Cross-two Night   作:滝村亜華音

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プロローグ編
‐プロローグ‐『The first step』


 ――「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」――経済学者のカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの発表した「共産党宣言」内における規定である。

 

 間違いない。まず、間違ったことは何も言っていない。

 

 いきなりの共産主義の熱烈な信者の如き発言に混乱を隠せない気持ちはよく分かるが、一旦落ち着いて欲しい。休日の昼下がりに家に押し掛けてくる宗教勧誘の女性の如き怪しさが、惜し気もなく流れ出ていることも否めない。だが、決して通報はしないで欲しい。話の本題に入れなくなってしまう。

 

 この「歴史」だが、皆さんはどのようなイメージをお持ちだろうか?

 イメージの形態は数多く存在すれど、大抵の者は「質の悪い暗記科目」の一言で腑に落ちるだろう。

 かく言う筆者も、テストの日が近づく度に不眠での暗記を余儀なくされた人間の一人だ。そういう夜の翌朝は、殆どの確率で脳がショートを起こしていた。時間割に「歴史」の文字を見つけるや否や、よくその場で泣き崩れたものである。

 

 さて、自分から始めておいて無責任極まりないが、正直なところ、イメージなどどうだっていい。

 

 今回話をするにおいて重要なのは、歴史が何の意味を持って生まれて刻まれ続けるのか、ということだ。恐らく大半の人が「自然の摂理」や「自然に刻まれる」と言った旨の回答で一蹴することだろう。頭の回転が速いようで心底羨ましい。

 

 もう少し掘り下げて言うのであれば、多種多様な社会が形成されていく中でどのような闘争を繰り広げてきたのか、ということだ。生憎筆者は歴史のテストは常に赤点スレスレで突破していたため、長きに渡り構築されてきた赤点の歴史は今更覆しようが無い。故に、そんなことを考えるのにまで頭を回す余裕が無い。

 

 ――「彼等」には、少なくとも筆者と同じ道を歩む事にはならないで欲しい。心底願う。

 

 さて、準備は整った。いきなりだが、素っ頓狂な言葉を並べさせてもらう。

 

 ――これは学校や学習塾で見るようなものではない、「ほんの少しだけ角度の違う歴史の勉強」である。教科書は極端に薄いが、それでも構わないと言う人だけ、次のページに進んで貰おう。

 

――

 

 西暦2212年。

発展した科学技術によって、人々は平和な生活を送っていた。

人々は石油や電気、ガスに代わる新たな資源を見つけ出したのだ。

ある鉱石。人はその資源を、初の発見場所の地域名に因んで、『アコール鉱石』と命名した。

それは一言でいうと、遥かに性能が高かった。今までの資源の役割を、丸ごと肩代わり出来てしまうほどに。

 

様々な機関を安価で有用に、かつほぼ無制限に動かし、科学技術、経済、商業、医療、軍事、娯楽施設などを急激に発展させていった。その発展の起源となった鉱石は、今でも世界中で重宝されていた。

 

また、史上稀に見るこの世界の高度成長は、第二の進化論と謳われた。昨日も今日も、そして明日も、人々は豊かな生活を送っていく……。

 

――

 

「ねぇ、あなたは今、何してるの?」

 

少女は語り掛ける。この質問自体に、これと言った目的も無い。幼稚園児が抱くような、ただただ漠然とした興味が出てきただけだ。事実、この少女も幼稚園児くらいの年齢なのだが。

 

「いや、特に…」

 

少年は黙り込む。回答を出そうにも、それが出来るほどの情報も表現方法も無い。声はフェードアウトし、行き詰まる。年齢は多分そう変わらないが、感情表現という点では、少女の方が一枚上手だったようだ。

 

「じゃあ…、私とあそぼ!」

 

少女は手を伸ばす。幼稚で無垢な顔だ。こんな顔でいられるのも、幼いからこその特権なのだろう。

 

「え、あ、いや…その」

 

少年は口籠る。恥ずかしさと戸惑いが半分ずつ存在している。どう声を発したらいいか、多分自分が一番分からなくなっている。

 

「どうするの?」

 

少女は尋ねる。

 

「え、えっと、じゃあ」

 

少年は答える。

 

「あ、あそぶ…!」

 

思いっ切り声を張り上げる。と言ってもそれは少年の感覚だ。少女にとっては、やっと声がはっきりと聞こえてきたようだが。

 

「それじゃあ…」

 

「うわっ」

 

伸ばした手で少年の手を引っ張る。そして走り出す。

 

「―――」

 

「―――」

 

二人の子どもが街を駆け抜けていく。無邪気に笑いながら、新しい交友関係に心弾ませる。無垢な子どもだからこその嗜みだ。大人になれば、きっとこんなことには触れられないだろうから。

少女は笑った。それにつられて…、少年も笑った。

 

――

 

「ねぇ」

 

「ん、なに?」

 

少女はまた一つ、問い掛ける。

 

「あなたの、名前は?」

 

――

 

良い面と悪い面とは常に裏表に存在している。ここでも例外ではない。いまの世界は前の世界と比べて、確かに発展した。だがそれは全て、表面上の出来事に過ぎない。科学技術が発展していくこと、それは誰がなんと言わず喜ばしいことだ。だが悲しいことに……

 

――

 

子ども達は、無垢に、無邪気に戯れていた。今日も、明日も、明後日も……。今では顔を合わせること、そして二人で遊ぶことが、その二人にとっての日常――当たり前になっていた。

それが例え、胡蝶の夢だとしても構わない。今あるこの時間が、二人にとっての大切な時間――彼らの言葉で言えば、「宝物」になっていた。

 

――

 

それは、格差社会や差別を助長させるのに十分過ぎる理由になっていた。一度に大量の鉱石が取れる先進国。なけなしの鉱石をとる余裕さえ無い後進国。

 

――

 

「今日は、居ない…?」

 

いつからか、少女は来なくなっていた。忽然と、神隠しにでも遭ったかのように姿を現さなくなった。

かわりに来たのは……、武器を携えた大人達だった。

 

「―――っ!」

 

刹那、世界が硬直する感覚。その後で辺りが炎に包まれる。所構わず人に、建物に、銃口を振りかざす。その大人達は躊躇する事なく殺して、壊して回る。

目に見えるのは、化け物であり、悪魔だった。炎をまき散らす無数の悪魔たちが、いやに鮮明に映っていた。

空から降る火の雨、鉄の雨。遅れて降ってくる紅い雨、肉の雨。

 

――

 

当然、不満を持つ者も現れる。反乱や紛争なんてものが起こることもざらだ。今でも先進国と後進国の間で、戦争や紛争が起こっている。

神など居ない。正義などない。昔と変わらず、そうやって世界はまわっていた。

 

――

 

――先進国『フラーリッシュ共和国』

先進国の中でも、最新鋭のテクノロジーを揃えた、近未来的な先進国として名を馳せた国だ。周辺国からは、仲間にすると繁栄が約束され、敵に回すと滅亡を覚悟する、と評されている。故に、周辺国からは少なからず恐れられている。

率直に言えば、後進国に負けるようなことは無い。だが、勝ったところでそこに何があるのか。何が残るのか。何かが、見えてくるのか?

格差と差別。それらは依然として、人々の脳裏に我が物顔で居座っている。

自分より下の存在を見て、自分を慰めている。

 

――後進国『ウニゾーン帝国』

後進国の中でも比較的、科学技術が発展している国だ。下級の先進国となら、対等に戦える程の力はある。だが、発展の遅れから差別の対象にされている。周辺国からは豚小屋、動物園などと言われ、主に先進国から指をさされ、笑いものにされている。

先進国に勝てる見込みなどない。昔から、劣った者は優れている者に倒されていった。何も特別ではない。そういう風に出来ていると、人類の歴史が証明している。

技術の格差であり、発展の格差。

また今日も、自分達は下の存在なのだと、罵られ、貶され、蔑まれるばかり。

 

――

 

結局、それが現実だ。他の誰かが自分の下に無いと安心できない。人間とは、そういう生き物なのだ。横暴で、卑劣で、そして傲慢な…。救いようの無い動物なのだ。

 

この戦争というのも、もとは差別に対しての抗議運動のようなものだった。それに対し、先進国は無視を決め込んだ。それだけで終わったのなら、まだ平和であっただろう。何が原因かいつしか激化し、何処で間違えたか戦争という、想定される最悪の事態にまで転がった。

 

こんな具合で、共和国と帝国は火花を散らしていた。

 

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