たとえ紛い物のカリスマでも   作:朱と白

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お久しぶりです。

本作にお目を留めていただけたこと、前回たくさんの感想をいただけたこと、本当にありがとうございました。
毎度のことながら時間がかかってしまいましたが、今回もどうかお楽しみいただければ幸いです。

それでは、どうぞ。


二.初めての食事

 

 一先ずの行動指針を『現状の打開』に定めた以上、真っ先にやらなければいけないことがある。

 身体の動かし方と能力の使い方の学習による手札の確認と、肉体の機能を十全に扱うための訓練だ。

 何ができるのか、何ができないのか。

 吸血鬼狩りの連中と本格的に事を構えることになるわけだし、得手不得手はしっかりと把握しておきたい。

 

「さて」

 

 あの後襲いかかる睡魔と気分的な疲労に抗えず仮眠を取ること数時間。あの忌々しい日の出の出来事からかなり時間は経ったものの、太陽は変わらず空で輝いている。

 もうすぐ日が沈むだろうと予測は立てているが、外に出て動くにはまだ早い。

 欲を言えば新聞なりゴシップ誌なり手っ取り早く外の情報を確認できるツールがあれば最高なのだが、そんな便利なものが手元にあるわけもない。

 よって、一番最初に着手したのは能力の意識的な発動の練習。

 『運命を操る程度の能力』――中身の違う私のそれがどういう形で発現されるかは不明だが、この力を()()()()自由自在に振るうことができれば、間違いなく強力な武器になる。

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

 能力の発動方法がさっぱり分からない手探りのスタートになる以上、とりあえず形から入ることにしよう。

 『何事も形から』と言うし、イメージは大切だ。

 息を一つ吐きゆっくりと目を閉じれば、視界が黒に包まれる。

 

「……」

 

 何も見えない。

 そもそも運命の観測がどういうものなのか知らないし、当たり前か。しばらく待つことにしよう。

 

「んー……」

 

 一分経過。まだ変化はない。

 もう少し待ってみる。

 

「んー……!」

 

 三分経過。まだ変化はない。

 赤なり白なり細い糸の一本が出てきてもいい頃合いなのだが、何もない。

 

「うー……!」

 

 五分経過。まだ変化はない。

 試しに唸ってみるが閉じた景色には何も映り込まない。

 

「……ダメじゃないの」

 

 結局五分粘ってみたが、能力が使えるどころか運命に繋がる予兆もない、なんの成果も得られない結果に終わった。

 元より概念を名に冠した強大な能力だ、中身の違う若葉マークの初心者がホイホイと扱えるほど甘くはなかったというわけか。

 『世の中そんなに甘くない』とは本当によく言ったものだと思う。

 

「うー……こればかりは練習が必要みたいね……」

 

 ぜぇぜぇと荒い息を整え、膝から崩れ落ちた状態から起き上がる。

 大丈夫。傷は深いし精神的なショックは大きいが望みが絶たれたわけじゃない。

 私の武器は『運命を操る程度の能力』だけではない。

 ないものねだりをしている余裕もないし、だったら代替案の用意という対策を取ればいい。

 

 ……自由自在に運命が視れたらかっこよかったんだろうなぁ、とは思わなくもないけど。

 

 

○○○○

 

 

 あれからまた数時間ほど経った。

 身体を蝙蝠に変えたり、吸血鬼の種族特有の能力の確認をしている最中に夜になっていたことに気づいた。

 身体能力と再生力の確認はまだできていないものの、これだけ手札があれば組み合わせと使い方次第で相当に化けるはずだ。少なくとも攻撃の手段で困ることはあるまい。

 

「……」

 

 まずは外に出る前に、洞穴にいつでも引っ込めるように顔だけを出して周囲を確認。

 スカーレット家唯一の生き残りを逃がした現在、吸血鬼狩りの連中は血眼になって私を探し回っていることだろう。

 故に吸血鬼の身体に慣れるまで、向こうの襲撃には細心の注意を払う必要がある。

 

「周りに人影も気配もなし、か」

 

 誰もいないことを念入りに確かめて洞穴の外へ出る。

 見上げれば昨日と同じ月と星が瞬く夜の景色が広がる。吸血鬼の性か、やはり月の下にいると調子がいい。

 

「まったく、人気者は辛いわね」

 

 皮肉を一つ吐き、感触を確かめるように翼を大きく広げる。月の光を目指すように、星へ向かうように、どこまでも広がる夜の空へ飛び出した。

 あの時は必死だったし気にかける余裕もなかったが、今なら分かる。感覚的な部分が大きいものの『飛ぶ』とはこういうことなのだと言える。

 軌道がおぼつかなかったのも最初だけ。安定するまでに時間はかからなかかったし、少し経てば周囲を見渡すだけの余裕が出てきた。

 

「とと……ふふっ」

 

 できることの幅が広がる楽しさを身を以て感じる。

 月と星のコントラストに夜風を切る感覚、視界一杯に広がる遠く離れた地上。あまり大っぴらな行動はできないが、今だけは空を飛ぶ心地良さに酔ってもバチは当たるまい。

 

「本当に今日は良い夜ね。気持ちがいいわ」

 

 ただし、この全能感に酔いしれてばかりもいられないのもまた事実。

 飛行に於ける技術の習得。本当は時間をかけてゆっくりと慣れたいのだが、残念ながらその時間も残されていない。

 向こうだって馬鹿じゃない、闇雲に突っ込むだけではいずれ対策されて狩られるのがオチだ。

 直線的な加速は勿論のこと、空中を自在に回る三次元的な移動方法の確立は必要だ。

 

「ええと、まずは大まかに移動からかしら」

 

 加速を利用した直進。

 急加速から急停止。

 身体ごと傾けるように旋回、慣れたら最低限の動作だけで曲がれるように調整。

 急上昇と急降下。

 一気に直進し即座に後方宙返り。

 森の中に入り、木々を避けて飛び回る。

 

「意外に上手くいくものね」

 

 思いつく限りの動作を繰り返し、頭のイメージと身体の感覚を合わせていく。

 この身体の恩恵――というよりも()()()()()()の経験によるものが大きいのかもしれないが、私が想定していたよりもずっと学習が早い。

 もっと手こずると思っていた飛行技術の問題も早々に解決できるかもしれない。非常に嬉しい誤算だ。

 感じた手応えと共に地面に着地し、今度は皮肉の代わりに大きく息を吐く。

 ゆっくりと気を抜いたのと同時、今度はくぅと腹の虫が鳴き声を上げた。

 

「……おなかすいた」

 

 ずっと気を張り続けて忘れていたが、そういえば昨日から何も口にしていなかったのだったか。

 一度認識してしまえばもう止まらない。

 周囲に誰もいなかったのが幸運だったと思うほどに腹の虫の主張は一向に収まる気配がない。

 だが今町に向かって人間を襲うのはリスクが高いし、かといってこれまた空腹をごまかせる嗜好品があるわけでもない。

 森に迷い込んだ丸腰の人間がいれば一番手っ取り早いわけだが、そんなものが都合よく現れるなどありえない。

 本当にどうしたものか。

 

「?」

 

 そう思った矢先、どこからともなく視線を感じた。

 顔を向ければ木々に覆われた先で輝く10個の目と小さな唸り声。野犬か、あるいは狼か――どうあれ野生の獣が私を狙っているらしい。

 人間ならば詰みに近い状況も、吸血鬼になった今ならば慌てて逃げる必要はない。

 同時に前言撤回だ。非常に都合がいい。

 

「……慣れるにはいい機会よね」

 

 腹を減らした吸血鬼の目の前に格好の獲物が現れたとなれば、やることは一つしかない。

 初めての経験に戸惑いと抵抗はあるものの、これから先のことを考えると早々に慣れておくべきだ。

 

「腹を減らしたのはお互い様か。まあ、獲物を前に逸る気持ちは分かるよ」

 

 常人よりも遥かに鋭く長く伸びた八重歯に触れ、野生の獣を見据える。

 

「どうなろうと恨んでくれるなよ? 先に牙を剥いたのはお前達だぞ」

 

 威嚇代わりに再度大きく翼を広げると、隠れていた五匹の獣が一斉に襲いかかってきた。

 前方からの突進。

 大きく飛び退く必要はない。地面から僅かに浮いて数歩分後退して回避。

 

「グウウウウ……!」

 

 見事な着地から即座に次手の構えに入るばかりか、私を取り囲むような状態を作ったあたり、経験豊富な個体と見るべきか。

 慣らし運転にはちょうどいい。

 迫る爪と牙の軌道を読み、可能な限り飛ばないように回避を続ける。自分のイメージしたよりも身体が軽い。

 

「動体視力と身体能力の確認はこんなものかしら」

 

 本格的に動き始めて数時間、かつ全容を把握しきれていない私でさえ断言できるほどの、『圧倒的』の一言に尽きる身体の性能。

 二度目の世界が広がる感覚に、もう戸惑いも抵抗も感じなかった。

 

「グゥアアアアッ!」

「元気なのはいいことだけど、そろそろターンを回してもらいましょうか」

 

 三度浮かび上がり、野生の獣目掛け加速。

 近くにいた個体に指を揃え、逃げられないうちに首元へ手刀を落とす。

 骨を砕く感触。獣は地面にめり込むように倒れ込むと、ピクピクと数度痙攣し、それきり動かなくなった。

 

「まず一匹」

 

 あと四匹いるが、そう手間もかかるまい。

 せっかく現れた獲物(食事)なのだ、なにより私に牙を剥いた相手を逃がす道理はない。

 事態を認識するよりも早く距離を詰め、二匹まとめて首元を引っ掴み、近くの大木に叩きつけて頭を粉砕し仕留める。

 

「三匹目」

 

 残る一体に目を向けると、木の隙間を抜けるように一目散に走っていた。

 最初の勢いはどこへいったのかと思わなくもないが、昨日の私がまさしくそうだったため、どうこう言うつもりはない。

 だから逃げるのなら命までは取りはしないが、それとは別にやってもらうことがある。

 軽く力を溜め、スタートを切って一気に突進。しがみつくように獣の身体を捕らえた。

 

「吸血そのものが初めてだが――!」

 

 暴れられるよりも早く牙を突き刺し、一気に血を吸い上げる。

 毛の感触と若干の獣臭さが口に広がるが、空腹の影響もあってあまり気にならない。味も思ったより悪くない。

 

「けぷっ」

 

 初めての血の味に気を取られて少しばかり吸い過ぎたようだ。

 先ほどまで感じた空腹に代わり、今度は胃の中がちゃぽちゃぽと音を立てているような気がする。

 

「あ――」

 

 牙を離すと数滴血が服に垂れ落ちたと気づいた時にはもう遅い。

 慌てて目を向けると胸元が赤く染まっている。

 現状一着しかない私の一張羅だというのにやってしまった。

 

「……うー」

 

 まさかのアクシデントに頭を抱えたくなる。

 昨日の日光の一件といい今日のアクシデントといい、何故私のスタートは決まらないのか。これではカリスマではなくかりちゅまではないか。

 

「……まあ、当面の食料が手に入っただけ良しとしましょうか」

 

 独り言ちて、仕留めた三匹の獣の元へ戻り身体を抱える。

 まだまだ試したいこともあるし、細かい動き方は事の流れを見て調整する必要がある。味も鮮度も落ちるだろうが、この三匹はありがたく保存食にさせてもらおう。

 

「ああ、やることが多いわね」

 

 身体機能も完全に把握しなければいけない。

 街に向かって情報収集だってしたいし、叶うのならスカーレット家に戻って一族を弔いたい。

 だが、急がなければいけなくても焦る必要はない。

 どの道吸血鬼の寿命は長いのだ、ゆっくりと悩むことにしよう。




如何でしたでしょうか。

今回も拙い文節と内容だったと思いますが、ここまで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。
今回の話に合わせ、活動報告に主人公の設定を上げておきましたので、ご確認いただければ幸いです。

もしもよろしければ、感想や評価をいただければ幸いです。
次回もお待たせしてしまうかもしれませんが、どうか次回もお付き合いください。

活動報告のURL→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=311971&uid=242822
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