当にどうしたものか。

 咄嗟に浮かんだ亡命先は、しかし手段も含めどれも現実的ではない。

 

 ①幻想郷――不可能。管理者たる八雲紫とのコンタクトの手段がないし、偶然の出会いも偶発的な幻想入りも望めない。

 ②他の吸血鬼に頼る――論外。私の認識が正しければスカーレット家は名家のはずだし、その娘が亡命に来たとなれば絶対にロクなことにならないどころか寝首をかかれる危険さえある。

 

 結論、どう足掻いても絶望。

 人生ハードモードどころか難易度ルナティックからのスタートである。こんな状況どう覆せというのか。

 

「……一回落ち着きなさい、私」

 

 推しの姿になれたからといってなんでも許されると思うなよ、と叫びたくなる衝動をどうにか抑え、一度大きく深呼吸。

 早々に折れそうになった心をどうにか奮い立たせ、まだできることはあるとなけなしの知識を総動員して頭を動かし続ける。

 この際紅魔館メンバーの誰でもいいから心の支えになって欲しいと泣きたくなったが、いない面々に頼るわけにもいくまい。

 

「――誰もいない? ……ちょっと待ちなさい」

 

 ふと、口に出した一つの事実が頭を過ぎる。

 紅魔館の面々は誰もいないものの、今の私がいるのは外の世界。

 察するにここは中世末期あたりの西洋近辺。正確な時代と場所は割り出せないが、大体当たっているはず。

 つまり、だ。

 

()がいる――?」

 

 『レミリア・スカーレットの姿をした別物(私という異物)』がいるのだ、紅魔館の面々がいないとも限らない。

 さすがに種族が人間の従者はまだ産まれていないかもしれないが、他の面々は存在している可能性が高い。

 妹がどうしているかは不明でも、生きていればきっと会える。

 

「もしかしたら、できるかも」

 

 集めれば良い。私の手で紅魔館の面々をスカウトすれば良い。

 それができるかもしれないのなら、希望が見えてくる。

 行動指針と生きる目的ができただけだが、それだけで俄然死ねなくなった。

 

 やることは山積みだ。

 ()を追いかける吸血鬼ハンターの討伐、次期紅魔館の確保、メンバーのスカウトに妹の所在の確認。

 カリスマを磨き上げて、他の吸血鬼よりもずっと強くなって、一族を再興して他の種族を纏める。

 組み上がった人生設計――もっとももう人じゃないけど――に、笑みが浮かぶ。

 

「フフっ、前を向く理由ができたわね」

 

 これがいつか終わる夢なのか、それとも続いていく現実なのか、私にも分からない。

 だったら目一杯生き抜いて、華々しく散る最期になるように楽しむとしよう。

 私はカリスマブレイクともかりちゅまとも縁のない、カリスマに満ち溢れた吸血鬼になるのだ。

 

 レミリア・スカーレット()の運命は、ここから始まるのだ。

 腹は括った。賽は天高く投げつけた。

 洞穴の出口に向かい、沈みかけの月に誓う。

 それと同時、太陽が山から顔を出して――。

 

「あちちちちち!?」

 

 サラサラと灰になり始めた身体を庇い、洞穴の中へ戻る。

 上がり始めた太陽を安全圏から恨みを込めて睨みつける間にも、煌々と太陽は上がり続けている。

 

「うー……!」

 

 せっかくかっこよく決まると思ったのに、空気の読めない奴だと言いたくなるが、悲しいことに対抗する術はない。

 いくらこの身に運命を操る力があるとはいえ(使い方はこれから勉強だし実態がどんなものかは不明だけど)、吸血鬼の弱点そのものを消せるわけではない。

 日光の届かない奥の方へ引っ込むのは逃亡ではなく天敵からの戦略的撤退だし、私のカリスマはまだ崩れていない。

 ないったらない。私のカリスマはまだ健在だ。




如何でしたでしょうか。
前書きにも書きましたように至らなさとお見苦しい点など多々あったかと思いますが、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

もしもよろしければ、感想や評価をいただければ幸いです。
毎度のように次回以降の更新は未定ですが、どうか次回もお付き合いください。

追記
当作主人公の設定を活動報告に上げたため、こちらの方は削除いたしました。
若干の加筆を加えたものであり内容はほとんど変わっていませんが、ご確認いただければ幸いです。

URL→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=311971&uid=242822
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。