林に固定電話が通じるか確認してもらったが、結果は何処も電話線を切られていて通じなかった。
食堂から一旦ロビーに出てきた輝達は自分達からは反対側の廊下から項垂れて食堂へ戻ってくる林の姿を見つけて、山荘に居る全員をロビーに集めてもらうようにお願いした。
緊急の事態に、速やかに動いてくれる彼の行いは有難い。
暫くしてぞろぞろとロビーにツアー客の顔が揃ってくる。
どうやら、殆どが騒ぎが気になっていた様で林の応答に直ぐに対応してくれたようだ。
起こった事を簡単に説明した。
各々が各々の顔を見合わせている。その表情には恐怖の色がしっかり写し出されていた。
ロビーに集まった顔の中に、夕飯までに見なかった顔が2つ程見えた。
その内の一人がふらりとこちらにやってきて、声をかけてきた。
「アンタ達か、深雪が言っていた連中は。あたしは町田美琴。世話かけちゃったみたいで悪いね!」
「あ、先程はどうも...。先輩。あの後普通に部屋に居て...心配ないです。
えっと、輝さんにも心弥さんにもご迷惑かけちゃって...ごめんなさい。」
町田美琴の後ろから、卯野深雪がぴょこりと現れ、俺と心弥を見るなりペコリと頭を下げてきた。
話しかけるついでに、もう一人の方の事を聞いてみた。深雪が答える前に、琴音がちらりと見ない顔の一つを見てぼそりと一言だけ言った。
「変態だよ。」
「は?」
やや間を開けて返す答えにしては、あまりにも情けない声が喉をついて出てきた。
顔見知りとも思えない様子だが、相手と距離を置き、警戒するような態度をとる町田美琴に向けて、首を傾けてみたら相手を一瞥し言いにくそうに小声で呟く。
「ツアー始まってからずっとこっちを隠れ見てるんだよ。気持ち悪い。」
相手をなるべく視界に入れたくないのか、町田はさっと視線をオレに向け直した。
「そんなことよりも、ちょっと回っただけで、面白い仕掛けを見つけたんだ。
ここの館、かなりの数の隠し部屋があるはずなんだ。外見よりも中の部屋数がやたら少ないのもそのせいさ。...深雪は怖がっちゃって行きたがらないけど、男の子にはそそる話なんじゃないのか?」
「いや、今はそんな隠し部屋とかそんな話をしてる場合じゃないでしょ...。人が、人が襲われたんだぞ?」
町田はすっとぼけた調子で続けた。
「そんなことは分かってるよ。だからこそ、何処かに隠れてる犯人を見つけ出すには、その隠し部屋を見て回ったら見つけ出せると思ったんだよ。
山の中に逃げるんだったら橋は落としたりしてないだろうし。この建物から出てないとしたら、一体どうやってこれまで誰にも遭遇しないで居られたと思うんだ?」
熊谷がそこで、大きく頷いて町田の意見に賛同した。
「そうだ...!いくら広いからといっても、この人数で、誰一人怪しい奴を見ていないなんておかしいだろう!
それに、わしらがここに来てから外から中に入ってきたのはお前たちだけだ!橋の様子を見に行った時以外に出入りは全くないんだから、この山荘から犯人は出ていないことになるだろう!
探しだして、身動き出来ないように縛り付けた方が安全だ!」
林も館の安全を見て回ることには賛同し、輝と熊谷、林、そして町田が館の中を見て回ることにした。
残りのメンバーはロビーに残り、何かあった時には大声で知らせるように輝は言い残し、林達と共に探索に向かった。
僕は、ロビーに残った卯野とロビーの端にあるソファに掛けて輝の報告を待つことにした。 未来視を途中で解いた副作用である吐き気が込み上げてくる。
少しだけ顔を上げて吐き気を耐えていると、卯野がいる真向かいのソファとは別の方から声が聞こえてくる。
「君だね、間違いは無さそうだけど念のため確認させて。コークアイは君が作ったホームページだね?」
「...?」
ここに来て、始めて感じる気配と声色だ。多分ツアー客をざっと紹介された時に町田と同じく顔を出さなかったメンバーだったのだろう。
それにしても、おかしなことを知っている。
「あなた...。何処で聞いたんですか?」
「知ってる?ここで起こったのは何も烏間の遺産事件ってだけじゃない。猟奇事件だってあるんだよ。」
「どういう意味です?それとホームページには関わりが無いんじゃ...。」
「君、メールを見て此処に来たんでしょう?あの肉体系の頭悪そうなのは助手か何か?」
匿名で出されていた此処に来るきっかけともなったメールを思い出す。
彼が差出人の正体なのかもしれない。
思っていた事をその直後、彼が口にした。彼があのメールの送信者だそうだ。
「杵島晃です。姉が家出途中で此処に立ち寄り、此処で事件に巻き込まれた。僕は、この主催者が怪しいと睨んで潜伏しているんです。」
「そう言うことなら、警察に任せておいた方が...。」
言い終わる前に、杵島晃が捲し立てた。担当だった刑事が事故だか事件だかで亡くなり、引き継いだ刑事があまり熱心に捜査をしていない事に腹を立て、自力で何とかここまで調べあげたらしい。
そして、ツアーの主催者が怪しいと睨んでツアーに参加して事件に関わりのありそうな人物を探しているそうだ。
「その担当だった刑事の名前を君が聞いたらビックリするぞ。」
「?」
警察関係の話は輝からよく聞く。この辺りだと、丁度県境だが警視庁の管轄だろう。輝の父も警視庁勤めだから、今のこの状況が警察に知れたら、もしかしたら出くわすかもしれない。
「真広悠弥。それが担当だった刑事の名前だよ。」
「えっ!?」
驚いてその場から立ち上がってしまった。
少々申し訳なさそうな声で深雪が問いかけてくる。
「あのぅ...。その、真広悠弥さんってどなたなんですか?」
「...僕の、死んだ父さんの名前だよ...。」
絞り出すように声を振り絞った。
父の。最後の事件と何か関係が?
今の時点では何も答えが出ない。
でも...。
心弥は再びソファに腰を下ろして、深く深呼吸をした。
この先に見えるものが、きっと過去の真実も照らしてくれる気がした。