ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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ようこそ実力至上主義の教室へ

 頭痛がする。頭の中を何かが駆けずり回っているかのような激痛が俺の頭に走る。

 あまりにも激しいそれは、俺に強烈な苦痛を与えてくる。

 

「ッ!」

 

 その痛みに耐えきれず声が漏れる。

 何がどうなったらここまで頭が痛むんだ。脳がそのまま外にさらされているとかか?

 なんてグロテスクな想像をしていると、俺の耳に女性の声が入ってきた。

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

 と、少し怒りのような感情が込められた声が聞こえる。

 一体何を言っているんだ。

 俺は頭痛に苦しんでいるというのに、人の家で席を譲れだって?馬鹿じゃないか。俺に安眠を返せ馬鹿野郎、とその声の主をののしりながら周囲の光景を見るとそこは俺の部屋ではなかった。

 バスの中、俺はバスの椅子に座りながら頭痛に苦しんでいたのだ。カバンを大事そうに膝の上に乗せ、気持ちの良い日を浴びながらバスに揺られていた。

 

 「なんで……」

 

 どうしてバス中にという疑問。

 そして、俺はなぜ部屋の中にいると思っていたんだという疑問。

 一体俺は何の確信をもって頭痛に苦しんでベッドで横になっていると思っていたんだ。単なる思い込み?体調が悪いから横になっていたみたいな。

 

 てか、ここどこ。俺なんでバスに乗ってんだ。

 そんな疑問が俺の脳内を支配する。少しでも情報を得ようと周囲を見回す。相変わらず先ほどの声の主は金髪の少年──というにはいささかガタイの良い彼と口論をしている。

 

 随分と見覚えのある恰好をした男だ。

 まるで高円寺のような……。

 

 そこで俺は違和感を覚えた。

 違和感というか、寒気がしたのかもしれない。俺の視線の先にいる男。金髪で赤い制服を着た彼。

 

「こ、高円寺六助……!」

 

 忘れるはずがない。忘れられるはずがない。

 唯我独尊という言葉を擬人化したような存在のあの男を、よう実ファンである俺が見逃すはずがない。だから、彼が高円寺であることはすぐに分かった。

 そして案の定、女性の言葉には耳を貸さずぺらぺらと話している。

 

 しかし、だからこそ出てくる疑問がある。

 なぜ彼がいる。

 

 彼は「ようこそ実力至上主義の教室へ」で登場するキャラクターの一人。

 現実にいるわけがない。なのにどうして、今俺の前にいる。

 意味の分からない状況しかない。頭痛で目が覚めたらバスの中にいて、少し向こうでは高円寺が見覚えのある行動をしている。

 だとするならば、と俺は周囲を探る。いや、探ろうとしたその時。俺の探していた相手が現れた。俺の想像通りのタイミングで彼女が口をはさむ。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

 そう言って、櫛田桔梗が高円寺に言い負かされた女性の助けに入った。

 この先の展開は簡単。高円寺は櫛田のお願いでも席を譲ることなく、櫛田がバスの乗客全員に頼み込んでなんとか老婆を座らせる。それだけだ。よう実ではちょっとしたキャラクター紹介みたいなもの。

 

 では、なぜそれが目の前で行われているのか。

 実写化でも決まったか?いや、だとしたらなぜ俺が参加している。エキストラ?

 と、苦し紛れの言い訳を思いつく。

 無理があることは正直理解している。だって、実写化なら高円寺や櫛田が全く同じ見た目なわけがない。もっとわかりやすい俳優や女優が抜擢されるはずだ。

 よう実の実写化だけキャラクターの外見にできるだけ似せて作られるわけない。

 

 じゃあ、何が起こっているのか。いたって単純だな。というか、こういう理屈でしか片付けられない。

 カバンの中のあった書類に書かれている名前を見る。どうやら俺は─────

 

 

 『斑鳩春(いかるがしゅん)』という少年としてよう実の世界へと迷い込んだらしい。

 

 

 誰。

 それがその名前を見た感想だった。そんなヤツ作中にいなかったじゃん。

 

 じゃあ、あれか。俺はよう実のキャラクターになったわけではなく、よう実の世界に一学生として迷い込んだってことか。

 なぜ。

 なぜそんなことになっている。どうしてこうなったのか思い出そうと、俺は今までの自分を振り返ろうとする。しかし

 

「いたっ」

 

 そうすると頭痛がする。けっこう痛めな。

 俺のことを思い出そうとした時だけ、頭痛がする。俺の時代の内閣総理大臣だって思い出せるし、最近買った漫画の内容も思い出せる。

 だが、その漫画を読んでいた自分の姿だったり、読み終わった後に自分がした行動だったりは全く思い出せない。

 

 はは、なんて都合の……悪いのか?良いのか?

 過去の俺が思い出せないことは俺にとってどうなのか。うれしいことなのか、悲しいことなのか。

 家族とかそういうのが思い出せないのはやはり辛い気がする。だが、俺があの学校に通う分には全く持って問題ない。だって、あの学校外部との連絡とれないし。

 いや、でもと。もんもんとしているうちにバスは目的地へとついてしまった。続々と降りていく俺と同じ格好をした生徒たちに後れをとって俺もバスを降りる。

 

 そして、今一度理解し、少し絶望する。

 俺は本当に『高度育成高等学校』に来て、そして『よう実』の中へと迷い込んだのだと。

 

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