コークアイ   作:山背としや

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[影と悪意]

「なんだって!?それじゃあ、どうやって下山するってんだ!

 

明後日は学会の会議があるんだ!」

 

「とにかく、明日の朝を待たないと身動き出来ないんですから、そう大声を出さなくても...。」

 

「熊谷とか言ったか…?あんたも、辛いだろうが、ここに居る皆が同じ状況なんだ。

 

怒りに任せて下手に歩き回って遭難しちまう方が身も蓋もないじゃないか。

 

ここは、上手く成り行きに任せるしかない。」

 

 

山荘へ帰ってきた後は、医師の熊谷にずっと大声で捲し立てられ、それを大久保と二人でなだめているうちに名一杯、気疲れを起こす。

 

それと、不可解なあの橋の落ち方が気になった。

 

明日明るくなってから、もう一度橋を見に行ってみよう。

 

そうオレは結論付け、すっかり人気の無くなったエントランスを見渡す。

 

日も暮れて館の内部は薄暗く、気味の悪いオーラを含んで目の前を彩る。

 

この山荘にだけ時間が流れていないのではないかと思う位の静けさが、寂しいエントランスルームを包んでいた。

 

 

 

静寂を破るようにゴーンと階段脇の壁に設置された柱時計が時を打つ。

 

針は午後7時を指している。

 

まだそんな時間なのか、と。心弥と二人愕然とした気持ちにうなだれた。

 

夜が始まったばかりだと鐘が喚き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

〝 ―奴等が寝静まるのはまだ先か...。

 

 

私は上着の内側を上着を押さえるようにして、中にある物を確認した。

 

ズシリと服の上からも確認できる重みを感じる。

 

 

私は遂行せねばならない。

 

あの男が用意してくれたこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 

だが、あいつの思惑通りに事を運ぶのは気に障る...。どうしたものか…。

 

 

-私は、あいつに罰を与えてやればそれで良いのだが...。―

 

 

お膳立てをしてもらった手前、行動せねばならないが、腑に落ちない点もいくつかあるにはあった。

 

だが、それで報酬の一部と罰を下せるならとも思った。

 

2つの選択肢の狭間で、気持ちが揺らいでいる。時間は迫っている。急がねばならない。

 

自分には、もう後など残されていないのだから...。

 

指定した部屋の前で、もう一度深く息を吸い、そして吐く。

 

自分の思うようにやってしまおう。

 

 

私はドアノブをゆっくりと回したがガチャリと音を立てて開かない。内から鍵が掛かっている。

 

どうしたのだろうか?

 

あいつが言うには、部屋に居るはずなのに、鍵が開かないなんて...。

 

その時、ふと館の中の明かりが消えた。

 

 

どうしたんだ?停電か?

 

 

後ろ側の扉が開かいなら…と、前側へ向かう。前側の扉なら開くかもしれない。

 

そう考えた私は、気は進まなかったが暗闇を手探りに進んだ。後ろに控えている家内は、不安げに息を吐いた。元々夜目が効かない家内は、そこから動けずにいるらしい。”

 

 

 

 

 

 

 

それはあまりに唐突に起こった。

 

輝は、割当てられた部屋でリュックの中の整理をしていた。

 

カメラ、バッテリー、換えの下着類。B5版のノートと小さなペンケースにペンが二三本。それと、防災ホイッスル。ノートとペンを取り、釣り橋の一件で気になった、ロープの切れ方についてや、上流部の簡易地図を書き留めておこうと、ノートを開いた時だった…。

 

 

フッと灯りが消えて辺り一面真っ暗闇に身を落とす。

 

ブレーカーが落ちたのか、それとも電力不足か、何れにしても停電してしまったようだ。

 

 

「停電かよー!くそう...。」

 

 

ここは山の中だ。携帯電話は圏外だし、停電してしまっては、ノートに書き込みなんて出来やしない。

 

 

オレはその場に座った。

 

幸い客室の中だし、何とか手探りでベットまで位なら移動できそうだ。

 

こういった場合、下手に動く方がケガをしやすい。…なんて考えると、心弥は何時でもこの闇の中を生きているんだなんて、妙な気にさせられる。

 

オレは、心弥の様に、容易にこの中を動く事は出来ない。大人しく電気が通じるのを待つしかないだろう。

 

 

暫くしても、明かりが灯る事は無く、朝がくるまで眠るしかないかと思いはじめた頃、突如として静寂が破れた。

 

 

「いやああぁぁぁぁっ!!」

 

 

下の階から響いてくるその声は、女性のもので、先程会った卯野の顔が脳裏をよぎる。

 

嫌な予感にかられ、いてもたってもいられなかった。手探りでドアまで移動し、廊下まで出る。

 

だが、外は一寸先さえ見えないのに、どうやって目的の場所まで移動しよう…。

 

そのまま、恐る恐る壁伝いに歩き、階段に差し掛かる手すりを探った。

 

 

何処がどうなってるかも分からずに、階段の段差を下りようと、身を屈めていると、背中を棒の様なものが一突きし、思わずびくりとする。

 

慌てて振り返ってみるが、無論相手が誰かは分からない。

 

 

「ごめんなさい。白状が当たっちゃって…。」

 

 

後ろに居たのは、この闇の中で唯一平然とここまでやって来ただろう、心弥の姿だった。

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