コークアイ   作:山背としや

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[断片と絡み合う思惑]

心弥は、宛がわれた部屋までを、林の案内で輝と共に館内を移動した。

 

二階の東側最奥の小部屋を僕に、輝には階段近くの部屋を用意してくれた。どうせなら、階段付近の方を僕が使いたかったが、しょうがない。我慢することにした。

 

 

部屋に入って、椅子まで案内してもらうと、林は直ぐに退散していって、部屋の中に冷たい空気が流れる。

 

白杖を手にして、間取りと、家具の位置関係や、質感、感触を手で確認していく。

 

僕には丁度良いスペースの部屋だ。

 

背負っていたリュックを椅子の脇へ放り出してベットに寝転ぶ。

 

バネがギイギイと嫌な音をたてるが、休めなくは無さそうだ。

 

慣れない山登りで消耗していた体力を少しでも回復しようと、目を瞑った…。

 

 

― キーーーン ―

 

 

...あれ?

 

 

― キーーーン ―

 

 

耳鳴りがする。

 

何時ものあの感覚...。

 

 

ぐらりと揺れる。

 

ふわりと体が宙に浮き、ぐるぐると回されてるような感覚。

 

…ここで、未来視なんて。

 

 

― コートに拳銃。…迷わず振り下ろされる斧。…天使の像と月の光…。…階段から転がり落ちる輝。 ―

 

 

 

大きな悲鳴が聞こえ、我に返った。

 

 

 

これは、きっとすぐ先の未来…。だが、断片的で、前後関係も曖昧な未来。

 

無理に未来視から現実へ引き戻されたからか、ズキズキとこめかみ辺りが疼く。白杖を握り、部屋を出た。

 

 

 

 

「うぉっ!?」

 

 

白状に何か当たったのが人だと分かり、謝罪を口にすると、ハァと安緖の溜息を漏らしたのが、輝だと分かった。

 

輝なら、向こうから声をかけてきそうなものだけれど、どういう訳か、僕が真後ろへ立っても気付かなかったようだ。

 

 

「なんだ...シンヤか。」

 

「なんだってなんだよ。

 

人をオバケ見たいに…。大体、こんなに近付いてて分からないなんて、どうかしちゃったんじゃないの?」

 

 

「いや、停電してるせいで、何も見えないんだって!

 

思うように進めないし、どうなってるのかオレにも分からないんだ。」

 

「成る程。取り敢えず。今、テルが立ってる所から一歩先が段差。」

 

 

忠告を聞き入れるよりも先に、輝が階段から足を踏み外す方が先だった。まぁ、先ほど見たものの一つに、こんな顛末があったはずだ。声をかけずとも、輝はここを転がり落ちていた事だろう。

 

落ちた輝の横をするりと抜け、普段と変わらずに階段を下りる。

 

僕にとっては、停電は問題じゃない。こういう時だけは、全盲でも不便を感じない。

 

一階から声を聞いた気がするが、何処から発せられているのかまでは分からない。

 

そこへ、林が、ロウソク立てを手に、かなりの焦りっぷりで駆け寄ってくるのを、響く足音で感じ取った。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 

なんとか、心弥の後を追いつくと、惑うことなく食堂へ一直線に心弥は歩を進めている。林もその動きに戸惑っている様だったので、燭台を預かり林に合わせて心弥の後に続いた。

 

食堂内に侵入するが、動くものの気配はしない。血生臭さを感じ、寒気を感じる。

 

 

夫人がぐったりと倒れている。肩口がぱっくりと開いて出血が酷いが、それでもまだ弱々しく息があった。大久保の方は、直視に耐え難い光景だった。項垂れた首は皮一枚で繋がっているのが先ず目に入ってきた。もう、それだけでも絶命していると分かったが…。でも、目に飛び込んできてしまった。

 

見たくも無いのに、それは鮮明にハッキリとした輪郭線を映す。

 

そこにあったのは、大久保の上半身だけだった。

 

下半身は椅子の下にあらぬ方へ足を投げ出し、遺棄されていた。…無造作にそこに落ちている。と形容した方が正しいかもしれない。

 

 

 

「奥さん!?何があったんですか?しっかりしてください!」

 

 

オレは懸命に声をかけた。

 

うっすらと目を開けた大久保婦人は悲鳴を上げて飛び退いた。

 

ひどく怯えていて、息も切れ切れに何かを伝えようとして、言葉が喉の奥で途切れる。

 

 

「落ち着いて下さい。 一体、何があったのですか?」

 

 

一度、ゆっくり深呼吸をしてから婦人は少しずつ口を動かし始めた。

 

 

「あ....ぁ...。コー....ト....。…し…が...。」

 

 

ぶるぶると肩を震わせながら、婦人はぽつぽつと言葉を紡ぐ。コートとは一体何の事なのか、深く追求するも彼女はそれ以上は支離滅裂に言葉をつぐみ、意味の通った言葉にはならない。

 

かろうじて分かった事は、 "コートを着た誰かが突然襲いかかってきた。" という事だけだ。

 

 

彼女の傷口は運よく急所を外していたが、出血がかなり酷く、早く手当てを施さねば助かりそうにない位の傷には違いなかった。

 

だが、渓谷を結ぶ橋が落とされた今の状態では、彼女を病院へ運ぶ所か、山間の此処では連絡さえもろくにとれないのでは無いだろうか...。

 

 

待て…。電話。 携帯電話は圏外だったが、此処は別荘として建てられたのだから、固定電話の一つや二つは存在しているんじゃないか?

 

 

「林さん。此処に固定電話ってありますか?」

 

「あ、えっと…。…あっ、あります!書斎と、応接室に…。」

「行って、119番に通じるかやってみてください!」

「…良いんです…。」

 

小さく婦人の声が聞こえた。

 

 

「主人の所へ...。連れて行って...下さい...。」

 

 

静かに彼女は口を動かした。彼女の目にどんどん光が消えていくのを感じ、それに比例するように自分の中の何かが沸々と煮える感覚を覚える。

 

彼女をご主人の傍らに連れていくと、その顔を撫でたり身体を擦ったりしていたがやがて、力尽きたように横に沿うように横たわる。 眠るように彼女は息を引き取った。

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